「ん?」
夜10時頃。ダインロットは早川家のマンションでピコピコとレトロなゲームをしていた。アキがいない時間はダインロットにとって格別で素晴らしいものだった。ゲームをしていても怒られないし、罪悪感もない。フリーダムを謳歌していた。
しかし、そんな時間も終わりを告げようとしていた。ダインロットは玄関の扉が乱雑に開けられたのを聞いた。
ゲームを止めて向かえば、そこにはアキを引き摺るパワー。どうやら早川アキは無事に永遠の悪魔を倒して祝賀会で酒まで飲んで帰ってきたようだった。
「お? ぉお! 良いところに来たなウヌよ! このチョンマゲをさっさと家に上げよ! ワシはもう疲れた!!」
「あ、うん。おかえり」
パワーはそう言ってアキを玄関に置いてさっさと部屋に戻って行った。ダインロットはアキを背負う。身長差のせいでアキの足が引きずられるが、そこまで気を回す紳士はこの場にいなかった。
そこでダインロットは思った。
「デンジはどこだ…?」
☆☆☆
「姫野という人間に連れ去られた?」
「そうと言っておるじゃろ」
何故そうなったのかは分からないが、どうやらそういうことらしい。アキも何も言ってないなら問題無いだろう。酔いでそんな判断できてないだけかもしれないけど。
アキって姫野という人間に少なからず好意を抱いてたはずなんだけど、そこのところどうなんだろうか。もうアキも大人だし、子供作って欲しいなとは思う。
原作救済という掲示板への義理を終わらせたあとのことも考えないといけないし、僕は寿命無いし……どうせならアキの子孫に寄生して生きていきたいなぁ。
掲示板曰くデンジも不老で不死身らしい。どうせアイツもこれから早川家にいるわけだし仲良くしておこうかな……ん? 早川家ってアキ以外寿命無い?
早川家に負の遺産を残すわけにはいかない。アキに子孫ができたらやばい二人は僕が回収しないと…!
「眠い! 寝る!!」
「あ、待て! お風呂入ってからにしなさい……こら、待て!」
どうにかパワーを風呂に入れる事ができたダインロット。彼は酒の匂いを漂わせながら死んだように眠る早川アキを見つめ、考え事をしていた。
「もう良いかな? もう良いのかな?」
アキ補完計画。それは原作がハッピーエンドを迎えるために必要な要素群の修正である。チェンソーマン一部の不幸の内、早川アキの不幸は事前対策が必要なのである。
マキマからの支配と呪いの悪魔の寿命問題。これは事前に手を打たないとどうしようもないものである。特に寿命問題。ゆえのアキ補完計画。マキマの支配を逃れ、呪いの悪魔に頼らなくてもすませるためにアキを強化しようが目的の計画。
なんだかんだ凄腕デビルハンターという体面は保てていたアキなので、マキマも少なからず警戒しているようだ。
いつも鋭く目を見張らせていたが、アキが支配される様子もない。マキマはアキを支配できないと分かっているらしい。今のアキは岸辺並みに警戒されているかもしれない。悪魔の力を借りずにデビルハンターをしているのは岸辺とアキくらいだからか。
「補完計画は安定期に入り、継続ではあるものの超越者による積極的な行動が解禁される」
今までのしょぼい干渉ではなく、もっと大きな干渉を加えても大丈夫だと判断されたのだ。掲示板によって。
というより、これからは積極的に行動を起こさないと救済にならないとも言える。襲撃編から展開が大きく変わるだろう。原作で死んだ者が生きている展開に変わるのだから。
最初の課題はサムライソードなる存在らしい。よく分からないがデンジと同じ存在らしい。そもそもデンジのことをよく分かっていないので本当に何も分からない。名前はモミアゲマンらしい。センスを疑う。
タイマンならアキも勝てる可能性はあるが、最低2回は死ぬらしい。だが襲撃者その2のヘビ女と合わさることでアキが詰む可能性は十分にあるっぽい。
詰んだら僕が大々的に出よう。その時は面倒だけど周囲500mの小動物は全部殺すことになるな。
「……うぅ」
「お? 起きるか…?」
アキは何か不機嫌そうに目を覚ます。天井の光を鬱陶しそうに睨みつけ、机に体重をかけるように身体を起こす。
「いえ……いつから……」
どうやらまだ寝ぼけているらしい。
「10時だよ。帰ってくるの早いよ。僕の
「……一日中、ずっとゲームしてたのか…?」
「……してないよホントダヨ?」
「…」
どれだけ寝ぼけていようがそういう類のサーチは全く油断ならないのがこの男である。妙に主婦のような性質を持つアキという男は忙しい中でも自炊し、料理し、掃除もかかさず、この人娯楽ってものを知らないのかと思えるほどだ。
家にテレビは付いているが、使っているところを見たことがない。今となってはデンジがぼーっと画面を眺めるか、パワーが探偵モノのアニメを見るだけが存在意義となっている。
僕はアキから目線を逸らし息を吹きかけるだけの口笛モドキをする。誤魔化せるとは思ってないが、和ませることはできる。早川家内での僕の必殺技である。
「……俺は今日も悪魔を殺した」
「おー、やるじゃん」
「ひさびさに、死ななかった」
「へぇ、すごいじゃん」
「4課の全員で戦ったからだ」
アキは手で目を覆い、息を吐く。どうやらすごく思い悩んでいるらしい。人間の悩みは人間にするべきだと思う。人間の悩みは超絶エリート悪魔には分からないことが多々あるのだ。
特に脆弱な人間由来のことだと尚のことである。悪魔の話題なら答えられるかもしれないけど。
アキは目を覆っていた手を机に離し、俯いたまま話し始める。
「俺は今日、ある意味で諦めたんだ。結局、人間は一人で悪魔に勝つのは難しい。一人で戦うのにも限界があったし、遂には他の人を頼った。これじゃあ死に戻りでの未来予測も難しい。戦いの途中で仲間が死んでも死に戻るわけにはいかないし、いつか誰か死ぬ」
「少しくらい見捨てても良いじゃん?」
「まあ、それはそうなんだがな……けど、姫野先輩は絶対に見捨てられないと思う。俺は自分で人の命に価値を付けたくない」
「くそめんどぉ…」
……この男。酔い覚めと倦怠感でネガティブになってやがる。声色が眠気と機嫌で暗すぎる。真面目気質も極まれば厄介なようだ。僕としてはアキを「命の価値なんてゴミみたいなものだ」と言うような子に育てたかったのに……死に戻り教育失敗だな。なんでたくさん死んでるのに命を軽く見れないんだろうか。
もっと軽く、もっと楽しいことだけを考えて生きた方が楽しいに決まってるのに。デンジみたいに。
僕は机に腕を組んで寝ようとしているアキの頭のちょんまげを解いてやる。ところでなぜアキはちょんまげスタイルなんだろう。時代錯誤甚もはなはだしいところである。
「ま、安心してよ。いついかなる時でも、アキがやばい感じだったら助けに行くよ。アキの近しい人は大体みんなね。いつか代償とか取り立てるけど…」
「一言…おおい………」
「まあせいぜい……大切な人は作り過ぎないようにね」
机に腕を組んでしまったことで眠気に襲われたアキは腕の中に堕ちた。最強のデビルハンターと言えども睡魔には敵わなかったようだ。
まあ激務な公安対魔特異課の業務をこなして飲みを今の今までしてきたところなんだから寝てしまうのはしょうがない。僕にできることは精々、アキをベッドに転移させるくらいだ。
「アキ。寝るならベッドで寝なよ。強制転移させるよ?」
「………」
「しょうがないな」
僕は悪魔パワーでアキをベッドに叩き込んだ。そして穏やかに眠るアキを見て、ふとつぶやく。
「君は真面目すぎるよ。アキ」
主人公トリオの男枠って大体こんなものなのだろうか。そうかな……そうかも。
☆☆☆
「……」
早川アキは目が覚める。時刻は午前6時。二日酔いは無い。
身体の気怠さを無視して身体を起こす。アキは寝起きの良い方だった。
ベッドから起きて朝ごはんを作る。凝ったものを作らない。目玉焼きを焼いてトーストに乗っけるだけだ。これがいつもの日常。
だがその過程の最中、アキは自分が珍しく鼻歌を歌っていることに気が付かなかった。