こちらシャーレの窓辺より。   作:Gissele

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引き続きマイペースにやっていきます。


甘味による歓喜、結果大惨事

キーボードを打つ音。ペンが紙の上を走る音。紙と紙が重なりあう音。判子が押される音。シャーレの部室は今日も変わらず業務に関する音で埋め尽くされていた。

 

連邦捜査部シャーレ。発足したばかりで所属する生徒も少ないというのに仕事ばかりがたまっていく。その要因はシャーレという組織の特殊性にあった。

 

シャーレに決まった機能や業務といったものはなく、あらゆる生徒から寄せられる相談に応じ、様々な業務に対応していく。その業務は配達や猫探しといったクソほど関係のないものから不良生徒の鎮圧まで幅広く、それが許容される故にシャーレの業務は不定形かつ広範囲に広がることとなった。

 

そこまで知名度が広がっていない現状でもこれなのに、何かの拍子に知れ渡ったらどうなるものかと戦々恐々としていると。

 

「◼◼◼、こちらの書類の確認をお願いします」

 

雑多な音の中から聞こえた私を呼ぶ声。その方向を向くと、今日の当番である羽川ハスミの黒い翼が光を遮る。背丈と翼と色合いのためか余計に暗く感じるな、と思いながらハスミから書類を受け取る。

 

「何か不備があれば教えてくださいね」

 

いえ、全く問題ありません。処理も早いですし私が見習いたいぐらいですよ。

 

「ふふ、口がお上手ですね。連邦生徒会の人間だと身構えていましたが、杞憂だったようです。これまでの対応はあまり良いとは言えなかったので……」

 

まあでも連邦生徒会への印象は正しいと思いますよ。ご存じの通り連邦生徒会長の失踪によりガッタガタですし、元から対応の苦情は多く寄せられていましたから。我々の不徳の致すところです、申し訳ありません。

 

「気にしなくて大丈夫ですよ、それに◼◼◼のように礼儀正しく真面目な人と出会えたのは幸運でした。今後とも仲良くしてくださいね」

 

是非、と返しつつキーボードを叩き続ける。ハスミも自分のデスクに戻り作業を再開していた。そうして再び業務の音が部室内に充満していく。

 

羽川ハスミ。トリニティ総合学園において治安維持の役割を担っている正義実現委員会の副委員長。文武両道、委員会の中では外交や部員の取り纏めを担っており、下からの信頼も厚いと聞く。立ち振舞いも気品に溢れており、聞いた通りの人物だと改めて感じていた。

 

先のシャーレ部室解放作戦にて先生と行動を共にし、その後シャーレに所属した、俗にいう初期メンバーと聞いていたが、これだけの存在がシャーレに協力してくれるなら今後の不安も少なからず和らぐというものだ。

 

「……よし、仕事も一区切りついたしいい時間だから二人とも休憩にしない?」

 

入力作業が終わり伸びをしていると先生から休憩の誘いが来た。それに賛同するとハスミからも同様の返事が返ってきた。それを聞いた先生は上機嫌に立ち上がる。

 

「この間生徒の悩みを聞いてたらお礼にお茶菓子を貰ってね。よかったら食べようよ」

 

わかりました。飲み物もあわせて準備しますのでお待ちください。

 

「……紅茶でよろしければ私が用意しましょうか。これでも紅茶の淹れ方には心得がありまして」

 

「それならお願いしようかな。楽しみだなぁ」

 

仕事から解放されてご機嫌な先生とは対照的に、お茶菓子という単語に僅かながら反応を示したハスミ。表情こそ変わってないが声が若干低くなっているところを見るに、何かあるようだ。

 

そんな私を他所にハスミが紅茶の用意をしているのが視界に入った。紅茶についてさほど明るくない私でも、所作の美しさや技術的な部分が洗練されている様子を感じとることができた。

 

「準備ができました。先生、◼◼◼、どうぞこちらに」

 

一連の動作に見惚れているとハスミから声がかかる。先生も席について私を呼んでいるようで、自分が思った以上の時間が経過していることを実感した。先程までの疑問は既に投げ出されており、皿に移した菓子とカトラリーを手に二人のもとへ駆け足で向かうのだった。

 

 

 

 

 

「この紅茶すごく美味しいよ。ハスミの淹れ方がよかったんだろうね、動きも綺麗で見惚れちゃったよ」

 

「喜んでいただけたようで何よりです。普段と違う環境だと味が変わってしまうかと心配でしたが、そう言っていただけてホッとしました」

 

シャーレで普段使っている普通の茶葉だというのに、淹れ方だけでこれほどに違いが出るのですか。今まで粗雑に淹れた紅茶のことを思うと急に申し訳なくなってきました。

 

「細かい部分を気をつけるだけでも美味しく淹れられるものですよ。後で教えましょうか?」

 

是非お願いします。

 

「これから飲む紅茶が楽しみになってきたなぁ。クッキーも美味しいし紅茶によくあうし、いいティータイムになったよ」

 

ハスミと私が話すのを見ながら先生がクッキーを食べていたので、私も手に取り一口齧る。サクッと軽い食感と共に程よいバターの甘味と上に乗ったジャムの酸味が口内に満ち、紅茶の香りと調和している。美味だ。

 

「……」

 

上機嫌な私と先生とは裏腹に、ハスミの表情に影が差す。表面上はうまく取り繕っていはものの細かく何度もカップに口をつけている様子からある程度の事情は察せられるが。

 

「◼◼◼、どうしましたか?」

 

……いいえ、何も。

 

思考が表情に滲み出ていたのかハスミから声がかけられる。向こうがこちらの思考を読んでいるかは分からないが、今の一言が「余計な詮索をするな」という牽制である可能性を鑑みると退くべきだろう。多弁は銀、沈黙は金というやつだ。

 

「この辺りでお開きにしようか。まだ仕事は残っているからね」

 

その後も雑談を繰り返しながら紅茶とクッキーに舌鼓を打っていると先生から声がかかる。腕時計で時間を確認すると1時間ほど経過しており、想像していたよりも長い時間が流れていた事実に驚かされた。

 

「ハスミのおかげで優雅なティータイムになったよ、ありがとう」

 

「そう言っていただけて嬉しいです。機会があったらまた淹れさせてください」

 

談笑する二人を横目に後片付けに勤しむ。ハスミはまだシャーレの物品等の勝手を知らないだろうし、先生はこういう片付けをするぐらいならさっさと仕事を片付けていただきたい。まあ二人にやらせることが忍びないというだけではある。

 

「ところで◼◼◼と何かあったの?さっきから視線が鋭いというか」

 

「い、いえ、何もありませんよ?ここ最近は落ち着いたとはいえ治安の悪化は未だに続いていますから、その対応による疲れが出たのかと思います」

 

「そっか、それならよかった」

 

こういう場面で鋭敏さを発揮する先生を横目に食器を積み重ねていく。やはりハスミの皿には手がつけられていないクッキー達が寂しげに佇んでいた。

 

 

 

 

 

「今日はありがとう。ハスミのおかげで予定より早く終わったよ」

 

「お力になれたのならよかったです。私も正義実現委員会の業務があるのでいつもとはいきませんが、機会があればまた手伝わせてください」

 

仕事も終わり、3人でシャーレのビルを出る。隣り合って話す二人を追う形で外に出ると、少しばかり冷え込んだ外気が頬を撫でた。

 

「それなら私がトリニティに行こうかな。互いに合う時間がないかもしれないけど」

 

「そうですね、以前にもお話しましたが先生には一度トリニティ総合学園に来ていただきたいです」

 

そうして二人の会話を追いかけていると。

 

「◼◼◼、この後少し時間をいただけないでしょうか」

 

私ですか、いいですけどどうされました?

 

「大した用ではないのですが、もう少し話をしたいと思いまして」

 

「うん、生徒同士仲良くなるのはいいことだね。私はここから別の方向だから二人でゆっくり話すといいよ」

 

「……わかりました。今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ。二人とも気をつけてね」

 

にこやかに手を振り歩きだす先生の背を見送る。そこまで治安が悪いわけではないものの、銃弾が致命傷になりかねない先生を一人で歩かせるのは少しばかり不安が残る。まあいざとなれば私がどうにかするだけの話だが。

 

「◼◼◼、無理を言ってすみません。本当に大した用ではないのですが」

 

大丈夫ですよ。それで要件を聞いても?

 

「それが……ですね……」

 

そういい淀む様子から、長身なはずのハスミが心なしか小さく見える。チラチラと視線を送る先は先生が歩いていった方向。なるほど、聞かれたくない部類の話しか。

 

「ええと……◼◼◼?」

 

ええ、もう先生には聞こえませんしここにはハスミさんと私の二人だけです。話しても大丈夫ですよ。

 

「そうですか、では……」

 

はあ、とひとつ息を吐いてこちらを見据えるハスミ。トリニティでこんな様子を見せたら「何か重大な案件が発生したのでは」と勘繰る生徒もいるだろうが、実際のところは……。

 

「私の、体重について相談させてください!」

 

うん、知ってた。

 

「で、では◼◼◼は知っていたのですか?」

 

何となく察する程度ではありますけどね。ハスミさんこそこちらの様子を見て気づいていたのかと思いましたよ。

 

「いえ、全く……」

 

要するに、自身の体型についての相談だった。どうやらハスミ自身は自分の体が太っていると認識しているようで、ミレニアムの出である私に良いダイエット方法はないか聞きたかったようだ。確かに、乙女の繊細な悩みを先生に聞かれるわけにもいかないか。

 

「何かいい方法はないでしょうか?これまで色々と試してきたのてすが上手くいかなくて……」

 

我慢の末スイーツのドカ食い。定番ですね。

 

「まだ何も言っていないのですが!?」

 

クッキーに手をつけていませんでしたし、それでいて物欲しそうな目をしてらっしゃいましたから。本当は甘いものが好きで食べたいけどダイエットのため制限、でも我慢できずいつも以上に摂取してしまう。典型的なリバウンドの事例です。

 

「ぐっ……!」

 

思い当たる節があるようで悶えるハスミを見ながら、相談された内容について思案する。

 

要件としては体重の減少か体型の改善、またはその両方だろう。まあ痩せたいと言えばそれで言い表せる内容なのだが、ハスミの様子をみるに一筋縄ではいかないようだ。

 

「……概ね当たってます、ですのでできる限り無理のないものがいいのですが……」

 

いくつか紹介はできますが……ハスミさんは身長も高いですし、それを考えたら無理に痩せる必要もないと思うのてすが。

 

「いえ、事態は深刻なんです!この間も学校指定のジャージを着ようと思ったら胸が邪魔でファスナーが上がらなかったんですよ!」

 

わーお。

 

「体重計に乗ると決まって数値が増えているんです、その両方から自分が太っているのだと思い知らされて……」

 

確かに数値は適正体重をややオーバーしていますね。ギリギリ標準、といったところでしょうか。では数値とシルエットの双方でシェイプアップをしたいと?

 

「ええ、◼◼◼はミレニアム出身だと聞きました。科学や技術力において突出しているミレニアムなら、ダイエットに活用できるものがあるのではないかと思い声をかけました」

 

ハスミにはミレニアムの出だとは話してなかったと思うが、まあユウカか先生にでも聞いたのだろう。隠すつもりもないし直接聞いてもよかったと思ったが、依頼の内容を鑑みるに直接は話しづらかったのだと考えておこう。

 

「それで……どうでしょうか?」

 

なるほど、そういうこでしたら……。

 

それから暫く話し込み、残していたクッキーを包んだ袋を渡してハスミと別れた。一先ず自分が知ってる知識やツール、ミレニアム生徒とのコネクションを紹介できたので少なからずの力添えはできただろう。別れ際に「これで私もようやく……!」とすごい表情をしていたが大丈夫だろうか。

 

ふとタブレットを見るともう少しで日を跨ぐ時間帯になっていた。明日の業務に備えなければ、と駆け足で帰路についた。

 

 

 

 

 

夜が明け、今日もシャーレにてペンを走らせる。今日の当番はないないため業務のスピードこそ落ちているものの、昨日ハスミが手伝ってくれた分の余裕があるため幾分か楽ができている。

 

「◼◼◼、電話鳴ってるよ?」

 

先生の声に視線を左に向ける。デスクに置いていたスマホがけたたましく震えている。マナーモードを切り忘れていた自分に呆れつつ画面を見る。

 

「先生、通話のため少し席をはずします」

 

「うん、わかったよ」

 

先生に断りを入れ、部室の外に出てから応答のアイコンをタップすると、ノイズのような音声が聞こえた。

 

「ハァ、ハァ……◼、◼◼◼ですか?」

 

はい、◼◼◼◼です。もしかしてですが……。

 

「はい、今ミレニアムにいるのですが『そちらにいらしたのですね!』ヒィッ!?」

 

電話越しに聞こえた声には覚えがある。となると昨日のアドバイスの中で紹介したあの人のところだろう。

 

「スミレさん、これは『ハスミさんのためのダイエット用トレーニングはここからが本番なんです!さあ、肉体の限界を打ち破り理想の体型を手に入れましょう!』さ、流石に休憩を『代謝が上がり燃焼している今だからこそ!身体を苛めぬいた先に引き締まったウエストが待ってますよ!』せめて5ふ『その甘えこそが最大の敵!屈強な肉体は屈強な精神から!』助けてください◼◼◼!」

 

なるほど、話がみえてきた。こいつやりやがったな?

 

「◼◼◼、何とかあの方を」

 

昨日渡したクッキーを全部食べて罪悪感から一番ハードなトレーニング部での運動を選んだみたいですが、スミレさんによるトレーニングは必ず後悔するレベルの運動強度だと言いましたよね?

 

「だからなんで全部わかるんです!?」

 

自動でカロリーを計算するツールや代謝を一時的に促進させるサプリメント、体重増減に関する論文を渡したはずですが、それらをすっ飛ばして即効性のあるトレーニングに目を奪われたと。

 

「◼◼◼、もしかしてお」

 

私もやりましたがしんどかったですよ?小鹿のように震えながら歩くハスミさんを見れないのは残念ですが次にお会いする際には引き締まったボディを見せてくれることでしょう。楽しみです。

 

「絶対おこ『トレーニングに戻りますよ!まずはトレッドミルから!』ヒッ」

 

ガシャン、という音と共に音声が途切れた。おそらくトレーニングに連れ戻される過程でスマホを床に落としてしまったのだろう。地獄のトレーニングに苦しむだろうが、まあそれを選んだのは彼女自身、自分の行動に対して責任をとってもらおう。

 

「おかえり、何かあったの?」

 

部室に戻ると先生が声をかけてくる。

 

「いえ、特には。強いて言うなら急がば回れ、といったところです」

 

「……?」

 

頭にクエスチョンマークが浮かんでいそうな先生を横目に自分のデスクへ向かう。書類の山から一枚取り、その上にペンを落とすと雑念が消えていく。そうして私は日常へと戻っていった。

 

 

こちらシャーレの窓辺より。

甘味とダイエットは計画的に。




CODE:BOXでもスミレの描写がありましたね。化け物かよ

スミレの別衣装は予想できませんが髪を下ろしてるところみたいなと何となく思います。
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