黒殲のベルゼルク-少年は見知らぬ世界でネクストを駆り無双する-   作:光波気取り

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ファーストミッション・後

 

 ヘイヴン・フォウ外縁部、演習区画。

 

 AC四機を格納可能な大型輸送機は管制室や整備設備まで有しており、ちょっとした空中空母とも呼べる代物だった。

 

「ヴェアヴェルフ、チェックポイント3を通過!」

 

 オペレーターは驚きを堪えながら報告した。トーリが駆るヴェアヴェルフの進撃速度はネクストの性能を考慮しても凄まじい。

 

 現在の試験は市街地に待ち伏せる敵機を撃破しながら目的地にたどり着く、という実戦形式のものだ。管制室のモニター上には、機体特性を知り尽くした無駄のない動きでダブルトリガーの突撃ライフルをぶっ放すマットブラック・カラーのネクストACが映っている。

 

 敵機となるノーマルACなどはCGで本物さながらに描画された仮想オブジェクトだ。それらが次々に爆散し、その頭上を黒く鋭いフォルムのネクストがパスしていく。

 

 静かな驚愕と興奮が管制室に満ちている。冷静なのは試験の監督者だけだった。

 

「ふむ」

 

 監督者は黒赤色の長い髪に鋭い眼差しの美女だ。

 ミニスカートの制服をきちんと着こなしたオペレーターが詰めた室内において、場違いな露出度が高く扇情的な装いの上に白衣を羽織った女であった。しかし、露わになっている蠱惑的な肉体は鍛えられており、軍歴を物語っている。

 エルセド技研の所長であるアーリィはネクスト運用の最高責任者も兼任していた。

 

 (とんでもない物が流れ着いたものだ)

 

 豊かな乳房を下から支えるように腕を組みながら、アーリィはモニター上で無双するヴェアヴォルフを注視した。

 

 

 ヴェアヴォルフの前に最後に立ちはだかったのはネクストだった。バズーカタイプの武器腕に換装した"GAN01-SUNSHINE"。重厚な装甲で形成された直線的で角ばってたフォルムの機体だ。プライマルアーマーをはじめ、コジマ技術の応用は未熟だが、高い実弾防御力と火力がある。

 

 突撃ライフル主体の今のヴェアヴォルフにとっては不利な相手だが、トーリは高層ビルを盾にしながらの射撃戦で素早くこれを削り切り、ゴール地点に飛び込んだ。

 

 クリアタイムは一分四十秒。想定の半分の時間だった。

 

「ふぅ」と額の汗を拭うトーリ。FCSと各種武装のマッチング、それに続く試射の後にすぐに行われたのがこの実戦形式の試験であった。

 

 護衛として周辺で待機しているガーネット・ハーツのお姉さん達から通信が入る。

 

『お疲れ様ですトーリ』

 

『私達がやった時はクリアに五分もかかったのよ。トーリ君は凄いわ』

 

『ヴェアヴォルフの性能とフレスベルカのサポートのおかげです。僕よりもネクストを相手に勝ってクリアできる皆さんの方が凄いですよ』

 

 サポートのおかげと言った時、トーリの後ろで嬉し気な笑い声が微かに聞こえた。

 

『ぶっちゃけ、あれって粗製だろ? 性能負けしてるからってあんな程度には負けられねーよ』

 

 エッダの指摘通り、この試験プログラムの最後の敵であるネクストの戦闘力は最低レベルだ。

 しかし、それでもノーマルの一個中隊を相手取れるほどで、そこに至るまでの消耗も加味すれば決して容易い相手ではない。

 

『本物のネクストと勝負するのが楽しみです』

 

 イレーネのクールな美貌に好戦的な微笑みが浮かんでいた。

 

 

 管制室から通信が入り、鋭い眼差しの美女のバストアップ映像が視界に表示される。アーリィの冷厳な美貌は威圧的で、トーリは会う度に気圧されてしまう。

 

『よくやってくれた少年。次はガーネット・ハーツとの模擬戦だ。指定したエリアに移動してくれ』

 

『判りました。その前に武器を変更してもいいですか?』

 

『勿論だ。移動中に整備クルーにオーダーしてくれ』

 

『了解』

 

 トーリは輸送機の格納庫で武装を変更した。右腕にレーザーブレード、左腕にマシンガン、右肩にレーダー。そして左肩にはプラズマキャノン。セッティングに要した時間はわずか十分。

 

『手加減はしねえからな』

 

『負けないわよトーリ君』

 

『徹底的にやらせてもらいます』

 

 ル・シエル、砲桜、ストレガ。三機のハイエンドノーマルも開始位置に付き、戦意を滾らせる。

 

 

『では演習を開始する』

 

 アーリィが宣言した直後のことだった。背部レーダーが追加され、索敵範囲が大幅に伸びたヴェアヴォルフが、領域外から接近する航空機を補足した。

 

「なんだ? ヘイヴン・フォウの機体じゃない?」

 

「救難信号を発していますわね」

 

 すぐに情報は共有され、演習が中断される。

 

『ワイズテック社の偵察機ですね』

『なら封鎖領域(ノーマンズライン)に入った調査隊か?』

 

 イレーネはレーダー上の輝点を睨む。

 一方、エッダは大崩壊で失われた技術に目を向け始めた中堅企業のごく最近の動向を思い出していた。

 

 地球上にはいまだ多くの暴走自律兵器が徘徊し、自己進化を続けている。封鎖領域とは自律兵器の密集地帯のことだ。本来は敵として設定された勢力の戦略的要所であった。その制圧に成功した自律兵器が現地の製造インフラを掌握、あるいは自ら確立することで繁殖している。

 

 大崩壊からの復興が進んだ近年では封鎖領域に進出する動きがあり、野生化した自律兵器から人類の生存権を解放するというスローガンの元、企業やそれに対抗する各国が戦力を送り込んでいた。

 

『返り討ちにあったみたいね。生きて出られただけでも幸運かも』

 

 しかし、封鎖領域に棲みついた兵器群の強力さと物量のため、その進捗は芳しくなかった。

 数少ない成果は、ネクストやアームズフォートといった決戦級戦力や優秀なレイヴンが駆るACの活躍によるものだ。

 

 送り込まれた部隊が文字通り全滅するのも珍しくない。トーリが捕捉した偵察機は生き残りというところだろう。

 

 

 ヴェアヴォルフはブーストジャンプ。救難信号を発する偵察機の方向にトーリは機体を向けた。少年の凝視に反応して03-AALIYAH/Hの複眼の光が集束する。

 

 拡大表示された航空機は黒煙を吹きながら、息も絶え絶えに飛んでいる。高度が徐々に下がっており、直に不時着しなければならないだろう。

 

 どうするべきか、少年は悩んだ。振り返って、後部座席のフレスベルカを見つめるが、彼女はただ妖しく微笑むだけ。

 

「無人機は損害した機体、特に有人機に引き寄せられます。そして、あの偵察機が墜ちようとしているのは、ちょうどイエローレベル、中規模の危険領域ですわ」

 

 元々は陸上戦艦だったのだろうか。巨大な残骸がまばらに転がるエリアだった。その影に無人機が潜んでいるのだろう。

 

 不測の事態に備え ヴェアヴォルフとガーネット・ハーツの三機は実弾を装填してあるのですぐに救援に迎える。

 

『一番近いのは少年だ。どうする、ネクストのOBなら間に合うかもしれんが?』

 

 管制室のアーリィが腕を組みながら問いかける。今回の試験の最高責任者である彼女のお墨付きが出た。

 

『やります』

 

 決心してトーリは答えた。

 

『偵察機が不時着に失敗する、あるいは向かっている最中に無人機に集られて乗員が皆殺しにされる可能性もあるぞ』

 

 アーリィの言葉を聞きつつ、OBを始動させる。

 

『無駄足になっても構いません』

 

 音速突破による加速荷重に備えて身構える。

 

『よし、では行ってこい。ガーネット・ハーツも随伴するように――――必ず無事に帰ってこい』

 

『ありがとうございますアーリィさん。ヴェアヴォルフ、出撃します!』

 

 その言葉と同時にヴェアヴォルフは急加速。音の壁を越える。マットブラックカラーのネクストは放たれた矢の如く真っ直ぐに駆ける。

 

 

『了解』

 

 静かな口調に強い決意を滲ませるイレーネ。空の蒼さを纏った逆関節ACル・シエルが飛び立つ。

 

『ワイズテックの奴らから後でたっぷりふんだくってやろうぜ』

 

 四脚の積載能力で限界まで火力を盛った砲桜が地上を滑走し始める。市街地を抜けて、不時着予測地点までの直線距離をオーバードブースト。

 

『ストレガのスピードなら二人より先に合流できるわ。一緒に頑張りましょうね、トーリ君』

 

 追加ブースターを背部に背負った軽量二脚のストレガは既に演習用区画を抜けて、砂漠を駆けている。

 

 赤髪の妖艶なお姉さん、ニケは両脚を勇ましく広げて踏ん張り、加速による荷重に耐えている。それは股間を覆う細長い装甲プレートが強調される大胆な格好であった。

 

 

「間に合った!」

 

 ヴェアヴォルフが向かっている間にも偵察機は胴体着陸。残骸に激突する寸前で停止した機体の周りにMTが近寄り始める。フレスベルカの言った通りだ。

 

「実弾と装填とレーザーの戦闘出力への変更は完了していますわ」

「助かるよフレスベルカ!」

 

 トーリは残骸が散らばる領域に点在する敵機を見下ろし、視線を走らせる。

 フレスベルカはレーダーが捉えた敵の位置に併せて攻撃の推奨優先順位を表示しており、トーリはそれに従ってMTの集団にマシンガンの銃口を向けた。

 

 ロックオンマーカーが赤に変わる。微かな電子音に応えてトリガーを引く。

 

 貪欲な歩調で獲物に群がろうとしていた軽装甲MTを左腕のマシンガンで一掃した。重力で速度を増した砲弾に薄い上面装甲はとても耐えられない。

 

 滑空しながらヴェアヴォルフはプラズマキャノンを展開。砲身を肩に担ぎながら偵察機の傍に着地した。脚部が着地反動で硬直しないよう、ブーストを吹かして減速しており、砂塵が猛烈な勢いで舞い上がる。

 

『こちらはヘイヴン・フォウ所属の部隊です! 救援に来ました!』

 

 外部スピーカーをオンにしてトーリーは叫んだ。本来ならもっともらしい通達の言い回しがあるが、今の少年にはこれが限界だった。

 

 その間にも自律兵器が攻撃してきたが、PAで完全に無効化できる程度の威力だ。減衰量も微々たるもの。偵察機の盾になりながら、マシンガンを掃射する。

 

 マガジンが空になり、放り捨てたその一瞬を狙い、リグ――ホバータイプの装甲車数台が偵察機に突っ込む。

 

「トーリ様、迎撃を。自爆するつもりですわ」

 

 ブーストチャージで蹴り飛ばそうとするが、それよりも先に飛来した弾丸がリグを撃破した。

 

『お待たせトーリ君! 偵察機は私がガードするから、君は自由は動いて!』

『助かります!』

 

 赤髪のお姉さん傭兵が駆るストレガは滞空しながら狙撃で敵を排除する。その援護を受けて自由に動けるようになったトーリはブレードを抜刀し、残骸の影に隠れて機会を窺っていた自律兵器を瞬く間に駆逐する。

 

 さらにル・シエルと砲桜も合流。一帯の自律兵器を全滅させる勢いで戦闘を繰り広げる。

 

『ちっ親玉か!?』

 

 浴びせかけられた火砲のシャワーに慌てて残骸に引っ込み、その機動の激しさで強化スーツにラッピングされた巨乳を弾ませるエッダ。

 ヘイヴン・フォウから発進した救難機到着まで残り五分という段階になって、形を残した陸上戦艦の残骸から巨大な機体が飛び出てきたのだ。

 

 それはかつて存在した多砲塔戦車の恐竜的進化といえるような異形だった。ほぼ全周をカバーする大小の砲から絶え間なく火を噴いている。

 

『今日まで獲物がやってくる日を待っていたのでしょう。対空用らしきレーザーが装備されています。このまま救援機が射程に入れば撃墜されてしまいます』

 

 ル・シエルは天高く跳躍し、リニアライフルとミサイルのコンビネーションで多砲塔戦車を攻撃する。だが、分厚い装甲のために、ダメージは近接防御用の機関砲を破損させるに留まった。反撃をかつて陸上艦の装甲であった残骸を蹴って躱す。

 

「くっ……!」

 

 コクピットでは大胆に大股を開いたイレーネが歯を食いしばって荷重を堪えている。

 

『速攻で叩き潰します!』

 

 トーリはヴェアヴォルフのクイックブーストを始動。飛んできたミサイルを真っ向からPAで受け止め、爆炎を振り払うように前方に急加速。転がっている残骸を蹴り、ジグザグに跳んで一気に距離を詰めていく。

 

 飛来してきた砲弾はマシンガンで撃ち落し、キャノンから放たれたプラズマが巨大兵器に炸裂し、損傷を与える。

 プラズマの炸裂は電波を乱反射させ、敵機のレーダーを麻痺させていた。

 

 アサルトアーマーが発生させる衝撃波は偵察機を巻き込みかねないので使えない。高出力だがレンジの短いレーザーブレードを抜き放ち、巨大戦車の装甲に叩きつける。ブレードは易々と敵の装甲を溶断し、砲身をも切断。

 

 フレスベルカは手を沿えるようにして、トーリの太刀筋を補正し、最大のダメージを与えるようにしてくれた。

 

 内部の弾薬庫が誘爆し、猛烈な爆風が戦車の損傷部から巻き起こる。だが、撃破には至らない。

 

『皆さん、トドメを頼みます!』

 

 飛び去りながら、トーリはガーネット・ハーツに呼びかける。

 

 三機のハイエンドノーマルが猛攻を仕掛ける。決定打になったのはエッダの砲桜の攻撃だった。

 大口径ロケット、ガトリングキャノン、ハイレーザーライフル、グレネードライフル。四つの砲火が容赦なく戦車に降り注ぎ、爆散させたのだ。

 

 

 三人の戦乙女と声を掛け合い、心を一つに力を合わせる。

 自分だけでなく、他者の命もかかった戦いではあったが、トーリは心地よい緊張と充実感を得ていた。

 

『お疲れ様です皆様。救援機が着陸いたしましたわ。偵察機からも感謝と被害状況の通達が。乗員は軽症者のみで死者なし。これならば収容作業は迅速に進みそうですわ』

 

 フレスベルカが報告した。

 

『こちらでも確認しました。敵性反応は消滅しましたが、油断せずに行きましょう』

 

 イレーネはシートからお尻を軽く浮かせ座り直した。大殿筋を鍛え上げ、引き締められたお尻はボリュームもある。

 

 身動ぎした金髪ロングヘアのお姉さんの豊かな乳房が微かに揺れる。それを通信ウインド越しに直視してしまうトーリであった。

 

『よく頑張ったなトーリ。褒めてやるぜ。ご褒美もやるから戻ったら楽しみにしてろよ』

 

 追い撃ちをかけるようなエッダの発言。

 

『ごっご褒美って!? いったい何をするんですか!?』

 

『馬鹿野郎それは秘密だぜ』

 

 一体何をされてしまうのか。トーリは怯えつつもドキドキしている。

 

『良かったわねトーリ君。せっかくだから私からもご褒美を用意するわ。イレーネも来るでしょう?』

 

『是非私にも労わせてください』

 

『ふふっ素敵な夜になりそうですわね』

 

 警戒するって言ったばかりじゃないですかとお姉さんたちに突っ込み、トーリは努めて意識を外に向けた。

 

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