「救護ォ!」
「うわっ!?」
とある日の昼下がり。
今日はとても穏やかな日だった。
風紀委員会や正義実現委員会からの応援要請もなく、ゲーム開発部やセミナーが遊びに来ることもなく、大変平穏無事であったと言えよう。私も、リンちゃんから押し付──もとい、任された書類を黙々と過ごすだけの時間を送っていた。
送っていた……の、だが。
「ど、どうしたんだいミネ」
「……」
ミネは部屋に入ってくるなりコツコツコツと、ヒールの音を立てて近づき、私の額に手を当てた。ひんやりして心地がいい。
「あ、あの……?」
「先生。今すぐ事務作業をやめて休んでください」
「え」
それはまた急な話だ。
生憎だが現在、私はそれなりの仕事を抱えている。今日は3時くらいには寝れるペースだろうか。正直、ここは日中のうちに集中してしまってある程度片付けておきた──いや、生徒の頼みだし、そうだな。
「うん、そうだね。ちょっと休憩にしようか。コーヒーでいいかな?」
「──」
日頃の疲れが出たのだろうか。ぐらり、とふらつき、倒れそうになったところをミネに抱き支えられる。
ミネはそのまま私をお姫様抱っこの形で抱えて歩き出した。
「み、ミネ」
「働きすぎです。仕事が大事なのは理解できますが、それで身体を壊しては元も子もありませんよ。当番の権限で可能な範囲は私がやっておきますから、先生は薬を飲んで寝てください。そもそも多少の雑事は連邦生徒会に任せておけば──いえ、これは今言うべきではありませんね」
上着を脱がされ、休憩室のベッドに寝かされ、冷却シートを額に貼り付けられる。一連の作業は有無を言わさぬ様子で行われた。
「い、いや、大丈夫だよ。眠くもないし」
「カフェインの影響と、身体が緊張状態にあるから眠れなくなっているだけです。ひどいクマですよ。寝不足でないはずがありません。生徒の頼みだと思ってここは一つ、大人しくしてください」
「うぐ」
そう言われるとどうにも弱い。
言われた通り大人しく、布団にくるまって天井を見上げることにする。
「私はシャーレにいますし、何かあったらすぐ駆けつけますから。では、おやすみなさい」
「う、うん。おやすみ」
朝にエナジードリンクを飲んだし、先ほどまで仕事をしていたせいでそのことを次々に思い出してしまってどうにも落ち着かない。
それでも生徒の頼みということもあって布団の中でごろごろしていると、やはり身体には深い疲れが眠っていたのだろうか、「眠くなってきた」という感覚にすら気付くことなく、いつしか意識は暗闇に沈んでいた。
──暑い。
あまりの暑さに布団を蹴飛ばす。
そこで、自分がベッドで眠っていたことに気がついた。
はて。
私はいつ寝落ちしてしまったのだろうか。
つい先ほどまでデスクで書類を捌いていたはずなのだが。
足元には私の寝汗を存分に吸って「しっとり」とした具合になった布団がある。わざわざベッドにまで転がり込んでから落ちるとは律儀なことだ。いつから私は全自動睡眠マシーンになってしまったのか。
……頭が痛いな……
寝過ぎだろうか。眠りすぎると頭痛がするというし、それだろう。
いや、そうだ。仕事。仕事をしなければ。随分と周囲が暗くなっているから急がなくてはならない。
あれとアレとあれをやらなくては──。
「先生」
ぽす、とぐらついた身体を誰かが受け止める。
「眠っていてください。お体に障りますよ」
「いやでも……仕事が……仕事……」
「……ふぅ。献身的なのは結構ですが。今は病人なのですから。休むことが仕事ですよ」
「うん……」
「布団が湿っていますね。新しいのに替えてしまいましょう」
そう言うと、誰かは私を持ち上げ、ベッドに横たえさせる。それから、掛け布団を交換してくれたようだった。乾燥していて、熱も籠もっていない布の肌触りは、前のものよりも随分と快適に感じた。
「……こうしていると、なんだか赤ん坊のようですね」
「よし、よし」
頭を撫でられる感触に安心感を覚えたのか。
今度こそ私は深い眠りについたようだった。
なにやら香ばしい匂いがして、目を覚ます。
「お目覚めになったようですね。おはようございます、先生」
部屋を出ると、ミネがキッチンでなにやら料理をしていた。件の匂いはそれから漂ってきていたようだ。
その様子をぼけっと眺めていると小皿が差し出される。
玉子おじやだ。
塩気が効いている。それに、口当たりが優しくて食べやすい。
「おいしい……」
「お口に合ったようで何よりです。それに、食欲も出てきているようですね」
「そうみたい」
それから、体温を測ったりなど簡単な検査を行ったが、問題なくなっているようだった。
私の体感としても、万全とはいかないまでもかなり調子が良くなっているように感じる。
「まあ、これならよいでしょう。ですが先生は病み上がりの身。先生にしかできないことがあるのは存じていますし、仕事をするなとまでは言いませんが……くれぐれも無理は禁物ですよ」
「ハイ」
私の方が年上のはずなのに、かしこまった返答を返してしまう。
それだけミネに威厳があるからか、それとも別の理由か。
「それでは私はこれで。……そういえば」
「?」
ミネが顔を近づける。
「先生は寝ぼけているとあんなに声が低くなるんですね。意外でした」
!?
「そ、その……他の生徒には、秘密で」
「ええ、ええ。勿論。シスターフッドではありませんが、別に私も人の隠していることを無暗に言いふらすような趣味はありませんから。ですからこれは『秘密』です。分かっていますとも」
そうしてミネは去っていった。
「ま、魔性だ……」
この2日で、なにか大切なものが壊されてしまった気がする。
先生が普段から声作ってるのはミヤコASMRネタだしじゃあミヤコも知ってるじゃんってなるけど、うるせえここのキヴォトスでは先×ミネが最大手なんだよ!ってことで許して。