アキの死体は残らない   作:アーチマン

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友情回を描きたかったのだ…



お人好しの悪魔

 

 

 

「はい、はい…そうです。そしたら爆発して…」

 

 あれから20分後、マンションに民間デビルハンターがやってきた。悪魔らしき咆哮を聞いたと通報が多数寄せられたのだ。

 その後の部屋の大爆発は街全体に轟き、てんやわんやと住民は大騒ぎになった。

 

 で、今現在、()()()被害者である早川アキは民間デビルハンターと警察の両方から尋問を受けていた。

 

「その悪魔は、あー、どんな姿をしてたかな?」

「えっと、暗くて良く分からなかったですけど、鋭い爪を持ってました。言葉は話さなかったし、獣のように唸っていました」

「あー、なるほどねぇ。んー、こりゃあ困ったなぁ…」

 

 壮年の警官はそう言って口を閉じる。騒々しいパトカーと消防車が辺りを封鎖し、消化活動に徹していた。その端では民間デビルハンターが剣やら槍を持って屯している。欠伸をしていて眠そうだ。

 

「何か困ったことでもあるんですか?」

「んー? あぁ、なんでも最近、獣のような悪魔に襲われる事件が多発していてね…民間人も五人死んでる。あの民間デビルハンター達は倒しただのなんだの言ってたんだが、そう言って5回は再発してやがる」

「それは同じ悪魔に、ということですか?」

「あー、まあ言って良いか。…そうだ。あまりにも特徴が一致し過ぎているわけだからおかしいんだが、デビルハンターはアレを『狼の悪魔』だと言ってる。5回ともだ。まあ、馬鹿馬鹿しいがあれでもプロだ。信じんわけにもいかない」

「狼の悪魔…」

 

 アキはそう言って先ほどの悪魔を想起する。鋭い爪、唸り声、朧げながら見えた悪魔は四足歩行だったように思える。あれは確かにイヌ科のモノだ。素人が判断するものではないだろうが、狼の悪魔と言われれば納得がいく。

 

 お互いに黙ってしまった二人は会話をそこそこに切り上げ、警官は役目を果たしたためパトカーの群がる場所へと帰って行った。

 

 アキはどことなく、嫌な予感がした。巻き込まれる。騒動は終わってなどいないのだと。

 

「…契約か」

 

 先ほどを思い浮かべ、ふと発した言葉は夜の闇に消えていく。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ダイン。一つ聞きたいことがある」

「なにかな?」

 

 場所は変わって場所はホテル。警察から紹介された最も近場な避難場としてホテルというのはよくあることである。彼らはそこの個室にいた。

 アキは部屋着も何もない状態なので仕方なく外行きの格好で備え付けられた椅子に座っている。そこに何もない空間から現れるダインロット。

 

「ダインは悪魔のことについて詳しいと思うから聞くが、悪魔ってのは復活するものなのか?」

「それは…別個体が現れるというわけではなく、あくまでも同個体が死んで蘇るってこと?」

「ああ。そうだ」

 

 アキは疑問をぶつけた。この場には最も悪魔に詳しい、それ以上に悪魔そのものであるダインロットがいるのだ。デビルハンターなんてプロだろうと知り得ない情報を何気ない顔で知っている知人に頼るのがこの場では最も効率が良かった。

 

 ダインロットはふむ…と手を顎につけて考える。そして3秒したころに口を開いた。

 

「たしかにそういったのに似た悪魔はいないこともない。自分の後継をたくさん作るだとか、単純に生命力高すぎなやつだとか…。植物系の悪魔はこれが多いけど死から完全に復活するような奴は悪魔の中では見かけたことないなあ…………いや、1匹いたな…」

「そうか、いるのか…」

「でもアイツは例外だよ。あのクソ野郎、ただでさえ相手するの面倒なのにうるさい、しつこい、目障りでいつもいつも邪魔しかしない。次あのエンジン音が聞こえたら殺してやろうと思ったこともあった」

 

 憎々しげにダインロットは地団駄を踏む。アキは『狼の悪魔』をいとも簡単に殺してみせた因果の悪魔にも敵というのは存在するのだなと朧げながらに思った。

 

 結局、早川アキは悪魔には敵わなかった。ダインロットが言うには『木っ端悪魔』。そんな『狼の悪魔』も殺せないようでは『銃の悪魔』を殺すのなんてまず無理な話だった。

 今更ながらに実感が湧いてくる。憂鬱に身体が支配される。椅子に深くもたれかかって目を閉じる。

 

 対面するダインロットはその様子を見て、まあ言いたいことは分かる。と話し始めた。

 

「心配せずとも復活する悪魔なんてまずいないよ。今回の悪魔だって復活なんて特性は備えてなんかないだろうしね」

「…なら良いんだが」

「でも多分あの悪魔生きてるよ」

「…は?」

 

 アキは目を覚ます。椅子から立ち上がり流れるような動作でダインロットの頭を掴む。

 

「なんで生きてんだよ…! 契約違反じゃないのか大丈夫か!?」

「あ、いやっ!? あそこにいた悪魔はちゃんと殺したよ!? でもあの悪魔、多分分身か何かなんだよね」

「それを先に言えよ!!」

 

 アキは頭を抱えた。と同時に安堵した。なんだかんだ悪魔と言えども自分を助けてくれた親…同居人が過失も無しに死んでしまうなんてことはアキの流儀として受け入れられなかったからだ。

 

 契約とは、あまりにも重い。

 

 つくづく思う。アキに寄せられた好意とも取れる契約の促しにはリスクしか無いのに、それでも彼はそれに躊躇うことはなかった。何故か。それはもうここまで来たら一つしか考えられないだろう。

 それはダインロットがアキを、少なくとも大事な人だと認識しているからだ。

 

 途端にアキは力を抜き、再び椅子に深々と沈む。

 

「はぁー、…最低だ。俺は」

「えぇ…過去一番理解が追いつかないんだけど…」

 

 思わず顔に手を覆う。

 俺は、それを拒絶し続けてきた。一番近しい人…というか悪魔なのに、本質を見ていなかったと思い知らされた。今回の事件はそれだけ衝撃的だったのである。

 

 ダインロットの言うことは全て正しかった。俺は弱い。家族の仇である『銃の悪魔』を討伐することはもちろん、そこらの悪魔を殺すこともままならない。公安デビルハンターが悪魔に頼るのも頷ける。

 

 人と悪魔は全く別の規格で生きている。

 

 いつもダインロットをガキだなんだと揶揄っていた俺が一番ガキだったと思い知らされた。些事に執着して、固執して、目的が疎かになったと思えば、五里霧中を闇雲に走る。

 

 そんな俺に契約を迫ったのはアイツの優しさなんだろうな。見捨てられなかったんだろう。哀れんだんだろう。どうしようもなくどうしようもなかったから、俺は過去に縋るしか無かった。その姿がもしかすると滑稽に見えてたのかも知れない。

 

「よし。決めた」

 

 顔を覆っていた手を頬にバシッと叩く。ダインロットはビクッとした。

 

「ダイン。お前は俺に契約をして欲しいって言ってたよな」

「え、うん。さっきのみたいじゃなくてちゃんとした形式に則ったやつね」

「…俺と、契約してください」

 

 座りながらも、頭を下げる。無様、なんて考えることじゃない。これが今の俺にできる誠意の示し方なのだ。だから頭を下げる。

 

「え……えっ。大丈夫アキ!? 頭打った…わけないし何!? 洗脳されてるのか!? 誰だ! アキを洗脳したやつ!! ぶっ殺してやる!!」

「ダイン。落ち着け。信じられないかも知れないけど、本気なんだ」

「…なるほど」

 

 意味がわからないというように分かりやすく錯乱したダインロットを宥める。ダインロットは俺が本気であることを雰囲気で悟ったようだ。

 

 聞いてもらう準備も整った。だから俺は今の気持ちを伝えようと話し始めた。

 

 「俺は、弱い。弱いんだダイ。あの日から…いや、あの日の前よりずっと、俺は弱かったんだ。一人じゃ向き合えなかったことはたくさんあった。でもずっと、俺を知ってる奴がいてくれるから前を向けた。俺に良くしてくれる奴がいてくれるから『普通』になれた。だから俺は…俺は、お前に報いたかった」

「…え僕!?」

「復讐なんて何も生まない。幸せになれない。俺の執着でもし、お前まで消えてしまったらって…そう考えてからずっと怖かったんだ。復讐なんてやめようと思った。何度も悩んだ。契約を結んでしまったら、俺たちは俺たちじゃなくなるんだと思って、何も決めなくなって、決めれなくなって、そんな弱い俺が嫌で、逃げてばっかの俺が、俺は嫌いだったんだ」

 

 8年降り積もり、重なり、蓄えた劣等感と自己嫌悪。ガワだけを見るとアキに縋るダインロットだが、その実態は真逆だ。天涯孤独のアキは、無意識的にも意識的にも、ダインロットに縋っている。

 

「…弱くても僕が━━」

「俺は!!」

「━━!?」

「ダインの優しさに付け入るようなことはしない。俺の恨みも、仇も、生き様も、全て俺の問題だ。本当なら俺自身で解決しなければならないモノだ。でも」

 

 だけどそれは無理だと悟った。俺の辿る道の過酷さを知った。

 

「俺だけじゃダメだったんだ。無謀だった。進退も決められず、見えないものを見えてるように突き進んで、優柔不断で…でも今日で思い知った。俺じゃ銃の悪魔を殺せない」

「そんなに思い悩まなくても…」

()()()、お前は俺にこう言ったよな。契約してくれたら、望む未来に連れて行ってくれるって」

 

 それはかつてへの想起。正しく早川アキが終わり、そして始まった日。始まりと終わりを司る悪魔が放った言葉だ。その言葉は今もアキの記憶で燻っていた。

 あの日以来の義務教育の過程で、悪魔の契約についても学んだアキにとって、あの言葉がどれほどの価値を持ったものなのか容易に想像できる。

 

「…たしかに言ったよ。どんなに無茶苦茶な未来でも、僕がアキを連れて行く」

 

 その言葉に偽りは無く、アキの胸には期待が宿り、そして堪えきれないほどの涙が溢れてくる。

 

「そうか、ありがとう。俺は、欲張りみたいなんだ。こんなに理解(わか)ってるのにまだ諦めがつかない。なあ…人としての幸せと銃の悪魔への復讐、その両方を求めるのは強欲なのかなぁ…!」

 

 ようやくアキはその全貌を露わにせんとする。その理想論地味た結論には、アキ自身も赤面ものだろう。だがここで堪えて逃すのは後悔する。だから蓋も外聞もなく、震える声で言い切った。

 

 そうしてその放たれた言葉はちゃんとダインロットの元に届けられた。そして彼はアキの言わんとすることを理解した。

 

「最高じゃん。僕からしたら強欲とは言えないけど、ただの人間からしたらこれ以上なく強欲だね」

「……そう、だよな」

「けどね…」

 

「元来、ヒトは大罪(強欲)を悪魔に求めてきたんだよ」

 

 俯きかけていたアキがハッと頭を上げる。ダインロットは笑っていた。

 

「僕は否定しないよ。お前じゃ無理だとか、身の丈に合った人生を歩めだとか、そんなことは言わない。僕はただ、アキに後悔してほしくないだけだからね。僕を侵せる存在はまずいないから心配はいらない。君が願ってくれるなら、僕はそれを叶えよう」

「なら━━━」

 

 悪魔が囁く。だから彼はその口を開けて━━━

 

「銃の悪魔のいない、俺たちが幸せでいる未来に連れて行ってくれ」

 

 ━━契約を交わす。

 

 契約。見えない糸のように繋がる(えにし)。それは魂の束縛。であれど信頼と情の証になり得るものだ。互いの命を賭け、文字通り命懸けの仲になる。恐ろしくもどこか安心するような、儚げだが心強い無貌の手形である。

 

「分かった。アキの願いの成就のために、僕の力は使われよう。なら僕からの要求は三つだ。一つ、今後僕を『因果の悪魔』と呼んではならない。二つ、アキは僕以外と契約してはならない。三つ、どんな苦難にぶつかっても、決して諦めてはならない。どう?」

「上等だ」

「ならこれで契約は結ばれた。…どうかな、新たな関係性というのは」

「…あんまり実感ないな」

「ふーん、まあそんな感じなのかもね」

 

 こうして契約は結ばれた。その契約は彼にとって福となるのか凶と出るか、それはまだ分からない。だが確実にアキの力となるだろう。

 正史のアキの寿命のようになることはなく、身体は蝕まれない。それだけでも観測者達の言うバッドエンドからは遠のいたのだ。

 

 夜はいつの間にか明けようとしていた。日の出に目を焼いたアキは眩しさで手で目を隠す。だが対照的に口はニヤリと笑っていた。

 

「実感は無いが悪魔に唆された気分だな。これは」

「まあ、実際唆したようなものだしね。やったね! 今日から犯罪者だよ!」

「お前が幸せにしてくれるんだろ? なら犯罪者でも大丈夫だな」

「おおう…今の言い方ちょっと語弊を生むな…」

 

 気づけばアキは元気になっていた。人生の袋小路に立たされ、ボコボコにされているような顔をしていたアキはもういなかった。

 関係は変われど、何者かは変わらない。8年続いたアキの景色は確かに変わったが、ダインロットが変わったようには見えなかった。

 

 けどまあ、とダインロットは言う。

 

「悪魔っていうのは唆して、誑かして、でも契約は必ず守るんだ」

 

 アキはポンポンとダインロットの頭を撫でる。

 アキから見て、彼は昔からお人好しの悪魔にしか見えなかったからだ。

 

 そして今も、それは変わらずお人好しに見えたのだ。

 

 

 





描いてるうちになんかblの雰囲気になりましたが、全くそんなことはありませんということはお伝えいたします。

だから次回アキは死にます(唐突)
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