サブタイトルは島田荘司の『御手洗潔の挨拶』から。
最後に作者の「これがやりたかった」があります。
「言っとくけど、私は犯人じゃないわよ。それに」
「それに?」
「私を疑うなら、あのクソ兄貴も同じように疑うのが筋じゃない」
別にこれは嫌悪の念から出た言葉でない。
「考えてもみなさい。犯行当日に大神殿に出入りしていて、無限魔力の部屋に盗まれた神器を隠すチャンスがあった。それから転移魔法や気配を消す能力をもっていない。これが犯人の条件なら、私だけじゃなくあのクソ兄貴も犯人候補になるんじゃない?」
「そうね。むしろ、私と行動を共にしていない彼の方が自由に動けて偽装工作もしやすかった」
「そういうこと。ああ、そうだ。ビースト・テイマーなら隠密能力のある魔獣を使役して、叡者の額冠を隠させることもできるわね。きっとそうしたんじゃない?」
こうして条件をあげつらってみると、クアイエッセの方がよっぽど疑わしい。普通なら、クアイエッセに疑惑の目を向けるはずだか。
「面白い考えね。でも、残念ながらそれはないわ」
そして、絶死は決定的なひと言を口にする。
「――――犯人はあなたよ。クレマンティーヌ」
瞬間、漆黒聖典の登場で強張っていた空気が完全に凍りついた。捜査しながらも聞き耳をたてていた憲兵や神官たちも絶死の爆弾発言に、びっしり冷や汗をかいていることだろう。誰も彼も物音をたてて睨まれないかと身を震わせている。
静まり返った室内。クレマンティーヌはわざと足音をたてて前に出た。
「へぇー、このクレマンティーヌ様が闇の巫女姫を殺して叡者の額冠を奪ったっていうの?」
メンチを切るように、クレマンティーヌは絶死の顔を覗き込む。髪と同じ左右で色の違う
「ええ。そうよ」
絶死は艶やかな唇を微笑ませる。その笑みは模擬戦でも見たことがある。強者が弱者を狩る時の表情。
しかし、ここでおずおずと引き下がるクレマンティーヌではない。なぜなら――。
「そこまで大口を叩くなら、私が犯人だっていう物的証拠があるんでしょうね」
そんなものはない。クレマンティーヌの犯行は完璧だ。例え六大神の血を覚醒させた神人であろうとも、存在しない証拠を捏造することはできない。
「物的証拠、って言われると困るわね」
「ほら、見なさい。だったら犯人はやっぱり――」
「――けど、あなたの犯行を証明することはできるわよ」
(…………は?)
クレマンティーヌは生まれて初めて自身の耳を疑った。証拠はない。なのに、この先祖返りのアンチクショウはクレマンティーヌの犯罪を証明できると抜かしたのだ。
「ハッタリなんて、あんたらしくないわね」
「ただのハッタリだと思うなら、試してみる?」
挑発するように、絶死がこちらの顔を見上げてくる。それでクレマンティーヌは絶死の思惑に気づいた。
狙いは自白だ。証拠がないなら、犯人自身にしゃべらせればいい。絶死にしては小狡いが、あり得なくはない。となれば、なおのこと退くわけにはいかない。
「上等じゃないの。なら、見せてもらおうじゃないの。で、次は何をすればいいわけ?」
こうなれば、最後までとことん付き合ってやる。こちらが負ける要素は何ひとつないのだから。
「そうね。まずは大神殿に戻って……ん? ああ、そうだった、忘れるところだったわ」
「まだ、なんかあんの?」
「ちょっと私用を思い出しちゃったから、あなたは先に行ってて」
「しょうがないわね」
クレマンティーヌが歩くと、気圧されたように憲兵や神官たちがざざっと身を退いた。その背中が扉に消えると、まるで舞台の照明が落ちるように、あたりが暗くなった。漆黒の
「――さて、どこから話そうかしら」
何もなくなった暗闇の中、スポットライトのような光条が絶死を照らしている。
「まず、今回の事件、犯人はクレマンティーヌよ」
「彼女は大神殿で闇の巫女姫を殺害し、叡者の額冠を奪った。そしてそれを無限魔力の部屋に隠し、捜査の
「――ええ。でも、同じことをできた人間は他にもいる。無限魔力と天上天下は犯人とした時に不自然な点があるとはいえ、犯行自体は可能だった。それから一人師団ことクアイエッセもクレマンティーヌと同じことができた」
「ここまでの情報を整理すると、犯人としての第一の条件は『無限魔力の部屋に叡者の額冠を隠せた人物』。ただ、この条件には全員が当てはまっていて、犯人を絞り込めない」
「だけど、第二の条件があったら、どうかしら」
「クレマンティーヌはこの第一と第二の条件を両方満たしていた。だから、私は犯人と名指ししたのよ」
「ああ、条件っていうより、クレマンティーヌが犯したミスって表現すべきかしら。彼女は『犯人しか知らないはずの情報をうっかり明かしてしまった』のよ」
「――それは何かって? 残念だけど、ここでは言えないわ。でも、ヒントならあげられるわよ」
「クレマンティーヌのミス、もとい事件の謎を解くヒントは第二話にある。一度見返してみることをお勧めするわ」
「――“絶死絶命”でした」
最後のスポットライトのシーンなんや、と思われた方へ。
これがやりたかったんです。“絶死絶命”が『古畑任三郎』みたいに読者(あるいは視聴者)に語りかけるシーンを書きたかったんです。
それこそこの小説自体、ラストの「“絶死絶命”でした」の一行のために書いたといっても過言じゃないです、はい。
あと、次回が推理回であり最終回でもあります。
ここまで毎日投稿してきましたが、最終回はちょっと時間があくかもしれません。それまで、しばしお待ちを。