黒殲のベルゼルク-少年は見知らぬ世界でネクストを駆り無双する-   作:光波気取り

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夜の闇の中で

 新たな住まいとして案内されたV.S.S.基地居住区の一室にて、トーリはベッドに腰掛けて身を固くしていた。

 

 トーリは護衛を務めるイレーネ達の住居で暮らすことになり、今日の救出作戦での活躍の"ご褒美"をお姉さん達から与えられようとしている。

 

 ドアが上品にノックされ、少年は思わずびくんと背筋を伸ばした。

 

「どっどうぞ!」

 

 ドアが開く。

 

「失礼いたしますトーリ様」

 

 優雅に一礼したのは一対の角を持つ黒髪の美女。フレスベルカの衣装は今朝からずっと変わりなく、ゴシックドレス風のハイレグレオタードだ。

 

「皆様の着替えが終わりましたわ。それではごゆっくり」

 

 着替えという単語に物凄い不穏さと共に興奮を禁じ得ない少年であった。

 

「ちょっとごゆっくりって! フレスベルカは!?」

「わたくしは邪魔にならないよう、廊下で待たせていだきます」

「酷いよこんな時だけ独りにするなんて!」

「独りではありませんわ。イレーネ様たちがいらっしゃいます」

 

 ベッドから立ち上がり呼び止める。しかし、フレスベルカが退いて、代わりにイレーネ達が入室してくる。その姿に少年は硬直した。

 

「よっ待たせたな」

「似合っていますか?」

「ふふ、そんなに硬くならないで」

 

(すっ透け透け!?)

 

 ガーネット・ハーツのお姉さん達は踊り子に変身していた。豊かな胸を殆ど隠せてない布地に、腰から垂れた布地。それに口元を覆うフェイスベール。

 

手足に煌びやかな装飾品を身に着けているが、着衣はそれだけ。しかも透けており、細長い前垂れの下に申し訳程度に穿いたマイクロビキニが覗いている。

 

 三人とも両手の指輪に結んだ長いベールを背中に回しており、歩めば空気を孕んで広がり目を引く。

 装飾品の奏でる音と共に長身のお姉さん達は殆ど裸同然の姿に色香を漂わせながらトーリの目の前にきた。

 

 ニヤリと意地悪そうに笑うエッダ、こんな時でも無表情なイレーネ、誘惑するようなニケ。とても現実とは思えない光景だった。

 

「どっどうしてそんな服を!?」

 

「少し前にニケがベリーダンスに嵌ってな。オレとイレーネも付き合わされたんだよ」

 

「付き合わされたという割にエッダは楽しんでいたようでしたが?」

 

「まあな」

 

 踊り子となったエッダは片手を腰に当て堂々と立っている。三人揃って衣装を買い揃えるほどのめり込んだが、覚えたダンスを披露する相手がいなかったという。そこでトーリに白羽の矢が立ったわけだ。

 

「ふふっ見かけだけじゃないのよ。ほら、見ていて」

 

 イレーネにウインクしてからニケはステップを踏み始める。

 それに合わせて、イレーネも動き始めた。長い金髪を靡かせて、妖しく腰をくねらせる。しかし、それはあくまで冷静で計算されたダンスだった。

 

「おっと出遅れちまった」

 

 そこにエッダも加わり、筋肉質な肢体に相応しい豪快なダンスを踊り、高らかに片脚を上げる。天井に向かって真っすぐに伸びた長い脚。その根本をつい見てしまい、息を呑んだ。

 

 ニケの妖艶なステップにイレーネが冷たい眼差しで寄り添う。そこにエッダの力強さが組み合わさる。三人のお姉さん達の過激で華麗なダンスは好き勝手に踊っているように見えて、その実三者が調和していた。

 

 お姉さん達の鍛え抜かれた全身が踊りと共に披露されている。

 

「もっとケツ振ってやれよイレーネ。こいつ意外とエロガキだから夢中になるぜ。それとも自信ないのか?」

 

「おっお尻なんて見てませんよ!」

 

 慌てて抗議するトーリであったが、悲しいから背中を向けて筋肉美を披露しながら踊る、エッダの大きなお尻に視線が吸い寄せられている。

 

「臀部の筋肉も入念に鍛えています。恥じるような部分はありません」

 

 煽られたイレーネがくるりと華麗にターンして、お尻を一閃させる。腰布を閃かせながらの回転舞踏の風が少年の前髪を揺らす。

 回転で少年の視線を独占する中々に狡猾な金髪お姉さんである。

 

 腰布の後ろ側はやはり細長い布で、大きなお尻の肌が殆ど丸見えだった。

 

「へートーリ君ってお尻が好きなんだ。また一つ君のこと知れてお姉さん嬉しいな~。

 なら、こういうのはどう? いくわよエッダ」

「おう」

 

 ニケがやりたいことを察してエッダが腰をぐいっと突き出す。トーリから見て二人は横を向いている。ニケがお尻を突き出し、ぶつかり合った尻の肉がむにゅりと圧力で変形し、トーリの目の前でお尻の柔らかさを知らしめた。

 

 全身を揺らし、綺麗な貌に大きな乳房やお尻、マイクロビキニが際どい股間も全て使い尽くして捧げる魅惑のダンス。トーリはただそれに魅了されることしかできない。

 

 激しい踊りでお姉さん達は汗を掻いて、その匂いが室内に発散された。トーリは既に顔を真っ赤にしており、三人に見つめられると腰が抜けベッドにへたり込んだ。

 

「どっどうして僕にこんなに」

 

「理由ですか」

「ふふっ決まってるじゃない」

「鈍いなトーリは。なら聞かせてやるぜ」

 

 トーリの目の前まできて、妖しい気配を発散しながら唇を動かす三人。逃げられない少年をお姉さん達の視線が絡め取る。

 

 あなたが、君が、お前が――――

 

「可愛いからです」「可愛いからよ」「可愛いからだぜ」

 

「ーーーーーっ!!」

 

 トーリという存在を全肯定する、優しくも妖艶な言葉が強制的に至福に導く。三つの囁きが頭のなかで反響しトーリは限界に達した。鼻血を吹きながらベッドに倒れ込む。

 

「ちょっトーリ君!?」

 

「やべ、からかい過ぎたか!」

 

「ただ鼻血を吹いただけのようですね。安静にしていれば大丈夫です」

 

 誘惑モードから一転、慌てて介抱するお姉さんズであった。

 

 

 廊下にて、壁際に寄りかかり部屋の中の様子に聞き耳を立てていたフレスベルカは愉し気に笑ってからその場を去った。

 レオタードでは覆い切れない豊満な臀部を挑発的に揺らし、ハイヒールの靴音を響かせながら、闇の中に消えていく。

 

 

 

 同じ夜。鋼鉄の巨体が列をなし、亡者のように逃げ惑っている。

 

 ワイズテック社の調査隊は封鎖領域から脱出する際、幾つかのグループに分かれており、ヘイヴン・フォウに救助された偵察機の他に唯一生き残ったのは数機のMTによる隊だ。

 

 彼らは磁気嵐によって通信が妨げられる区域から抜け出すべく歩みを早めていた。

 

「敵しゅ――――」

 

 言い終わる前にレーザーが隊長機の胴体を焼いた。射点で起こった猛烈なプラズマ噴射にマシンガンの銃口を向け、生き残りのMTは反撃する。

 

 銃撃を受けて淡い緑が夜闇に瞬き、流線形のフォルムを強力なエネルギー兵器で武装させたACの姿が明らかになる。

 

 MT部隊に襲い掛かったのはネクストだった。機種は"Y01-TELLUS"。高出力エネルギー兵器を運用することを前提としたフレームである。

 

 一射一殺。相手をするのも煩わしいとばかりにMTを撃破する。ネクストは地を蹴って跳びあがり、己を月に重ねる。優美なシルエットでありながら、戦闘兵器の凶悪さを併せ持つヒトの形。

 

 

 磁気嵐が吹き荒れる一帯を抜け、通信が回復するとレナートは視界に映った仮面の男に顔を顰めてみせた。

 

『ご苦労、ミスタ・レナート。見事な手際だった』

 

 レナートは労いの言葉を無視した。仮面の男、予言者(プロフェット)は彼が属するイルシオン――――ミラージュ・イニシアチブが有する非公式の特務部隊に属するものでなく、ましてやミラージュ本社の者でもない。

 

 しかし、本社の命令でレナートをはじめイルシオンの人員は彼の指揮下にある。

 

『この程度の野良仕事にファージャルグを駆り出さないでもらいたいものだ』

 

 はっきりとレナートは不満を口にした。

 イルシオンにはハイエンドノーマルとそれに相応しいACパイロットも属している。

 封鎖領域から命からがら逃げ延びた他社の部隊の始末など、それで十分に事足りる。

 

『気分を害したことは謝罪しよう。ミスタ・レナート、君の戦闘力を疑ってはいないよ。だが、今回の狩りの場は少々危険なのでね、敵を倒すだけしか能がない者には任せられない』

 

 レナートが駆るネクスト、ファージャルグは単機でこの砂漠を飛び、磁気嵐の中で獲物を見つけ出していた。

 

『だから試したと』

『その通りだ』

 

 目的はおろか、素顔をさえ隠している余所者に従うのは不愉快であったし、ミラージュがその思惑に利用されているのは苛立たしい。

 

『この作戦は我々"結社"にとっても、ミラージュにとっても利益となるものだ。秩序を揺るがしかねないイレギュラーは早々に排除しなくてはならないのだよ』

 

 レナートの獲物は既に提示されていた。数日前にコロニー、ヘイヴン・フォウに回収され、その戦力となったネクストACだ。

 

 提供元など一切不明。しかし、平均以上の戦闘能力を持つことは確認済みだ。

 

 ネクスト同士の戦い。それはレナートにとって胸躍るものだった。

 

(コロニーがネクストを使うなんざ、生意気なんだよ)

 

 何よりも、青年は自由を謳う国家やコロニーを軽蔑していた。彼が暮らしていたコロニーは、それを市民に約束しながらも与えることなく、苛烈な弾圧と苛酷な重労働を課したからだ。自由や平等といった概念は大崩壊とともに死んだのだ。

 

 レナートにとってミラージュこそがこの狂ってしまった世界の唯一の正義であり正気だった。己の価値を認め、ネクストという無敵の力を与えてくれたのだから。

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