「〜♪」
ある日の早朝に1人の少女が鼻歌を歌いながら歩いていた。
少女の名前は飛山 結里。
彼女は自身が持つ竜の尻尾を振りながら嬉しそうに学校までの道のりを進んでいく。
やがてたどり着いた教室前
「おっはよー桃花ちゃん!」
勢いよく教室のドアを開くと同時に、大切な親友の名を呼ぶ。
だがいつもなら面倒臭そうな声で返事を返してくる桃花の声が聞こえてこない。
もしかして休みなのか、それともまだ来ていないのか、結里はふと彼女の席を見てみると机に突っ伏した状態の桃花がそこには居た。
「桃花ちゃん〜」
それを見た結里は彼女の傍まで駆け寄ると、背中から覆いかぶさる様に抱きついた。
...だがそれでも彼女はまるで気づいていないように反応を示さない。
普段なら鬱陶しいと言って引き剥がしてくる筈なのだが...
「桃花ちゃん、どうしたの?」
結里は少し心配になり彼女の顔を覗き込む。
「....い」
「え、何?」
「.......ねむい」
顔を上げてたった一言、そう呟いた桃花はうめきながら再度顔を伏せてしまった。
「.....こ、これって...!」
結里はこの桃花の反応を見て目を見開くと、ある答えが頭の中で流れ出す。
(と、桃花ちゃんの休眠日《何しても許される日》だ!!!)
桃花ちゃんは今も私の眼前でウトウトと船を漕いでいる。
こんな感じで桃花ちゃんにはとても眠くなってしまう日がたまにあった。
頻度は数ヶ月に1回ペースでそれが学校で起こるとも限らないが、小さい頃から私は何回かその場に居合わせた事があった。
だがそんな事よりも重要な事がある。
それは.....
「...ん〜....」
「〜〜〜〜っ!」
今まさに私が桃花ちゃんを自分の膝の上に乗せている様に、本来なら拒否される事でも今日は許されるのだ!
抵抗するという考えよりも眠気の方が強いためか、桃花ちゃんは一切力を入れる事なく体重を私に預けてくる。
「あぁ...桃花ちゃん....」
側から見れば眠る少女を膝に乗せてハァハァと頬を赤らめているというドン引きレベルの光景なのだが、折角のチャンスを逃すまいとしている結里にはそんな事を考える余裕はなかった。
いつもならすぐに剥がされてしまう尻尾へのタッチにも何の抵抗も無い。
桃花は相変わらず私の膝の上で気持ちよさそうに寝息をたてている。
だがいつまでもそうしている訳にもいかない、そろそろ授業が始まってしまう時間だ。
私は多少名残惜しさを残しながら、桃花ちゃんを席に座らせると自分も席へと戻った。
授業が始まると、流石の桃花ちゃんも寝る訳にはいかないのかノートを開きシャープペンを持ちだした。
しかしそれでも睡魔には敵わないようで、コクリコクリと頭を揺らしてしまっている。
「....と、桃花ちゃん...桃花ちゃん...!」
私はこっそり尻尾で彼女の机をコンコンと叩きながら、桃花ちゃんが寝ないようになんとか手助けをしていた。
それと同時に黒板に書かれた文字を必死にメモをとる。
おそらく今日の桃花ちゃんはノートをまともに取れない分、私が後で見せられるように頑張らなければ.....
「お、終わったー....」
私は授業中ノートをとる事と桃花ちゃんを起こす事、気の休まらない2つの作業を数時間続けた疲れからか机に頬をつけ溶けていた。
「...はっ!駄目駄目、次は...」
私は気を取り直し、振り向くと桃花ちゃんに声をかける。
「桃花ちゃん、お昼だよー」
「むぅ......」
桃花ちゃんは目を細めながら殆ど寝言と変わらない返事を返すと私に5百円を手渡してくる。
「.....パン...」
「わかった、行ってくるね!」
私はそれだけ聞くと猛スピードで教室を出て、いつも桃花ちゃんが食べているパンを買って戻ってくる。
それからお釣りを桃花ちゃんに手渡すと向かい合わせにお昼ご飯を食べ始めた。
「はい、桃花ちゃん♪」
「....あー...」
といっても今の桃花ちゃんでは手に力が入らずパンを落としてしまう可能性が高い。
だから私は桃花ちゃんのパンを持ち、彼女の口元にそれを運ぶ。
「ふふ♪」
目の前で小さくモソモソと口を動かす桃花ちゃんを見て私は幸せな気持ちになりながらその日の昼休みを過ごした。
そうして午後の授業も午前と同じように何とかやり過ごし迎えた放課後。
「ほら桃花ちゃん、帰ろう?」
「うん.....」
私は桃花ちゃんを抱き寄せながら玄関口まで彼女を連れて行く。
私に寄りかかりながら歩く桃花ちゃんを支えながら着いた下駄箱。
「あら結里ちゃん」
「あ、桃花ちゃんのお母さん!」
「桃花を連れてきてくれたのね、ありがとう」
そこで待っていたのは桃花ちゃんのお母さんだった。
以前もそうだったが、この状態で1人で帰れる筈がないので迎えにきたのだろう。
「一応休んだ方が良いって言ったのだけれど、この子が行くって聞かなくて朝も車で送ったのだけれど...ふふ、まるで小さい子供みたいだったわ」
桃花ちゃんのお母さんはしょうがないと少し呆れたような笑顔を浮かべている。
「今日は色々桃花のために頑張ってくれたんでしょう?いつもありがとう結里ちゃん」
「い、いえ!桃花ちゃんには私もいつもお世話になってるので...」
「今度また遊びに来て?桃花も素直じゃないけど結里ちゃんの事大好きなんだから」
「えへへ...はい!」
その後再度私にお礼を言って、桃花ちゃんとお母さんは駐車場の方へと消えていった。
「〜♪」
2人を見送った私は朝の様に鼻歌を歌いながら、家への帰り道を歩き始めた。