あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
久々にサウザンド・サニー号に戻ってこれた。
私は喜色満面、船員を探しに甲板に出ると、何やら外は雲行きが怪しかった。
天候が悪いというより、空気自体が悪いというか。
霧が深くて夜のように暗い――夜なのかどうか、私には今の時間がわからないが。
探し出した皆は甲板に立って、サニー号の近くに浮かぶ船を見上げていた。
「にしても幽霊船か。こうしてる間にこっちの船に乗って来てたりしてな、幽霊」
「ゴーストシップか。道理で空気悪いと思った」
ゾロが半笑いで言ったことに相槌を打ったら、みんなが冷や汗をかきながらギギギ……とゆっくり振り返った。
チョッパーとウソップが泣きながら叫ぶ。
「ギィヤァアアアアアアアア! 幽霊だァーッ!!!!」
「えっどこ!?」
私も後ろを振り返ったが誰もいない。
幽霊だから見えないということだろうか。
「ってお前かァ! まぎらわしいことすんな!」
「あれ!? 私何かしたか!?」
「突然船に乗っているという意味では、あなたも幽霊みたいなものね」
ウソップに泣きながら怒られ、ロビンに幽霊みたいって言われ、私が何したっていうんだ。
いつもみたいに急に出てきただけじゃん……。
私が突然にいなくなり、いつの間にか戻ってきていることなど、もはや麦わらの一味の間では当たり前になっていたと思ったのだが。今更突っ込まれると困るな……。
幽霊船に探検に行っていたルフィ・サンジ・ナミはすぐに戻ってきた。動くガイコツをつれて。
突然出てきた骸骨よりも、私はロビンに、彼らが幽霊船に乗ることになった経緯を聞いて不満に思っていた。
「なに? くじ引きで幽霊船に乗る人を決めた? 私がいない間にそんな楽しそうなことを? 悔しい……どうしてあと数分早くこれなかったんだろ……」
「私だってそう思うわよォ!」
ナミが涙目で叫んだ。よっぽど幽霊船が怖かったらしい。
一方、動くガイコツは陽気に挨拶をした。
「はい、どうも皆さん! ごきげんよう。わたくしこの度この船でご厄介になることになりました、死んで骨だけブルックです!」
「ふざけんな! なんだこいつ!」
「おやおや! 手厳しい!」
白骨が動いているうえにふざけた自己紹介までしたので、総ツッコミされていた。
ヨホホホ、と特徴的な笑い声をあげたかと思うと、ぎゅるんと私を見た――ような気がする。目がないので確信が持てない。
「おや? わたくし、あなたとどこかで会ったような気がするのですが……」
「早速ナンパかテメー!」
「ヨホホホホ! いえ、ナンパしたいほどの美女だと思いますが違います!」
サンジに怒鳴られてもガイコツは私をみるのを止めなかった。
会ったことがあるかと問われ、私は骸骨の眼孔をまじまじと見つめた。
「んー? 骨の知り合いはいないが……」
「ヨホホホ! もしかして骨になる前の知り合いですか?」
「ああ、それなら可能性があるね。えーとごめん、ガイコツが動いて喋る衝撃に気を取られて名前を聞き逃した。もう一度お名前を聞いても?」
「ブルックと申します」
「ブルッ……」
めちゃくちゃ心当たりがあるな。
特に彼は背が高かったので、こうして骨だけになっても面影がわかる。
「ルンバー海賊団?」
「ええ! 知っていますか!?」
「知って……、……。しまった……」
私も彼を知っていて、彼も私を知っている。
お互い初対面ではないのだから、かつての出会いを肯定していいだろう――と思ったんだけどダメだったかもしれない。
今の時系列から考えると、ルンバー海賊団が存在していたのって何十年も前だ。
どういう原理かは知らないが、ブルックもこうして白骨になるほどの時が経っているのである。
知ってるって言ったら、私はいったい何歳なのだという話になってしまう。
白骨死体よりも年上だと思われるのちょっと嫌だ。
実際……実際はそうなのかもしれないが……。
私は自分の顔を手で覆いながら、反対の手でブルックを制止した。
「一旦知らないということにさせてください」
「絶対知ってるじゃねえか」
「ブルック、後で。後でこっそり言うから」
「こいつ秘密にする気あるのか?」
ウソップに呆れツッコミをされている。
しょうがないだろ知ってるって半分言っちゃったんだから。
「ヨホホホ! いいですよ。こっそりってなんだか、エッチ、ですしね」
「よくねえ! なんだテメェコラ! 天使ちゃんに近づくなセクハラガイコツ!」
マナーもクソもないが、楽しさだけはある。
そういう海賊団だったのだ、ルンバー海賊団は。
ロビンはくすくす笑って、私に言った。
「あなたって、相変わらず秘密が多いのね」
「いいだろ。秘密主義ってなんだか、エッチ、じゃん」
「ミステリアス美女たち、最高だーッ!!!」
サンジがガッツポーズをしながら叫んだ。
冗談で言ったら思ったよりいい反応をもらって、私はうっかり困惑してしまった。