こちらシャーレの窓辺より。   作:Gissele

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時系列としてはチュートリアル終了後~対策委員会編の間になります。
ブルアカについて知ってる前提で書くんで所々端折るんでよろ。


こちらシャーレの窓辺より
浪費と投資と逃避


学園都市キヴォトス。

 

数千の学園が統治する自治区と、キヴォトス全体の行政を担う連邦生徒会が管理する地区D.U.によって構成される巨大都市。青春と銃弾と神秘の溶鉱炉。

 

そのキヴォトスにおける特異点、『先生』を顧問として生徒のあらゆる相談に応じ、学園や所属を問わず不特定多数の生徒を動員できる超法規的機関である連邦捜査部S.C.H.A.L.E。

 

「先生!何ですかこれは!」

 

そのシャーレの事務室に、突如怒声が走る。

 

「ゆ、ユウカ?そんなに声を荒立ててどうしたんだい?」

 

書類の山に埋もれていた先生の肩がビクリと震える。そしてそれを感じさせないようにユウカと呼んだ生徒──早瀬ユウカにおそるおそる返事をする。

 

「どうしたもなにも、こんなものを見せられたら声も大きくなりますよ!」

 

早瀬ユウカ。キヴォトスにおける学園の一つであるミレニアムサイエンススクール所属の生徒。学園の生徒会であるセミナーの会計を務める彼女が取り出したのは一枚のレシートだった。

 

「『超合金シリーズ KAITEN FX MK.0』97,500円……いつの間にこんな高額な出費をしたんですか!以前のガチャ20,000円分が霞んで見えますよ!」

 

仮にも先生であろうこの大人には、おもちゃやゲームといったものに多額の金銭を費やす悪癖がある。それも食費を削ってしまうほどに。仕事でのストレスからか、子供の頃からの憧れからか、単に自制心が欠如しているからかは分からないが、先生のくせしてその辺は非常にだらしない。

 

「どうしてそれを!そのレシートは処分していたはずなのに……」

 

「何しれっと隠蔽しようとしてるんですか!5000円以上の買い物をする際は私に連絡するよう言いましたよね!?」

 

先生の浪費癖はユウカにも知られている、いや知られてしまった。書類の整理中にレシートを見つけたり、簡素すぎる食事内容を気にした結果露呈した。彼女の勤勉さや親切心によるものだが、それは先生にとってマイナスに働いたようだった。結果として先生はユウカに家計を管理されている。主婦かな?

 

「まったく、捨てられたレシートを◼◼◼が回収してくれたからよかったものを……」

 

「◼◼◼!?」

 

先生がすごい早さで顔を向けてくる。そう、密告したのは私だ。

 

「ユウカと◼◼◼は共犯……ってこと!?」

 

いや面白そうだったので……。

 

「そんな理由!?」

 

それは冗談ですけどね。でも先生って食費を削ってまで趣味にドバドバ金落として、この間だって1日1食コッペパンだったじゃないですか。体調も芳しくなさそうだったし心配なんですよ。

 

「やっぱり!顔色が悪いと思ったのはそのせいね」

 

私の言葉を聞き、ユウカがずいっと先生に顔を近づける。

 

「違う、誤解なんだ。話し合えば分かり合えるはずなんだ」

 

「……では聞きますけど、どうしてそこまでして高額な買い物を?」

 

「ほしいと思ったときが買い時なんだよ」

 

「聞いた私が馬鹿でした!」

 

わかる。

 

「◼◼◼!?あなたこっち側じゃないの!?」

 

購入を保留した結果売り切れてた時の虚しさったらないですよね。

 

「わかる」

 

「二人で勝手に盛り上がらないで!」

 

ユウカの注意がこちらに向き始めた折を見て、先生に視線を送ると先生が視線を一瞬あわせる。

 

「少しお手洗いに行ってくるね」

 

「待ってください先生、話はまだ……行っちゃった」

 

先生は何とかユウカから逃れることができたようだ。いや逃れられてないか、どうせトイレから出たらこってり絞られるだろう。

 

「ねえ◼◼◼、レシートを見たってことは先生の不摂生を知ってたのよね?」

 

ユウカがこちらを振り返り疑問を口にする。

 

「あなたのことだから浪費する前に止めたり食事をマシなものにするとかしてそうだけど、分かっててやらせたの?」

 

はい、大人は子供ほど変わりやすくはないですから。

 

「あなたも子供でしょうに……」

 

そう言って呆れたように頭を押さえるユウカ。子供からすれば大人のだらしなさや先生の浪費癖は理解できないだろうが、そこに対してだけは異を唱えたい。

 

あれは投資なのだ。代償を支払った自分に対して、その後の成果に対する期待を求める儀式なのである。これまでの労働に対する報酬を与え自身を労う側面と、消費に対する労働を自身に強制させる側面こそが、あの浪費の意味なのだ。

 

先生もキヴォトスに来たばかりなのに加えて、シャーレにはアホみたいな量の業務が舞い込んでいる。そんな中でも日夜労働に勤しんでいる先生にも何かしらの救いは必要だろう。どれほどくだらないものだとしても、それがないと人は生きていけないのだ。

 

まあ金持ったバカの末路と言われたらそれまでだが。

 

「別に金を使うなと言ってるんじゃなくて、必要なお金を残してほしいってだけなのに……」

 

それはそう。

 

「大人ってみんなこうなのかしら」

 

大人になれば分かりますよ。

 

「あなたも子供よね?」

 

ユウカさんが子供なら子供ですよ、同期なんで。

 

「……ミレニアムにいた時も含めればそれなりに経ったとはいえ、あなたのことが分からなくなってきたわ」

 

私がどうかは分かりませんが、ユウカさんは分かりやすいですよね。

 

「どこが?」

 

先生に対して態度が露骨に変わるところとか。

 

「そ、そんなに?」

 

声のトーンも高くなるし、仕草に年頃の乙女感が出てましたよ。

 

「もう少し早く教えてほしかった……!」

 

悶えるユウカを横目に、先生の人たらしっぷりにため息を吐く。出会ってそれほど経っていないのに生徒の心を掌握するとは、あの天然ジゴロは何処かで刺されるのではないかと心配になってくるんですが。ユウカもユウカで堕ちるの早すぎやしませんかね。

 

それはそれとして、と呟きながら切り替えたユウカが話題を戻す。

 

「先生の浪費を止めなかったのはどうして?業務効率が落ちて困るのはあなたじゃない」

 

まあ元々良くはないですし、さほど影響はありませんよ。

 

「仮にそうだとしても、あなたならもう少し対策をするものだと思っていたわ。料理だってできるし、買い物の方だって……わざわざ放置する必要はないわよね」

 

お膳立てというやつです。

 

「どういうこと?」

 

現在時刻は12時43分、不摂生で痩せ細った先生。仕事も一段落つきましたし、ランチに誘うにはちょうどいいと思いませんか?

 

「……まあ、そうね」

 

ユウカさんもセミナーの業務で忙しいでしょうし、ゆっくりランチをとる時間もないのでは?それに先生と過ごす時間の確保も難しいでしょう、業務以外の時間となれば尚更。

 

「……」

 

先生にもユウカさんにも休息は必要です。今回は意図的に先生を弱らせましたがそうでもしないと休まないでしょうから、まあその分私の方で業務は進めておきますのでお二人はごゆっくり。せっかくだから新しくできた赤い屋根のお店なんかどうです?マルゲリータが美味しいし雰囲気がよくて──

 

「ストップ」

 

ユウカがそう言うと同時に額に軽い痛みを感じる。おそらくデコピンだろうが、その意図がよくわからない。混乱していると再度ユウカから声がかかる。

 

「私のことを気遣ってくれたのはわかるわ。それに先生にも強引ではあるけど休息をとらせようとしたことも理解できる」

 

はあ、と一つため息が吐かれる。

 

「でもそこまであなたがする必要はないのよ?私達が手伝えば先生が休める時間も作れるし、私だって自分の時間ぐらい確保できる。それに先生との関係もあなたが気にする必要はないわ、そのくらい自分でどうにかするもの」

 

それにね、とユウカは続ける。

 

「どうせ行くなら◼◼◼も一緒に行かなきゃダメよ。久しぶりに会えたんだし、話したいことも沢山あって……会えるのを楽しみにしてたんだから」

 

私の肩にユウカの手が置かれる。熱を感じるのはその手か言葉かはわからないが、その申し出を断る理由もなかった。

 

「よし、そうと決まれば先生を連れていくわよ!元はと言えば先生がちゃんとお金を管理できてたら……」

 

「え、私が何だって?」

 

二人で声の方に視線を向けるとトイレから戻ってきた先生がラノベの主人公みたいな台詞を吐いていた。

 

「……先生がお金の管理できてたらこんなに気を揉まなくてもよかった、って話をしてたんです」

 

若干の恨みがましさがユウカの表情に滲み出ている。

 

「ごめんごめん、お詫びってわけじゃないけどご飯を食べに行かない?お腹空いてきた頃だと思ってね」

 

「私達もちょうどその話をしていたところです。でも先生の財布は……」

 

「大丈夫だよ、私にはカードが」

 

大丈夫なわけねーだろハゲ。私の方で何とかしておきますから。

 

「◼◼◼?」

 

「その辺りは◼◼◼に任せるわ。先生に任せると録なことにならないでしょうし」

 

「ユウカ?」

 

自分に対する信頼の無さに先生の表情が情けないものになる。完全に自業自得なので真摯に受け止めていただこう。

 

「食事に行くなら◼◼◼がオススメしてたお店でもいいですか?赤い屋根のお店らしいんですけど……」

 

「ああ、あのイタリアンの店ね。あそこのランチタイムはもう少しで終わるよ?」

 

先生の言葉にユウカが硬直する。そういやあそこランチタイムが短かったよなと今更になって思い出した。

 

「ちょっと◼◼◼!」

 

忘れてました。すみません。

 

「あんな状況で言ってくるからちゃんと時間も考慮されてると思ったのに、肝心なところで抜けてるじゃない!今から走っても間に合うか怪しいし……」

 

てへぺろ。

 

「はっ倒すわよ!?」

 

「この辺りには他にもお店があるんだし、他のお店でもいいんじゃない?」

 

「それはそうですけど、さっき◼◼◼から話を聞いたせいで口が完全にピザになってるんですよ!」

 

それはわかるけども。

 

「あぁもう!さっさと行きますよ先生、120%で走ればギリギリ間に合いますから!◼◼◼もさっさと走る!」

 

「ちょっとユウカ!?」

 

ユウカが先生の手を引っ張って走り出す。先生は驚きつつも表情を柔らかくして歩幅をあわせる。なんて呑気に見ていたら既に距離を離されており二人の背中が小さくなっている。

 

デスクに置かれたタブレットを取ろうと視線を向けると窓から青空が見える。透き通って、果てしなく、突き刺さるような青空に数秒目を奪われる。遠くから聞こえるユウカの声に奪い返され、タブレットを手に走り出す。

 

 

こちらシャーレの窓辺より。

キヴォトスは今日も快晴です。




久しぶりに書いたけど楽しいね。
気が向いたらまた書きます。

ちなみに◼◼◼◼の名前はネタバレになりそうなので伏せときます。
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