皆様の応援のおかげでここまで更新を続けることが出来ました!
これからも、自分なりの完結に向けて描き続けるつもりなので、ついてきていただけたら嬉しいです!
では、本編へどうぞ!
フルフェイスの冒険者一行と別れ、ゴライアスの姿を一望できる高地に立つズィーヤ。
その視線の先には幾重にも重なった倒木と僅かに残った木々を使い、天地関係なく飛び回ることでゴライアスを撹乱するリューとアスフィ、そして腕の一振で高地に立つズィーヤにまで風を飛ばす桁違いの膂力を誇るゴライアスが咆哮を上げていた。
ゴライアスとの距離はそれほど離れている訳では無いが、少なく見積っても直線距離で300メートルは離れている。
その位置まで風を飛ばす威力に改めて戦慄しながらも、どこか焦った様子のゴライアスにズィーヤは表情に笑みを刻む。
「──ベル君」
ズィーヤの立つ高地の真下近く、ゴライアスにより近く、ゴライアスの目指す平原の果て。
大鐘楼の響く地に無視できないほど大きな気配があった。
気配探知をするまでもなく、肌を叩く大きな気配は、冒険者達にとって勇気の旗印であり反撃の
遠く、微かに聞こえる冒険者達の希望と反骨精神に満ちた怒号を耳にしながら、改めてゴライアスの姿を見やる。
傷一つなく、痛みに喘ぐ様子もなく、目に見えた疲労もない。
黒い巨体がこれだけ長く戦い続け、ほぼ万全な状態であるという事実だけで絶望する者もいるだろう。
だが、ここに立ち、戦い続ける冒険者達は絶望することはない。それを乗り越えるために、誰もが自身の成すべきことを成しているのだから。
冒険者達の立ち向かう姿に習い、ズィーヤもまた自分の成すべきことを思考する。
自身の最も信頼するLv4の強者達が足止めしてくれることを信じて、べルに繋げるために自分がすべきことを思考する。
「進行、手数は十分。火力不足か。あるいは、リューさんかアスフィさんのタメを生み出す隙が無いからか。なら、足止めを優先し最悪隙を作ることを目的に。膂力、防御力、再生力……膂力はいい。足止め、隙を作るなら防御が重要。貫通力、再生させない火力……あるいは妨害。炎じゃ足りない、風じゃ届かない、水じゃ動かない、氷じゃ柔い、光じゃ狭い、闇じゃ意味が無い」
妨害を続けるリュー達を鬱陶しがって巨体を振り回すゴライアスを、瞳孔が開き切るほど一心不乱に見続ける。
リューのつけた傷の再生、アスフィの魔道具による火傷、ゴライアスの疲労状態まで、思考と並列し情報を集め続ける。眼球からギチリと乾いた音が響き、血走った瞳が真っ赤に充血し始めるほど、瞬きを忘れて観察する。
そして、ゴライアスの周りを駆け抜けたリューの残す薄緑の残光が天啓を与える。
閃いたイメージを強固にするため、1度瞼を閉じ、呼吸を整える。
「雷……一瞬で届くように速く、巨体を穿つほど強く、巨体を痺れさせる程の雷を放つためには──」
視界の端に、何かを探すように森を駆けるヴェルフの姿が映る。
彼は嫌うだろうが、彼の一族が作った『クロッゾの魔剣』は、オリジナルの魔法を上回り、海をも焼き払ったと言われている。
ラキアから遠く離れたオラリオに住むズィーヤでさえ、その異名と強さを知っている。
自身のイメージを現実に落とし込み、曖昧なイメージよりも一段強くするための最高級の器。その原型。
「──魔剣を、『クロッゾの魔剣』を、魔法で作り上げる」
言うが早いか、腰のポーチからフルフェイスの冒険者達から譲ってもらったポーションとマナポーションを取り出し、一息に煽り、口の端から溢れる液体を乱雑に拭い、詠唱を開始する。
「『深く望むは我が理想 未だ見えぬ羨望の果て 嫉妬に汚れた泥の理想 変われ、変われ、変われ 嫉妬を満たせ 羨望の道を駆けろ
詠唱と共に、ズィーヤの胸中に様々な感情が浮かんでは燃え盛る。
主戦力になれない怒り、リューの戦いを見ることが出来た感動、その強さへの嫉妬。今も体の芯を叩くベルの英雄的
様々な感情が自分勝手に主張しあい滅茶苦茶に混ざって尚、最も大きな感情はこの状況に対する興奮だった。
友が
背筋に鳥肌が立ち続けるほど高まった興奮のまま、
かつて正義を掲げたエルフの唄が、遠く離れたズィーヤにまで聞こえてくる。
鈴のように澄み渡り、曲がることの無い強い芯を思わせる唄声にズィーヤは笑みを深め、詠唱を完成させる。
体から溢れる泥を纏め、泥色に染った一振の魔剣を作り出す。
英雄譚で思い出したとある逸話が、ズィーヤのイメージを加速度的に高める。
かつて、『始まりの英雄』と呼ばれたアルゴノゥトは、炎の剣と雷の大剣を使い、ミノタウロスを打ち倒したと言われている。
太古の怪物さえ打ち砕いた、英雄の雷剣。その贋作。ただそこにあるだけの、泥色の大剣。
だが、例え贋作だったとしても、そこに込められた想いが、願いが、偽物だとは限らない。
ズィーヤの
「──神の雷霆、雷の大公、降臨せよ、現界せよ、臨界せよ、これなるは古代の雷
ズィーヤの詠唱により、スキルが起動する。
偽物だった泥色の魔剣は、森羅万象、遍く全てを焼き尽くす神雷を纏った黄金の大剣となる。
不敬にも神雷迸る柄を握った手を雷に焼かれながら、足を開き、重心は低く、大剣を上段に構える。
地上において、月光の照らさない暗闇の中で、影に向かって振るい続けた最速の一刀。
その身に宿した、収斂の具現。
エルフの唄が巨人を打ち据え、空を翔る万能者が巨人を揺さぶり、武士の祈祷が巨人を閉じ込めた。
リュー達がゴライアスから離れ、攻撃線上に人が居なくなる瞬間を待つ。
魔剣の帯電する雷を身に浴びて、肉体が罅割れるような痛みに苛まれながらも、悲鳴を漏らしそうになる体を捩じ伏せ、全ての条件が揃うただ一瞬の訪れを待つ。
──そして、遂にその瞬間が訪れた。
目を見開き、決して視線を逸らさず、刃の通り過ぎた頬を雷に焼き焦がされながら、持ちうる最速で振り下ろす。
「──ッッッ!!」
掠れきった絶叫と共に放たれた雷撃は、大気を喰い尽くす轟音を響かせながら、雷速を持って進行方向の全てを吹き飛ばす。
命の作り上げた結界を砕き、天敵たるベルを目掛けて咆哮を飛ばそうとしていたゴライアスを、神雷が撃ち抜いた。
「ヴァアアァァァッッッ!!!??」
直撃した雷撃はゴライアスの左肩から先を跡形もなく消し飛ばし、上半身にイカズチ状の火傷を負わせる。
「くぅぅぅ!」
命は、余波だけで遠い崖に立つ自身の体を吹き飛ばしかねないほどの威力に瞠目する。
極東を経てオラリオに辿り着き、Lv2まで至った彼女の見てきた中で、最も強い魔法はズィーヤの放つ雷撃に違いなかった。
「なんですかっ!このデタラメな魔法は!??」
遠目からズィーヤの放つ姿を見ていたリリは、想像を遥かに上回る一撃に声を荒らげる。
強い強いと思ってはいたが、それはあくまで技術の話。圧倒的格上を屠る力はそれほどでは無いと当たりを付けていたが、その評価はたった一撃で塵と化した。
「今のは……」
感電し、蹲ったまま動けずにいるゴライアスの目の前でヴェルフは驚愕に目を見開く。
『クロッゾの魔剣』を誰よりも知る彼だからこそ、ズィーヤの放った一撃が、それに近しい魔法だと気づくことが出来た。
「なっ!?なんですか、あの魔法はっ?!」
「……グリスアさん?」
突如としてゴライアスに致命的な一撃を与えた雷撃に、アスフィは想像を超える異常の連続に白目を向き、リューは雷撃の放たれた方向に微かに見えた人影に当たりをつけ、その名を呼ぶ。
呼んだ声に乗っていたそれは、困惑と驚愕に紛れて、確かな心配が混じっていた。
「──後は、頼んだぞ……。ヴェル、フ……ベル、君……」
焼け焦げた魔剣がボロボロと崩れ落ち、ズィーヤの体に罅割れた火傷を遺して消え去った。
限界以上の魔力を注ぎ込んだ一撃によって体には力が入らず、異常な硬さのゴライアスの腕を消し飛ばし、巨体を感電させる神雷を放った両腕は黒く焼け焦げ、その上を罅割れたように走る青白い光が雷の名残を感じさせる。
ふらつく体を支えることもできず、その身を地面に投げ出して、ズィーヤは意識を失った。
「「──あぁ、任せろ」」
遠く離れたズィーヤの声が、ヴェルフとベルに届くはずもない。だが、ズィーヤの放った一撃に乗せられた確かな信頼と覚悟、次に繋げるという意志は、彼らにしっかりと伝わっていた。
『意地と仲間を、天秤にかけるのはやめなさい』
ヴェルフは脳裏を過ぎる主神の言葉に目を瞑り、着流しの胸元をキツく握りしめる。
自分の心を落ち着けるように。あるいは、心の熱を確かめるように。
「──俺は、もう間違えねぇ!あいつらの……仲間達の為にもっ!」
拾い上げた魔剣を担ぎ、見開いた瞳に烈火の激情を伴って肉体の一部が欠けた黒曜の巨体に迫る。
ゴライアスの肉体はズィーヤの雷によって、体が痺れ、魔力の流れも乱された。火傷は未だ治らず、吹き飛ばされた片腕も満足に再生させることのできていない。
この戦場に振りたち再生もできない初めての満身創痍となったゴライアスに向けて、ヴェルフは気炎を吐きながら加速する。
「お前らァ!死にたくなかったらどけぇぇぇ!!」
取り払われた白布は雷の過ぎ去った荒野にたなびき、猛る炎のように煌々と輝く美しさを持った刀身が顕になる。
混乱の最中でも、いち早くヴェルフに気づいたリューとアスフィはヴェルフの進行方向から離れ、安全圏へと退避する。
「(これは俺の我儘だ。一世一代の自分勝手だ。お前を捨て去った俺が、思っていいことじゃねぇ……だが、だがっ!)」
目前へと迫ったゴライアスは自らのもとへ駆けるヴェルフではなく、遠く大鐘楼を鳴らすベルを睨む。思うように動かない体でも、後数瞬の時間があれば、回復は可能だった。
だからこそ、足元まで迫ったただの鍛冶師が、鐘楼も神雷も扱わない男が、巨人を焼く精霊の焔だと気づけなかった。
美しい無骨な魔剣を振り上げて、ゴライアスに向けて飛び上がる。全身を反らし、限界まで振り上げた刀身を、全力で振り抜く。
「──魔剣の意地を見せてみろォッ!!火月ぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
爆炎。
振り下ろされた魔剣から迸った豪炎は剣先にあるあらゆるものを焼き尽くし、18階層に存在する遍く全ての視界を真っ赤に染めあげた。
地を舐めあげる炎の先で、無防備に蹲っていた漆黒の巨躯を真紅の炎が覆い尽くし、間もなく、悉くを焼き尽くす熱を持ってその身を灰に変えていく。
『─────────アァァッ!』
この戦いにおいて2度目の致命傷。
ズィーヤの雷よりも広く、熱くゴライアスを包み込んだ爆炎は頑強な皮膚を焼き切り、強靭な筋肉を灰とし、奥に潜んだ骨までも黒ずんだ炭に変えた。
振りぬいたヴェルフにまで押し寄せる熱波と身を包む火の粉の中で、魔剣に小さヒビが入る。
瞬く間にヒビは透き通る『魔剣』の全身に広がり、ヴェルフの手の中で砕け散った。
「(すまねぇ。そして、ありがとう)」
澄み渡る別離の音に耳を澄ませ、ヴェルフは複雑ながら何処か晴れやかな表情で暗い天井を見上げていた。
直撃した顔面は勿論、雷によって回復の阻害されていた左半身が完全に塵となり、かろうじて残った右半身と焦げ付いた下半身を残した満身創痍。
だが、それだけの致命傷を負ってなお、その肉体は再生し始め、魔力が赤い奔流となって18階層を照らす。
誰もが全力であり、誰もが決死の覚悟を持って己の責務を全うした。
全ては、今なお紅蓮の炎に焼かれた身体を再生し全てを蹂躙せんと魔力を燃やす巨人を打ち倒すために。
その最後のピースであり、この戦いの一切を決着させる『英雄』は、階層の暗闇によく映える白い燐光を纏い、大鐘楼の音を背にして打ち倒すべき巨人を見据える。
「(──三分)」
握る黒大剣を包む
脳裏に過ぎるのは、大切な仲間達の顔。
そして、巨人の一撃から自分を庇い意識を失った桜花と仲間のために意地を曲げ盛る焔で道を開いたヴェルフ、光の速さで常にベルの一歩先を行くズィーヤ。
3人の男が繋ぎ、託した覚悟と意志を背中に乗せて、紅蓮の中で起き上がろうともがく黒き巨人へ構える。
思い浮かべるのはかつての英雄。数ある憧憬の1人。
『英雄ダヴィド』
強大な敵との一騎討ちを経て、万の軍勢に立ち向かい打ち勝った古国の覇者。
偉大なる英雄の背中を幻視し、その背を追い越すように、ベルはゆっくりと体を前へ倒した。
「──みんなぁ!道を開けろぉぉおおお!!!!」
地面が、爆ぜた。
ヘスティアの号令を喰いちぎるように駆け出し、大草原に白の残光だけを残して疾走する。
黒大剣の纏う白光をその身に
口の端、切り裂かれた腕、擦り傷だらけの足、全身に刻まれた傷から夥しく流れ出る灼熱の血潮さえ前を踏破する力に変え、仲間達が作り出した最大級の好機──最初で最後の一撃へと加速する。
不自然に遅くなった世界の中で、進路を離脱しベルを見つめる人々の顔が視界に入る。
ヴェルフが、命が、リューが、アスフィが。
道を開ける全ての者が、光となったベルを見つめる。
願うように、祈るように、信じるように、背中を押すように──行け、と!
多くの視線に紛れて、背中を強く叩かれた気がした。
多くの者が向ける視線と重く熱い信頼を一身に負い、ベルは速度を上げ、突貫する。
「オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
未だ消える気配のない紅蓮の中で、再生させたゴライアスの右眼が接近するベルを射抜く。
最も警戒し、最も近づけたくなかった存在が、目の前まで迫っている。
何もかもが上手くいかず、圧倒的であったはずの自身が追い込まれていること。そして、自身の心の奥底に微かに芽生えた恐怖。
全てを怒りに変え、絶叫とも怒号とも取れる雄叫びをあげる。
炭に変わった背骨を無理やり再生させ、目障りな
片腕を無くし全身を焼かれ、全身を炭に変えられた満身創痍であろうとも異常事態の主であるゴライアスの一撃は余波だけでもベルを容易に吹き飛ばす。周囲の者もベルもそんなことは百も承知だ。
──だが、それでも速度は緩めない。寧ろ、全てを置き去りにするように加速する。
距離は埋まり、目の前には押し潰されそうな巨躯が広がる。
両の手に握るのは仲間達が時間を重ね、好機を紡ぎ、この一瞬の為に溜め込んだ力の奔流。
収束し光そのものとなった一振の剣に己の全てを賭し、ベルはその一撃を振りぬいた。
「ああああああああぁぁぁッッ!!!!!」
極光が、闇を裂いた。
「────────」
純白の光が薄暗闇に満ちた18階層を塗り替え、冒険者達の目を眩ませる。誰もが腕で顔を覆い、戦いの趨勢を見つめる。
ゴライアスの雄叫びをも掻き消すベルの裂帛の咆哮。そして、階層を軋ませる程の轟音。
階層に立つ全ての者たちの聴覚機能を一時的に奪った後、最後に残ったのは──決着を告げる巨大な魔石の落ちる重い音だった。
回復してきた者が恐る恐る戦場の中心を見れば、上半身の肉片も残さず、下半身も両足が僅かに繋がっているだけの巨人だったものがあった。
そして、肉体から零れ落ちた巨大な魔石の欠片の前で、剣先の無くなった黒大剣を振りぬいた姿勢で固まっているのは、ベルだった。
その光景に、誰もが言葉を失い、しばし立ち尽くした。
「……消し飛ばし、やがった」
呆然と乾いた笑みを浮かべたヴェルフの言葉が契機だったかのように、全ての時間が動き出す。
固まっていたベルは地面に膝を付き、大剣だったモノの取っ手を支えに体を支える。
その目の前で、魔石の大半を失ったゴライアスの下半身が灰に溶け、全てが溶け落ちた後、大量の灰の上にドロップアイテム──『ゴライアスの硬皮』が残される。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉおっ!!!」」」
次の瞬間、冒険者達の歓声が爆発する。
周囲の冒険者が諸手を挙げ、隣に立つ者と肩を組み、喉が張り裂けんばかりに声を上げる。
彼らの持つ武器の多くは悽惨な戦いの中で主を守り抜き刃こぼれしているものが多かった。
しかし、その中の幾本かは、戦闘前と変わらぬ銀の輝きと、柄にかかった泥色の破片がひっそりと冒険者たちの勝利を讃えていた。
新たな魔物を生み出すこともなく沈黙するダンジョンで、言葉にならない歓喜の音は津波の如く轟き、大草原を駆け抜けた。
「ベル君!」
「ベル!」
涙ぐむヘスティアを筆頭に、ヴェルフ、リリ、命と次々に力尽きたベルの元へ駆け寄る。
色濃い疲労を顔に滲ませながらも、周囲からの讃える声と、途切れることの無い喜びの喝采が、蒼く照らされた18階層に満ちていた。
「っ!グリスアさん!!」
ベル達と喜びを分かち合うのもそこそこに、リューは1人合流する様子のないズィーヤを探し神雷の走り抜けた荒野を遡っていた。
その果て、砕けた高地の真下にズィーヤは力なく横たわっている。
雷鳴を間近で聞いた鼓膜は破れ、両耳から血が滴っている。幸いうつ伏せで倒れているため、耳の中に血がたまるということはなかったが、どちらにしろ致命傷に違いない。
さらに、限界を超えた魔法の行使による精神力欠乏と過集中による肉体的疲労が鼻血として表面化していた。
生存は絶望的。
リューの顔から勢いよく血の気が引いていく。
大急ぎで呼吸の確認と脈拍を測ると、酷く弱々しいが生きている。だが、放置してしまえば死ぬのは時間の問題でしか無かった。
「グリスアさん、貴方をこんな所で死なせる訳にはいかない……!『今は遠き森の歌。懐かしき生命(いのち)の調べ。汝を求めし者に、どうか癒しの慈悲を ノア・ヒール』!」
リューの手のひらから溢れた柔らかな新緑色の光がズィーヤを包む。しばらくすると、徐々にズィーヤの黒ずみ罅割れた腕や頬の火傷跡が薄くなっていく。
しかし、リューの魔法には即効性がない。故に、この魔法は応急処置でしか無かった。
焦りと不安がリューの胸中でイタズラに鎌首をもたげてくる中、背後から軽い足音と共にアスフィが現れる。
「リオン?突然離れてどうしたのですか?……っ!ズィーヤ・グリスア?!一体、何が……!?」
「アンドロメダっ!至急、ポーションを持ってきて下さい!効果は問いません、今はとにかく即効性と量が必要だっ!」
「わ、分かりました!」
動揺しながらも即座に透明化の魔道具を装備し、一刻も早くポーションを届けるために秘蔵の魔道具で空を駆け抜ける。
「死ぬな……死ぬな、ズィーヤ!」
「……………ぁ」
意識を失っていたズィーヤが微かに瞼を開け、必死の形相を浮かべ、魔法を行使するリューを見やる。
「!グリスアさん、私が分かりますか!?」
「………り………ぉ」
「はい、リュー・リオンです!貴方とクラネルさん達のおかげでゴライアスは討伐できました。今はアンドロメダがポーションを取りに向かっています。だから、今は安静に、生きることだけを考えてください!」
リューの必死の呼び掛けも鼓膜の破れたズィーヤには聞こえていない。だが、穏やかな薄暗闇と淡い蒼の光を見て、戦いが終わったことは理解していた。
「……よ、か………た」
「グリスアさん……?グリスアさん、目を開けてください……!目を開けなさい!ズィーヤ!!」
「リオンっ!余っているポーションを持ってきました!傷の酷いところからかけていきます!」
喜びの歓声で震える大草原の端で、リューとアスフィによる迅速な応急処置と必死の呼び掛けが悲痛に響いていた。
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