桜の花は美しく、心を平穏へと導く。
しかし、満開の桜は人の持つ才能を開花させてしまうような、不思議な力がある。
「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」
満開の桜に囲まれ、花びらを手に乗せながら、もの寂しげな表情で彼女は俳句を詠む。
この俳句の意味は、もしも世の中にまったく桜がなかったなら、春を過ごす人の心はどれだけのどかでしょうね…ということ。
彼女には想いを寄せている異性がいる。
しかし、彼は常に渦中の中にいた。
彼を止めるとなれば、同じ土俵に立たなければならない。
だが、彼女はその土俵に立とうとはしなかった。意中の相手に道具として見られたくないのは当然のこと。
彼との関係を壊さないためにも、彼から道具として見られないためにも。
彼女は無関心に時が流れるのを待つしかない。
葉桜の季節を――
しかし、待てど待てどそのような穏やかな季節はやってこない。
彼女は葛藤する。
「私は――」
―――――――――
2025年。
『プルルルル』
「はい、山内探偵事務所の軽井沢です」
ある探偵事務所は依頼が殺到していた。
『プルルルル』
「はい、篠原食堂の池です。はい!20時00分七名様のご予約ですね。畏まりました!お待ちしております!」
ある居酒屋は繁盛していた。
商店街はどこも賑わっており、道端にはたばこの吸い殻が至る所に捨てられている。
衛生的な面では汚く、いかにも都心部という印象を抱く。
だけど、それは都心だからという理由にはならない。
なぜなら、地方でもこのように賑わっているからだ。
1955年ごろから1973年にかけて起きた高度経済成長期が、再び日本にやってきたからに他ならない。
どこもかしこも賑わっている。店を出せば繁盛する。
今日も一日頑張った!家に帰る前に同期と飲みに行こう!!
え?貯金はしておかなくていいのか?大丈夫大丈夫!また働けばいいのだから!
それに今も金なんかたんまりとある。今月入ってくるボーナス8カ月だぞ?
女房に、息子に娘に、それから母や父。ああ、おばあちゃんたちには100万の羽布団と電磁マットレスを送ろう!親孝行!祖父母孝行!
現在の世の中はこんなものだ。
だけど――
「てめえ!なにしとんじゃああ!ケツ出せ!!」
「す、すいませんでした!!」
『バンッ!』
男は鉄パイプで新人の尻を叩いた。
暴力…ではない。教育だ。
いつだったか、このような行為をパワハラだとかで世間を騒がせていた。
しかし、もうこの時代にはそのような新人を甘やかすシステムは存在しない。
もうそのような言葉を覚えている人間はいないのかも知れない。
そして労働基準法という法律もまた緩くなりつつある。
だけど、それでも今の時代の景気は非常に良く、給料も上がりっぱなしなので、誰も文句を言わない。
いったい……いつからだろうか。
ジャーナリストとして気にならないわけがない。
町の住民にインタビューをしてみる。
この好景気となった要因を尋ねれば首を傾げながら「政治家が優秀だったんだろうね~」と適当な返答をされる。
でも、それは絶対にありえない、と少し考えれば分かる事。
誰だろうか。誰がこのような好景気に誘導したんだろうか。
私はある島に的を絞って調べることにした。
なぜなら、私の市……島から始まったことだからだ。私は色んな人にインタビューをしてきた。大学生活を活かして日本中を周った。
国民に。政治家に。時にヤクザに。詐欺集団に。裏で生きる者に。
そして危険な橋を渡って私は情報を搔き集めた。すると、やはりこのY島に戻ってくるのだ。
このY島に人の開花を促した者がいる。
おっと、その前にこのY島のことを説明しておかなければならない。
この島は6つの市で形成されている。
S、A、B、C、D、E市。
この市の地図は簡略化すると分かりやすい。
巨大な正方形を思い浮かべて欲しい。それを田んぼの田で四つに分ける。北西がA市。南西がB市。北東がC市。南東がD市となっている。つまりAとCが上、BとDが下だ。
そして田の中心に円を描く。そこがこの島を代表するS市である。セレブが集まる市なので高級住宅が立ち並んでいる。
そして、南西に位置するB市と南東に位置するD市の南は山で覆われている。その山を乗り越えると広々とE市だ。
2020年時点でのY島はこうだった。
S市は先ほど書いたように富裕層が住む市。
AB共に大した格差はない。学校で比較しても身体能力も学力もどちらが上かは、その年によって変化する。
しかし、A市には大きなショッピングモールがあるので遊ぶとなったらそこへ行く者が大多数だ。
C市は言い方は悪いが、凡人が集う市だ。なぜなら、この市にはヤクザが存在するから。しかし、このヤクザがC市を守っているのも事実であり、不良などは寄り付けない。
D市はABC市に入れなかった者が集う場所だった。過去形なのは現在は変わり始めているから。D市…いや、Y島で有名な人、堀北学がD高を変えたからに他ならない。
そしてE市は最近山を開通させ、発展途上。高級住宅街が建築されている中、一般住宅も建てられている。
そのため、様々な人間がE市に集う。
かく言う私もD市からE市に引っ越した。
学生が多く存在する島だが、この島の治安は最悪と言っても良いだろう。暴力が飛び交い詐欺も活発に行われている。
そんな島だが…ヤクザや詐欺集団よりも恐ろしい噂が蔓延している。
D高には白い化け物が存在する。
なんでも100人以上を薙ぎ倒したのだとか。触れられただけで呪いに掛かった者も存在するという噂は良く聞く話しだ。
私はその白い化け物が日本の開花の引き金となった人物ではないかと睨んでいる。
一体どんな人物なのだろうか。
それを知るために私はジャーナリストになったのだ。
誰一人として、その人物の名を口にはしなかったけど、聞いた情報をロジックを構築していけばある一人の男に辿り着く。
一人の男は周りにいる者達を操ってこの島を開花させた。友達を。恋人を。敵を。女優を。好敵手を。探偵を。そして私を…。
騙されていたことに、耳鳴りがしてくると同時に胸のあたりに苦しさを感じる。心が逸し負の感情でいっぱいになる。
だけど、それとは別に彼だったことに誇らしさや満足感がある。切なさと共にいつのまにか彼に依存している自分にも気づいた。
「けふまでの日ははけふ捨てて初桜」
多くの人間を動かしたのは、たった一人の男。男に巻き込まれ、自らの才能を開花し、その者もまた誰かを巻き込み開花させる。
その連続。連鎖だ。人の開花は収まることを知らない。そうやって己を成長させ、会社を成長させ、島を発展していった。
一体、いつ止まるのか。
そして私は一人の女性と出会う。
彼女は願う。
満開の桜を見ながら、その桜が散る日を。平穏が訪れるその日を。
これは、葉桜の季節を求める者の物語である。
誤字多いと思います。
初投稿ではありませんが、まだまだ語彙力、文章力が皆無です。
それでも頑張ってきますんでよろしく!