ふらふら   作:九条空

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コアラ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 私は革命軍とは出会いにくい。

 それは私が彼らを苦手としているからだ。

 もちろん、彼らの中に友は多くいるし、世界情勢に挑み続ける彼らのことを心から尊敬している。

 

 なにが苦手かといえば、革命軍の隠密具合だ。

 拠点の位置を世界政府に悟らせず、誰にも知られないままインペルダウンの中にニューカマーランドを作り上げる手腕は大したものだ。

 来る日に備え、彼らは普段あらゆるところに潜み、ひっそりと情報を探っている。

 そういうの、私はとても苦手なのだ――大雑把だから。

 

 どこかで潜入任務に励んでいる彼らにうっかり出会って、やあ友よと呼びかけて、彼らの立場を危うくしてしまったらどうする?

 そういった不安が、私が彼らと出会えない原因だ。

 私と会わない方が、彼らはうまくやる。

 

 だから現在、私は滂沱の冷や汗を流していた。

 

「……すまない、コアラちゃん……これはやってはまずいことだったか……?」

 

 ここがなんという名前の国かも知らないまま、知己を見つけたので近寄ってみれば、それはコアラだった。

 そこまではいい。私は彼女の邪魔をしては悪いかと、踵を返そうとしたのだ。

 次の瞬間、コアラが、会話していた男の一人に腕を掴まれるのを見るまでは。

 

 私はうっかり男を殴り飛ばしてしまった。

 ナンパか人さらいかわからないが、穏やかではなかった。

 作戦の一部だったらどうしよう。私は衝動的に、彼女たちの邪魔をしたのではないか。

 

「ううん! バレちゃった! 逃げるところだから大丈夫だよ!」

 

 コアラが明るく言ったので、私は心底ほっとした。

 いや、やっぱり彼女の隠密が失敗したというのなら、安心している場合ではなかった。

 もしかして私のせいかもしれないし。この国にはついさっき来たばかりではあるが。

 

「というかお姉さん大丈夫!? 血まみれだよ!?」

「気にしないで、いつものことだよ」

「いつもそうならもっと心配だよ!」

 

 真っ当なことを言われ、私は口角を上げた。大笑いをするほどの余裕はなかった。

 心配されたくて傷だらけになっているわけではないが、傷だらけなら誰かに心配されたいと思う気持ちもあるのだ。

 前髪をかき上げた。額から流れる血によって、オールバックのように髪は撫でつけられる。

 視界は良好、目が霞むほどの失血ではない。まだ戦えるな。よし。

 

「コアラちゃんの仲間が何人いるのかは聞かない。私は嘘が下手だから、そういうのは知らないほうが良いだろう。とにかく暴れて囮になってあげるから、みんなで早くお逃げ」

「え! でもお姉さんが危険だよ!」

「大丈夫、安心してくれ、私はそこそこ戦える方だ。壊してほしくない方角はあるか?」

「方角? ええと、私たちの船はあっちに隠してある……」

 

 私はコアラが指さしたのと真逆の方向に、抜刀して三度刀を振り抜いた。

 途端、ギャアアと悲鳴が上がって、ゴロツキたちが倒れていく。

 

「私の友を追うというのなら、私が相手になろう」

 

 愛刀は手の中でハルバードに姿を変えた。

 槍のような長さの柄の先端に、戦斧がついた武器である。

 今はリーチがある方が助かるか。いちいち相手の懐に踏み込むのにも体力を使う。

 

「お姉さん、かっこいい……!」

 

 コアラの羨望の声を聞いて苦笑いする。

 血まみれじゃなかったらもっとかっこつけられたんだけどな。

 コアラは船のある方向に駆け出しながら、私に叫んだ。

 

「お姉さんも船に来てー! 一緒に逃げよう!」

「私はいいから先に行ってくれ」

「でもサボ君が会いたいって」

「サボがいるのか?」

 

 それは私も会いたいんだよ。私は少しばかり頭を悩ませた。

 まだ彼が記憶を取り戻していないというのなら、彼と会って話をしなければならない。

 革命軍の思惑を読むのは難しい。彼らは私よりずっと先を見ている。

 考えてもわからないことに悩む方が不毛だ。

 

「わかった。すぐ行こう。きみたちが危険に陥りそうな要素は全部排除してから……」

 

 見聞色で見た限り、既にこの国全体で騒ぎになっているようだ。

 大通りに向け、ハルバードを三度振るう。

 再び敵意を持った人間たちが、血しぶきを上げながら倒れていく。

 そもそも斬っていい人たちなのかよくわかってないが、襲ってくるなら斬るしかない。

 私、革命軍への信頼だけで人を斬っている。実は彼ら、ちゃんといい人たちだったらどうしよう。

 

 だめだ。なにが危険かわからないので全部斬ろう。

 

「最終的に、街ごとなくなってたらすまない!」

「お姉さん、ちょっとやりすぎかも!?」

「武器をとらない人間は斬らない! だがみんな持ってるからみんな斬る!」

「わかりやすいけどーっ!?」

 

 なんだここ、戦闘国家なのか?

 武器を持つ人間が多すぎる。あるいは、既に市民というものがいないのか。

 まだ声の届く範囲にいるコアラに対し、最後に質問する。

 

「剣の鋭さをあげるために、この国の罪を聞いてもいいか?」

「えーと、人身売買……」

「ああ、もういいや」

 

 コアラは持っていた手帳をめくり、さらに情報をつけくわえようとした。

 私はそれを遮って、ハルバードを構え直した。

 

「それだけやってたら、私の怒りは充分だ」

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