次元列車 作:hope
時刻は深夜、雲が無いためか夜空に輝く星たちが優しい光で大地をささやかに照らしてくれている。しかしその光を受け付けない雰囲気を醸し出した男が一人いた。男は終電を逃そうとしていて、それを阻止すべく息をするペースを速くしていた。最初はちゃんと着こなしていたスーツは乱れ、シャツははみ出る。ネクタイに指を2本入れて緩め、首に多少の解放感が来たと同時に呼吸のペースがどんどん早める。腕をオリンピック選手のように振り始め、事態はクライマックスを迎え始めた。
やっとの思いで着いた地下鉄に繋がる階段を下り始めた。最初は足の素早さで勝負していたが、一段、二段飛ばしで下り始めた。降りる度に足への負担積み重なっていく。最後に5段をジャンプして降りた時に右へ大きくよろけたが、すかさず自分の右手が倒れるのを防ぎ走り始める。とある角を曲がったら自分とは逆方向へ向かう疲れきっている人達がいるのを確認した。時間は少ないと確認した瞬間に彼らの先から電車の音がする。彼らは道路を横並びで完全封鎖するように男の方へ迫る。男は唾を1回飲み、また走り出す。男は彼らの間に生まれる間に片手を入れ
「すみません、すみません」
それしかプログラムされていないロボットかのように言い続け、ほぼ押し退けるように彼らという壁を抜けた。
そしてお求めの終電が目の前に合った。しかし男の表情は喜び、安堵でなく、真顔だった。それもそのはずだ扉はもう閉じていて男を見捨てるように電車は去っているのだから。
男は落胆し、徒労に終わってしまった。
「喉……乾いた」
近くの自販機から180円のジュースを買った。硬貨入れて、ボタンを押す時少し渋ってしまったがさっきの電車の事を思いかしたらどうでも良くなって勢いよく押した。勢いとは裏腹に普通に落ちてくるジュース。それは昔から根強く、よく学生に好まれて飲まれている物だった。見た目は透明飲料水の黄色で泡が無限かのようにわき出ている炭酸だった。男も若かりし頃は良く飲んでいた。喉を通り度に炭酸で喉が刺激されていく。刺激が来る度に昔の事を思い出す。それには甘酸っぱい記憶、暑苦しい友情の記憶が甦るはずだがそれは無かった。男の人生を表すならば虚無。男は何も成し遂げず何も挑戦しようとしなかった。中の下の高校行き、下の中の大学へ行き、パワハラが伝統芸会社に入った。男の人生というキャンパスは今だ、何も塗られていないキャンパスだった。
ふと、あることを思い出した。自分は何を目指していたのかを。何も挑戦しなかったとはあるが、何かを思わなかったわけではない。子供の頃は誰だってある夢を無限のように生まれてくる時期が。男は自分は何があっただろうかと深く考える。
視界の情報すら少なくしようと、床の四角いタイルを凝視しながら考える。不思議な事に出てこない。水が枯れた井戸から水を取り出そうとしてるくらい無意味のように出てこない。
タイルがぼやける程立ち尽くしながら床をみていた時、後ろから聞き慣れた音が聞こえた。後ろには電車が止まりに来ていた。男は買った飲み物をカバンにしまい、スマホで時刻表をみる。時刻表ページには「本日の運行はありません。ご利用ありがとうございました」とミニキャラがお辞儀しながら写し出されている。これは会社のミス?それとも俗に言うファンタジー?2択になった。しかしこれは後者だろう。電車の扉が開いたが中が見えない。電車の中からの光が強すぎるのだ。これは普通ではない。霊感を持ってない常人ですらわかる。これはファンタジーの類いだ。男は吸い込まれるように扉の目の前へ行く。目の前に手を翳さないとまともに目を開けられないくらいの明るさ。しかし男は光を凝視していた。
後一歩で入る所で男は思い出した。幼少期の頃見た、とある映画を。それは有りすぎる展開に満ち溢れた童心を擽る冒険家の映画だった。腰にはリボルバーではなく、鞭。鞭で崖を登り、味方を助ける。そして最後には財宝を見つけエンドロールが流れる映画。
「冒険家……」
男は歩みを始めた。片足が電車に入る。光が強すぎて入れた所が見えない。男は決心して勢いよく電車に入る。男が電車に入った瞬間、電車は歓迎するように音を鳴らし、扉がしまる。電車は出発して世界から姿を消した。
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