今とある激情によって怒涛の勢いで書いてるけど、多分これが収まったらもうチェンソーマン二次書けなくなる。
バンッ
銃は引き金によって撃たれ、早川アキは死によって本質を発揮する。三度目の死。アキは銃声を合図として刀を抜き、黒コートに詰め寄る。
そして斬り裂く。殺したが、念には念を込めて四肢をバラバラにしておく。復活の条件はわからないのでこれでも安心はできない。
「ふ…」
パワーが何か言おうとしたが、それに構わず銃を拾い上げ、横にいる偽装した襲撃者に向けて撃つ。2発の弾丸は襲撃者それぞれの喉と大動脈を撃ち抜いた。アキはオモチャすら撃ったことのない射撃初心者なのだが、今はそうする時間も惜しいので試しに撃つとこれが思いの外当たった。
銃の悪魔を憎む早川アキだが、銃の使用に抵抗は少ない。相手が銃を所持し、あまつさえそれを悪用しようとする人間だからか、引き金はあまりにも軽かった。
役目を終えた銃はアキに必要ないものなので、姫野の方へと投げ渡す。姫野は大慌てで、まるで腫れ物に触るようにそれをキャッチする。
「ギャハハハ! 人が死んだぞ!」
「アキ君!? これ銃じゃん! 撃てたの!? 使い慣れてたりする!? 私に内緒で練習してるとか!?」
「そんなんじゃないです!」
姫野は前回よりアワアワしているようだった。アキとしては、それが何故かは考える暇もない。とりあえず前回の失敗を矯正するつもりで行動しているので、あまり姫野の言葉に反応できないでいた。
アキは考える。こちらの勝利条件は全員の生存とデンジの確保。対して襲撃者側の勝利条件はデンジの確保。デンジの姿見を知っているのは今そこで倒れている黒コートのみ。
であれば、黒コートを蘇生させないようにしなければならないが、黒コートの死体を奪われないようにしながら蛇の悪魔に立ち向かうのは至難の業であると思われる。必要なのは沢渡という女の早期無力化。
「とりあえず、全員伏せろ。仰向けでもうつ伏せでも良いから身をできるだけ低くしろ!」
「デンジ君は…」
「それは後にしてください」
アキはとりあえず他の安全を優先した。蛇の悪魔の突進が来るのはどう足掻いても確定事項である。2回の周回で時間を作れたので、今回は犠牲もなくこれを乗り切れるはずなのだった。
だが、そこでアキは想定外の事態に直面する。
「あぁ〜? なぁんでウヌの言うことを聞かねばならんのじゃ!」
「…は?」
「な、なんじゃウヌは…きしょいのォ。床を這いずるとは人間にはプライドがないのか?」
姫野はアキの言葉に素直に従ったが、パワーは全く聞く耳を持たなかった。前回とは異なるパワーの反応にアキは一瞬フリーズした。頭の中でこれまでの周回が何度も頭をよぎる。
今回のループ群ではパワーは素直にこちらの指示に従っていたはずだった。しかし今周回では素直に従わない。つまり、何かの要素が異なっている。なんだ。それはなんだ。敵は前回も制圧していたはず。異なる要素が見当たらない。
…いや、そうだ。襲撃が終わっていないことを伝えていなかった。コイツ、危機が去ったと思って俺の言うことを聞かなくなったんだ!
「姫野先輩!」
「パワーちゃん、伏せ!!」
「ギャン!」
瞬間、パワーは何かに頭を押さえつけられるように地面に倒れ込む。倒れ込むと同時にドオンと重い音がして蛇の悪魔がアキ達の真上を通過した。
「……ォォ」
パワーは何も喋らなくなった。
だがアキはパワーのことを考える余裕はない。振り返って黒コートの死体を確認すると、丁度沢渡が蛇の悪魔から降りてくるところだった。そして、四肢を斬られている黒コートを見て呆然とした。
そんな隙を早川アキは見逃さない。瞬時に駆け寄り刀を振るう。だが、相手も流石に実力者。蛇の悪魔が沢渡と黒コートを丸ごと飲み込みアキの刀から身を守る。
蛇の悪魔の空気抵抗で旋風が巻き起こる。アキは潮時と一旦下がる。
「チッ、仕留め損なった」
「アキ君、アイツらは……?」
「襲撃者であること以外はなんとも……十中八九デンジの心臓が目的です」
「どうする逃げる?」
「撃退しましょう」
「オッケー、任せてよ。私のゴーストなら急所が多い人間なんて楽勝だよ」
最小の言葉で必要な情報を交わし終える。かつてはできなかった信頼の技である。アキと姫野は最高のバディであった。
「…イッテー! なんだ、何が起きた!?」
「おいデンジ、敵だ。さっさと起きろ」
「敵ィ?……なんとも悪そーな悪魔だなぁ」
「寝ぼけてんのか」
店が崩壊した時に引いておいたスターターロープによってデンジは復活した。だがだいぶ頭が回っていなさそうである。いや、元からかも知れない。
だがこれで戦力はこちらが優勢と言えるだろう。デンジが戦力になるかは甚だ考慮の価値があるが、その不死性は侮れない。最悪盾にしても役に立つ。戦力は大いに越したことはない。
アキと姫野が未だ動かない蛇の悪魔に対して構える。使える手札はすでに万全で、こちらに都合の良い時間は過ぎ去った。時間を無駄にするほど、あとはあちらが有利になるだろう。勝負は早めに付けておきたいのがアキの心情だ。
とその時、蛇の悪魔から何かが吐き出される。そろそろ視界に馴染んできた黒コートの異形だった。
「さっきはやってくれたな」
「てめえがな」
「銃で死んどけば楽だったんだが。まさか奇襲の銃撃が一切通じないとは、流石《最強》」
「お前と喋るつもりはないが、一応確認する。投降するつもりは無いんだな?」
「……ほざけ!」
異形はやはり居合いを構える。アキは姫野に合図を出し、ゴーストの腕で異形の喉笛を強く押さえつける。
「ガッア…アァ!!」
悪魔を宿しているとは言え、ベースは人間。呼吸器官を必要とし、重要な臓器も存在し、頑強というわけでもない。特に首なんて、柔らかい部位であることに疑問を覚える者はいない。
焼き増しでくどいが、やはり姫野の初見ゴーストは人間に良く効く。黒コートの異形をどう攻略したものかと初回の今際の際で悩んだのが馬鹿らしくなるほどだ。
この異形も人間であることに変わりはない。であれば必ず姫野の伏札は必殺となる。
「この……卑怯者、があ!」
「突然銃をぶっ放してくる危険人物に言われたくないな」
怨嗟の声を浴びる中でもアキは中空に漂う蛇の悪魔を見ていた。襲いかかってくる様子はない。アキから見て、沢渡は画策を通すタイプに見えたので、この間も何かしらの損得勘定が働いているのかもしれない。
窒息させているこの異形を救助するにしても、おそらくあちらは一旦蛇の悪魔の口内から出る必要があるのだろう。異形を運ぶためには一度丸呑みにしないといけないのは見て取れる。
警戒心が強いな、とアキは思う。だがそれは正しい。前衛のいない今の状況で沢渡がノコノコと蛇の口内から出てこようものなら、次の瞬間には叩き斬られているに違いない。もちろんそれを行うのは早川アキだ。
「なんかあの悪魔動かねンだけど〜?」
「…まあ、待てデンジ。あちら側はすでに引くに引けない状況だ………引き付けて殺す」
沢渡に与えられた選択肢は、
一つ、仲間を見捨てての逃亡。
二つ、仲間を助け出すために蛇の悪魔の口内から出ること。
三つ、公安所属のデビルハンターを皆殺しにすること。
この三つだ。
アキの考えでは、三つ目はありえない。見たところ、沢渡という女は早川アキという膨らみ続けた最強像に挑む者ではない。画策を持って最強を崩そうとする者だ。奇襲が通じなかった時点で逃げ出していてもおかしくはなかった。
そして二つ目も無いだろう。前衛がいない状態で、直接戦闘能力を持たない沢渡が出ても蛇の悪魔を動かす前に死ぬ。おそらく沢渡は民間のデビルハンターだ。ここまで生き残ってきたその生存本能を信じるのなら、絶対に無防備にはならない。
残るは一つ目。これが最も有力だ。黒コートの異形が仲間であろうと、おそらく即席の関係。沢渡にとっては替えが効くのかもしれない。いや、それは早計な考えだ。黒コートは明らかに特異的な存在で替えが効かない。であればこれも選択肢から除外されるべきか?
どれも選択肢から除外したいが…結局何をするのかは相手次第というわけだ。
ただ、アキとしては一つ目の蛇の悪魔との戦闘は出来る限り避けたかった。契約者を潰しにくい今の状況下では、蛇の悪魔の脅威を抑えにくいのである。
いや、抑えにくいどころか、こちらも被害を考慮しなくてはならなくなる。今アキ達が追撃を行わないのは反撃を恐れているからであり、相手が引くことを期待している側面があった。
「…チッ! まあ来るよな!」
アキの思考が渦を巻き始めた頃、ようやく蛇の悪魔が動き出した。その長く巨大な身体を震わせ、尻尾を高速で振るう。
破壊の戦鎚によって吹き抜けの店が床から吹き飛ばされる。轟轟と響く崩落音の中、姫野とパワーは急いで階段を下って下の階に降り、アキは蛇の悪魔の胴に乗っかる。デンジはチェンソーを刺してくっついたが遠心力で吹き飛ばされていった。
アキは蛇の悪魔の長い胴体を駆ける。狙うのは蛇の悪魔の頭部。契約者がいるであろうそこに刀を突き刺されば大小構わず傷を与えることができる。アキとしては殺す気でいく。
蛇の悪魔は空中でグネグネと身体を激しく揺らすが、アキはまるで猿のように跳躍して別の胴体を蹴り上げ、着実に蛇の悪魔の頭部へと近づいていく。
「取った…!」
もはや頭部は目前、最後の跳躍をしようと足に力を込める。だが突然、蛇の悪魔は消え去った。まるで幻だったかのように白い煙となって消えた。当然、足場も消え、跳躍は空を切る。
賭けに勝ったのは沢渡だった。
「ヘビ、丸呑み」
蛇の悪魔の退去と直後の再召喚。
自由落下に縛られる中、唯一札を切れるのは沢渡だけで、早川アキにできることはない。まさに必中必殺。最強に届き得た一撃。
二人は落下に身を任せる。一人は優越に浸り、もう一人は死ぬ気で頭を働かせた。だが虚しく身体は地面へと向かい、空から煙を纏うように現れた蛇の悪魔が早川アキを丸ごと飲み込もうと口を開ける。
「クソったれ!」
早川アキの最後の抵抗すらも飲み込んで、蛇の悪魔は口を閉じる。
……閉じようとした。しかしそれは叶わない。
「ふむ。どうやら間が良かったのかな?」
突如聞こえた高い声。それと同時に建物から突き出した蒼き槍の如き無数の植物が蛇の悪魔を貫いていた。その青い植物は落下していたアキを丁重に地面に下ろしたあと、蛇の悪魔へと殺到する。
「もっ、戻れ!」
沢渡は殺される前に蛇の悪魔を退去させた。その攻撃は蛇の悪魔を殺し得るものだと理解したからだ。沢渡は油断なく声の方へと視線を向ける。
声の主は崩れていない建物の天井を足場にしてそこに立っていた。
金髪碧眼の少年。彼は今の時代、日本では珍しい外国人の様相をしていた。
「(誰だ…?)」
その場の全員がそう思った。
「ウヌは誰じゃ!」
戦闘音が止んでから様子を見に階を登ってきたパワーがそう問う。
それは言った。
「僕は最年少デビルハンターの…………者だ!」
どうやら名前は教えてくれないらしい。名前を考えていたように感じたが気のせいだろう。だがアキにとってはどこか、親しみを感じる。目の前の存在を自分が知っているような気がした。
そして沢渡は突如現れた戦力に警戒レベルを上げていた。明らかに高位の悪魔を使役するデビルハンター。その存在はもしかすると早川アキと同等かそれ以上の脅威となる可能性を秘めているのだ。
「お前、公安からの増援か……チッ、お前の情報はどこにもなかった。女狐め、まだ戦力を隠していたか」
「馬鹿め、どう考えても僕は民間デビルハンターだ!!」
「……は、はぁ?」
沢渡の困惑する声が聞こえる。明らかに場に合っていない空気感だった。目の前の少年は我が強いらしいし、どうやら言葉足らずらしい。
「そんなわけないだろ! 信じられるか!」
「公安が金髪碧眼を組織に入れてくれるわけない!」
「……戦闘からそれほど時間も経ってないのに民間が駆けつけるわけが…!」
「僕はアキ……先輩をストーキングしていた」
「…なにを…言っている……?」
沢渡の困惑は最高潮に達しようとしていた。そしてアキの困惑も最高潮だった。だが少年の言動から分かったことがある。
コイツ、ダインロットだ!!
何か悪い夢を見てるかのようなカオスだった。よく見るとダインロットは片手に気絶したデンジを吊るしている。どうやらデンジを届けにきたらしい。
帰ったらストーキングの件を詰めようと心に誓う。
「くそ! なんなんだお前は!」
「僕は早川先輩の民間時代の相棒だ!!」
「はああああ!?」
ダインロットの言葉に声を上げたのは姫野だった。
まるで悪夢を見ているかのようだった。アキにとって初めての事態だった。まさかだが、ダインロットは人間に化けようとしているのだ。こんな真面目な場面でやることではない。
いや、ダインロットほどの高位悪魔にとってすればこの程度の争いは些事なのかもしれない。だが少しだけ配慮して欲しかったとアキは切に願うも無駄である。
天気のいい昼下がり、ダインロットとは正反対の太陽のように煌めく少年、だがダインロットであるその悪魔は確実にその場を支配した。