今日も普段通りの午前を過ごしやってきた昼休み、私と結里は机を突き合わせお昼ご飯を食べていた。
私は購買部で買ってきたメロンパン。
結里は自分のお弁当からおかずを美味しそうに頬張っている。
「ねぇ桃花ちゃん、桃花ちゃんはお弁当とか作らないの?」
私が丁度食べ終わったタイミングで結里がそんな事を呟いた。
「んー...朝早く起きて作るのも面倒だし。食べる量も少ないからわざわざ母さんに作ってもらうのも悪いしね」
「そっかー」
私の返答に箸を置いた結里は目を瞑り、うんうんと何かを考え込むように腕を組む。
正直こういう風に結里が何かを考える時は大抵変な事を思いつく事が多いのだが....。
等と私が考えていると、結里はいきなりバンッと机に手を突き立ち上がる。
そしてこちらにビシッと指を向けると目を輝かせ
「よし!なら来週の月曜日、私が桃花ちゃんの分のお弁当作ってくるよ!」
私の予想通りまた厄介な事を言い出した。
「いや別に...わざわざ手間でしょ」
「桃花ちゃんの為なら全っ然手間じゃないよ!むしろ作らせて!」
「それにほら、私の分まで無駄に食材使うってなると結里のお母さんにも迷惑だし....って急に電話してどうしたの?」
「...うん、うん、ありがと。ふふん、お母さんもOKだって!」
まさか今の一瞬で母親に許可を取るとは思わなかった。
相変わらず結里の行動力には驚かされるばかりだ。
彼女は『楽しみだなー』とか『何入れようかな』等すっかり自分の世界に入り込んでいる様で、こちらが声をかけても反応を示さない。
....いや、別に私だって嫌な訳じゃない。
本心から私を喜ばせようとしているのは伝わるし、正直楽しみな気持ちも少なからずある。
ただ何というか...結里の両親もそうだがいつの間にか外堀が埋められていく感覚というか....そういうなんとも言えないものを感じるのだ。
「えへへ〜気合い入れて作るからね!」
結局それ以上断る理由も思いつかず、その日は一日中笑顔でいた結里を近くで見守るしか出来なかった。
そして迎えた当日の朝
「おっはよ〜!!!」
「おはよう....随分元気だね」
教室に入って早々私は満面の笑みを浮かべた結里に抱きつかれる勢いで絡まれていた。
「そりゃあもう!今日の為に頑張ってきたんだもん、昨日だって興奮して寝れなかったくらい!」
「大袈裟だって、それで結里が倒れたりしたら元も子もないでしょ」
その後テンションが普段より一段と高い結里を何とか落ち着かせたのだが、余程楽しみだったのか授業中も彼女の尻尾は不自然に揺れているのを何度も見かけた。
ここまでになるのは珍し...いや、よく考えれば以前から定期的にこんな姿を見てた気もする。
もしかすると彼女にとってはあれが通常運転なのだろうか、だとすれば毎度飽きずにあれだけ楽しそうに出来るのはある意味尊敬する。
そんな事を考えている内にいつの間にか授業も終わり、皆がそれぞれお昼ご飯をとり始める中、私は結里の様子を窺っていた。
あれだけはしゃいでいた結里だったが、今は朝の姿が嘘の様に口を閉ざし指を合わせてモジモジと体を揺らしている。
「と、桃花ちゃん」
一向に何も話そうとしない彼女にどう声をかけようかと悩んでいると、結里は私の目を見つめながらおずおずと口を開いた。
「その...今から屋上行かない?」
「?」
よくわからないまま結里の提案に首を縦に振ると、いきなり彼女に手を引っ張られそのまま屋上へと連れて来られてしまう。
屋上には私達以外に人はいない様で、ベンチに腰掛けてみれば心地よい風が顔に当たり気持ちが良い。
「ふぅ....ごめんね急に連れてきちゃって」
「別にいいけど、どうしたの?朝まであんな調子良かったのに」
「いやぁその.....他の子の前で桃花ちゃんのお弁当出すのが....少し...」
そう言って再びモジモジとし出す結里。
「....え、もしかして恥ずかしかったとか?あれだけいつも人前で好き好き言ってくるのに?」
「だ、だって!なんかいざ渡そうとしたら急に恥ずかしくなったんだもん!」
普通に考えれば人前で平気で告白する方が恥ずかしいと思うのだが....彼女の羞恥心はどこかズレてるのかもしれない。
「とにかく!.....はい、これ....」
結局頬を赤らめたままの結里は鞄から2段重ねのお弁当箱を取り出す。
差し出されたお弁当の蓋を開けてみると中にはふんわりとした卵焼きにしっかり揚げられた唐揚げ、綺麗に整えられたポテトサラダ等色々なおかずが丁寧に盛り付けられており、下の段には白米の上に海苔でご丁寧にハートマークが作られている。
隣に座る結里は緊張した様子でじっとこちらを見つめており、彼女の視線が突き刺さる中私は手渡された箸でお弁当の中身を口に含んだ。
「....美味しい!」
「本当!?よ、良かった...!」
つい自分でも珍しく大きな声が出てしまったが、結里は私の言葉に嬉しそうな声を上げた。
「桃花ちゃんのお母さんに桃花ちゃんが好きな味付けを聞いたから頑張ってみたんだけど....」
ポロッと初耳の情報が聞こえてきた様な気がするが、彼女のお弁当を夢中で食べていた私はあまりそちらに意識が向かず、普段の昼食より量が多かった筈のお弁当もあっという間に完食してしまった。
「ふぅ....ご馳走様でした。やっぱり結里は料理上手いね」
「えへへ、喜んでくれて良かった!これから毎日作ってこようかな〜」
「それは遠慮しとく、それこそ結里の家の負担になっちゃうし....でもありがとう、凄く美味しかったよ」
私が断った事に彼女は少し残念そうにしていたが、それでも美味しいという感想に満足したらしい結里は自分の分のお弁当を取り出しゆっくり食べ始めた。
嬉しそうにしながら食べている彼女の横顔を見ていると、不思議と胸の中に温かい気持ちが湧いてくる。
「お弁当か....私も今度作ってみようかな...」
今まで学校の授業以外でまともに料理を作った事は無かったが、時間がある時に挑戦するのもいいかもしれない。
そんな考えがつい無意識に口から漏れた。
その瞬間隣からカランという音が聞こえてくる。
そこには箸を地面に落とし、目を見開きながら固まっている結里の姿。
「結里?」
「....とう」
「え?」
「お弁当....桃花ちゃんのお弁当...」
ぶつぶつとうわ言を呟いている結里にどこか嫌な予感がした私は、こっそりとこの場を離れようと腰を浮かす。
だがその瞬間ガシッと腕を掴まれ
「桃花ちゃん!お弁当作ったら、絶対絶対絶対絶対絶対絶っ対!!!最初は私に頂戴ね!!!!!約束だよ!!!ね?ね?ね!?」
「ちょ、力強っ....!あ、ほら!あんたの弁当箱落ちそうになってるって!」
私を押し倒す程の勢いで詰め寄ってくる結里と格闘する事数十分。
結局その後私達は午後の授業に遅れそうになり、2人して先生に注意される羽目になったのだった。