アキの死体は残らない   作:アーチマン

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ルナティック銃声

 

 

 

 銃の悪魔一派。それは襲撃編の刺客であり、民間デビルハンターを内包したヤクザ共の混合チームである。だが実態はマキマの操り人形に過ぎない。

 

 銃の悪魔は既に戦闘不能状態であり、身体をバラバラにされて八割方を人間が所有している。刺客は銃の悪魔と接触できる状態ではなかった。つまり、銃の悪魔の名を騙り銃を非合法で取り寄せているのが銃の悪魔一派である。

 

 じゃあ銃の悪魔一派じゃないだって? それはそう。まあそこら辺は適当だ。

 

 話を戻すと、彼らは老若男女問わず銃という規制された暴力装置を所持しており、そのうえ一般人に紛れ込み、公安のデビルハンターを殺そうとしてくる。

 

 正直雑魚オブ雑魚。ヤクザも工作員もヘビ女もサムライソードも弱い。人間如きじゃ僕を殺せないし、サムライソードが宿す悪魔もそこまで強くない。

 

 デンジ達の相手は蛇の悪魔と刀の悪魔らしい。そんな悪魔で物語が成り立つのか甚だ疑問。チェンソーマンのデンジが相手なのだから瞬殺で終わりそうなものなのに。まあ…そのくらいデンジが弱いのか、チェンソーマンが弱体化しているのか。

 

 とりあえず観戦かなぁ……どうやら姫野が死ぬらしいから、とりあえず姫野が自滅覚悟の特攻をする前にケリがついたらそれでよし。アキがどうしても勝てないようだったら助けよう。

 

 うん。そうしよう。でもまあ…アキはやり直しの力で勝利をもぎ取れるだろう。まさか相手が油断ゼロの本気で初めからアキを殺しにかかることもないだろうし。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ラーメン。前だったらゼッテー食えねぇモンだったのに……今じゃあギョーザがおまけでついてくる。オイ、パワー。料理人に感謝して食えよ!」

「なんじゃデンジは偉そうに! ワシほどになるとラーメンギョーザ如きで感謝などしないのじゃあ! ジュースをありったけ持って来い!! 麗しきワシに似合うイチゴジュースじゃ!」

「うるせえ、黙って食え」

 

 アキの言葉に二人は一時休戦とばかりに無言でラーメンを啜る。ラーメンの旨さによってデンジもパワーも普段より口数が少なくなっていた。

 

 パン パン

 

 ふと、乾いた音が遠くから響いてきた。それは布団を叩く音のような、太鼓を叩くかのような……だがそれにしては遠くに響く聞き心地だった。真っ先に疑問に挙げるのはデンジだ。

 

「なんだこん音……」

「知らんとは愚かじゃの…太鼓の音じゃ」

「祭りか……?」

 

 デンジに続いてパワーとアキも口を開く。ソレはとある悪魔の出現後、世界レベルで規制がかけられた武器の音だったが、規制の強さゆえに日本の若者はその存在を知らなかったのだ。

 元より、日本は銃の所持を認めていない国家であったため、ソレの存在を知るのはヤクザのような裏のモノ達か国家権力に関わる者達に限られるだろう。

 

 基本的に日本で持つことが許されているのは、厳しい査定をクリアし許可を得た公安所属のデビルハンター及び警察のみとされている。

 

 持つだけでもそれだけ厳重なので、実際に使用されることは極めて少ない。ちなみに公安対魔特異課に許可が下ることは絶対にない。

 

 その場の誰もが次の瞬間にはその音を頭から消した。そしてそんなことより、とでも言うようにパワーが姫野に問う。

 

「な〜ホントにウヌら昨日交尾してないのか?」

「してないよ。私は一途な女だからねぇ。肉欲には操を立てるんだよねー」

 

 チラリチラリと姫野はアキの方を見る。アキは未だに窓を通して街を眺めていたので気づくことはなかった。

 

 そのアキは、未だに先ほどの空気を裂くような音が頭に残っていた。太鼓の音というには軽い「パン」という音には既視感があったのだ。

 

『銃について知りたい…? うーん……こういう形で、まあ形は色々あるけど、引き金…スイッチ的な機構を押すと火薬が弾けて弾が高速で打ち出される武器、かな? 撃つとねこう、パン、パーンみたいな乾いた音が鳴るんだよ。生き物を効率的に殺せるから良くダイニジ世界大戦とかで使われてたなあ』

 

 ふと、ダインロっトの言葉が脳裏によぎる。形容し難き嫌な予感がアキの意識を包み込む。

 

 もし、今の音が太鼓ではなく、銃の発砲音だったとしたら?

 

 銃の発砲があったとしたら、それを成したのは公安所属の人間だ。銃は悪魔の討伐で使われることはまずあり得ない。つまり人間に発砲していることになる。

 

 何故なのか。悪魔が近くの訓練所に現れたのであればこちらにも通達が来るはず。だがそれがない。ならば悪魔である可能性は低い。

 

 何かを見落としている気がする。何かを…。

 

 アキはポケットから携帯を取り出す。しくしくと麺を啜っていた姫野がそれに気づいた。

 

「アキ君どしたの?」

「……今の音は、祭りの音じゃないかもしれない。一度マキマさんに連絡を…」

 

 

 バンッ

 

 

「「「ッ!!」」」

 

 刹那、早川アキはテーブルに立て掛けていた刀を手に取った。鞘は持たずに刀を抜き身にして飛ぶように音の発生源から離れる。

 

 目線を音の発生源に移す。そこには頭から血を流して倒れているデンジと、その奥のテーブルに座る男の姿があった。

 

 男は手をこちらに向けていた。何かを手に持ち、それをこちらに向けていた。黒くて、小さなそれは……

 

 

 バンッ

 

 

 空気を裂くような音がアキの頭を貫いた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 バンッ

 

 

「「ッ!!」」

 

 凶行の再演。早川アキは己のすべきことを全て把握した。パワーと姫野が銃声に取り乱し戦闘体勢に入る中、アキは発砲音を合図として刀を抜き身に銃を持つ男へと迫る。この間1秒にも満たない。

 

「チッ!」

 

 銃を撃ち放った男はアキに標準を合わせるが既に刀の間合いである。アキは男に袈裟斬りをした。苦悶の声をあげて倒れる男。だがアキに油断はない。すぐさま銃を持つ男の右手首を斬り落とした。

 

「お前、銃を持ってやがるな。どこの者だ」

「ぐぅ…あぁ! いてぇ!」

 

 アキはこの男を殺すことに逡巡する。明らかにこの男は組織人だ。銃を所持しているということは銃の流通と関わりがあるということ。外から聞こえた音を発砲音だと仮定した場合、この襲撃は計画されたものだということになる。

 

 この男は今のアキ達にとって唯一の情報源。銃を手放したこの男に加害の心配もない。では殺すよりも尋問する方が得である。そうアキは考えた。

 

「ふ、驚かせおって…雑魚め!」

「アキくーん。デンジ君死んじゃってるよ。今生き返らせるべきかなー?」

 

 男の制圧によって急激に高まっていた緊張が緩和されていく。パワーはアキが制圧した男を足蹴にし、姫野は死んでいるデンジの頬をツンツンしている。店の奥で固まっていた店主が厨房から顔を出し、ラーメンを食べていた他の客もその表情を穏やかなものにしていく。

 

 その時、男が叫ぶ。

 

「今だ、やれェ!!」

 

 その言葉はアキだけが理解できた。咄嗟にアキは他の客の方へと振り向く。そこには懐から拳銃を取り出す二人の一般人の姿があった。いや、一般人だと思わされていただけで、彼らは何らかの組織に所属した襲撃者だ。

 

 まずい。アキはそう思ったがもう遅い。襲撃者はすでに銃を構えていた。あとは弾が発射されるだけ。アキは2回目の死の覚悟を決めた。

 

 しかし、その瞬間、二人の襲撃者の持つ銃身が捻じ曲がった。まるで何か見えないものに強く握られたような跡が残る。

 

 それは姫野による幽霊の悪魔の腕の力だった。姫野は男の号令と共に他の客に目を向けていた。襲撃者の照準がアキに向いていたからこその芸当だった。

 

「姫野先輩ナイスだ! パワー!!」

「ワシに任せよ!」

 

 パワーは駆けながら手首から血を噴出し、血のハンマーを作り出す。そして銃身を曲げられ逃げようとした二人の襲撃者の頭をぶん殴った。襲撃者は昏倒するように倒れ伏す。

 

「ガハハハ! どうじゃあ、ワシは強い!!」

 

 パワーの戯言を背景にアキは辺りを見回し考える。ここはあまり繁盛していない店だ。客は七人。襲撃犯3人と俺ら4人。店主は一人。流石に店主は襲撃する可能性は低い。

 

 これは計画的な犯行だ。目的はなんだ? 公安へのテロ、身代金要求、店主への恨み、いや……デンジの心臓を狙っている可能性が高い。外から聞こえた銃声は他の公安所属への発砲か。

 

 俺はどう動けば正解だ…?

 

「……とりあえずこの3人を尋問するしかない……パワー、こっちのおと━━━━」

 

 次の瞬間、轟轟と壁が吹き飛び、巨大で白いナニカがアキ達を薙ぎ払った。

 

 

 

 

 

 

 何者かによる物量攻撃によってアキ達は建物の外に吹き飛ばされた。瓦礫が死の礫となり、鉄心が死の鎌となる。しかしそれでも、アキは死んでいなかった。

 

「ぐっ…何が……起きた…!」

「まだ生きてるし…さすが最強のデビルハンター」

 

 頭が割れるように痛む。おそらく先の攻撃の際に瓦礫が頭に当たったのだ。アキは生きているだけで瀕死だった。だがアキは瀕死なだけでは戦闘不能にはならない男である。

 

「…お前ら一体、なんなんだ」

「チェンソーの心臓を貰いにきた。お前に用はない」

 

 アキの目の前には一人の女がいた。金髪で鋭い瞳孔を持つ不気味な女だった。アキはこの女こそが首謀者だと悟る。おそらくは民間のデビルハンターで悪事に手を染めた犯罪者。

 

「……チッ」

 

 アキは刀を手に取ろうとして刀がないことに気づく。分が悪い。そもそも頭を強く打ってまともに動ける気がしない。せめてデンジが近くに転がっていれば蘇生させて戦力に期待できるものを。

 

 アキは辺りを見回す。そして見つけた。━━━姫野の死体を。

 

「……あ」

 

 姫野の死体は頭が左半分無く、脳が頭から漏れていた。顔は歪み、口は開いたままだった。デンジの死体とパワーは見当たらなかった。デンジに関しては上に取り残されているらしい。パワーは…おそらく逃げた。まさに『全滅』だ。

 

 だが、まだ終わっていない。早川アキには常識外の力が宿っている。また『死に戻り』をすれば、全てが終わり、始まるのだ。

 

「姫野…先輩」

 

 理性ではそう分かっている。アキも割り切っていたはずだった。だが、アキは何気に初めて見る姫野の死体に酷く狼狽えていた。

 

 落ち着けと自分に言い聞かせる。気分は最悪。だが、今は目の前の脅威と相対せねばならなかった。

 

「テメェ、ゴラァ沢渡ィ!! 俺を殺す気か!!」

「チッ、来るのが遅い」

 

 状況はアキが思っていたよりもさらに深刻だった。脅威は沢渡と呼ばれる女以外にもまだあったのだ。

 

 軍服のような黒いコートを羽織った異形が建物から降りてくる。両腕と額から突き出した刃物、異形化した頭という特徴はまるっきりデンジのそれであった。

 

 アキは異形の声に心当たりがあった。先ほど自分が鎮圧した銃を持つ男だ。悪魔のような見た目でまるで人間のような感性を持っている。

 

 コイツはデンジと同じ、悪魔の力を宿した人間だ。

 

「ざけんな! 何が遅ェだ! 変身前だったから本気で死にかけたぞ!」

「当たらないようにした」

「アァ!? 床に這ってたから当たらなかっただけだ!」

「結果を見ろ。最大の脅威である早川アキはもう虫の息だ。小さいことに拘るな。私たちは最大の結果を得た」

 

 二人が言い争う。重傷のアキなど警戒に値しないということか。アキとしてももう打つ手は無い。することとすれば敵の情報を次の週に持ち込むことだけだ。

 

「お前ら、計画練ってまで…デンジの心臓を取る価値は……無いぞ…」

「私にはある」

「チェンソーの心臓を銃の悪魔がご所望なんだよ! まあ、俺はデンジの死が目的だがな!」

「五月蝿い。余計なことを喋るな。さっさと始末しろ」

 

 やはり目的はデンジの心臓で間違いない。この刀の異形はデンジ個人に恨みがありそうだが、女と目的がおおよそ合致している。

 

 だがそんなことはもはやどうでも良い。銃の悪魔…!! まただ。またあの悪魔は俺を殺すのだ。どれだけ経っても銃の悪魔はこの世界の悪だ。早く取り除かなければならないのだ。

 

 憤怒に駆られる早川アキは震える足に力を入れて立ち上がる。そして二人を睨みつけた。

 

 死に体のアキの目一杯の威嚇に、二人の襲撃者は笑うこともなく警戒度を上げた。そしてどうやらさっさと処分することにしたらしい。

 

「早川アキに契約悪魔はいないはずだが、手負いが一番恐ろしい。本気で殺せ」

「ああ、分かってる」

 

 異形が屈む。それは居合いのポーズだ。アキも構える。構えるのは鋭い瓦礫だ。最期にせめて戦闘データを収集したいと考えたのだ。

 

 だが、勝負は一瞬たりとも発生しなかった。

 

「………がッ!」

 

 アキに異形、サムライソードの居合いは見切ることができなかった。サムライソードが視界から消えた時、アキの身体は二つに分たれていた。

 

 アキはそれが分かっていたかのように目を閉じ、その死を受け入れた。

 

 最期に何故か、安堵の息が漏れた。

 

 

 

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