オバロ・ミステリ ~クレマンティーヌの殺人~   作:なら小鹿

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サブタイトルはオーソドックスにミステリでありそうなネーミングですが、強いていうなら有栖川有栖の『国名シリーズ』をイメージしました。



第7話 叡者の額冠の謎

 無限魔力の部屋には大勢の憲兵と神官が詰めかけていた。仮にも漆黒聖典の居室だが、(あるじ)が殺人犯となった今、遠慮する者はいない。憲兵たちは我が物顔で部屋を物色、もとい捜査にあたっている。

 それでも強者への礼儀は忘れていないらしい。クレマンティーヌが顔を見せると、きびきびした動作で敬礼を返してくる。

 

「叡者の額冠はここに入っていたの」

 

 部屋の奥まで足を進めると、絶死は無限魔力が座っていた机の抽斗(ひきだし)を指差した。三段あるうちの下段を開けると、マジックアイテムが雑多に収められる。

 

「へぇー、こんなところに隠してたのー。『木を隠すなら森の中』っていうけど、まさにその通りねー」

「ええ、まったくそうね。でも、ちょっとおかしいのよね」

「おかしい?」

「憲兵たちは無限魔力が〈転移〉を使って巫女姫を殺して神器を奪ったって睨んでるみたいだけど、どうも怪しいのよ」

「怪しいかしら? 決定的証拠も出てきてるし、状況だってあいつが犯人って指し示してるじゃないの」

「だから、よ」

 

 絶死は意味ありげにクレマンティーヌを見る。

 

「ちょっとやってみようかしら」

 

 それから何か思い付いたらしい絶死はポケットからハンカチーフを取り出す。それを広げると、まるで冠でも被るように頭に乗せた。

 

「私が巫女姫役で、あなたが犯人役ね」

 

 言いながら絶死はクレマンティーヌの手を取って、自分の口を覆わせる。色白の頬はぷにぷにとしていた。

 

「まず犯人はまず巫女姫の口と鼻を塞いだ。犯行時に悲鳴をあげられないようにね。次に叡者の額冠を奪った。はい、取って」

 

 どうやら、頭のハンカチーフがその代わりらしい。クレマンティーヌはすっと頭の布を取った。

 

「巫女姫は発狂。でも悲鳴はあげられず、そのまま息絶えた」

 

 うぅ、苦しい……、ともがく仕草をして絶死は脱力したようにクレマンティーヌにもたれかかる。突然始まった漆黒聖典同士の寸劇に、憲兵と神官たちはどう対応していいのかわからず、見て見ぬフリを決め込んでいる。

 

「さて、問題はここからよ。クレマンティーヌ、今あなたは巫女姫を殺し、神器も奪って追われる身。さ、どうする?」

「どうって、逃げるに決まってるじゃないの」

 

 ぱちん、と絶死が指を鳴らす。

 

「そう。転移魔法が使えるのなら、そのまま国外逃亡すればいい。事件発覚後、私は検問を設置させたけど、転移魔法ならすんなりすり抜けられる。でも、犯人はそうしなかった。恐らく逃げられない事情があったんでしょうね」

「何よ、その逃げられなき事情って」

「さぁ、何かしらね。でも事実として無限魔力は逃げなかった。それじゃ続き。あなたは部屋に帰ってきた。そしたらまず何をする?」

「証拠品を隠す、でしょ」

「そうね。本来なら壊して証拠隠滅したいけど、それだとせっかく奪ってきた神器が無駄になる。だから隠した。さてどこに隠す?」

 

 クレマンティーヌは部屋を見回した。現場保存も兼ねて、室内のものは無限魔力が触ってからそのままになっている。部屋の左右に積み上げられたマジックアイテムの山は触れただけで雪崩を起こしそうだし、クレマンティーヌは叡者の額冠があった抽斗にハンカチーフを入れた。

 

「どうしてそこに?」

「その辺に置いておいたら誰かが来た時に見つかっちゃうでしょ。だったら、見えない所に隠すのが自然じゃない」

「確かに。なら、どうして上段にしまわなかったの?」

 

 言われてクレマンティーヌはハッとした。三段ある抽斗。その上段には〈魔法錠(マジック・ロック)〉がかかっている。

 

「おかしいと思わない? 叡者の額冠は神器級のマジックアイテムよ。しかも巫女姫を殺してまで手に入れたもの。普通なら、鍵のかかる抽斗にしまわないかしら」

「焦ってたんじゃないの」

「そうかしら。巫女姫が殺されてから、私たちがここに来るまで時間はたっぷりあったはず。それこそ〈魔法錠(マジック・ロック)〉を解除して抽斗を開けるくらい造作もないでしょ。ましてや、憲兵たちが血眼になって探してるのよ。私だったら鍵くらいかけるけど」

 

 施錠するよりあんたが自分で持ってた方が安全でしょ、といいかけてクレマンティーヌは別の言葉を口にする。

 

「わざと鍵のかからない抽斗を選んだのかもよ。憲兵に捜索された時に裏をかくために」

「確かに、そういうトリックの推理小説(ミステリ)もあるわね」

(いや、誰も推理小説(ミステリ)の話なんかしてないつーの)

 

「でも、それならもっと目につく場所に置くはずよ。例えば、あの山積みになっているマジックアイテムに紛れ込ませるとか。まさかあんな場所に置いてるなんて思いもしないし、ほら、また憲兵が探すのを躊躇ってる」

「なーにが言いたいわけ」

 

 絶死はクレマンティーヌの顔を覗き込んだ。それから、

 

「無限魔力は自分の部屋に叡者の額冠があると知らなかったんじゃないかしら」

「……」

 

 沈黙するクレマンティーヌに、絶死は椅子を引く。

 

「はい、座って。今からあなたは無限魔力よ」

「はいはい、仰せのままに」

「あなたは魔法の研究か実験をしようとして、マジックアイテムを探す。たぶんこれだけ雑多だったら、どこに何が入っているか本人も覚えてなかったんじゃないかしら。それで順番に抽斗を開けていく」

 

 言われるがままクレマンティーヌは抽斗を開けていく。上段も今は〈魔法錠(マジック・ロック)〉が解除されていて、すんなり開いた。中段を開け、そして下段と開ける。

 

「すると、びっくり。盗まれた叡者の額冠を見つけた」

「無限魔力はそのまま、あんたのところにモーニングコールしに行ったってわけでしょ」

「そう」

 

 絶死が頷く。それが何を意味しているのかわからないクレマンティーヌではなかった。

 

「まるで無限魔力が犯人じゃないみたいな言い草ね」

「現状だと、まだ断定できないってだけよ。それにもし犯人なら自首なんてしないでしょ」

(いや、それはあんたが怖い笑い方するからでしょ)

 

 あるいは絶死の前で隠しごとなんてできないと観念したからかもしれない。ボコられた後、揉み手までするようになった無限魔力だ。叡者の額冠を見つけたことを黙ったまま絶死の前で堂々としているなんてできるはずがない。

 

「だとしたら、どうだっていうの。事実として叡者の額冠はここにあったわけでしょ」

「その点なんだけど――、誰か別の人間が部屋に忍び込んで叡者の額冠を抽斗に隠したとは考えられないかしら」

「へぇー。面白い考えね」

 

 おどけたようにクレマンティーヌは頭の後ろで手を組む。

 ただし、内心では「ちっ」と舌打ちししたい気分だった。とはいえ、ここであっさり絶死の推理に流されるクレマンティーヌではない。

 

「もしそうならさ、ひとり当てはまるやつがいるじゃん」

「誰?」

「第十二席次、天上天下よ」

 

 クレマンティーヌは、にんまりと笑う。

 

「あいつの完全に気配を消す能力なら、誰にも見咎められず大神殿に侵入して、奪った叡者の額冠を抽斗に隠すのもできるでしょ」

「罪を擦り付けた、ってこと」

「そうなるわね」

「確かにそれなら、鍵を開けられなかったのも納得いくけど、それだとさっきと同じ問題に行き着くわ」

「同じ問題?」

「犯人はなぜ逃げかったのか。無限魔力なら転移魔法で、天上天下なら気配を消して検問を突破できる。でも、二人とも国外逃亡していない。これって変じゃない」

「私に聞かないでよ」

 

 誰かさんに捕まったせいで国外逃亡できなかったなんて、口が裂けても言えない。

 

「でも、そうなると、この可能性もボツね。容疑者の中で疑わしいやつはゼロ。なんていったかしら『そして誰もいなくなった』だっけ」

 

 いつか背表紙で見たタイトルを思い出した。クレマンティーヌ自身、読んだことはないので、この用法が正しいのか甚だ疑わしいが。

 

「完全に否定するのは早計よ。だってまだ、方法があるじゃない」

「方法って?」

 

 

 

 

 

「例えばそうね。手洗いに行くフリをしてこっそり部屋に侵入するとか」

 

 

 





絶死とクレマンティーヌがホームズとワトソンみたいなムーブしてますが、実際は探偵と犯人です(笑)。
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