葉桜の季節を求めて   作:もと将軍

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軽井沢恵

2018年4/12(木)

 

 太陽の光を浴びながら特に何も考えずにブラブラと歩く日々。

 E市に住んでいるオレだが隣町であるD市に行くため、電車を利用することに。

 駅のホームにて電車がくるのを待機する。だが、ここは小さな駅のため通貨列車も多い。

 駅口内を通り抜ける風が静かにオレの肌を撫でる。

 心地よくもあるが、閑散とした駅ではそんな風が不気味に感じた。

 

『2番線を電車が通過します』

 

 アナウンスがやけにうるさく聞こえる。

 10メートルほど離れた位置で、金髪の女子高生は電車が来るのを待機している。

 オレは駆け出した。

 金髪を靡かせ、彼女はホームを跳んだ。そうあの跳び方はゲームのマ〇オだったか…土管から出てきたときのように、ポーンと跳んだ。

 

『パァーーーーッ!!!』

 

 電車の汽笛が駅構内に響き渡る。運転手は非常ブレーキも使用したのだろう。金属が擦れる音が聴覚を支配し、焦げた鉄のにおいが嗅覚も支配する。だが、電車が止まるのに必要な距離は600メートル。止まれるはずがない。

 オレは全力で地面を蹴って飛び込む。

 彼女はもう跳び込んでしまっている。それならば、ホームの下へ。転落してしまった人用の逃げ場へと押し込む必要がある。

 間一髪で電車を避け、オレは跳び込んだ勢いのまま、ホーム下に潜り込んだ。

 尖った石がオレの背中に刺さる。彼女の体重により、それが更に食い込んだ。

 電車が過ぎ去るまで、オレは彼女を押さえ込んでいた。

 自殺するつもりだったのだろう。

 助けられるなんて真っ平御免だろう。

 そんなことは分かっていながらも、オレは彼女を助けた。

 それが正しいことだと思い込んで。

 

 弱く逃げ出そうとする者。バイタリティーに欠ける人間であろうと、誰であろうと見捨てない。オレはあの男とは違う。

 

 オレが助けた理由は彼女のためではない。あの男と同じことをしたくなかった。ただの反抗期によるもの。

 電車が過ぎ去ったあと、彼女は一言零した。

 

「どうして…」

 

 彼女の顔色は絶望の色でいっぱいだ。化粧をしていて、綺麗な顔立ちに見えるが、その絶望的な表情からは化粧をしていることが却って不気味さを出している。

 

「ケガは?」

「な、なんで……」

 

『ブーーッブーーッ!』

 

 駅構内の警報が鳴り響き、隣にいる彼女の声が掻き消される。

 

「大丈夫ですかーーーっ!」

 

 駅員が駆け寄ってきた。オレと彼女に黄色い足掛けからホームへ上れと言う。

 オレは先に彼女を上がらせ、その後をオレが上がる。

 駅員はオレと彼女を見比べ、彼女に問う。

 

「どうして飛び降りたのですか?」

 

 駅員はまだ新入社員のようで、ほっとした表情が見られる。人身事故の現場なんて見たくはないだろう。

 

「………」

 

 放心して一言も発せない彼女に訊く。

 

「貧血はもう大丈夫なのか?」

「……え?」

「落ち方がフラフラとしていたからな」

 

 彼女が飛び込んだとき、駅員はこちらを見ていなかった。電車はホームから出たところで止まっている。運転手がこちらまでくることはない。来ても車掌だろう。

 そして、駅には監視カメラの類はエレベーター付近しかない。電車にはドライブレコーダーは取り付けられていない。

 つまり、証拠となるものは存在しないのだ。オレの証言が最も真実に近い。

 

「そうなのですか?」

「えっと…その、はい…ちょっと眩暈がして…」

 

 身体を縮こませ、俯きながら彼女は言った。

 

「………分かりました。ですが、何かあった時に連絡はしたいので、名前と電話番号だけ書いてください」

 

 それは仕方ない。電車を停めたんだ。罰金があってもおかしくない。

 だが、今のご時世、鉄道会社がお客様第一主義を掲げてしまっている。時間と正確を守ることが最もお客様第一主義だというのに。

 貧血で線路内に落ちて電車を停めたのなら、鉄道会社が金をとることはできない。

 

 オレと彼女は駅室で名前と電話番号を書いたが、そこでは彼女の名前を見ることは叶わなかった。

 結局、電車に乗ることはせず、そのまま駅を出る。

 オレと彼女は口を利くことは無く、誰もいない河川敷まで少し距離を開けながら歩いた。

 

「ねえ」

 

 彼女は口を開く。

 

「どうした」

「なんであたしを助けたの⁉あともう少しで…」

「解放された、と思ったのか?」

「っ…」

 

 オレが先回りすると彼女は顔を俯かせた。

 

「電車で自殺を図ったのは、復讐のつもりだったのか?いや、ただの八つ当たりか」

「……」

 

 彼女は何も答えない。図星なんだろう。

 

「オレはお前のことは何も知らないが、死にたいのなら山奥でひっそりと死ねばいいだろう。誰かを巻き込むな」

 

 オレは続ける。

 

「お前は見たことあるのか?顔面が削れる瞬間を。首は何回転すれば引きちぎれるのか。人の肌は本当に肌色だったのか、元々青黒い色じゃなかったのか。目の前に飛び込んで来た者と目と目があったとき、異様なほどもまでに見開かれた目の不気味さを。一生忘れることはできないらしいぞ。お前はそれを関係のない人間に植え付けようとしていたんだ」

 

 一体彼女の身に何があったのかオレは知らない。

 だが、彼女は何かを恨んでいたのだろう。その相手に復讐することが無理なら誰かに自分の苦痛を与えてやろうと思い至ったのだ。

 若しかしたら、自分の親に多額の借金を背負わせるため、かも知れない。

 

「…なんで、あたしだけ…」

 

 彼女は口を開いた。涙を零し、嗚咽をもらしながら。

 

「こんな辛い思いをしないといけないのよ…生きてることがどれだけ辛いかあんたに分かる⁉解放されたいの…生きてるの辛い…ううん、そうじゃない、生きてるとだめなの!」

「お前に何があったのか知らないが、生きることが許されない人間は存在しないだろう」

「あたしが生きている限り、借金が膨れ上がっていくのよ!」

 

 なるほど、借金があるのか。家族に恨みがあるのかと勘繰ったが、どうやらその逆、家族に迷惑を掛けないためのようだ。だが、人身事故を起こせば賠償金は家族が払わなければならないが…。

 

「借金か」

「10万や100万じゃない。一千万くらいになってるはず」

 

 なってるはず…?利子によって膨れ上がっているのだろうか。なるほど、こいつの身に何が起きたのか、輪郭が浮き彫りになってきたな。

 

「払えないのなら、体で払えって。あたしの歳だとすぐに借金は支払えるって…でも、あたし…」

 

 彼女は体を小刻みに震わした。何かを思いだしているのか、彼女は左腹を手で覆う。

 

「この際だ。全てを話してみたらどうだ?」

 

 オレは彼女の目を見て言う。

 彼女にはまだ借金だけでは収まらない何かがある。

 これまで幾度となく騙されてきたのだろう。オレを信用することなど不可能。だが、オレを信用しなければ彼女は何もできない。

 死ぬ勇気さえもオレが奪っているのだから。

 彼女はオレの双眸を見た。暫く目を合わせた後、オレは口を開く。

 

「オレに何かできるものがあるかは分からないが、吐き出せば少しは楽になる」

 

 彼女に手を差し出すと、オレの手を恐る恐る掴んだ。

 オレのような一介の高校生に何ができると言いたいだろう。だが、彼女はオレに引き寄せられる。

 オレと彼女は多少なりとも共感できる人生を歩んでいるから。

 

「うん…」

 

 彼女は頷いた。長い話になりそうなので、一先ず近くの長椅子に座って話すことに。オレは自販機で缶コーヒーとココアを買って彼女に渡した。

 

「オレは綾小路清隆だ。そっちは?」

「軽井沢恵」

 

 お互い軽く自己紹介をしてから、軽井沢は話始めた。

 

「あたし…中学三年間ずっといじめられてきたの」

 

 軽井沢はこちらと目を合わせようとせず、俯いたまま続ける。

 

「数々のいじめは受けて来た」

「その左わき腹もか?」

「ひっ!」

 

 オレがそう言うと軽井沢は目を見開き、カタカタと震え出した。

 

「なんでわかっ………え、えぇ…そう。高校になれば解放される。そんな望みで私は中学三年間を耐えた。でも…あたしが進学したD高に…まぁd高に変わったんだけど、一人……中学が同じ人が居たの」

 

 それが偶然なのか、必然なのかは分からないらしい。

 因みにD高とd高は同じ学校ではあるが、素行不良だったり成績が悪い生徒は別校舎に纏められている。そんな経緯で劣ったD高をd高と呼ぶようになった。

 この名前をつけたのは意外にもD高の生徒達であり、D高とd高を分ける仕組みを取り入れたのは堀北学だ。

 

「県外から来たのか?」

「そう、〇×県から」

「それはまた遠い所から来たんだな」

 

 当然、知っている人間が居るとは思わない。

 

「私は中学の勉強なんてなにも出来なかったから、高校も偏差値が底辺高でd高。だから、暴力的な人たちが多くて…その、一人から二人三人と増えていった」

 

 中学はまだ真面目な学生もいたのだろう。だが、高校では同レベルの人間が集まる。いじめる人数が違う。

 

「お金を奪われることなんて日常茶飯事だったけど…その日、近くの体育館で寝具の販売をしていたの。そこにあたしに行って来いって。値段が値段だけにお金は出してくれた。足りない分だけど…あたしはその集まりに参加して、説明する人の話をあまり聞かずに、頼まれてたものだけ買った。そしたら、次はこれ、次はこれって。でもどう見ても値段と相場が合わないから、違うところで購入しようとしたら、そのいじめてきた男の子に無理やりその商品を買わされた。買わなければ殴る蹴るの暴力をふるって。足りない分も次第に払ってくれなくなった。見覚えのない請求書が家に届くようになった。知らない保険にはいっていた。あたしが死んだときの保険…」

 

 軽井沢が死ねば、その保険金が詐欺集団の手に渡るようになっていた?

 ありえないな。

 配偶者が優先される上に親族とは関係なければ受け取ることはできない。

 いや……ここは最悪の想定をするべきだ。

 

「軽井沢、何歳だ?」

「え…先月で16歳になったけど」

「…そうか、まあ続きを聞かせて貰おう」

 

 女性の結婚できる年齢は16歳だ。(2022年から男女18歳)

 

 膨れ上がる借金。それを帳消しにするには軽井沢が死ぬ必要がある。

 軽井沢は自殺を図ろうとしたが、詐欺集団は軽井沢を近日中に殺すつもりだったのだろう。事故死に見せかけて。

 自殺では金を受け取るのに一年以上もかかるからな。

 

「死ねば、借金はなくなるし…うぐっ……いじめからも解放されるから…」

 

 ココアを握り締め、涙を零しながら軽井沢は話を終えた。

 

「親は?」

「いない。本当のお母さんは私が小さいころに居なくなって…高校一年のときにお父さんが再婚したんだけど…事故でお父さんが死んだ。義理のお母さんもそのあとを追うように…自殺したって」

「天涯孤独か?」

「…うん」

 

 それは散々な過去だな。だからこそ、電車で死んだところで親に責任を擦り付けることはないと判断したのだろう。

 電車での自殺は手っ取り早いからな。

 

 こいつには助けを求めるところがなにもないのだろう。先生に見捨てられたことをきっかけに、警察も相談所に助けを求めても同じことだと捉えたのだろうな。

 

「軽井沢。その件、オレが解決しても構わない」

「え……?」

 

 顔を上げる軽井沢の表情は理解できないと言った様子。まあそれは当然の反応だろうな。

 

「その借金をオレがなくしてやる」

「え、どうやって……」

「それは後で話すとする。取り合えず、今すぐ家に行くぞ」

「家?」

「お前の家だ」

「は、はあ⁉どうして来るわけ⁉」

「お前の身を守るためだ」

 

 軽井沢が金を有しているのであれば、生かして一生金を徴収する方が良い。だが、軽井沢には金がない。それに金になる仕事をしようにも、左わき腹の件で金にならない。それなら、さっさと始末して保険金を受け取る方が金になるし時間を有効に使える。

 

「あたしの身……?」

「気付いてないのか?連中はお前を近日中に殺すつもりだ」

「え、うそよ……」

「話はあとでいい。お前の家から荷物をオレの家に移す」

 

 軽井沢は呆然としていたが、オレが背中を叩くと家に案内してくれた。電車に乗って数分の駅で降車する。

 2.30分で彼女は家から出て来た。大きなリュックを背負い、両手に紙袋を持って。

 

「ね、ねぇ…今から…その綾小路君の家に泊まるってこと…?」

「そうなるな」

「お、襲……」

 

 言いかけて止めたが、何を言いたいのかは分かる。

 

「そればかりは信じて貰うしかないな。オレはお前を襲わない。それだけは誓おう」

「な、なら…!これだけは教えてよ!どうしてあたしを助けようとしてくれるの⁉」

 

 当然の疑問だろう。また騙されているのかも知れないのだからな。

 

「自分の為だ。自分が住んでいる町が安心できないのは困るからな。少しでも情報を手に入れられれば良い」

「……そう」

「やはりこれだけでは信じて貰えないか?」

「ううん、信じる…」

 

 それは厳密には違う。誰かを信じないと生きていけない。だからこそ、何度騙されてもこいつは誰かを求める。

 

「そうか。なら、行こうか」

 

 オレは前を向き歩き始める。その後を軽井沢がついてくる。

 

 

▽▽▽

 

 

 どうせ、また騙されるんだ。だけど、なぜあたしは彼、綾小路くんについて行っているのだろうか。

 あたしは死ななければならなかった。

 死にたくない気持ちでいっぱいだったけど、勇気を振り絞っ死ぬことを決意した。

 だけど、それを防がれてしまった。多分、一生分の勇気を使い切ってしまったはず。もう自殺をしようと思ってもできないだろう。

 最初は恨んだ。

 どうして邪魔したのか。どうして生き地獄な世界にあたしを残したのか。

 でも…今は彼を信じてみたいと思ってる。

 綾小路くんの双眸を見てしまった。

 それだけだけど、なぜか魅かれる。

 

 あたしは家を捨てて彼について行った。

 電車で数分の距離。へぇ…良いとこ住んでんじゃん。

 親がお金持ちなんだろうなあ。

 

「入ってくれ」

「おっお邪魔しまぁす……」

 

 自分でもびっくりするぐらい震えた声がでてきた。緊張しているのだろうか。いや、当然でしょ!

 落ち着け…あたしは一度深呼吸をしてから、玄関…未知の世界の門を潜った。新生活が始まる予感がして、この危機的状況なのに、わくわくしている自分がいた。

 リビングに案内され――

 

「何もなっ!」

 

 まず初めに出た言葉がそれだった。何畳あるんだろ…広い。なのに、何も物がない。

 

「そうか?」

「あんたここに住み始めたの、つい先日?」

「そうでもない。1カ月は過ぎている」

「え~~」

「物欲が少ないからかもな」

「少なすぎでしょ。ミニマリストってやつ?」

「どうかな。色々と置きたいのだが、何を置いていいのか分からないだけだ」

「なにそれ、変なのっ」

 

 入ってまだ1分程度なのに、全く緊張しなくなった自分に気付いた。

 

「この部屋を使ってくれ」

 

 そう言って、リビングに隣接している部屋に案内される。

 ふ、ふぅ~ん…一緒に寝るわけじゃないのね…。ま、まあその方が安心だけど。安心する気持ちと同時に、また別の良く分からない感情が沸き出て来た。

 因みに3部屋あってあたしが使用してもまだ1室残っている。

 あたしは荷物を置いて、リビングの座卓の前に座る。

 綾小路くんがお茶を淹れてくれた。それを飲みながら今後のことを話すことに。

 

「それでその詐欺グループはなんて会社名なんだ?」

「サウス楽部」

 

 綾小路くんはネットで検索する。だけど、ホームページにも載っていない。あたしだってそれくらい調べてたし。

 

「そのグループの対象は高齢者だと思う。あたしのような若い人は殆ど見なかった」

「保険金詐欺は大抵がそうだろうな」

「それで…その、あたしは何をすればいいの?」

「詐欺グループはお前を探すだろう。家に押しかけ、辺り周辺を探る。暫く高校には通えないと思った方がいい」

「それは分かってる。そっちの方が良いし…」

 

 先生もあたしがいじめられていることを知っている。でも、先生は何も助けてくれない。あたしが休もうと心配なんてしないだろう。

 授業もあまり出たことなかったのに進級できたし。

 

「それから一人で外出も禁止だ」

「………分かった」

 

 自由とは程遠い生活になりそう…。

 

「えっと、綾小路君はなにしてるの?」

「オレは週3回アルバイトをしている」

「?学校は?」

 

 そう言えば、今日も学校に行ってないとおかしい時間に出会った。

 

「オレは学校に行ってない」

「えっ」

 

 学校に行ってない⁉こんな人についてきちゃって…大丈夫なんだろうか…心配になってきた。

 

「まあ今日のところはこれくらいにしておこうか」

「う、うん」

 

 なんにせよ。

 あたしを匿ってくれたんだ。感謝しないわけにはいかない。綾小路くんはリビングに向かった。

 

「夕飯はオレが作る。先に風呂に入っておいてくれ」

「あ、うん。行ってくる」

 

 何を作ってくれるのか、楽しみだ。新生活一発目の夕飯、急遽だからそれほど期待してないけど。

 そうね~ムニエルとか。トマトとチキン煮込みとかかな?

 あっタコパだっていいなぁ。

 生まれて初めての異性との…いや、誰かとお泊りするんだ。期待せずにはいられなかった。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 今後の方針も必要だが、まず何よりも精神を回復させることが重要だ。

 自殺をしようとした日に、ズカズカ聞くのはストレスになるだろう。

 これまでの相当なストレスを発散させるために必要なこと。まずは飯を食う事だ。

 ストレスを発散させる料理とはなんだろうか。

 ストレスにはビタミンB群・ビタミンC・カルシウムなどの栄養素を取ることが良い。

 だが、軽井沢の持ち前の精神力は人よりもずば抜けて強い。鋼のメンタル。いや、鋼の中でもあれはステンレスだ。相当に強い。

 そんな彼女がボロボロになるまで耐えていた。

 なら、今はそんな栄養素などあってないようなもの。そう――これはあれだ。

 以前、アルバイト仲間の山内が言っていた。

 

【こういう時はだな!ガツンと食うんだよ!ガツンとな!んっ!うんめぇ~~!!】【や、山内君…それここでたべっ…】

 

 これだっ。

 今の軽井沢に必要なのはガツンなのだ。塵も積もれば…なんて必要ない。

 オレは記憶を遡る。山内は何を食っていた。あいつはそれを食った瞬間から物凄いテンションが上がっていた。あれしかない…!

 かなり長風呂だが、それが逆にありがたい。

 一時間半が経過したころ、浴室の扉が開く音が聞こえてくる。

 

「お風呂あがった~いや~久しぶりにゆっくり入れたな~」

 

 タイミングが良いことで。

 

「丁度出来上がったところだ」

「な、なんか凄い臭いね」

 

 まだ髪が半乾きのまま、ひょこり出て来た。その眼には希望の光が見える。

 だが、どんぶりに盛り付けられた食べ物を見て、固まった。ポカンと開けていた口が震え出す。

 

「ちょちょちょっと!なんでラーメンなの⁉しかもそれって、あ、あああれだよね!二郎系ラーメン!」

 

 そう。これはただのラーメンじゃない。

 こってりとしたスープに極太の麺。その上にはキャベツに、もやし、チャーシューなど。そして更にその上には冬の富士山のように頂上が雪で覆われたいた。

 まあ、これは雪や氷ではなく、ストレス発散のためのニンニクと背油なんだが。

 

「まぁ待て、最後に特性からめを掛ければ完成だ」

 

 この出来栄えは上手く作れたんじゃないだろうか。今度、山内に自慢でもしようか。

 

「そういうこと言ってんじゃないわよ!」

「?これが一番元気出る料理かと思ったんだが」

「そうじゃない!!いや……もう、そう…逆に元気…でたわよ……!」

 

 拳を握り締めながら、酷くガッカリしている軽井沢。

 どうやら選択を誤ったみたいだ。確かに…これは女子が好んで食べるものじゃない…のかも知れない。

 今度、山内をしめておこう。

 

「まあいいや。作ってくれてありがと。せっかくだし、食べよっ」

 

 軽井沢はそう言って、笑った。

 まあ笑顔を見られたのなら、この選択は正解だったのかも知れない。

 軽井沢は自分の分を座卓に置いて、正座を崩して座る。

 オレはその対面に座った。

 

「「いただきます」」

「んっ意外と美味しいのね…うわ~~っこれ絶対口の中強烈になるヤツじゃん」

 

 そう笑いながら軽井沢は残さず食べた。

 

 そして、食べ終えたとき…一筋の涙が軽井沢の頬を伝った。

 

 オレは軽井沢の隣に移動し背中を擦る。顔を胸元に預けて暫く泣いていた。

 先行きの見えない人生。いや…光のない人生はずっと不安だったのだろう。

 一人で抱え込んで、苦痛な日々を耐え忍んできた。

 

 ようやく、心から安心できたようだ。

 

「ありがと」

「……息が臭いな」

「それはあんたもよ」

 

 まだ止まらない涙を見せながらも、軽井沢は微笑んだ。

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