こちらシャーレの窓辺より。   作:Gissele

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前話を見ていただきありがとうございました。
更新頻度はバニタス。


閃光を羨望する連邦捜査部担当

「なるほど、耳を塞がずに音漏れもしない……パトロールにうってつけですね」

 

ええ、値段も結構跳ね上がりますが得られる恩恵は大きいかと。どうですか?

 

「確かに魅力的ですが……やはり値段がネックですね。それに今使っているものにも愛着がわいていますし次の機会があれば候補に入れようと思います」

 

「何の話をしてるの?よかったら聞かせてもらえないかな?」

 

話の途中で声が差し込まれる。振り向くと先生がジュースを片手にヒラヒラと手を振っていた。お手洗いに行くついでに差し入れを買ってきてくれたようだ。こういう気配りが生徒からの信頼を集める要因の一つになっているのだろう。

 

「ありがとうございます。◼◼◼さんとヘッドホンについて話をしていました」

 

「スズミはパトロールの時に使ってるもんね。◼◼◼もそういうの詳しいんだ?」

 

私はイヤホン派ではありますが、音楽鑑賞という点では共通していますから多少は話せます。休憩時間も曲を聴いたりしますし新商品はチェックするようにしていますからお力になれると思いましてね。

 

「私はそういった機器の知識がないんです。今使っているのも汎用的なものなので……ですが◼◼◼さんはとても詳しくて色々教えてくださるんです」

 

「共通の趣味や話題があるっていいね。私も教えて貰おうかなぁ」

 

先生に紹介する分には構わないですが、購入する前にユウカさんに報告はさせていただきますね。

 

「うっ……わかりました」

 

先生がジュースを差し出してきたので感謝を述べつつ受け取る。あ、パッケージがモモフレンズとコラボしてるカフェオレだ。私のものはウェーブキャットが印刷されてある。……まあかわいいんじゃないだろうか。

 

「私にまで……お心遣い痛み入ります」

 

「いつも手伝ってくれてるからね、遠慮なく受け取ってほしいな」

 

この出費の報告も遠慮なくしときますね。

 

「少しは遠慮してほしいかな?」

 

かしこまった態度をとっていたスズミだが、先生とのやり取りを経て表情が少し柔らかくなっている。元の性格か緊張かはわからないが、まあ肩の力が抜けたのならそれでいいだろう。

 

ペットボトルのキャップを開け、内容物を口内に流し込む。中身は普段通りのカフェオレで肩透かしを食らった気分になるが、変なアレンジをされても困る。美味しいのは美味しいのだ、ありがたくいただこう。

 

わざとらしい甘さを堪能するとキャップをきつく閉め、目の前のタスクに向き合う。少しずつシャーレの存在が認知され始めたためか以前より業務が増えた気がする。書類仕事、暴徒の鎮圧、連邦生徒会との連絡調整、なんかよくわからない業務まで出てくる始末だ。

 

「自警団の活動はどう?やっぱり大変?」

 

「最近は落ち着きましたが、連邦生徒会長が失踪してからはキヴォトス中が混乱していましたから。そういった事案の対処にあたる回数は増えましたね」

 

「ハスミから正義実現委員会も対応に当たってるけど鎮圧が混乱に追いついていないって聞いたよ」

 

「正義実現委員会も動いてはくれているようですが、やはり対応が後手に回っていると言わざるをえません。そのための自警団ではあるのですが……」

 

スズミの表情には若干の疲れか諦めのようなものが浮かんでいる。この混乱や正義実現委員会に対しても何かしら思うところがあるのだろう、無理もない。

 

守月スズミ。トリニティ総合学園にて自警団として活動する生徒。派閥同士の諍いやにらみ合いによって雁字搦めになるこの学園においてそこに縛られず、正義感のもとに自警活動を行う傑物。

 

自警団と正義実現委員会は治安維持という点では共通しているが、生徒会であるティーパーティーの指揮下に置かれる正実はその指示や意図から逃れられず小回りが利かない。その点自警団は非公認ではあるがそれ故に何にも縛られず活動にあたることができ、柔軟な対応ができるのだ。

 

そのため自警団と正実が対立することもあるらしいが、今回のケースではそういったことはないようだ。互いに嫌っているのではなく、立場上そうなってしまうといったところか。ハスミとスズミの仲も険悪ではないようだし大丈夫だろう。

 

「……組織の構造上そういった問題はつきまとうのは仕方ありませんが、それでも事件や生徒の怪我が後を絶ちません」

 

そしてそこに自警団の存在意義があると。

 

「はい、自警団はそもそも有志が名乗ってる通称のようなものであり組織があるわけではありません。なので派閥のしがらみにとらわれず動けます」

 

「自分の意思で誰かの為に動こうとするのは素晴らしいことだよ」

 

「いえ、私はすべきことをしただけです」

 

何でもないことのように彼女は言うが、倫理観と銃弾が飛び交うキヴォトスにおいてそれができる生徒は圧倒的に少ない。彼女の当たり前は他者にとって常軌を逸したものなのだ。

 

だが彼女の中ではそれは当たり前のことで、特別なものではない。だからそれを伝えようとしてもスズミ自身が受け入れることはない。彼女のしていることを考えると、そこが少しばかりもどかしく感じてしまう。

 

「それでも助けられた人はスズミに感謝しているよ」

 

「そうですかね、鎮圧した相手から恨まれているとは思いますが」

 

閃光弾を使って相手を傷つけないようにしても、ですか?

 

「ええ、しようとしていたことを邪魔した事実は変わりませんので」

 

スズミは戦闘の際にスタングレネードを多用している。閃光と爆音を用いて敵の感覚を麻痺させ無力化する非致死性武器を用いる理由は、つまりそういうことだ。

 

「その恨みも時間が経って落ち着いて、そうした時にスズミへの感情は変わっていくんじゃないかな」

 

あの時バカなことをしていた自分を止めてくれた相手、と大人になってから思うでしょうね。

 

「そうであってほしいものですね」

 

悪さをしている相手に対しても可能な限り傷つけないようにスタングレネードを使用する。誰かに頼まれたわけでもなくただ自身の信念のために自警団として活動する。そんな彼女には、連邦生徒会の人間として思うところがあるのだ。何かしら報われてほしいとも勝手ながらに思っている。

 

ただそれをそのまま伝えるわけにもいかず、かける言葉を見失ってしまった。再び紙とペン、キーボードの喧騒が押し寄せ、それらに呑まれるように業務へと意識を戻された。

 

 

 

 

 

その日の業務が終わり、先生とスズミと三人でシャーレを後にする。今日の仕事が比較的少ない方だったこととスズミの処理速度が想定より速かったこともあり、日が沈む前に業務を終えることができた。

 

「今日はありがとう、スズミのおかげで早く終われたよ」

 

「お役に立ててよかったです」

 

ふーん。

 

「もちろん◼◼◼もだよ、いつもありがとう」

 

わかればよろしい。

 

「それでさ、よかったらなんだけど二人に相談があって」

 

先生の一言にスズミと視線があった。

 

「二人ともヘッドホンとかイヤホンに明るいみたいだから、お店を見ながらオススメとか教えてほしいんだけどいいかな?」

 

「なるほど、そういうことでしたら是非」

 

私も構いません。元々近くの店に行く予定でしたから。

 

「ありがとう二人とも、それじゃあよろしく頼むよ」

 

相談という言葉に少しばかり身構えたが、業務中に話を聞いて自分も欲しくなったとかそんな感じだったようで肩の力が抜けた。スズミはスズミで表情が柔らかくなっているので悪い気はしていないのだろう。

 

話をしながら歩いていると店に到着した。近辺でオーディオ機器の品揃えが一番良い店で私もここの常連客である。ただスズミにとっては初見の店、先生にとっては未知の世界であることから「おぉ……」と二人が声を揃えて漏らしていた。

 

「品揃えがすごいんだね、珍しいものも多かったり?」

 

「ええ、普通の店では取り扱ってないコアなものまで揃えてありますね」

 

試聴もできますのでお試しいただければと思います。

 

「それだけ聞くと店員さんみたいだね?」

 

話をしながらイヤホンとヘッドホンのコーナーに歩を進める。多くの機種が展示され、それを試聴できるようになっている様子にホームグラウンドに帰ってきたような感覚に陥る。

 

そうして3人和気藹々とショッピングをすると思うのだろうが、残念ながらそうはならない。なぜなら。

 

「◼◼◼、これはどうかな?パッと見よさそうだけ」

 

いや音もいいし装着感もいいですが先生には向いていないですね。音質を求めつつコストを追及した結果防水・防塵性能があまり良くないんですよね。砂漠地帯や海にある学園もあってそこで故障しかねないのでオススメできないです。それにその製品は初期不良の確率が他のメーカーに比べて高くなる傾向にあります。安物買いの銭失いになりかねません。ユウカさんに出費を言われるかもしれませんがここは1万円以降の価格帯のものを買うべきです。この製品なんか先生にオススメですよ。耳を塞がないタイプなので襲撃に気づかないなんてことはないですし、完全防水完全防塵なので場所を選びません。耳にかけるタイプなので落として紛失するリスクもケアできます、落とし物の割合におけるワイヤレスイヤホンってめちゃくちゃ多いですから。音質も妥協はなくて全帯域の音をバランス良く鳴らしてくれるのでジャンルを選ばず活躍させられますしアプリと連携させることで好みの音に設定できますいや寧ろそのためにフラットなチューニングにしているのでしょう。音漏れも少ないのでオフィスで使う分にも問題ないですしBluetoothの接続安定性も問題ありません。やや筐体が大きいところがネックですがそれ以外に不満のない完成度の高さから多くのユーザーに評価されております。そのため15000円とワイヤレスイヤホンとしては値段が上がりますが機能を考えるとコストパフォーマンスの高い商品です。どうですか?

 

「ごめん◼◼◼もう少しわかりやすく」

 

これ買え。

 

「高低差が激しすぎない!?」

 

「◼◼◼さん、これが先程言っていた製品ですか?」

 

そうですね、値段は4万とバカみたいな値段ですが完全に耳を塞がないものなのに音質もよく音漏れもほとんどない正直バカみたいで末恐ろしい商品です。ですが予算オーバーであることと元の機種への愛着があるということでヘッドホンのイヤーパッドカバーをオススメします。このメーカーのものは他の物に比べて値は張りますが装着感は抜群ですし耐久性能も高いので交換頻度を考えてもお買い得です。イヤーパッドも劣化していくので愛機を保守すると言う点でも購入を推奨させていただきます。

 

「ありがとうございます、サイズを見てきますね」

 

「す、すごく詳しいんだね」

 

別に言うほど詳しくもありませんよ。本来であれば有線イヤホンの沼に沈めたいところですが利便性を考えるとお世辞にも良いとは言えませんから今回は妥協します。

 

「あ、あはは……」

 

このように沼に浸かった人種の毒牙にかかるからだ。先生は疲弊しきっているようだがスズミはスズミで楽しんでいるらしく鼻歌交じりでレジへと向かっていた。あまり待たせるのも申し訳ないので先生へもうワングレード下のモデルを買わせよう。ついでに私も幾らか買い物をして3人で店を後にした。

 

 

 

 

 

スズミさん、少しいいですか。

 

「どうしました?」

 

先生と別れた後、スズミに声をかける。完全に用事が済んだと思っていたようだが返事はしっかりとしたものだった。

 

こちらを渡そうと思いまして。

 

「ええ、と。これは?」

 

開けてください。

 

「わかりました……これはイヤホン?あ、スカルマンの……」

 

はい、先生がジュースを買ってくれた時に見ていたようなので気になっているのかな、と。

 

「これを私に……ですか?」

 

スズミに渡したのはあるメーカーとモモフレンズがコラボしたモデルでイヤホンの筐体がモモフレンズのキャラクターになっているものだ。スズミが業務中に見ていたのがウェーブキャットだったのでそれを買ったが安直だろうか。ペロロでもよかったが既に在庫は無くなっていたのでこれになった。

 

「私、◼◼◼さんに何かしましたっけ?」

 

強いて言うなら業務の手伝いと日頃の行いですかね。自警団の活動は連邦生徒会としても助かってますし貰ってくれると嬉しいのですが。

 

「こういった贈り物をいただけるようなことをした覚えはありません。当番も自警活動も私がすべきことなので……」

 

あなたにとっての当たり前は私たちにとっての特別なんです。あなたの他者を想う優しさと正義感は誰もが持ちうるものではなく、だからこそそれは評価されるべきです。単純にいいことをしているあなたが報われてほしいって思っているだけ……これで足りるとも思いませんが。

 

「いえ、嬉しいです。そう思っていただけること、受け止めさせていただきますね」

 

そう言ってスズミはイヤホンをギュッと握りしめた。いや筐体が傷つくからやめて……すみません空気読みます。

 

「では、◼◼◼さんにも何か贈らせていただきますね。希望などあれば言ってください」

 

では20万のイヤホンでお願いします。

 

「え、えっと……」

 

冗談です、私には必要ありませんよ。連邦生徒会として、すべての生徒のため尽力するのが生業ですから。

 

「ですがあなたもキヴォトスのために尽力しているのですから、何かしらの報酬があって然るべきなのでは?」

 

それは連邦生徒会から出ますので大丈夫ですよ?

 

「私が何かしたいんです。ダメですか?」

 

……では私や先生がヤバい時には助けてもらいましょうか。

 

「ふふっ、頼まれなくてもそうしますよ。なので今日は……」

 

そうして上機嫌な様子で微笑むスズミに並んで帰路につく。浮わつくような嬉しさと伝えきれていないようなもどかしさを抱いて胸がどうにかなりそうだった。

 

 

 

 

 

「あれ、かわいいイヤホンをつけてるね」

 

休憩中に音楽を聴いていると先生から声をかけられる。最初音楽で聴こえなかったが、外すとそのような言葉がかけられた。

 

「モモフレンズだっけ?確か……」

 

ウェーブキャットです、昨日先生が渡してくれたジュースに描かれてたやつです。

 

「そういえばそうだね、昨日買ったんだ?」

 

いえ、貰い物です。

 

「なるほど、可愛らしくていいと思うよ」

 

そう言って先生は缶コーヒーを煽るのを見て私もイヤホンを装着する。普段と比べて音質は下がるものの、それ以上の満足感が脳に染み渡る。

 

 

こちらシャーレの窓辺より。

戦うあなたに福音があらんことを。




スズミ好き。

ブルアカに似合うイヤホンってチラホラありますよね。

YUME4とかもろユメとホシノだし、Blessing3とか色合いがブルアカっぽいし他にもありそうですよね、コラボ有線イヤホン待ってます。

それそれとしてプラナヘッドホンどうしよ、ほしい。
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