世界観はあまり深く考えていないので、気楽に読んでください。
私は影咲 桃花、何処にでもいるごく普通のトカゲ少女だ。
と言っても別に体が鱗で覆われていたり目がギョロっとしてる訳ではなく、単にトカゲの尻尾が生えているだけ。
私の他にもウサギ耳が生えてる人もいれば脚が馬の人、鳥の翼が生えてる人だっているが、見た目が少し違うだけで根本的な所は普通の人間とそう変わらない。
どうやらその昔人と何かが混ざった様な生き物が突然現れるという出来事が起こり、それが私達の様な人間が産まれる様になったきっかけらしいが、正直私にとってはどうでもいい事だ。
そんな昔話よりも今は自身の身を襲っている眠気の中、この授業時間をどう乗り切るかが重要だ。
私の前に座る結里は一生懸命ノートに黒板の文字を書き写しているらしく、彼女の必死な様子が伝わってくる。
....私がそんな彼女と出会ったのは小学校低学年の頃だった。
当時は現在通っている高校とは違い私の様な特徴を持つ子は他に誰も居なかった為周りから物珍しい視線を向けられる事も珍しくなく、その居心地の悪さもあってか昼休みや下校時は基本1人で過ごしていた。
(ひま.....)
寂しい等の気持ちはなかったのだが、このまま1人で過ごす姿を両親に見られれば心配させてしまう。
子供ながらにそう考えつつ、何より1人でいるのがつまらなかった為どうにかして遊び相手を探したい、そんな風に考えながら丁度校庭をふらついていた時だった。
グラウンドの奥の方にある木の根元、そこに見覚えのない少女が1人ポツンと座り込んでいた。
歳は自分と同じくらいの様だが、座り込んだ足元には少女から生えている尻尾が見える。
そういえば最近他のクラスに転校してきた子がいると聞いていたが、もしかするとあの子の事かもしれない。
何より自身と同じ様な特徴を持っているのだ、これは仲良くなるチャンスなのではと思った私は一目散に少女の元へと駆け寄って行く。
「ねぇ」
「え...だ、だれ?」
彼女は突然話しかけてきた私に驚いたのかオドオドした様子でこちらに尋ねてきた。
「わたしはとうか、あなたは?」
「えっ....えっと...ゆうり。ひ、ひやま ゆうり....」
今になって思うといきなりやってきた知らない奴にグイグイ詰められれば困惑するに決まっているが、親しい子が出来るかもしれないという期待があった当時の私にそんな事を考える余裕は無かった。
「ゆうりね。わたしとともだちになってくれる?」
「.........え?」
彼女は私の発言に一瞬固まっていたが、やがて私の顔を見上げておずおずと口を開く。
「い、いいの?」
「うん、よろしくゆうりちゃん」
「....!うん!と、とうかちゃん...!」
...とまあ特に運命的なものでも劇的な出来事があった訳でも無くいたって普通の出会い方をした私と結里は、それから授業以外の時間はいつも一緒に遊んでいた。
緊張しがちで少し暗めだった結里もいつしか明るくなり、時が経つにつれ私も他の子と関わる機会が増えていき、初めに比べれば充実した日々を過ごせていた。
それから数年後、同じ中学に入学してしばらく経った頃。
「ごめん!桃花ちゃん!」
ある日の帰り道、隣を歩いていた結里がいきなり頭を下げて私に謝ってきた。
「え、どうしたの急に...?」
私は結里に謝られる理由が全くわからず、頭の中が?で埋め尽くされる。
「私.....実はトカゲじゃなくて、竜なの!!!」
「........へ?」
いきなり飛び出してきた言葉にまたもや思考がフリーズする、そんな私を見ながら結里はポツポツと話し始めた。
「えっと....桃花ちゃんは、私が桃花ちゃんと同じトカゲだって思ってたんでしょ...?」
「あー....うん」
結里の言葉に私はかつて同じトカゲ娘としての苦労話を何度か話していた事を思い出した。
その時の結里はどこかぎこちない表情をしながら私の話を聞いていたのだが....そもそもトカゲでないのだからそんな事を言われれば困った様な顔にもなるのも当然だ。
よく見れば私の尻尾と違って光沢もあり鱗も大きく、最近は肉質がしっかりしてきたなーとは思っていたがまさかずっと勘違いしたまま過ごしていたとは.....我ながら鈍すぎる。
「...私達は力が強いから、他の人と接する時は気をつけなさいってお母さんから言われてて....私も何かあると怖かったから他の子とは関われなくて、こっちに転校してくるまでずっと1人だったの」
「だから桃花ちゃんが話しかけてくれた日、その時初めてお友達ができたから凄く嬉しかったんだ」
「...もし桃花ちゃんに本当の事を知られて怖がられたらもう一緒にいてくれなくなるかもって思って.....でもこのまま桃花ちゃんに嘘をつくのも嫌だったから....ごめんなさい」
そこまで言って涙目になってしまった結里。
私はそんな彼女を見て
「いや、別に何とも思わないけど...」
「.......え?」
予想外の返答だったのか、目を点にして固まる結里を見ながら私は言葉を続ける。
「今までずっと一緒にいて危ない事なんて無かったし、そもそも結里が何かする様な子じゃないっていうのはとっくに知ってるから」
「で、でも...私はずっと桃花ちゃんに嘘ついてて....」
「それも単に私が鈍すぎて気づかなかっただけで、今更それを言われたから突き放すのもあり得ないでしょ」
「それに私は結里と一緒にいるのが好きだから今こうしてる訳だし」
確かにいきなりの事ではあったが、あくまで驚いただけだ。
正体が何だろうと別に私と結里はこれからも変わらないと話そうとして彼女の方を向くと
「..........」
「結里?」
「....ううん、何でもない!ありがとう桃花ちゃん!」
一瞬どこか惚けていた様子の結里だったが、その顔に先程までの暗さは無くいつも通りの純粋な笑顔がそこにはあった。
私はそんな彼女の姿を見て.....
「....ゃん.....かちゃん、桃花ちゃん!」
「.....ん?」
誰かに身体を揺すられているのに気づき視線を動かすと、目の前にはこちらを見下ろしている結里の姿。
....既に教師がいなくなっているのを見るにどうやら私は睡魔に勝てなかったらしい。
「ごめん、後でノート見せて」
「じゃあ今度デート行ってくれたらいいよ!」
「デートって...ただの買い物でしょ」
「もう、そこは合わせてよ〜。ほら、昼休みだしご飯食べよ?」
相変わらずブレない結里に、私は先程見ていた夢の中の結里をぼんやりと思い出す。
「どうしたの桃花ちゃん?」
「いや、さっきまであんたの小さい頃の夢見てたから...今も変わってないなって」
「それって夢で見る程私の事を思ってくれてたって事!?」
「あーはいはい、わかったから尻尾に抱きつくのやめて」
やたらと嬉しそうに私の尻尾に頬擦りしてくる結里を引き連れながら、私は財布を手に購買部へと向かうのだった。