大日本帝国が連合軍に対し和平に縺れ込む   作:風吹かば小説家など無名たる

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誤字脱字・超絶不定期投稿・駄文の三拍子そろってますがぜひご覧に。
≪風吹かば 小説家など 無名たる≫のですから。


第四話 大空の南方

 1944年1月27日

 

 東京での会議は落着し、少しの間でも東京に居れる、と思っていた松本少将だったが、その願いは叶うことはなかった。なかば左遷のように南方に送り返されたのだ。しかもロレンガウとは違う場所。より激戦区に近づく方だ。聞くにそこは毎週のように空襲を受け、物資も満足でないようだ。うってつけに銃撃が数十キロさきから響いてくるらしい。前任が疲弊して逃げ帰ってきたから、変わって欲しいのだと。いちおうロレンガウから物資や人員を少し割けるとのこと。書類に目を通してみたがわかった情報はこれくらいだった。

 

 

 

()()()()()()()()とはな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 マヌス島ロレンガウ

 

 

 行ったときと違い、一〇〇式輸送機*1で帰ってきた松本少将。その顔には明らかに憂いがにじみ出ていた。

 

 

 ニューブリテン島……連合軍の上陸作戦に対し何度も水際防衛を行っているらしい。死者は軽く1万を超えるというこの世をば存在せしめるとも思えないようなところだ。

 

 ジャワは天国、ビルマは地獄、死しても帰れぬニューギニア、という感想が兵の間では流行っているそうだ。ニューブリテン島で死んだら、遺骨のかけらも帰らない、そういう信念で挑まなくてはならぬ。

 

 とはいえまだロレンガウに今日一日、いや部隊の再編など現実的に考えて3日ほどだろうか。とりあえずそれくらいはいる予定だ。覚悟を決めるのは早いかもしれない。だが早めに決めといて目立った損はないだろう。覚悟を決めずにひょんなことで死んだら、無念だが、覚悟を決めて死んだら、本望。覚悟を決めて生き残ったら幸運だ。

 

 一〇〇式輸送機から出ると、遠くに司令部が見える。一里*2半ほど先だ。空爆を避けるため目立つ見た目ではないが、すぐわかる。若干のカモフラージュと隠しきれていない竹筋コンクリート製の建物。

 

 ああ帰ってきたな。

 

 基地に。

 

 こんなに基地に慣れていたのだな、とわれながら思う。

 

 今更だが、ロレンガウに電報を送っていたが、飛行場には誰もいない。このことが気になる。いや、待っててくれ、とか言ったわけではないが、なにか用事、それともこちらの不手際があったのだろうか。

 

 しかし気にしてもしようがない。

 

 歩けば25分とすこしほどでつく。走れば15分ほどだ。細かいことは時間がかかるかもしれないが、今日中、遅くとも4日以内に間に合わせればいいので急ぎ用ではない。歩いて行こう。

 見返して感じたのが警備がずさんだということだ。見回りが1、2人いた程度だ。もう少し警備を強化しなければならないかもしれない。あとで検討してみよう。

 

 そうして司令部の自室にたどり着いた。

 

 椅子にすわってすぐ、ここから持ち出す人員、物資を考えた。まず人員だが、前野大佐、山少佐などを持ち出そうか。ほかにも大隊長級の人物が思い当たったが、そこまで中抜きしたらまともな基地でなくなってしまう。だから持ち出せる人員に関しては妥当なのが2個中隊ほどではと推察した。さて次は物資だ。食料には困らぬよう九七式炊事自動車*3あたりを持ち出すか。あとは輜重車に牽引車。追加の戦闘要員は出来る限り少数にしよう。すでにそろっているだろうから。兵站に全力を注ぐ────

 

 そのような運用思想で計画を練る。打算的なものだったが、    間違いは無いはずだ。基地の配備についての紙面を見渡しながらつぶやく。

 

「あとは飛行隊か」

「制空権を手に入れなくてはな。そのためにも飛行場の整備、工作のできる……」

「あったあった。伐開機。しかしこれは南方の大木では通用せぬとも聞く。保留にしておくか」

 白紙のノートにそうやってメモしていく。机のかたわらにはいま使っているのと同じようなノートが4つ、5つはある。備忘録(メモ帳)として用いているのだ。思い付く案が出た後は備忘録(メモ帳)を懐にいれ、自室から出る。人員の確認と命令ついでに機材を視察するのだ。

 

 

 廊下を歩いているとやはりというか、妙に人員が少ないと感じる。そうして山少佐や前野大佐をさがしていると、思いがけぬ人物に出会った。

 

「おお、少将どのでありますか。おつかれさまであります」

 杉森曹長が話しかけてきたのである。

「杉森曹長、ご足労であった。ところで、前野大佐、できれば山少佐も知らないか?」

 

「前野大佐なら……会議所それか集会所におられるかと。おそらく山少佐も」

 

「うむうむ、感謝する」

「……そういえば、杉森曹長、兄弟はいるか」

 

「はい」

 

「そうか、別人やもしれんが、杉森和人なる飛行機乗りに会ったぞ。立派だった」

 

「あ、たぶんおそらく兄でしょう。ご褒めにいただきありがとうございます」

 そんなこんなで去っていく。まずは会議所から行ってみよう。

 

 軽くノックをし、会議所に入る。

 

 そこは有人だった。見た限り数人の将校が閣議しているようだ。目を通してみると……

 

 運のいいことに一件目で前野大佐に会うことができた。が、山少佐はいなかった。その間にも将校たちが気づいてくれ、会釈などをする。

 

「すまんが、閣議はいつ終わりそうだ?」

 それに一人の将校が答える。

「いえ、重要性は薄いので後回しでよいです」

 

「感謝する。できれば山少佐を呼んでくれないか」

 

「はい、いますぐ呼びます」

 

 そうこうして会議所に山少佐が来たのだった。いままで明かされなかったが、実は言うと前野大佐は陸軍主計大佐で山少佐は陸軍建技少佐、と今まで少佐やら大佐やら言ってきたがひとくくりには言えないのである。

 

 山少佐が呼ばれるついでにその場に居合わせなかった陸軍軍医少尉の井上少尉も呼ばれた。

 

 そしてニューブリテン島への物資および人員の輸送についての会議が開かれた。

 

 まず松本少将は現状と上からの命について話した。その会議は飛行場の設営に適した工作機器、前線の状況を鑑みた炊事車、はては渡河に使用する水陸両用車や架橋機材についてにまでも議題は広がった。そして基地の戦力も考慮し、輸送する物資を考える。無論、輸送も普通の輸送船を使うのか、駆逐艦を使っては、潜水艦は、などと激論となり白熱した。

 

 

 人員に関してはとりあえず、個人としては井上少尉、前野大佐、山少佐が内定。続いて部隊に関しては通信小隊がひとつ、衛生小隊がふたつ、工兵中隊がひとつ、飛行中隊の一部、となった。総勢約500人にも迫る大部隊である。しかしこれだけともなると大変である。特に炊事に関しては。だからこそ数十両もの九七式炊事自動車を用意したのだ。500人分もの炊事は正直3両もあれば十分だが、渡った先の「ニューブリテン島」の友軍のことも考えるとなるとこれくらいは必要なのである。他にも輜重中隊が欲しかったが、断念することとする。

 

中抜きのしすぎがよくないというものもあるが、なにより大人数での移動に無茶があるのだ。

 

 ───────────────

 1944年1月30日 午後7時(現地時間を日本時間に変換)

 

 コツコツッ

 

 歩みだす。ニューブリテン島へ向かうのだ。結局輸送には空輸と海輸、両方が用いられることとなった。空輸は一〇〇式輸送機や零式輸送機を用い、海輸は三式潜航輸送艇や快速な駆逐艦を使用する。もう時間はない。駆逐艦(いまは雑役船だが)、樅型駆逐艦の「菊」に乗り込む─────

 

 駆逐艦ら一年は前に海軍からわたされたものである。とはいっても維持費がかかるから、預けてやろう、というものばっかりである。現に「菊」は練習艦や哨戒艦として使われる、一線を退いた艦だ。

 

 だがしかし、これは()()()()海軍と陸軍の共同輸送作戦である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乗っていて感じたことだが、全体的に老朽化している。聞かば大正のはじめのころに進水した駆逐艦らしい。それなのに今まで大した改装もされていない。まともに使われることがなかった船体にはフジツボとか海藻が大量についていた。大急ぎで掃除したから今はほぼついていないが、けれども1、2ノットは落ちる。それでも速力は34ノットもあり、快速だ。これなら米潜水艦の攻撃も躱せるだろう。

 

 沖波が響く。

 

 夜風が吹く。

 

 冷雨が堰く。

 

 そんななかを猛進する駆逐艦数隻。今日は雨風が吹き晒すも、波はかなり穏やかだ。そんなことより視界の悪さだ。夜だから当然だが、ちょっとの雨もあり視界がすこぶる悪い。雨に関しても荒れているところもあるようだが。

 

この視界の悪さのせいで直掩機は数機しかいない。持ってきた飛行中隊の航空機だ。手練れでもなければ雨風の吹き晒す夜は飛べぬと人員を選抜している。零式水上偵察機が2機ほど、零式観測機が1機ほど、二式水上戦闘機が1機ほど。どれも水上に着陸できるものだ。

 

警戒されたより安全だなと思った。ここ1時間会敵していないのだ。ちなみにご飯もある。炊事機能が備わっているのだ。今日は何曜日かな、金曜日ならカレーだろうか、そう計算していると悲痛の事実に気づいてしまった。今日は火曜日である。

 

待てよ、現地時間ならば…一時間しか差がないではないか!

 

しょんぼりしながら「菊」のなかの部屋で読書をしていると、

 

 

 

カンカンカンカンカンッッッ

 

 突如として甲高いサイレン音が聴こえてくる。部屋の外に出ると、みんな慌てていることがうかがえる。一人の水兵?から言い渡される。戦闘配置の合図だ。だから、非戦闘員は衝撃に備えて、伏せたりしていてくれと。そう言い切ると走り去ってしまった。伏せながら状況をまとめると、潜水艦かなにかを発見し、サイレンが鳴った。そういうことだろう。にしても先に発見したのはこっちなのか、敵なのか。だが、こっちはサーチライトもつけていなかったし、どうやって見つけたのだろうか。暗い夜の中、数キロさきの高速で動く物体を発見するとはただ者でない。結局はどっちが発見したのか、ということになるのだが。

 

ズ────ン

 

 大きな揺れが響く。が、近くでなにかが爆発したような感じではない。変針したんだ。右か左か。にしてもこんなところで古さ故の欠点が露出するとはたまげたものである。今まではゆるやかな変針だったから気づけなかった。

 変針した。つまるところ、これは回避か敵に向かっているかのどちらか。神仏にねがって後者であってくれとねがう。

 

 

 

 上からは掻き消されてうまく聴こえなかったが、叫び声のような大声が聴こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタガタッ

 

 

 

 

 

 

 

ド──ン

 

 

 ものすごい揺れがする。数秒は右に傾いた気がした。ギギギッ! 不協和音の音がする。船体がきしむような感じだ。やはり「菊」に乗るのは間違っていたかもしれぬ。だいたい古すぎるんだ。よう揺れるし。

 

「雷撃────」

 大声で誰かが叫んだ。これはまずいと思い頭を守る姿勢にしつつ、黒のボディの海軍救命胴衣の近くに寄る。

 もうすでに近辺に何人もいたが、そのうちの一人が何も発さず譲ってくれた。

 

「ありがとう」

 声なき声で伝えた。

 

 譲ってくれた人は1メートルは先の救命胴衣のほうに寄っていく。

 

 外が見える場所にいるが、横を見ると、駆逐艦が1隻見えた。日章旗を掲げた友軍艦だ。

 

 ふと、時計が目に入った。

 

 なんと、もうすでに

 

 戦闘開始のサイレンから5分は経っていた。

 

 体感時間とは怖いものである。

 

 そしてだが先ほどの雷撃の伏線回収がいつされるかおびえている私がいた。回避に成功したのだろうか。それとも…考えないでおこう。

 

 ドーンッ

 えっ?嘘だろう。

 

 爆音がよく聴こえる。

 

 ─遅れて衝撃が伝わる。とんでもない揺れだ。伏せていなかったら飛んでいったかもしれない。

 

「爆雷投下──」

 またとしてもよく聴こえた。まるで雨音や振動を縫うように感じる。耳を凝らしているからそう感じるだけだろうが。

 

その数秒後。爆音が───────

 

キイィィィィイン

 

とてつもない耳鳴りがする。

 

その爆音が次々と艦内に伝わってくる。

音が聞こえなくなったころ、時計をみるとさらに5分は経過していた。

 

「第1種戦闘配置解除!」

「第2種戦闘配置に移れ。引き続き警戒は怠るな」

 

そう艦内放送が伝えると、すこしばかりほっとした。

海を見てみると、重油がたくさん浮いていた。やはり、というか潜水艦だったのだろう。艦橋に移動して周囲を確認すると、味方の駆逐艦が数隻いた。が数字が足りない気がする。沈められたのだろうか。勘違いだといいが。

 

そのあとはニューブリテン島につくまで特になにもなかった。少々あげることがあるならば波がちと激しくなったことだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報告書

 

被害

駆逐艦「菊」ニューブリテン島への輸送任務へ服従中、至近弾をうけ、破片や爆風により、ダメージを受ける。死者なし。傷病者2名。小破

駆逐艦「栗」ニューブリテン島への輸送任務へ服従中、雷撃が命中。沈まず。駆逐艦「栂」に曳航され帰投する。死者16名。傷病者3名。中破

 

戦果

パラオ級潜水艦1隻

*1
陸軍の輸送機。最高速度は約250ノットほどで輸送機にしては快速だった。だがしかし、積載量が少なく、それが致命的な欠点となった。

*2
約3.9km。

*3
九四式六輪自動貨車に炊事設備などを搭載したもの。




今回のサブタイトルの「大空の南方」はおおぞらのなんぽうではなくたいくうのなんぽうです。大空は仏教用語でまったく何もないこと。人も物も実体がなく十方世界が空であることを意味します。
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