大日本帝国が連合軍に対し和平に縺れ込む 作:風吹かば小説家など無名たる
前回は悔しながらも敗走を許した松本少将たち。しかし闘志は潰えたわけではない。
が、今は逃げなければ。そのため、たくさんの兵士に足止めを命令した。しかしながら、空爆をして、即上陸といのは現実的でないので、入念に戦艦で艦砲射撃してから上陸するのだろう。だが、防衛ラインは作っていて損はない。まずだが、全体的な防衛設備の完成度は六割といったところだ。しかしながら前の方の完成度は高い。実質的なところ、後方の完成度が二割、前方の完成度が八割といったところか。
当たり前だが、敵が上陸してくるまで、3日として、陣地完成が間に合うわけがないので、ある程度早巻きにやって四割ぐらいで満足せねばならない。
そう独白を連ねる─
本当に予想は正しいのだろうか?
実際にその時が来るまで分からない。その時のために最大限に準備をしておくまでだ。
「はい閣下、少々
現場監督の井上少尉が供述する。
「また、二つの分隊が壊滅いたしましたが、それ以外はごく軽微な損害です」
「帝国陸軍の堅牢な防御構築の賜物です」
「ふむ、さがれ」
スウッと敬礼をして井上少尉は下がっていく。
さっき、少尉は二つの分隊が壊滅したと報告した。分隊というのはだいたい、10人〜15人ぐらいなのだが、明らかに被害が少ない。つまるところ、この数というのは、味方が
ただそれしか含んでいない
本当の所、負傷者が多くを占めるのだろう。そう考えると味方が無力化された数というのは三倍以上にも膨れ上がる。
これが統計学の神秘というやつ。たとえ撃沈した数が少なくとも、行動不能にした数が多ければいい方がいいということもある。重視すべきは完全に無力化した数よりも作戦行動に一番有利な形で必要な分の無力化を達成することだ。わたしはそう解する。
井上少尉はわざと数を過少に報告していたのだ。とはいえデータを改変しているわけではない。これぐらいはよくやることだ。上司の顔色をよくするために都合の悪い数値をどう消せるかとか、都合良い数値をどう出すかとか。
私もよく使っている、都合の良いことを装飾して強く主張、おまけと受け取れるような感じで、その傍らでどうでもいいことのように都合の悪いことを告げる。
逆もしかり─
直接的に関係はないが、太平洋地域における戦争では報告の三四分の一の戦果がだいたい本来の戦果といったところだ。これが普遍的な判定なのである。初期の頃はそんなにひどくなかったが、戦争が続いて練度が下がり、また余裕もなくなって、数え間違いや過度な申告が爆増した。
何が言いたいのかというと、これぐらいはよくあるということを言いたかった。軍歴を続けていれば、信じられないこともある。今回も同じように敵は上陸作戦の槍の切っ先を突きつけてきた。退路は断たれた。さらに防衛は未成。敵戦力は少なく見積もって5万人、こちらの戦力は多く見積もって1万人。実際のところの実働部隊は3000といったところか。希望的観測として、すべての部隊がこちらに向かってくるわけではないので、実際に相手する数は5000以上10000未満の間に推定される。
猶予はある。そう思い、
松本少将は部下に命令しようとするのであった。
1日経った時には前線の陣地構築を終了し、部隊を送ることに、熱心する。
2日経った時には後方の陣地を整え、自分の持ち場を持つ。選んだのは石灰質の小高い丘だった。空爆には弱いが、対空砲31基運んだ。
3日経った時には戦艦の艦砲射撃は止まった。森は荒れ、500㌶以上が延焼していた。陣地は壊れ、前線のトーチカがいくつか爆砕された。直接壊されなくとも、使用不能になり、捨てられた陣地は大量にあった。戦う前に犠牲者は200を超えた。討ち死にどころか一方的にやられるどころか、餓死したものもいた。
これでこそ
山鳴りがおこる。
ガヤガヤ……
上陸戦が始まった。3日間の艦砲射撃で陣地は荒れた。
上陸が始まって暫く銃声は鳴らなかった。水際で防衛しようも、水際の陣地が捨てられていたからだ。
黒焦げの木の側に重機関銃がある。泥濘に濡れて、隠密は完璧だろう。
周りを警戒しながら、装甲車の隣を歩く敵がいる。
「敵を発見した。オーストラリア兵」
タンタンタン
一撃は脳天を貫き、200メートルは遠くで敵が倒れる。
最初の連撃はむなしい。
「装填」
敵方では「Wood pecker」との叫び声が聞こえる。キツツキ。木をたたきしもの。九二式重機関銃のことを指している。
しかしながら米豪連合軍から激しい反撃を受ける。弾がばら撒かれ、その数発は命中する。負けじと此方も激しく攻撃を行うも一分足らずで沈黙する。
次いで日本兵が塹壕から這い出て、三八式歩兵銃を撃つ。
ドン!
75ミリ砲で1人2人が爆散し、再度慌てて塹壕に隠れる。
敵車両だ。搭載されたに機関銃を乱射し、歩兵を制圧する。側には随伴歩兵がいる。
カン!
ぎりぎり燃えていなかった森に半ば埋もれて隠れていた37ミリ速射砲*1を撃ち、不用意に側面を見せたアメリカ合衆国の戦車、M4シャーマンの側面装甲を貫通する。しかし撃破と言わず、一瞬沈黙するだけに留まる。10秒ほど経過して、全速でバックし始める。しかしもう遅い。集まった37ミリ速射砲で蜂の巣にされる。あっという間に5、6発が命中し、そのうち2発が貫通する。シャーマンを完全に沈黙せしめようと、ただ1人の日本兵がTNTを持って近寄るが、あえなくその野望は撃沈される。同伴した歩兵にやられたから。
シャーマンに寄って集って攻撃を行うも堅牢でなかなか倒せない。それどころか敵歩兵がその間に進出してきて37ミリ速射砲は仕留められる。
だが無駄死にというわけではない。周囲の安全を確認し、銃声も遠のいたあと、シャーマンから傷だらけの戦車兵が凄惨な顔をしながら這い出てくる。人の形をして出てきたこれたのは5人中2人だけだった。
周りに友敵双方の死体が転がる。
この陣地はあらかた制圧された。衛生兵が肩を持って、生き残った戦車兵は運ばれていく。その表情は安堵とは言い難かった。
そう、何かこの世に存在し得ないものに恐怖しているような─
なにはともあれ、日本軍の守備隊は各地で敗北している。浜辺で、森で、沼で。既に制海権と制空権は失われた。それでもどうにかして生き残らなければならない。
生きねば。
日本兵の多くはあきらめ癖がある。敵の潜水艦を見つけたとき、1000里も追わずに引き返したりとか、捕虜になっても抵抗し続けることを諦めたりとかだ。特に顕著なのが生きて抗うことをあきらめ、即座に死を決断したり。なんというかこれは日本だけでなく万国共通だが、楽な方に流れているのだ。死なずに戦い続ければ、孤島でトカゲを食うときもあるだろうし、四肢を欠損したりとかもあるだろう。だが死ねばもう終わり──おそらく、多分。
仕方がないことに死を経験した上で生還したという確実性の高い情報は現代でも存在しないのだ。
これ以上は辛いことに合わず、あの世にいけるだろうと。まぁ中には覚悟が決まりすぎで論理的に死を選ぶ(囮になって味方を助けたりする)英雄もいるが。それは一部だったり。
軍刀担いで、日常の真っ昼間に切り込みに行くのはバカのやることと米軍は評する。これには同意する。敵が油断しているときに切り込みは真価を発揮する。利益を持つ。
最後の一瞬まで隙をうかがうのがあるべき姿であると思う。松本少将もそうであろう。そうでなければ、拾えた己の命を、強いては利益をドブに捨てることとなる。海軍でも特別・特殊攻撃*2は目を瞑らず、最後まで機体をコントロールすることとされている。それは最期の最後で機体が逸れて命中しない可能性があるから。
やると決めたら、もう戻れないところまで来たら、途中で諦めず最後までやる。
ニューブリテン島からの脱出は来たときから難しかった。最善の行動を追い続けるしかない。それが人の
今現在、ニューブリテン島アラウェにある戦力は第51師団から引き抜かれた2個臨時中隊と第17師団の一部とマヌスから来た第7師団の一部しかない。総勢580人弱だ。実働部隊は3000人しかいないと先述したが、飽くまでニューブリテン島全体の実働部隊であって、アラウェの防衛はそれらしかいない。部隊は重機関銃、軽機関銃、小銃、などで武装している。また、少数の曲射砲兵部隊と速射砲などがある。装甲車の類はほぼなし。ソフトスキン*3もほぼない。あるのは馬だけ。航空戦力はゼロ。かなり絶望的だがきっと大丈夫。1ヶ月は持ち堪えれる。逆に表現すれば1ヶ月で壊滅するということでもあるのだけれども。哀しいね(泣)
戦闘は続く。一番強固だと思われたウムティンガルの防衛も瓦解し、敵によって橋頭堡が築かれ塹壕が掘られた。橋を境に激しい戦闘が続いている。重機関銃を撃ち合い、迫撃砲を放っている。一時期は盛り返し、250メートルばかり前進したこともあった。脅威となるのはアメリカの車両だ。ジープやM3半装軌車*4だ。アメリカは徒歩移動基本、一部馬の帝国陸軍より車の比率が圧倒的に多い。物資ふんだん、無駄遣いもできるようなアメ公と違い、我らは弱い。そのアメ公の権威を支えるのがジープやM3ということ。
許せぬぅ……解せぬぅ……認められぬぅ……
「うーん」
どうしたものかなと頭を抱える松本少将。しかしデジャブとは違い明らかな深刻さが見える。前とは違い一寸先には「死」が確認できるからだろう。予想を巡らせるが多くの道には亡者がいる。一歩踏みちがえたら
「ならばわたしが」
「ん?」
は?
「ですからわたしが出撃を。元戦車乗りですから。戦況を挽回を試みてみます」
「まだ新砲塔チハが1両あるはずです」
「ああ、わかった。許可しよう。しかし守勢と攻勢を見極めろ。攻めるべきときと守るべきときと」
「貴重な1両を使用するからにはな。できるだけ支援はする。それでは」
「ありがとうございます。」
男は頭を45度以上下げる。更に付け加え敬礼する。
出撃の準備は存外うまく進んだ。まずは人材の選出だ。男が戦車長。それ以外は3人。操縦手に機関銃手兼砲手に装填手。移動距離が短いとはいえ長時間の戦闘に備え、燃料は一応3分の1は入れておいた。弾薬は徹甲弾を多めに積む。必然的に榴弾は少ない。対戦車戦闘を念頭においているから。
たった1両の新砲塔チハ─九七式中戦車が出撃した。うるさいエンジンの音を立てて、無限軌道が道を駆けずる。旧砲塔の低初速57ミリ砲ではなく、高初速47ミリ砲を搭載し貫通力に(日本戦車の中では)優れた戦車だ。速度は道が危なかっしいうえ、直線続きではないので事故を嫌ってあまり出さない。15km/h程度だろう。緩やかに進んでいく。珍しいことに操縦手がうまいのか道に苦戦はしない。
血と泥濘にまみれた戦地に参上する。一瞬歩兵から銃を向けられるが、一瞬のうちに味方に認識される。どうやら歓迎されたようだ。1㌔は離れたところから断続的に銃声が鳴る。橋頭堡に向かう。
しかしそのルートは異例。森を征く。小さな木を倒しながら。進み続けていた戦車は止まる。微かに何か見えたのだ。凄まじい視力と観察力と称すしかない。砲塔が旋回する。エイムは合わす。
Fire!
側面装甲を貫通。M3装甲車を撃破する。
そのあとも続く。次の犠牲者はまたしもM3。一瞬視界の端に映っただけにもかかわらず神エイムで撃破。砲手がうまいとしか。4人は熟練のエリートなのであろう。今ごろ米軍は困惑しているかも。
その途中でいい狙撃スポットを発見。次々と敵を鏖殺していく。さすがにバレたので位置を変える。さっきまでいたところには砲撃が降り注いでいる。ようやく橋頭堡の近くまで来る。その近くには友軍を確かに確認する。あと数百メートルだ。高台の横の森まで移動する。味方の戦車の屍体が広がる。窪みに入り、隠密が高まる。
そこからは忍耐だ。敵が視界に移るまで、待つ。そう簡単に戦果とは出せるものではない。
13:43敵が見える、まだ撃たない。
14:58まだ撃たない。
15:41敵が映り始める。
16:15まだだ。
17:34時は満ちた。
射撃を開始する。M4戦車のターレットローダーを狙う。装甲貫通。装填手が爆速でリロードして二発目で撃破。この時点で米兵は優秀だから、気付いただろう。そのためもうその時点で逃げる。ただ逃げる。直線的な軌道はしない。敵からもう見えない。そういう場所を吟味した。
今度は森の斜面に陣取る。
夜を越した。居住性は最悪だが仕方がない。敵も灯火を消して場所がわからない。当たり前だが交代交代で過ごした。少しも油断する時間を残さない。
敵を発見した。狙撃する。撃破─撃破─撃破。今度は逃げも隠れもしない。優位な位置取りから天板をぶち抜いて始末し続ける。徹甲弾は21発しか残っていない。遠くからエンジン音が聞こえた。敵の航空機だ。早く山の斜面を下りる。だが間に合わない。B25から機銃掃射を受ける。かろうじて致命傷は避けるが、もう限界だ。2日間戦った。しだいに前線はダダ下がり、800メートルほど後退していた。友軍はぼろぼろ。徹甲弾は3発しか。榴弾は7発しか。
砲撃を受ける。履帯がイカれて動けない。戦車の中の戦友はいつしか1人しか残っていない。工兵に爆薬を仕掛けられ爆散する。
単体として見れば大活躍であっただろう。だが、全体としては戦局に1ミリも変化を促さなかった。しかしそこに英霊はいた。
報告書
被害
九七式中戦車 1両
九四式いすゞ 12台
火砲 81門
戦死267名
山少佐など
戦果
M4中戦車 4両
M3半軌装車 11両
フォードGPA 9台
火砲 25門
山少佐ぁー!
早めに山少佐を頃しておいた理由ですが、私個人として、山少佐に前野大佐、松本少将、小林海軍技術士官、杉森兄弟、井上少尉とキャラが多く、さらに増やす予定もあったので、始末しておきました。キャラが煩雑になっては一人一人の良さが減りますからね。