ピピピッという電子音が鳴り響く室内。
眠りから覚めた少女は枕元にある目覚まし時計に腕だけ伸ばして何とかアラームを止める。
それから目を擦り身体をベッドから起こした少女はまだぼやける意識と共に1階へと降りていく。
「おはよう...」
「あら、おはよう桃花」
リビングには父さんと母さんがおり、父さんの方は丁度家を出る所だったらしい。
「じゃあ行ってくるよ。桃花も気をつけて学校行くんだぞ、もし何かあったらすぐに...」
「わかってるって。行ってらっしゃい」
心配性な父さんを見送ってから私は椅子に座り、用意されていた朝食を頬張り始める。
「そうだ、今日は朝から大雨だそうよ?桃花も傘忘れない様に持って行きなさいね」
「んー」
母さんの言葉に寝ぼけながら返事をしつつ、私は今日の予定を思い浮かべた。
(今日は...げっ、あの先生の授業じゃん。あの人全然黒板使わないから苦手なんだよなぁ....)
「...ご馳走様ー」
「お皿はそこ置いといていいからね」
少しだけ憂鬱な気分になりつつも朝食を食べ終わった私は洗面台へと足を運ぶ。
それから学校へ行くための諸々の準備を終えて玄関にやって来た私は軽く扉を開けて外を覗いてみると、ポツポツという程度だが確かに雨が降っている様だった。
「行ってきまーす」
「はーい、気をつけてねー」
私は傘を差しながら学校までの通い慣れた道のりを進んでいく。
そんな最中にもどんどん雨は強くなり、先程までの小雨が嘘の様に今では大粒の雨が空から降り注いでいた。
いくら傘があろうと長時間こんな雨の中には居たくない、私は少し駆け足になりながら歩を進めていくと徐々に見慣れた校門が見えてきた。
ようやく着いたとホッとし入り口に向かった私だったが、あるものが視界に入った瞬間動きを止めてしまった。
「あ、桃花ちゃんおはよう!」
そこに居たのは、いつもの様に満面の笑みを浮かべつつ、制服が酷いくらいずぶ濡れになりながらこちらに手を振る結里の姿だった。
「はぁ....やっぱりあんたって馬鹿だよね」
結里の尻尾をタオルで拭きながら、私は呆れた様に言った。
「い、いやぁ...最初全然降ってなかったからさー。これくらいならいける!って思っちゃってつい....」
私に尻尾を預けながら申し訳なさそうに答える結里、そんな彼女は先程とは違い上下ジャージという装いになっていた。
「はい、これで終わり」
「ありがと〜桃花ちゃん」
「でも結里、帰りはどうするの?」
尻尾についた水滴を拭き終わったタオルを結里に返しながら、私は彼女に問いかける。
「うーん、今沢山降ってる分止むのも早いだろうし、きっと帰る頃には治ってるよ!だから大丈夫!」
謎に自信満々に答える結里だったが、確かにこれ程の大雨が帰りまで続く訳ないかと納得した私はそれ以上特に気にする事なく彼女と他愛もない雑談をし始めた。
....と、そんな風に楽観的に考えていた私達は今、玄関口にて今朝と変わらない勢いで降り注ぐ雨を並んで見ていた。
「.....全然止んでないね」
「......」
午後の授業も終わった頃、止むと思われていた雨はまるで変化が無く、当然だと言わんばかりに草木や地面を濡らし続けていた。
「折りたたみとかは?」
「えっと...それが今日に限って忘れてきちゃって.....」
そう言いながら結里は気まずそうに目を逸らした。
そもそもそんな物を持っていれば今朝の様になってないかと思い直した私は、困った表情を浮かべる結里を横目で見つつ考える。
傘を持ってこなかった結里のミスとはいえ、このまま私だけ帰るというのも何だか気が引ける。
それに1人で帰らせて風邪を引かれるのも望んでいない。
「んー....やっぱりあれしかないか」
「?」
それから十数分後、現在私と結里は同じ傘の下でお互い密着しながら未だに止まない雨の中を歩いていた。
「結里大丈夫?せまくない?」
「は、はい!大丈夫です!」
「....何で敬語?」
あれからどうしようかと悩んだ結果、やはり2人で帰るのが最善だと考えた私は結里に一緒の傘に入る...所謂相合傘を提案した。
結里の事だから『相合傘!?やるやる!』とすぐ飛びついてくるだろうし、こちらとしても変に罪悪感も湧かないとお互いいい事ずくめな作戦だ。
まあ私からこんな事を提案すれば結里が変に調子に乗る可能性があったため出来るだけ避けていたのだが、一緒に歩き始めてからというものの殆ど口を開かずただ静かに隣を歩くばかりの彼女の様子に若干拍子抜けしてしまった。
よくよく彼女を見てみると頬が茹で蛸の様に真っ赤になっており、私の腕を掴む手も僅かに震えていた。
「.....結里、もしかして恥ずかしがってる?」
「ぜ、全然!?これは...そう!竜は冷えた体を温めようとする時顔が熱くなるもので....」
彼女は目をグルグルとさせながら次々と変な言い訳を語り始める。
そういえばお弁当の時も、以前一緒にスイーツを食べに行った時も同じ様な彼女を見た事があった。
....いつも大胆な行動をとっている彼女だが、案外こういう普通の事に弱いのかもしれない。
「...ふふっ」
「と、桃花ちゃん今笑ったでしょ!だから私はこれくらい全然....」
そう考えると何だか彼女が変に可愛らしく思えてきたため、つい笑い声が漏れてしまった。
それから私は顔が赤いままの結里の言い分を聞きながら、彼女の家までの道のりを進んでいくのだった。