オバロ・ミステリ ~クレマンティーヌの殺人~   作:なら小鹿

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サブタイトルは『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフドラマ『容疑者 室井慎次』から。推理小説ではないですが、語感がよかったので。



第6話 容疑者クレマンティーヌ

 

「あなた、今朝大神殿から出てきてたわよね。その時のこと、聞かせてくれない?」

 

 絶死は、わざとらしくリストを眺めてからクレマンティーヌを見た。

 そんなことをせずとも、クレマンティーヌ自身、今朝のことは覚えている。しかし、こうもわざとらしく言われると腹が立つ。

 

「なに、私を疑ってるわけ?」

「容疑者のひとり、っていう意味ではそうね。あなただけ不問にしたら、他の容疑者から顰蹙(ひんしゅく)を買うでしょ。ねぇ?」

 

 絶死はそばにいた他の容疑者――無限魔力に水を向ける。同意を求められた無限魔力は首の骨が心配になりそうな勢いで頭を縦に振った。

 

「で、どうなの?」

 

 絶死が先をうながす。クレマンティーヌは、やれやれと露骨に肩をすくめてから答えた。

 

「私はただ神官長に任務の報告書を渡しにいっただけよ」

「あら。漆黒聖典の隊員って、わざわざ自分の手で報告書を届けないといけないの?」

 またしても水を向けられたのは無限魔力だった。

「い、いえ、従者を呼べば、その者が届けてくれますが……」

「他人の手に預けたくなかったのよ。この前の任務、ちょっと遊びすぎちゃったから」

 

 にんまり、と笑ってクレマンティーヌは腰のスティレットを鞘から抜いてみせる。要するに報告書ではなく、始末書というわけだ。ちなみにこれは本当だ。

 

「なるほどね。手渡しにいった時、不審な人物を見なかった?」

「ぜーんぜん」

「殺された闇の巫女姫の部屋には」

「一歩たりとも入ってないわよ」

「今の証言を証明してくれる人物は」

「いるわけないでしょ、ずっとひとりでいたんだから」

「そう」

 

「疑うのなら身体検査でもしてみる? もっとも、今日は四六時中あんたと一緒にいたから証拠品を捨てたり隠したりする暇もなかったけど」

「なら、そうさせてもらおうかしら」

(んふー、そうこなくっちゃー)

 

 クレマンティーヌは胸元の留め具をはずした。するり、とマントが肩から流れ落ち、その下に隠されていた肢体が露になる。

 胸と腰を覆っているのは軽装の鎧。鱗鎧(スケイル・アーマー)のようにも見えるが、鱗状に見えるのはクレマンティーヌが今まで遊んだ相手からもらった冒険者プレートだ。

 その下から豊かな胸と尻が自己主張している。正直、戦闘の時に揺れて邪魔になるから鎧で押さえつけているのだが――。

 

「ん? 私の胸がどうかした?」

「別に。さっさと終わらせてよね」

 

 昔、絶死の前で胸のことをイジって半殺しに遭ったやつがいるらしい。クレマンティーヌは両手をあげまま、黙って身体検査されることにした。

 

 

 ●

 

 

「――どこにもないわね」

「わかったなら早く返してくれない?」

 

 クレマンティーヌは全裸だった。それぞれの手で胸と股を隠しながら絶死に目で催促する。しかし、当の本人は捜査にご執心なようで、冒険者プレートを飾った鎧を裏返してつぶさに検分している。

 証拠でもある消えた叡者の額冠は細い糸でできたサークレットだ。それこそ畳めば服や鎧の隙間に容易に隠せてしまう。絶死がここまで徹底的になるもの頷けるが――。

 

(にしても下着まで脱がす必要あった?)

 

 もしこれが一介の憲兵だったら、顎を蹴り抜いているところだ。

 ちなみに二人がいるのは絶死の部屋だ。女同士とはいえ、聖殿の廊下で体をまさぐられているところを見られでもしたら、あらぬ噂がたってしまう。

 

「入ってきていいわよ」

 

 クレマンティーヌが服を着るのを待って、絶死は扉に呼びかけた。ガチャリと開いた扉からは見張り番をしていた無限魔力が顔を覗かせる。

 

「ど、どうでしたか、絶死様」

「そうね。意外とスタイルがいいってことがわかったわ」

(意外と、は余計だっつーの)

 

 再びマントを羽織りながら、クレマンティーヌは心の中で毒づいた。これでも日々訓練で搾っている身だ。むしろ、食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりの絶死がなぜあの体型を維持していのか。その方がよっぽど謎である。

 それはそうと、クレマンティーヌとしては自分だけひん剥かれるのは釈然としない。

 

「ところでさー、そっちの魔法詠唱者(マジック・キャスター)は身体検査しなくていいのー?」

 

 ぱっと絶死の目が無限魔力に向く。途端に青ざめる無限魔力。

 

「へ、へぇ……あたしですかぁ……」

「そうね、容疑者であることには変わりないし」

「なら決まりね。――〈疾風走破〉」

 

 床を蹴ったクレマンティーヌは一陣の風となって無限魔力の背後をとった。そのまま両腕を腋下へ回し羽交い締め。捕まった無限魔力は、磔にされた罪人のように抵抗する。

 

「だ、第九席次……、あんた、なんのつもりで……!」

「あれー、英雄の域っていっても魔法詠唱者(マジック・キャスター)の腕力なんてこんなものなのー」

 

 そもそも魔法職と戦士職では求められる素養や訓練も違ってくる。そして英雄の域に達したクレマンティーヌからすれば肉弾戦で魔法詠唱者(マジック・キャスター)を押さえ込むなんて容易い。

 

「暴れないの。ほら、脱がせるわよ」

「ちょっ、ちょっと絶死様……!? 待ってください……! 脱ぎます、自分で脱ぎますから……!」

「大丈夫、痛くしないから。そのままじっとしててね」

 

 笑みを深くした絶死の手が、無限魔力の下着を剥ぎとった。色気の欠片もない下着だった。

 

 

 ●

 

 

 翌朝。扉がノックされたのは日が昇ってまだ間もない頃だった。もぞもぞとクレマンティーヌはベッドの中で寝返りを打つ。すると、また扉がノックされた。

 

「……ちっ」

 

 あくびより先に舌打ちが出た。

 クレマンティーヌはベッドから床に下りると、枕元に置いてあったスティレットを抜いた。

 

(誰だか知らないけど、このクレマンティーヌ様の安眠を邪魔するなら)

 

 スッといってドスッ。それで終わりだ。

 従者が呼ばれた部屋を間違えたのかもしれない。そんな可能性が頭に浮かんだが、仮にそうだったとしても、それは間違えた従者が悪い。

 無粋なノックは未だ鳴りやまない。

 

「聞こえてるわよー。モーニングコールならもう十分よー。そもそも頼んでないんだけどー」

 

 扉を開ける。そのままスティレットを哀れな従者の喉に突き刺そうとして――。

 

「あら、起こしちゃった。ごめんなさいね」

 

 絶死がいた。クレマンティーヌは即座にスティレットを背中に隠す。

 

「な、何の用よ」

「実はね、昨日の事件に進展があったの。だから、あなたにも伝えておこうと思って」

 

 

 ●

 

 

「あっ、ぜぜ、絶死様ぁ……、これはきっと何かの間違いです、……あたしは、あたしは殺してません……!」

 

 まさに捕らえられた殺人犯の台詞だった。懇願するような目で言ってきたのは無限魔力だ。その手にはアダマンタイト製の分厚い手錠。いつも頭に乗せていた魔女帽子も含め、装備していたマジックアイテムをすべて没収されたらしく、その格好は売買される奴隷のようだった。

 

「今朝ね、この子が自首してきたの。私のところに」

「自首ぅ?」

「そう」

 

 聞くところによると、絶死も今朝は扉を叩く音で目が覚めたらしい。焦ったようなノック音。漆黒聖典からも恐れられている絶死にこんな真似をするなんて、よっぽど命知らずか、あるいは火急の用件なのか。

 兎にも角にも絶死は扉を開けた。

 

『あ、あの……絶死様……』

『あら、どうしたの。もしかしてモーニングコール?』

 

 そこにはガタガタと震える無限魔力がいた。あまりに緊張していたので絶死は冗談を口にしたが、

 

『じ、実は、机の抽斗(ひきだし)からこんなものが……』

 

 無限魔力が両手を差し出す。そこには憲兵たちが今も血眼になって探している神器――殺人現場から消えた叡者の額冠があった。

 ところで、なぜ憲兵ではなく絶死のところへ自首してきたのか尋ねると『へ、へへ……いけませんでしたか……』と供述。どうやらあとで『なんで私のところへ来なかったの?』と言われるのが死ぬほど怖かったらしい。

 

「――というわけなのよ」

「ふーん」

 

 絶死から事情を聞いて、クレマンティーヌはニヤリとした。殺人犯としても、性格破綻者としても。

 

「ほーら、やっぱりこいつが犯人だったじゃないのー。あーあ、あの時素直に白状してたら絶死様も許してくれたかもしれないこにー。ねぇー」

「き、昨日までは、昨日までは確かになかったんです! 本当です、信じてください、絶死様!」

「犯人はねー、みーんなそれ言うのよ。ほーら憲兵さーん、こいつしょっぴいちゃってー」

「はっ!」

 

 両脇を屈強な憲兵に挟まれ、無限魔力は連行されていった。その背中からは無実を訴える涙声が、いつまでも響いていた。

 

「さて、これで一件落着ねー。シャワー浴びてくるからー。お疲れさまー」

「あら、まだ事件は終わってないわよ」

「んー?」

 

 振り返ったクレマンティーヌに、絶死は意味ありげに笑みを深くした。

 

 





クレマンティーヌは英雄ボディなので、ひん剥かれても一向に問題ありません。無限魔力もオバマスで水着になるくらいにはあります。絶死ちゃんは……ええ、作者は小さいのも好きです。
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