嫉妬の冒険譚   作:凪 瀬

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今更ダンまちのアニメ4期を見ました。リューさん可愛いよリューさん……


48話 懸念と疑念と決心と

 

「新人(ルーキー)は怖いもの無しでいいご身分だなぁ!世界最速兎(レコードホルダー)といい、嘘もインチキもやりたい放題だ!オイラは恥ずかしくて真似できねえよ!」

 

 店内の隅々に響くほど声高に、小人族(パルゥム)が声をあげる。

 杯をクルクルと弄んでいるが、その顔が赤らんでいる様子もなく、同じテーブルに座る面々も杯を手に持ってこそいるが、飲んでいる様子はない。

 素面。だと言うのに、これほど明確に俺達へ……いや、ベル君(・・・)へ突っかかるとはな。

 

「でも、逃げ足だけは本物らしいな!昇格(ランクアップ)できたのも、チビりながらミノタウロスから逃げおおせたからだろう?流石『兎』だ、立派な才能だぜ!」

 

 幼い少年のような容貌を下卑た嘲笑に歪めながら、杯の中の酒を煽る。

 一々大仰で芝居がかった言動と行動。明らかな挑発だな。しかも、俺達ではなくベル君だけを狙っている。

 ベル君本人は多少辛そうだが、挑発に乗って対立しようとはしていないな。こういう手合いは、挑発に乗らず気にしないに限る。ベル君の対応は賢明と言えるだろう。

 チラリと、小人族の服装を見る。テーブルに座る他のメンバーと同じような黒い服。

 肩には同じ形のエンブレムが取り付けられており、全員が同じファミリアの団員なのだろう。

 

「オイラ知ってるぜ!『兎』は他派閥(よそ)の奴らとつるんて──」

 

「──そこまでにしておけ、【アポロン・ファミリア】」

 

 隣のテーブルの全員が、僅かに息を飲んだ音が聞こえた。

 先程まで意気揚々と煽り散らかしていた小人族に至っては、動揺からか杯を地面に落としてしまっている。

 

「ズィーヤ様、知っておられるのですか?」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】から聞いたことがあってね。他派閥の眷属を引き抜くために、半ば犯罪まがいの事をする悪評の多い派閥だ。とね」

 

「なっ!?オイラ達はそんなことしてない!」

 

「聞いたところによれば、ファミリアのメンバーや個人への執拗なストーカー行為。恐喝。ダンジョン内での探索の妨害。人海戦術による悪い噂の流布。そして、挑発してから相手側に手を出させ、派閥間での争いにまで発展させた後、戦争遊戯によって抜き取る。これらは犯罪行為と言っても、なんら差し支えない」

 

 滔々と語ってやれば、酒場の喧騒は静まり返り、時々鳴る物音すらよく響いていた。

 隣のテーブルに座る面々は澄まし顔をしているが、僅かに滲んだ冷や汗や浅くなった呼吸などは誤魔化せない。何より、顔を青くして口をパクパクと動かす小人族の存在が俺の言葉を肯定していた。

 

「ヤロウ、ベルを嵌めるために態々煽ってたってことかよ……!」

 

「なんて酷い……!ズィーヤ様の話が本当なら、やっていることが立派な犯罪じゃないですか!」

 

「でも、じゃあなんで逮捕されてないんだろう……?」

 

「そ、そうだ!オイラ達が、お前の言ったことをやってたとして?なんでオイラ達のファミリアにお咎めがないんだよ!それこそ、お前のでっち上げた冤罪じゃないのか!?」

 

「厄介なのは【アポロン・ファミリア】の犯行は物的証拠がほとんどない事だ。追求したとしてものらりくらりと逃げられるがオチ。更に、中堅の探索系ファミリアとしてある程度の実力があることも罪を覆い隠すための追い風になっている」

 

 立ち上がり、隣のテーブルの最奥。俺たちのテーブルから最も遠い位置に座っていた男へ歩み寄る。

 

「そうだろう?Lv3冒険者【太陽の光寵童(ポエプス・アポロ)】」

 

 俺を見上げる男の顔は端正と呼ぶに相応しく、周囲の目を引く美青年そのものだった。

 形のいい眉は吊り上がり、鋭い眼差しはより一層剣呑に細められて重い威圧感を感じる。

 

「……聞くに耐えんな。そのような世迷言」

 

「確かに証拠と呼べるものは少ないが、聞き込みや戦争遊戯の起こる頻度を調べれば一定の確証にはなるだろう?」

 

「お前の言葉には信憑性がない。何処ともしれぬ弱小派閥の一員如きが、我が主神の行動を罪と咎めるつもりか?」

 

「俺の発言の裏を取るなら【ガネーシャ・ファミリア】に聞けばいい。神の行動を咎めているのではなく、派閥としての在り方を咎めているんだよ」

 

「……木っ端が、粋がるなよ」

 

「お行儀のいい化けの皮が剥がれてるぞ美青年」

 

 俺を睨む瞳を睨み返す。

 周囲がざわつき、視界の端で【アポロン・ファミリア】のメンバーが腰を持ち上げる姿が目に入る。

 ここまで来たら強硬手段に出るというわけだ。俺としては一向に構わない。

 これでも俺は怒っているのだ。ベル君をバカにされて、俺が止めなければヴェルフやリリまでバカにしようとしたコイツらには、頭に来ているのだ。

 まさに一触即発。ヒュアキントスか俺のどちらかが動けば、それだけで店内を巻き込んだ戦闘が起こる確信を持たせる緊張感の中──離れた場所にあるカウンター席から木材の弾け飛ぶ甲高い音が響いた。

 

「──雑魚が騒いでんじゃねぇよ、不味い酒が糞不味くなるじゃねぇか。うるせぇし目障りだ、消えやがれ」

 

 蹴り抜いた体勢のまま、不機嫌さを隠すことなく、こちらに向けて剣呑な威圧感を放つ灰色の狼人。

 俺よりも圧倒的に格上な有無を言わせぬ圧力に、肝が冷えて汗が滲む。

 

「【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ……」

 

「ふんっ、がさつな。やはり【ロキ・ファミリア】は粗雑と見える。飼い犬の首に鎖もつけられないとは」

 

 こいつ……Lv6になったというベート・ローガに対しても、この鼻につく態度を貫けることに関してだけは尊敬してやってもいいのかもしれない……。

 

「あぁ?蹴り殺すぞ変態野郎?」

 

 先程よりも強い緊張感が場を包む。

 Lv6、ダンジョンの最深部、探索の最前線をひた走る第一級冒険者。向けられた威圧感は、あのゴライアスを思い出させる程、重い。

 

「……チッ、興が削がれた。いくぞ、お前たち」

 

 これ以上は分が悪いと判断したのか、あるいは本当に興が削がれただけなのか……判断に困るところではあるが、ひとまずの決着はついたらしい。

 ヒュアキントスは数人の団員を連れたって酒場を出ていく。

 

「覚えておけ、【メガイラ・ファミリア】……!」

 

 すれ違いざまに憎々しげに俺のことを睨んで来るが、お門違いもいい所だ。

 俺がしたのは、お前たちが行ってきたと聞いた行為を懸念点として伝えだけなのだから。恨むなら、誤解だろうと何だろうと、そう受け取られる行為をした己たちを恨め。

 

「おい」

 

「えっ、はい」

 

 しばらくヒュアキントス達が出ていった扉を見ている間に、座っているベル君の近くへ【凶狼】歩み寄ってきていた。

 そのまま、ベル君の胸ぐらを掴みあげ、小柄な体躯を宙へ持ち上げる。2人の顔の距離は、目と鼻の先程まで狭まっていた。

 

「──調子乗ってんじゃねぇぞ」

 

 先程までヒュアキントスに向けられた不快げな視線とは違う。研磨された刃のような鋭い言葉。

 怯えと驚愕からか言葉を発せずにいたベル君を床へ落として、不機嫌さの際立った背中を見せて酒場の外へ出ていく。

 奥から、慌てた彼の仲間達が代金を置く音と、遅れてドタバタと追いかけていく姿が、妙に目に入った。

 

「大丈夫ですかっ!ベル様!」

 

「う、うん。驚いたけど、何とか……」

 

「しかし、なんだったんだ、一体……」

 

「【凶狼】に関しては、考えても仕方ない。あの人は悪評と良い噂の両方を聞くからな」

 

 曰く、暴言は弱者を生き残らせるためだとか、助けられた後暴言を言われただとか、気に食わないやつはボコボコにしているだとか……。

 どれもこれも証拠はほとんどないが、少なくとも常に不機嫌さを滲ませて、罵詈雑言を弱者と呼ぶもの達に注いでいることは間違いない。今回は、その対象がヒュアキントスに向いていたという事だろう。

 

「さて【アポロン・ファミリア】についてはさっき言った通りだ。特に、ベル君は狙われているようだから気をつけてくれ。ヘスティア様にも気をつけるように伝えておいてくれ」

 

「……分かりました」

 

 【アポロン・ファミリア】が起こし、【凶狼】の鎮圧した酒場の騒動の後。飲み直す雰囲気でもなかったので、祝会は自然とお開きとなり、各自帰路について行った。

 

***

 

「──ということがあったので、しばらく【アポロン・ファミリア】には用心しておいた方がいいかと。俺も恨みをかっちゃったみたいですし、神様に手が伸びないとも限りませんから」

 

「そう……アポロンは下界に来ても変わらないらしいわね。度し難いほど恋多く、反吐が出るほど手段を問わない」

 

 蝋燭に淡く照らされた部屋で、神様は紅茶を飲みながら目を細める。

 その姿は、一見すれば慈悲深く穏やかだが、瞳に宿った剣呑な侮蔑の光が部屋の温度を一段下げる。

 

「ズィーヤ、これから訪れる【アポロン・ファミリア】の干渉……いいえ、攻撃に注意なさい。他派閥の協力を取り付けても構わないわ。兎に角、自分の命を最優先にするように」

 

「御意に」

 

 協力を取り付けるとするなら【ガネーシャ・ファミリア】だろうか。

 【ヘスティア・ファミリア】は同じく狙われている。ヴェルフの伝手で【ヘファイストス・ファミリア】も考えられるが、大手派閥は制約も多い。希望は薄いか。

 後は……いや、あそこはそもそも無理だろう。頼んだらその瞬間に断られて、ついでに殴られそうだ。

 他に頼れそうなのは【ヘルメス・ファミリア】……ないな。ない。アスフィさんと団員さん達は問題ないが、主神がアレだ。

 後は【豊穣の女主人】だが、リオンさんはブラックリストに入っているから頼れないし、他の面々も何かしら本来の身分を隠す必要があるんだろう。表立って協力は頼めないだろう。

 そう考えると、俺の頼りにできる【ファミリア】や個人ってのは少ないな。

 とりあえずシャクティさんに今回の騒動と【アポロン・ファミリア】について伝えておくか。

 

「そういえば、明日は何か予定があるの?」

 

「明日はギルドに顔を出してから、武器と防具を見に行こうかと。件の戦いで槍は折れましたし、防具も粉々になっちゃいましたから」

 

 武器に関しては最後の魔剣の本種にしたせいだが……数十体の怪物と連戦した時点で限界は来ていたんだ。遅かれ早かれってやつだ。

 作った人には、申し訳ない気持ちもありつつ、あれが無ければ確実に死んでいたからこそ感謝もしている。

 

「そう。道中気を付けてね。今はメインの武器が無いんでしょう?」

 

「まぁ、俺は魔法がありますから。でも、気をつけます」

 

「ダンジョンはどうするつもり?」

 

「とりあえず、防具が見つかるまでは行かないつもりです。武器は……最悪なしでもいいですが、その場合は12階層までにするつもりです」

 

「そう……なら、しばらくはお休みなのね」

 

「そうですね。【ガネーシャ・ファミリア】の手伝いと鍛錬、武具探しに精をだそうかと」

 

「いいと思うわ。貴方、最近頑張りっぱなしだったもの。それに、これからも忙しなくなりそうだしね……」

 

「休める時に休む。これも、いい冒険の秘訣らしいですから」

 

「ふふ、そうね。なら、明後日は私とデートしない?」

 

「デート、ですか?」

 

「えぇ、久しぶりにご飯でも食べに行きましょう?」

 

 思えば、ランクアップをしてからベル君を捜索しに行き、ゴライアスと戦い、帰ってきたら瀕死の重症。治療やら何やらで1週間近く、心配をかけ続けてしまった訳だ。

 それに、俺としても神様と触れ合う時間は作るべきだと思っていた。そう。だからこれは、決してデートという言葉に浮き足立ったわけではないのだ。

 

「よろこんでっ!」

 

 神様は実に嫋やかで可愛らしい笑みを浮かべてくれた。

 とりあえず、明後日は何があっても予定を開けておこうと思う。邪魔するなら【アポロン・ファミリア】は潰そうと思う。




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