黒見セリカが拐われた。
校舎に戻る際に先生から入電があり、その可能性があると伝えられた。いや正確には「セリカが見つからない」との連絡だったが最悪の事態を想定しなければならないだろう、それにバイト終わりで一人の時を狙ったと考えればその線が濃厚か。
話によるとアヤネがセリカに連絡をしようとしたが繋がらず、スペアキーを使用して部屋に入ったがそこにもいなかったらしい。そのような前例がなかったため先生に連絡し、対策委員会にも召集をかけたらしい。想定していた以上の対策委員会における絆の強さが読み取れた。
通話を終えて対策委員会の面々に合流するとアヤネ、ノノミ、シロコが忙しなく言葉を交わしていた。各々が情報収集に努めていて、スマホの電源が落ちていることとバイト先を定時で出たことが共有された。
暫くして先生とホシノが教室に入ってくる。どうやらシッテムの箱を介して連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスしセリカの位置情報を取得していたらしい。バレたら始末書ものだが緊急事態だししゃーない。
ホシノとは廊下で合流したそうだ。私とは逆方向に歩いていったはずなのにお早いことで。涼しい顔をしているが内心焦ってたのだろう、無理に隠さなくてもいいのに。
先生によると、最後にセリカの端末の反応があったのは砂漠化が進んだ市街地の外れだという。治安維持が難しくなり、カタカタヘルメット団の主力が集まっているとアヤネが補足した。これらの情報から推測されたのはセリカを誘拐したのはカタカタヘルメット団という安易な解だ。
そしてセリカを助けに行くという選択がなされたのも容易に想像できるだろう。急ぎ支度を済ませ、皆でセリカ救出作戦が実行された。
結果としてセリカの救出は無事に成功した。
目的地が確定した段階で車両をトバし、車両の横っ面を叩きセリカを救出。人質を奪われ飛び出した向こうの主力をボコボコにするというシンプル極まりない作戦だったがこれといった障害もなく終わってしまった。
救出の際にはシロコが「半泣きのセリカを発見!」と報告したり、ホシノが「ママが悪かったわ、ごめんねー!」とふざけるなど割と余裕だったようだ、ノノミや先生も若干悪ノリしてたし。アヤネは結構心配していた、たった一人の同級生だし順当か。
そうしてセリカを手厚く見てくれていたおかげで私も戦闘が捗った。ディーヴでFlak41改良型……改造された戦車をバラバラにし、歩兵は私が気絶するまで殴る。対策委員会も加勢してくれたおかげで素早く終わったが、殴打による制圧に関して恐怖心を抱かれているようだった。銃の特性や弾の節約といった理由があるのに、解せぬ。
セリカを保護し帰還すると、対空砲を食らった影響で気を失う。保健室で目覚めた際に本人から先生と私に感謝の意を伝えられた。あれだけツンケンした態度をとってたからか、なかなか素直に伝えられない様子だ。
それでも感謝を伝えられたこと、「また明日」と告げられたこと、それらは進歩を実感させた。彼女たちの中に先生の行動が事実として刻まれ、それが信用へと形を変える。少なくとも敵ではないと認識してくれただろう。
タブレットに概要をまとめ共有する。必要なことを終えて先生の眠る教室の入り口に腰を下ろした。緊張が弛緩したためか、想定より30分ほど長く休養をとってしまったことは反省している。
慌ただしい日々を駆け抜け、少しばかりの平穏が訪れる。しかし対策委員会には時間がなく、その平穏もすぐに喧騒へと姿を変える。息つく時間もない状況にシャーレでの業務を重ねながら会議の進行に耳を傾けた。
昨日の戦車が違法改造車だったり使われてるパーツが不良が扱えるものではないとか、裏で誰かが手を引いているとか。色々話したところで次の議題は借金返済の方策。どのように9億もある借金を返済していくかの話し合いだ。きっと過去にも同じ議題について議論されてきただろうがどうなったかは察せられる。このタイミングで行うのは、先生と私のアイデアを頼ろうという魂胆だろう。
だがその前に言い出しっぺである会計のセリカが案を出してきた。一発大きく当てないと埒があかないという主張には賛成するが見事にマルチ商法の餌食となっていた。なんだよゲルマニウム麦飯石ブレスレットって。あんな態度とっといてお前そんなアホの子だったんか。頭を抱えていると、騙されたことを知り落胆するセリカをノノミが慰めていた。まあ……ドンマイ。
次に案を出したのはホシノだ。彼女は生徒の少なさを指摘し、生徒数を増やす施策を進めるべきだと主張した。確かに数は力である、トリニティやゲヘナがいい例だ。そこにも同意はするが方法がバスジャックからの拉致なので話にならない。ゲヘナを標的にしようとしてたが戦略兵器が飛んでくる未来がみえる。シロコも乗ろうとしたので「やったら私が叩き潰しますよ」と釘を刺しておく。ホシノは冗談交じりに、シロコは少し肩を震わせながら納得してくれた。
3番手はシロコ。先程のやり取りで不安が募っていたが、それを裏切らないよう銀行強盗を提案してきた。その言葉に頭を抱えるが、どうやらそのための準備を趣味として行っており、多分実行したら可能なぐらいには計画を練っていた。満場一致で否決になったものの、流石のぶっ飛び具合に血管がちぎれそうだった。
ノノミがそこに続いて案を出そうとしたため身構えていたが、提案されたのはスクールアイドルというやつだった。いやこれもこれでどうかとは思うが先程までのラインナップと見比べたらかなりマシだろう。しかしそれもホシノによって否定されていた。特定のマニアから支持を集めそうと思っていたら目線で牽制された。まあマシな案というだけでよくもないが。あと水着美少女団のネーミングは流石にダサいと思います。
マルチ商法、拉致、銀行強盗、スクールアイドルの並びに「アビドスには蛮族しかいないのかよ」と若干呆れていたら皆の視線がこちらに集まってきた。頭の中の言葉が漏れ出ていたらしい。アヤネとノノミ以外が不服そうな顔をしているのには少しキレそうになった。ちゃんと堪えた私を褒めてほしい。
「そんなに言わなくてもいいじゃない!それなら■■■も何か案を出しなさいよ!」
セリカの言葉に皆が少なからず賛同している。まあ突っ込むのも飽きてきたし、少しばかり話すとしよう。
まず一発どでかく当てることは現実的ではない。それこそ運任せだったり非合法な方法になってしまい、そうした金はリスクを伴う。そういった金の価値は普通のものより下がってしまうためやめるべきだろう。
それを除外すると生徒を増やすのとアイドル活動となるが、いきなり着手するにはハードルが高すぎるとも思う。そのため段階を踏んで行っていくべきだろう。ということで。
「どうしたの、スマホを見せてきて」
「これは……忍者の動画?生徒がやってるみたい」
「アイエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」
忍者であることは一旦置いといてください。あと先生は落ち着いてください。
「あ~……あれだね、こうやって情報発信をしていくってこと?」
ホシノの言葉に首を縦に降る。生徒を増やすにしろパフォーマンスをするにしろ、まずは生徒の目をこちらに向ける必要がある。SNSや動画投稿、配信サービスなどを用いて宣伝活動や興味関心をこちらに向け、生徒数を増やそうという魂胆だ。スマホ一つで済むしコストもそこまでかからない。寧ろ収益化できればそれだけでプラスになる。現実的な案じゃなかろうか。
「確かにこれならできそうですね。編集を無料でやれるのなら通勤途中にもできますし」
「そしてゆくゆくはアイドルとして……夢が膨らみますね☆」
「でもそう上手くいくものなの?やったこともない初心者がやってできるのかしら……」
まあゲルマニウム麦飯石ブレスレットよりはマシでしょう。
「それは忘れて!」
「休憩中に■■■がタブレットで何かしてるところを結構見るんだけど、何か副業みたいなのはやってるのかな?」
FXを少しばかり。
「うへ~最近の若い子はすごいねぇ、そういうのってボロ負けしそうじゃない?」
まあセリカさんみたいなのがやったら有り金溶かして終わりでしょうね。私は運が良いのでボロ勝ちしてます。
「サラッとディスられた!」
そんなこんなで案が出揃い、先生に選択が委ねられた。結果は。
「……私がプロデューサーになる!」
こうなった。
「ちょ、本気!?」
「こうなっちゃったか~」
ちなみに先生、理由は?
「私が見たい!」
だろうな。
「い──」
アビドスの面々のぶっ飛んだ意見がアヤネに怒りを募らせ。
「いいわけないじゃないですかぁ!!」
そして決壊した。至極妥当である。
それから場所を柴石ラーメンに移して、アビドスの面々がアヤネの機嫌を直そうとあれやこれや色々やっていた。猫撫で声で謝ってみたり、チャーシューをわけてあげたり。露骨ではあったもののアヤネもチャーシューを頬張っているのでその内許しは得られるだろう。
そうしてバイト中のセリカに小言を言われながら和気あいあいとラーメンを食す。今日は塩ラーメンを食べたがあっさりとしながら出汁の旨味が土台として機能している。うまい。
存分に啜っていると店内に4人の学生が入ってきた。やや騒がしいがああいうのは若人の特権なのだろう。そう思って横目で見るとそこには見知った顔が4つあった。
便利屋68。
ゲヘナ学園に所属する陸八魔アルを筆頭に、鬼方カヨコ、浅黄ムツキ、伊草ハルカの4名にて構成される組織。校則として許されているわけではなく、金さえ貰えれば何でもやると言われている……一応会社である。なので仕事できたとも考えられるし、予想はしていたので驚きもなかった。
様子を席から見ていると、どうやら金欠らしく1杯のラーメンを注文し4人で分けようとしていた。会社としてどうなんだそれはと思っていると、山盛りのラーメンをセリカが運んできた。「手が滑った」と大将が言っていたが、彼女らを見かねての行為だろう。なんだろう、ちゃんとカッコいいのやめてもらっていいですかね。
人情とうまいラーメンを食らっている彼女らに対策委員会が話しかける。ここのラーメンをうまいうまいと言いながら食べる彼女らに好意をもったのだろう。ましてや他校からの客も珍しいだろうし同年代ともなれば自然と交流も生まれる。女子高生らしい空間が広がっていた。
私はそれを席から見守っていた。特に理由もないが、特に理由もないのでそうしていた。隣の先生から「行かないの?」と言われたがやんわりと否定する。他にも理由はがあるが、ここで話す必要もない。二人から注がれる視線がその証明となっていた。
アビドスの校舎に戻った後、アヤネが突然大規模な兵力の接近を伝えてきた。またヘルメット団の襲撃か、と皆が思ったがどうやら雇われの傭兵らしい。先生により出動命令が下され校門付近へと出ていくと、便利屋68が傭兵を引き連れてこちらに接近してくる。
あれだけ楽しく、互いの未来を想った相手によるこの所業。対策委員会の皆が驚きと憤りをみせ、アルが苦虫を噛み締めたように表情を歪めていた。襲う相手が目の前にいたのに気がついてなかったようだ。
セリカが声を張り上げる。ラーメンの恩を忘れたのかと。だがムツキやカヨコが「これも仕事だから」と割りきった様子をみせ、それが感情を逆撫でしたのか互いに一触即発の危うい状態となっていた。
なので、その前に一度私が便利屋68の前に身を踊らせた。
「あら、何の用かしら?見たところアビドスの生徒じゃなさそうだけど」
お久しぶりです。連邦生徒会所属シャーレ担当の■■■■です。
「久しぶり?あなたとは面識がないはずだけど……」
ええ、初対面ですよ。
「ええ……?」
「何を言ったところで、■■■はシャーレの生徒だから結局敵ってことじゃん。ならボコボコにしちゃってもしょうがないよね!」
「アル様に意味の分からないことを……殺していいですか?殺しますね!死んでください!!」
「本来なら止めるべきなのでしょうけど、便利屋68を阻むというなら容赦しないわ。総員突げ──」
「待った!」
アルによって戦いの火蓋が切られる直前、カヨコが声を張り上げてそれを止めた。
「ちょっとカヨコ、いきなり何を……」
「社長、あいつ『ソウ』だよ」
「そう?どういうこと?」
カヨコさんは気づいてましたか。『ソレトモコチラノ方ガ分カリヤスイデスカ?』
「え……あっ、ええ!?」
スマホを通して声を加工させると、何かに気づいたような表情を見せながら。
「何ですってえええええ!!」
見事なまでの白目を見せた。
「ねえ■■■、どういう関係?」
ただの取引先ですよ。私が表だって動けない時にソウという名前を使って依頼してます。
「くふふ、その節はお世話になってまーす!」
「あああ……お得意様に大それた真似を……すみません死にます!」
この様子だとカヨコさんとムツキさんは柴関で気づいてたようですね。結局こうなってしまいましたが。
「アンタ、あいつらと手を組んでたってこと?いや今回のは違うってわかるけど……」
ええ、今回に関しては依頼の撤回をお願いしていたんですよ。便利屋68がアビドス襲撃の依頼を受けたのを風の噂で聞いて、中止をお願いしたんですが。
「確かに襲撃中止の依頼は来た。でも一度受けた依頼を撤回する……しかも他の依頼人から報酬を受け取れば『金を積めばいくらでも裏切る』と思われかねない」
「ソウ改め■■■はお得意様だし、こっちもそうしたかったんたけど……そういう理由だから悪く思わないでね?」
二人が敵意を込めた視線を容赦なくぶつけてくる。アルも冷静さを取り戻し、ハルカは暴走を続けている。家の前を通った時に吠えてくる犬のように、今にも襲いかかってきそうだ。
今まで依頼をしてきたからわかるが、彼女らのポテンシャルは本物であり、だからこそ厄介でもある。いやそうでなければならない。そうでなければこの先も戦ってはいけない。
「■■■……?」
先生は下がって対策委員会の指揮を。皆さんも戦闘準備をお願いします。
「……■■■さんの雰囲気が変わりましたね」
「ん、ヒリヒリする」
便利屋ぁ?
「っ!」
あなた方の主張も理解できます。依頼の順番が後になっただけでこちらを蔑ろにする意図はなかったんですよね。大丈夫ですよ、私たちはこれからもいい関係を続けていけます。
「よかった、じゃあ」
ですので殺しますね。
「……え?」
意図は察せられる、とはいえ断ったのも事実。私もかなりショックを受けたんですよ?皆さんとの積み重ねは決して無意味ではなかったと。なのにさぁ、断ってくるなんてさぁ……悲しいじゃん。
「……やっぱりこうなったか」
「しょうがないよね~。とはいえちょっとマズいかな?」
恨みはありません。ただシャーレの生徒として敵対する者を皆殺しにするだけです。無抵抗の相手をいたぶる趣味はないのでちゃんと抵抗してくださいね?
「アルちゃんやるよ!あの表情は多分ヤバいやつ!」
「アル様!」
「とっ、突撃!総員突撃!!」
それらしい言葉を吐いていくと便利屋や傭兵から銃弾が迫ってくる。肌を掠めた痛みに少し気分が高揚するのを感じる。最近の相手がぬるい奴らばかりだったから、猛者を相手にテンションが上がっているようだ。
とはいえ仕事は仕事、きっちりこなそう。便利屋は対策委員会に任せて周辺の雑魚から潰す。便利屋はその後でもいい。ケーキのイチゴは真っ先に食べる主義だが、これはこれで悪くないものだ。吊り上がる口角を無理やり下げながら銃弾の雨に身を踊らせた。
こちらアビドス校舎前より。
敵は全員ぶち殺します。ひひ。
デカグラマトン編マジでよかったですね。
あれだけ熱く、悲しくなる物語は久しぶりでした。
ありがとうブルーアーカイブ。
絶対に許さんぞ無名の司祭。
唐突に思いついた佐川はんインストール小鳥遊ホシノ概念