五月のバッドエンド世界救済大計画   作:真樹

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5_変われなかった理由①

 一花の懇願もあり、風太郎と四葉のよりを戻すこと、そして四つ子の絆を再構築するという目的を五月はようやく見つけた。

 けれども何はともあれ、初めて住む土地での生活や風太郎との共同生活に慣れることに必死でいるうちに数日が経過していた。

 ようやく今の生活にも慣れてきた今日この頃、しかしながら五月はここにきて未曾有の危機と直面していた。

 この世界に来てから何度も衝撃的な出来事や話と対峙してきた五月であったが、今日ほど自身の今後という点において絶望を実感したのはこれが初めてかもしれない。

 何があったのかといえば──

 

「お腹が空きました…………!」

 

 食べ物がなかった。

 時刻は正午。場所は風太郎の家。

 風太郎は仕事の真っただ中であろうド平日の昼下がりに、五月はちゃぶ台の前で水道水を注いだコップを握りしめながら呻いていた。

 それはもう腹の奥底から。

 空きっ腹なので自分の声が良く響くのが実感できてしまうほどに。

 

「上杉君と二人だけで同棲することにこんなリスクがあったなんて、迂闊でした……!」

 

 中野五月、23歳。教師改め現在無職。

 風太郎の家で居候している五月は、事実上のニート────もとい専業主婦見習いとしての新生活を送るようになったわけだが、元々異なる生活を送っていた二人が同居するとなると必ず発生する事態に悩まされていた。

 それは、価値観の違いだ。

 

 

 

 先日の事である。風太郎の家に住むことになった五月は、世話になる以上は留守中の家事を任せてほしいと申し出た。

 風太郎もそれを快諾し、五月は彼から自由に献立を決めていいと言われた上で食費を受け取った。

 五月だって良い大人である。受け取った金額に収まるようにきっちり材料を決め、調理し、二乃や三玖には勝らずとも料理で風太郎の胃袋を掴むことなど造作もなかった。

 風太郎もそれまでよほど惨めな食生活を送っていたのか『これなら夕飯は五月に任せられそうだ』と太鼓判を押してくれ、五月は意気揚々と明日の食事も任せてくれと翌日分の食費を要求した。

 すると、打って変わって目を丸くした風太郎はこう言ったのである。

 

『今朝渡したの一週間分だぞ?』

 

 ……………………

 …………

 ……

 五月は知らなかったのである。風太郎が夕飯すらワンコイン以下で済ませていたことを。

 五月は知らなかったのである。その程度の量で風太郎の胃袋がまあまあ満たされてしまうほど自分とはそもそも胃袋のキャパシティが違うことを。

 五月は思い出したのである。風太郎が”クソ”が付くほど貧乏であることに加えて倹約家────というかケチであることを。

 当然ながら一週間分の食費を一日で浪費しきったことに雷を落とされた挙句、それからは毎日当日分だけの食費を渡されることになったのであった。

 正直に言えば最初にお金を渡してきた時、それが一週間分ならそうと初めから言って欲しかったと風太郎に対して思うところもあった。しかし、五月とて渡された金額が彼にしては羽振りが良すぎることに気づけなかったので言い返すことができなかった。

 

「ですが、やはりあの程度の量じゃ足りませんよぅ……」

 

 それから数日、なんとか渡された食費だけでやりくりして食事を用意してみたのだが、純粋な量の問題として五月には足りるわけがなかった。

 唯一の救いは風太郎からは初日以降の文句は特にないくらいだろうか。

 なので風太郎との共同生活自体は今となってはすっかり平穏に送っているわけなのだが、その分の煽りを五月は空腹という形で喰らっているという具合なのである。

 小腹を満たそうにも風太郎が中身を管理する冷蔵庫につまみを作れるような余分な食材などあるわけないし、間食を買う金銭的余裕も五月の懐事情的になかった。

 よって、現在の五月は日本の首都であるはずの東京のど真ん中で飢餓に喘いでいるのであった。

 

「……いえ、お金は”ないことももない”のですが……」

 

 呟いてから五月は脇に置いてあった上着のポケットから封筒を取り出した。

 どこにでもある銀行ATMの柄がプリントされたお札を入れる用の封筒なのだが、そこには中々の厚みがある。

 中身は何も知らず人間がいきなり中を見ればぎょっとする程度の額はある現金であった。

 その金は一花から貰ったものだった。

 中野家、上杉家両家の惨憺たる状況を挽回するため、一花と協力することを約束した日に渡されたのだ。

 天涯孤独。身分証明書なし。スマホも所持品もなければ、無一文でこの世界に放り出された五月にとっては神の恵みといっても過言ではない。

 これほどの額があれば一ヶ月は食うに困らないだろう。風太郎なら三ヶ月はもたせるかもしれない。

 しかし。

 

「これはあくまで事態を解決するための軍資金。私の食事に使うわけにもいきませんし……」

 

 悲しいかな、風太郎の貧乏に”クソ”が付くなら、五月の場合は”クソ”が付くほど真面目な性格が災いしていた。

 無論、五月とて自らが立てた計画を遂行するにあたって必要であれば食費としても使うが、現状はそうではない。

 未だに諸問題を解決するための計画も固まらずにいたのであった。

 だから手が付けられないのである。

 のであるが。

 

「……じゅるり」

 

 いかんせん、腹の方が限界だった。

 既に五月の脳内の悪魔は「これは生存戦略として必要な消費だ。使ってしまえ」と囁き始めている。

 対抗するように脳内の天使は「使うなら最小限に抑えるべきです。夕方のお弁当の半額セールを狙いましょう」と必死に抵抗をしていた。

 使わないという選択肢は悩んでいる間にいつの間にか消え失せていた。

 

「一食だけ、一食だけ済ませたら今後は節約をしましょう……!」

 

 決めるや否や、鮮やかな身のこなしで封筒を上着のポケットに戻すと、上着を羽織り軽快な足取りで玄関へと向かった。

 直後。

 ピンポーン。

 玄関のインターホンが鳴った。

 

「こんな時に、誰ですか……」

 

 出鼻をくじかれた五月はややふてくされつつ、その場に座り込んだ。

 来客の対応をする気はなかった。

 風太郎から二乃か三玖以外で来ることがあるとすれば、胡散臭い営業か勧誘くらいだから出なくていいとも言いつけられているのである。

 だから五月はジッと扉の先の人の気配がなくなるのを待った。

 けれども、もう一度インターホンが鳴った。

 続けてノックの音もする。

 けれども五月は息をひそめ、ただひたすらに三玖に倣って『静かなること林の如し』と念仏のように心の中で唱えた。

 ノックに続き、ついには扉の外から声が聞こえる。知らない男性の声だった。

 

『お届けものでーす。中野五月さん宛でーす』

 

(私……?)

 

 思わぬ宛名に目を見張った。

 自分宛に荷物が来ることなどあり得るのだろうか。

 五月はこの家に住むようになってから未だに転居届や郵便の転送の手続きなど一切行っていない。というか、役所手続きに必要な諸々のものを持っていないのでできるわけがなかった。

 だから五月が今、この家に住んでることを知っているのはせいぜい風太郎と四つ子達ぐらいで……

 

(出てみますか……)

 

 五月は腰を上げた。

 以前もこうやって来客が二乃であることに安心して扉を開けたら揉め事に発展したわけだが、今度は相手も違うし大丈夫だろうという気持ちがあった。

 

「今出まーす!」

 

 そう言ってから玄関の扉を開けると、外の通路にはおおよそ想像通りのそれらしい恰好をした配達員の男性が立っていた。

 男性は帽子のつばを軽く上げる素振りをして会釈をすると、配達先に間違いがないか確認するように促してくる。

 配達物はダンボールではなく、レターパックのような厚紙でこしらえられたB5サイズほどの封筒だった。

 封筒は素材が厚紙なので中身の形がわかるようなくっきりとしたものではないものの、厚みがあるものなのかそこそこ膨らんでいた。

 貼られている用紙を確認すれば間違いなく宛名は『中野五月』と書かれているし、住所もこの家で間違いない。

 では送り主は誰かといえば。

 

(一花……?)

 

 先日初対面を済ませたばかりの一花だった。

 彼女とはあの日、連絡先も交換しなかった(というか自分がスマホを持っていないのでできなかった)から公園で会ったきりなのだが、何を送ってきたのだろうか。

 中身を想像していると、頭上から配達員のおずおずとした声がする。

 

「えと、すみません、違ってますかね?」

「あ、大丈夫です合ってます。サインでいいですか?」

 

 

 

 配達員から受け取った荷物をもって居間に戻ると早速中身を確認してみた。

 封筒の中には緩衝材のぷちぷちに包まれたスマートホンと充電器、それから一枚の付箋が入っていた。

 付箋には丸っこい文字で短く一文が書かれている。

 

『連絡先に私を登録してあるから、受け取ったら連絡してね』

 

 テープで補強されている緩衝材を取り払い、スマホの電源を入れてみれば事前に充電してあったらしくすんなりと起動した。

 とはいえ配達の間にそこそこ放電されてしまっているらしく、バッテリーのアイコンが半分ほど目減りしていたので付属されていた充電器を接続した。

 必然的に壁に身を寄せる形になった五月は、その姿勢のままアドレス帳を開くと、付箋に書いてあった一花の電話番号だけが登録されていたのでコールをしてみる。

 数コールほど鳴った後、電子音は途切れて代わりに一花の声が聞こえた。

 

『無事に届いたみたいだね。それに電話もナイスタイミングだよ。ちょうどお仕事の間の時間でさ』

「あの、言われた通りにしましたけど、これ何ですか?」

『これって?』

「スマホです。今私が電話に使っているやつ」

『そりゃもちろん五月のだよ』

 

 さも当然のごとく言ってのける一花に、電話越しながら前のめりになって食いつく五月。

 

「はい……!?」

『この前会ってそっちの話を聞いた時に色々不便してそうだなぁって思ってさ。ここは協力してもらう分私が一肌脱ごうかと思って買ったんだー』

「一肌って、あなたからはもう十分お金をいただいていますし……悪いですよ!」

 

 実際問題、直接現金で受け取っている分も合わせると一花が支払ってくれている金額を一肌どころの騒ぎではない。

 万が一、お金や送ったスマートホンを持ち逃げされたらどうするのかと思わず聞きたくなる。一花のことだからそういった可能性だって考えていないわけではないだろう。

 もちろん五月はそんなことをするつもりなど毛頭ないのだが、この世界では一花とは初対面を済ませたばかりなのだ。だから向こうがこちらの性格を知るわけがないし、いくら協力関係だからといってもやり過ぎだと思わずにいられなかった。

 

『気にしない気にしない。これでも私結構稼いでるからさ。記憶喪失らしいから知らないかもだけど、私こう見えて結構売れっ子の女優なんだよ?』

「それはまあ知っていますが……」

『そうなんだ。フータロー君の家って実家と同じなら家にテレビ置いてなさそうだし、五月が私のことを知る機会とか無いかなって思ってたんだけど』

「それは……」

 

 前の世界から持ち越しの知識だからとは言えない。

 

『もしかして、記憶は失っても私のことだけは憶えてくれていたとか? いやぁ、私ってばそんなに存在感強いのかなぁ』

「…………」

 

 都合の良い解釈なので、そういうことにしておこうと思った。

 

「まあ、買ってしまった以上は今更どうしようもありませんよね」

『そうそう。物分かりが良くてお姉ちゃん助かるなぁ』

「…………」

『ごめんごめん。勝手に姉ぶるなって思ってるよね。五月と話してるとなんだか姉妹を相手してるような気分になってさ』

「いえ、構いません」

 

 むしろその方が嬉しいくらいである。

 

『そっか、よかった。そういうことだからさ。そのスマホは五月の好きに使っていいよ。通信料もこっちで払っておくからさ』

「……ありがとうございます」

『あ、でもゲームの課金とかはほどほどにね? あんまり酷いようなら没収だから』

「しません!」

 

 というかその言い草だと少しくらいなら構わないということだろうか。

 

『それでだけどさ』

「はい?」

『早速だけど、状況とかってどうかな』

 

 主語はないものの一花が聞いてきているのは恐らく四つ子や風太郎の関係修復の首尾のことだろう。

 ここまで手を回してくる以上、一花もよほど気にしているものと見える。

 

「残念ながら今のところは進展なしです」

『結構自由に動ける金額を渡したつもりだけど、足りなかった?』

「お金の問題じゃありません。単純に何から手を付けたらと考えていたところでして……」

『まあ確かに私でもどうにもできなかったことを、いきなりどうにかできるわけもないか』

 

 うんうんと、勝手に納得しているかのような唸り声が聞こえてくる。

 五月だって本当は姉妹の性格はある程度分かっているのだが、一花の言い分には半分は同意せざるを得ない部分もある。

 自分が知っているのは前の世界の姉妹のことであって、この世界の姉妹のことではない。

 幸い性格の大きな齟齬はないが、話を聞く限り過去までまったく同じというわけではなさそうなのが手痛かった。

 だからやたら無暗に聞き込みをかけて地雷を突っつきたくはないのである。

 

「それに今は他にも問題があり……」

『問題?』

 

 問い返しに対して五月は上杉家における食事情のことを説明した。

 別にそれが決定的な原因というわけではないが、食事が満足に摂れない現状ではあまり体力を使うことができないという、五月自身の所感も交えたりした。

 

『そんなの私が渡してあげたお金でご飯食べればいいじゃん』

「ですがあれは上杉君達の問題を解決するためのお金で──」

『でもそれで動けないんじゃ本末転倒でしょ?』

「うっ……」

『私が良いって言ってるんだからさ、そのお金は好きに使ってよ』

 

 懐かしさすら感じるほどの優しい姉としての声色。

 五月は心地よさを感じながらも、思ったことを口にする。

 

「あの、どうして一花はそこまでしてくれるんですか?」

『え? そりゃだって協力してくれてるんだから当たり前じゃない?』

「それにしたってです。少々、度が過ぎているというか……」

『…………』

「期待にはお答えするつもりですが、もしも私が期待を裏切るような人間だったらどうするつもりだったですか?」

 

 問いに、一花からの返事はしばらくなかった。

 問いかけた側の五月からすれば何か変なことを訊いたかと徐々に気まずくなってくるほどの時間が流れた後、ようやく一花がぽつりと返事をする。

 

『お姉ちゃんらしいことをしたいから、かなぁ』

「……私はあなたの妹ではありませんよ。一花」

『そうだけど、本当の妹達はもう私のことなんか頼ってくれないからさ』

「────」

『私が四葉のよりを戻そうとしてることは二乃と三玖も知ってるから、私のこと目の敵にしてるみたいなんだ。四葉も何というか、今はもう何もかも諦めちゃってる感じがあるから』

「……一花」

『だから嬉しかったんだ。この前三玖の店に行った時、全部がダメになっちゃったこの状況を四つ子でもないのに怒ってくれた五月を見かけた時はさ』

「だって、あんまりじゃないですか。ずっと仲良しだった姉妹だったのに、バラバラになってしまうなんて……」

『うん────うん、本当にそうだよね』

 

 スピーカーの向こうで、鼻を啜るようなノイズが鳴る。

 

『やっぱり五月に協力を申し出てよかったや。お金とか、スマホを渡したことも後悔してない……全部私が自分で考えて決めたことだから、五月が良いなら私の勝手な好意だけど、受け取ってくれないかな?』

「……わかりました。少々心苦しくはありますが、正直助かりますし……お言葉に甘えさせていただきます」

『うん、その方が私も嬉しいよ。じゃあ、また何かあったら連絡してもらえる?』

「わかりました」

『何もなくても連絡くれていいからね』

「……ええ、ほどほどに」

『五月は固いなぁ。いつかその敬語が取れてくれる日が来ればいいんだけど』

「…………」

 

 この世界の一花は五月がどうして敬語で話しているのか理由など知らない。

 無論、この世界における四つ子と自分は家族ではないので当然なのだが、五月が姉妹を相手であっても敬語で話していたことがあるなど知るわけがない。

 だから一花からの、五月の敬語が単なる他人行儀によるものだと思われていることに、少々の距離感を感じながら五月は結びの挨拶もほどほどに電話を切った。

 

「……せっかくですから、早速どこか食事に行ってみますか」

 

 相槌でもするかのごとく、ちょうど五月の腹の虫が鳴いた。

 

 

 

 

 

 一花との電話の後、五月は家を出ると近所のケーキ屋へと向かっていた。

 電話が終わってすぐ後で一花からチャットが届いたのである。

 

『さっきの話の続きだけど、フータロー君の家の近くにオススメの店があるから行ってみなよ。そこなら五月の罪悪感も多少マシになると思うし』

 

 とのことだった。

 どこで食べようと私用に一花の金を使うことの罪悪感が薄まることなどないと思うのだが、五月は大人しく従ってみたのである。

 ケーキ屋に着くと思ったよりも人気のある場所だった。風太郎の家より最寄り駅に近づき人通りが多いのだが、店内もそこそこの集客があるように窓の外からは見えた。

 とにもかくにも、入り口の自動ではない押戸を開けて中に入れば正面にはショーケースに並べられたケーキ達が目に飛び込んできて、ほとんど無意識に涎が出そうになる。

 ショーケースの奥は窓の外から見た客席があり、まだ席は多少空いているように見えた。

 

「いらっしゃいませ」

 

 すると、ショーケース裏のスタッフゾーンから店員が顔を見せて来た。扉に備え付けの鐘があったから来店に気が付いたのだろう。

 出て来た女性店員は五月の方を見ると、途端に営業スマイルを崩してきた。

 

「あ、中野さんもう休憩上がりですか?」

「え?」

「そしたら私、ちょっと早いですけど交代で休憩入っちゃっていいですか? 実は朝抜いてきちゃったからお腹ぺこぺこで」

「いや、あの、何の話ですか……!?」

 

 話の流れが見えない間にも女性店員は制服のエプロンを外し始めている。

 続けて五月には中に入るように促してきて、とにかくこの場は何か勘違いしているのであろうということを説明しなければと言葉を探していると、背後からもう一度来店の鐘が鳴った。

 

「あれ、あんた……」

 

 かけられた声に振り返ってみれば、入ってきたのは二乃だった。

 

「なんでここにいるのよ?」

「あなたこそ、どうしてここに……」

「私はここで働いてるだけ。それで? 質問に答えてくれる?」

「……その、ご飯を食べに来ただけなのですが……」

 

 ふーん、と二乃は鼻を鳴らした。

 睨みつけるというほどではないが、何かを見定めるように目を細める二乃。

 その視線に居心地の悪さを感じていると、傍の女性店員から声が挙がる。

 

「え、あれ、中野さんが二人……?」

「ああすみません店長。私の休憩まだ時間残ってましたよね? ちょっと開いてる客席使っても良いですか?」

「上着とかで制服のまんまにならないようにしてくれればいいけど……」

「ありがとうございます…………五月、だっけ? ちょっとこっち来なさい」

 

 そう言って二乃はついてくるように顎で指示をしてから客席の方へと向かっていった。

 

「……」

「何ぼっと突っ立ってるのよ。そこにいるとお客様の迷惑になるのよ。別に取って食おうってわけじゃないし、少し話をしようと思ってるだけだから来なさいよ」

「……はい」

 

 渋々後をついて行くと、後ろからはぽつりと店長と呼ばれた女性店員の呟きが聞こえた。

 

「あれが四つ子の姉妹の子なのかな……本当にそっくりなんだぁ……」

 

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