嫉妬の冒険譚   作:凪 瀬

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気がついたら最終の更新から1ヶ月経ってるし今年も終わりそうになってて笑ってます。モチベは終わってます。
ライブ感で小説を書いているので実はキャラの一貫性とかいちばん苦手な領域だったりするんだよなという言い訳を、ここでさせていただく。許せサスケ、これからもこんな感じだ……。


46話 感謝とお礼参りと返答と

 

 リオンさんへの挨拶も終わったし、次はアスフィさんか。

 18階層までの道中も同じ遊撃だったから気にかけてもらったし、ゴライアス戦では足止め兼アタッカー、戦いの後は瀕死の俺に応急処置をしてくれた正に命の恩人。

 彼女がいなければ、ゴライアスは倒せなかったし俺も死んでいたか、何らかの後遺症は残っていただろう。

 いや、ゴライアス戦に関しては、誰が欠けても危うかったけども……。

 【ヘルメス・ファミリア】の拠点である『旅人の宿』は少し入組んだ場所を通る必要がある。

 他の道もあるにはあるが、大通りから行こうとすると入り組んだ道じゃないとかなり時間がかかるのだ。こういうところに、主神の思想やファミリア全体の仕草みたいなのを感じずにはいられない。

 こういう入り組んだ道も嫌いでは無いが、エィラさんに書いてもらった地図がなかったら危うく迷っていたかもしれない。

 

「っと、ここか」

 

 見た目は至って普通の一軒家。他に比べて少し大きめの3階建てくらいの特徴しかない。

 看板に刻まれた【ヘルメス・ファミリア】のエンブレムと地図がなければ気づかず通り過ぎていた可能性が高いな。

 

「しかし、エンブレムか……うちも作りたいが……」

 

 作ったところでって感じはあるんだよな。

 ファミリアの団員は俺一人だし、ファミリア自体に依頼がある訳でもないし、【ガネーシャ・ファミリア】との仕事の時は協力者って形で【ガネーシャ・ファミリア】の腕章をつけなきゃだし……。

 まぁ、自己満足以上の意味は無いけど、今度神様と話してみるかな。

 取り留めもない思考はそこそこに、家の扉を叩く。

 

「はーい?」

 

「失礼、私は【メガイラ・ファミリア】のズィーヤ・グリスアと申します。ヘルメス神とアスフィさんに用向きがあって伺ったのですが、いらっしゃるでしょうか?」

 

「わ、凄い丁寧……んんっ!団長はいらっしゃいますがヘルメス様はいらっしゃいません。いつ頃お帰りになるか分かりませんが、ヘルメス様へ言伝があれば私から伝えておきましょうか?」

 

「いえ、言伝の必要は無いので大丈夫です。今からアスフィさんに会うことは可能でしょうか?以前のことでお礼がしたいのですが……」

 

「わかりました。団長に確認してきますので、中でお待ちください」

 

「わかりました」

 

 小人族の女性に通された客室はしっかりと整理されており、机の上にはお茶請けとティーセットが置かれている。

 俺が訪れてから準備していたのか、俺が来る前から準備していたのか……情報通と言われる【ヘルメス・ファミリア】なら、どちらの可能性も有りうると思わされるから厄介だな。

 

「では、団長に確認してきますので、粗茶ではありますが飲みながらお待ちください」

 

 音も最小限に出ていった彼女を見送って、改めて部屋を見回してみる。

 ものは少なく、シンプルに大机と対面のソファが2つ。小さいイスが3つに扉側に大きな棚が1つ。

 シンプルすぎて逆に落ち着かない程だが、特に危険も無さそうなので気にしないことにする。なんというか、人のホームで一番最初に危険について気にしてしまうのは何とかしたいな。

 冒険者としての危機感が育ってるといえば聞こえはいいが、日常生活と切り離せていないといえば悪くも聞こえる……うーん、悩ましいところだ。

 思考に耽けていると扉がノックされる。返事を返すと扉が開かれ、アスフィさんが入ってきた。

 

「お待たせして申し訳ありません。何分、仕事が立て込んでおりまして……」

 

「いえ、こちらこそ事前に訪問をお伝えせず申し訳ありません」

 

 互いに頭を下げ、対面のソファに座る。

 座る動作ひとつ取っても洗練されて、どこか気品を感じるのは、彼女が情報を扱うファミリアの団長だからなのか、それよりも前の経験なのか……。

 

「それで、本日はどんな御用ですか?」

 

「先日の事で、改めて感謝を伝えようと思いまして」

 

 座りながら佇まいを直し、深々と頭を下げる。

 

「ゴライアスでの戦い、死にかけた俺をリオンさんと共に助けてくれたこと、俺がここに生きていられるのはアスフィさんの助けのおかげです。本当に、ありがとうございました」

 

「……えぇ、貴方の感謝を、確かに受け取りました。さ、頭を上げてください」

 

 優しげな声に頭をあげれば、穏やかな笑みを浮かべたアスフィさんと目が合った。

 

「貴方のところの主神……メガイラ神も、貴方の様態が安定するとすぐに頭を下げに来ましたよ。貴方と同じように、事前の連絡もなく」

 

「それは……神様共々ご迷惑を……」

 

 神様と同じことをしたと思うと少し嬉しいというか照れくさい気持ちがあるが、アスフィさんに迷惑をかけたとなると申し訳なさの方が圧倒的に大きい。

 やはり、事前の連絡は入れておくべきだったか……いやでも、どこから連絡を入れれば?ギルドってそういう所も対応してくれてるんだっけか?

 

「ふふ、迷惑だったという訳ではありませんよ。ただ、似た者同士(おやこ)なのだな。と、そう思っただけです。その絆を、大切にしてください」

 

「……はい!」

 

 会話に一区切り着いて、互いに用意された紅茶に手を付ける。陽の光が差し込む部屋には穏やかな沈黙が広がり、紅茶を飲む微かな音だけが響いた。

 

「……その腕、問題はないのですか?」

 

 俺の黒くなった右腕へ視線をやりながら、やや困ったように眉を垂れさせてアスフィさんが聞いてくる。

 てっきりテアサナーレさん辺りから聞いていると思ったんだが……それとも、俺の口から聞くべきだと思ったんだろうか?

 

「えぇ、痛みも違和感もないです。寧ろ、右腕だけ魔力の通りが良くなった気がして、強くなったまでありますよ」

 

 茶化しながら答えてみれば、申し訳なさそうにしていたアスフィさんの表情は呆気に変わり、最後には呆れを含んだ苦笑いになっていた。

 

「全く……そういうのであれば、これ以上気にするのも野暮ですね」

 

「心配してもらってありがとうございます。でも、本当に異常とかないので気にしなくて大丈夫ですよ」

 

「そうですか。それは何よりです。……そういえば、ヘルメス様にも用があるそうですが、一体なんの御用だったんですか?」

 

「あぁ、それは──」

 

「ズィーヤ君が来てるんだって?!どうして俺に教えてくれなかったんだアスフィ!」

 

 突然、バタンッと大きな音を立てて扉が開かれる。

 勢いよく部屋に入ってきたヘルメス様は、優男然とした美貌を情けなく歪めて優雅に紅茶を飲み始めたアスフィさんに抗議する。

 この神、来る直前まで気配がしなかったんだが……流石は伝達を司る神、気配や音を消すくらいは容易いということか……というか、どうやって俺が来たこと知ったんです?外に出てたんですよね?それも神の(わざ)ってことですか?

 

「教えるも何も、ヘルメス様はホームにいなかったでしょう。私に仕事を丸投げしてね……!!」

 

「はははっ!すまない、アスフィ!いつもありがとう」

 

「くっ、殴りたい、この笑顔……!」

 

 アスフィさんの仕事が立て込んでる理由の一端はヘルメス様が原因だったのかよ……いつもこの調子なんだったら、アスフィさんの苦労も伺えるな。

 

「それで?ズィーヤ君は俺になんの用があったんだい?」

 

「……えぇ、1つ、お礼参りをと」

 

「あ」

 

 ソファから立ち上がり、扉の前で柔和な笑みを浮かべるヘルメス様に向かって歩み寄る。

 俺の狙いに気づいたのか、アスフィさんはそっとカップを置いて、瞼を閉じ俺達の方を見ないよう顔を背けてくれた。

 

「え、えーと……ズィーヤ君……?」

 

 俺とヘルメス様の距離がちょうど握手できるくらいになった時、ヘルメス様の表情が徐々に困惑に変わり、頬をひくつかせ始めた。

 

「アスフィさん、これから神に不敬を働きます」

 

「団長として許可します」

 

「ヘルメス様、覚悟を」

 

「君たち俺の知らない間に随分仲良くなったんだね!?ず、ズィーヤ君、何故拳を固めるんだい?や、やめろ!それ以上、俺のそばに近寄るなぁ!?」

 

 ワタワタと後ろへ後ずさるヘルメス様に向けて一歩深く踏み込み、握りこんだ拳を無防備な腹部に向けて突き刺す。

 

「グボォッ──!」

 

 勿論、神相手なので手加減はしたが、(冒険者)の一撃を受けたヘルメス様。

 口から幾らかの唾液を飛ばしながら、扉に体を打ち付け、ズルズルと体を扉擦り付けながら倒れ伏していった。

 

「これで、ベル君に冒険者をけしかけたことはチャラにしますよ。……では、用も済みましたからお暇させてもらいますね」

 

「分かりました。また、機会があれば共に仕事をしましょう。ヘルメス様、さっさとそこ退()いて下さい。あと、そこちゃんと掃除しておいて下さいね」

 

「お、俺の眷属(こども)が1番俺に容赦ない……」

 

「「日頃の行いでは?」」

 

「……ガクッ☆」

 

 真っ白に燃え尽きたとでも言いかねないほど、清々しい笑顔を浮かべて力尽きたヘルメス様を無視して部屋を出る。

 頂点を過ぎた太陽は西へ流れ、陽光に微かな茜色が混じり始めていた。

 

「忙しい中、時間を作っていただきありがとうございました。お仕事、頑張ってくださいね」

 

「えぇ。そちらも、ダンジョンで死なないよう頑張ってくださいね」

 

 ホームの前で簡単な挨拶をすまして雑踏の中へ踏み入る。

 さて、時間はまだ昼過ぎくらいか……そういえば昼ごはん食べそびれたな。神様は今日【ガネーシャ・ファミリア】の手伝いだから向こうで食べてるはずだし……じゃが丸くんでも買うか。

 近くの路地を抜けて大通りに出れば、小さな出店や屋台が点在しており、目当てとなる焦げ茶色の看板を探す。

 

「じゃが丸くん〜!出来たてのじゃが丸くんはいらないか〜?!」

 

「ん、この声は……」

 

 大通りと他の通りを繋ぐ広場まで足を運んでみれば、この数日で見慣れた艶やかな黒髪を2つに結び分け、人間離れした幼い美貌と顔に似合わぬ凶悪な胸部装甲をお持ちの女神が、看板片手に呼び込みをしていた。

 

「こんにちは、ヘスティア様」

 

「ん?あー!ズィーヤくんじゃないか!!もう傷は平気なのかい!?」

 

「えぇ、無事に快復しました」

 

「それは何よりだよ!僕も心配してたけど、何よりベルくんが可哀想なくらい心配してたからね!そうだ!もう少しでボクの仕事も終わりだから、良かったらベルくんに顔を見せてあげてくれないかい?」

 

 そういえば、地上に戻ってきてから既に4日が経ってるが、ベルくんとは顔を合わせてあげられてなかったな。

 彼も彼で感謝行脚に精を出してたらしいし、俺も回復したのはつい昨日の話。間が悪いと言うべきか、ベル君が見舞いに来る時は大体寝てたらしいし、それこそ地上に戻ってからはあの特徴的な白髪も見ていないな。

 

「──ヘスティア様とベル君さえ良ければ、お邪魔しても大丈夫ですか?」

 

「勿論だよ!ボクもベルくんも大歓迎さ!じゃ、ササッと片付け終わらせちゃうからちょっと待ってね」

 

 体に染み付いていると見える華麗な動きで看板を片付け、屋台の締め作業を行う。体感時間にして5分もしない内に諸々の片付けは完了し、滲んだ汗を拭ったヘスティア様はいい笑顔でこちらを振り向いた。

 

「さ、片付けも終わったし行こうか!」

 

「わかりました。………あ」

 

「ん?どうかしたかい?」

 

「あー……いや、なんでもないです」

 

 じゃが丸くんを買うという本来の目的を忘れてた。意識し始めた途端、俺の腹の虫が不機嫌そうに唸るが、目の前で店を閉めたばかりのヘスティア様に伝えるのは憚られる……。

 仕方ない。晩御飯まで我慢だな。許せ、俺の腹。

 俺の態度に不思議そうな顔をするヘスティア様の背を押して、【ヘスティア・ファミリア】のホームに向けて俺達は歩き始めた。

 

***

 

「ズィーヤさん!!もう元気になったんですか?!」

 

「あぁ、随分心配かけたみたいですまないね。見舞いにも来てくれてたらしいのに……」

 

「いえいえ、僕が勝手にしたことなので気にしないでください!」

 

 ヘスティア様の後に続きホームだという廃教会に入ると、丁度外から帰ってきたらしいベル君と遭遇した。

 ヘスティア様の後ろに俺がいることを視認した瞬間の彼の速度といえば、ヘスティア様のツインテールを大きく揺らし、俺の前髪を思いっきり後ろに吹き飛ばす程だった。

 そんなに心配してくれていたとは……有難い。有難いんだが、これほど慕われている理由に心当たりがないから、ちょっと心配になるな。

 俺がどうこうというよりも、ベル君が騙されないかとかそういうので。

 

「それで、その、右腕は……」

 

「ん?あぁ、これは……俺のスキルの影響さ。細かいことは言えないけど、異常や後遺症はないから気にしないでくれ」

 

「そう、なんですか……?」

 

「あぁ。前よりも強くなったし、腕もかっこよくなったしでいいこと尽くめだ」

 

「数日前まで昏睡してた子の言うことかねぇ……」

 

 あーあー、聞こえない聞こえないー。せっかくフォローしてるんだから邪魔になるようなことは言わないでくださいー。

 

「……まぁ、ズィーヤさんがそういうなら納得します」

 

「うん、それでいいよ」

 

 不満というか心配ですと顔にありありと浮かべるベル君に苦笑いを返す。彼の純朴さというか分かりやすさには失笑してしまうな。そういう所が、彼の人たらしたる所以なんだろう。

 

「ズィーヤさん」

 

「ん?なんだい?」

 

「改めて、僕達の事を助けに来てくれてありがとうございました。それと、あの決戦での一撃も……ズィーヤさんには、感謝してもしきれません」

 

 頭を深く下げるベル君の姿に少し呆気に取られてしまう。こうして、誰かに面と向かって感謝をされるというのはいつぶりだったか……いや、割と感謝はされているんだが、頭を下げられる程のとなると、心当たりも随分少なくなる。

 

「えーと……あー……」

 

 マズイな、こういう時なんて返したらいいかド忘れしちまつた。

 

「『どういたしまして』で、いいんじゃないかな?」

 

「ヘスティア様……」

 

「難しく考える必要はなんだぜ?ズィーヤくん。ベルくんはただ君にもありがとうって伝えたいだけなんだ。勿論、ボクだってね。だから、君は胸を張って『どういたしまして』って返してくれればいいんだよ」

 

 ヘスティア様は俺の肩をポンポンと叩いてから、ベル君の横に並んで佇まいを直す。堂々と凛とした姿は、幼さよりも神としての威厳があり、意識せず背筋が伸びる。

 

「ボクのベルくん(かぞく)を助けてくれて、本当にありがとう」

 

 優しい微笑みとともに、真っ直ぐに俺の目見て感謝の言葉を伝えてくるヘスティア様は、言い切るやいなや頭を下げてくる。

 ベル君とヘスティア様が横並びで下げている光景に居心地の悪さを覚えながらも、微かに喜びを感じてしまっている。

 くすぐったいというか、照れるというか、あぁ、モヤモヤするなぁ!

 でも、まぁ、今やるべきことはそういうのを考えることじゃなくて……。

 

「っどういたしまして!」

 

 ヘスティア様のアドバイス通り、息を吸って胸を張り、堂々と返す。

 思ったより大きな声が出てしまって少し恥ずかしい。そして、頭をあげたヘスティア様からの生暖かい視線によって、その羞恥心は加速度的に大きくなってしまい……そんな状態で2人の顔とか見れるわけないだろ。

 

「あ、そういえば」

 

「ん?」

 

「ズィーヤさん、明日の夜に空いてたら一緒にご飯を食べに行きませんか?ヴェルフやリリも一緒に祝賀会をしようって話をしてて……」

 

「明日の夜か……分かった、空けておくよ。場所はどこだい?」

 

「日没頃に『火蜂亭』っていう場所に集合なんですけど……」

 

「あぁ、そこなら知ってるよ。明日の日暮れにそこだね。楽しみにしておくよ」

 

「はい!」

 

「全く、ボクも居るってのに2人だけで楽しそうに会話しちゃってさ!ボクだけ除け者なんてズルいぞ〜!」

 

「わっ、ちょ、ちょっと神様!?」

 

 予定の擦り合わせをしている間に待ちくたびれてしまったのか、ヘスティア様はベル君の後ろから思いっきり飛びついた。

 俺からは見えないが、ヘスティア様の凶悪なアレが、ベル君の背中を襲っているというのは真っ赤に茹だった彼の顔を見れば丸わかりだ。

 チラチラと助けを求めてくるベル君と照れるベル君に意地の悪い笑みを浮かべるヘスティア様。

 友人ならば、ベル君に助け舟を出してやるのが正解だろう。しかし──

 

 

「──じゃ、家族の団欒の邪魔をするのも野暮ですし、俺はここでお暇しますね」

 

「え゙」

 

「急だったのに来てくれてありがとうね、ズィーヤくん!」

 

「いえ、俺も楽しかったので。じゃあ、ベル君、また明日ね」

 

「え、ちょっ、あの」

 

 「ズィーヤさぁぁん!!!」と背後から聞こえてくるベル君の悲鳴に失笑を零しながら、茜色の濃くなった街を歩く。

 さっさと家に帰ろうと大通りに出たあたりで、一際大きな唸り声が俺の腹から聞こえてきた。

 

「……じゃが丸くんだけ買って帰ろう」

 

 やはり、人は空腹には勝てないものなのだ。

 出来たての熱いじゃが丸くんに齧り付きながら、ふとそんな事を考えた。

 明日もいい日になるといいな。




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