あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
いい天気だ。気分もいい。
なぜなら私は今、麦わらの一味と共にいるからだ。
たとえついさっきまで失血死寸前で、チョッパーに泣きながら手当されていたとしても、 気分が良いことには変わりがない。
まあ、最終的に死んではないしな。それでいいだろう。
サニー号の芝生で横になっていると、ウソップがふと話題を振ってきた。
「やっぱジンベエはあんまりタイプじゃねえのか?」
「なんの話をしている?」
今私のいる時間軸で、ジンベエがすでにこの船に乗っているのかはわからないが、少なくとも今サニー号に彼はいない。
ウソップはいつもの調子のまま続けた。
「魚人より人魚の方が好きなんだろ?」
「……言った記憶はないが、きみがそう言うってことは言ったんだろうなあ」
「言った」
「なぜそんなことを……」
私は自分の発言をあまり覚えていることができないが、嘘をつくことはほとんどない。
嘘をつくくらいなら口を閉ざす。
しかし全く嘘をつかないとは言わないのは、己の悪魔の実の能力に関してだけは「持っていない」「知らない」と言わざるを得ないからだ。
それ以外の話題に関しては正直でいるよう心がけているため、過去の自分の発言を誰かに聞かされたときは「私ならそういうことを言うだろうな」で大抵済むのだが……。
今回のそれはちょっと、本当に私が言ったのか? という疑いを覚えてしまった。
「魚人も人魚も平等に接しているはずだ」
「そりゃあお前ならそうだろ。でもこいつは恋愛の話だ」
「恋愛の話ィ!?」
いつそんなことを!? という驚きが私の顔だけで伝わったのか、ナミが教えてくれた。
「アーロンに言ってたわよ」
「あの時は意識朦朧としてて……」
私は苦しみの表情を隠すことなく、文字通り頭を抱えた。
なるほどあの時に……なんでもいいから口先だけで時間を稼ごうと必死だったのだ。
失血でもうなにも考えられなくてェ……ギャグが滑りまくったということは覚えている。
どうせアーロン海賊団には魚人ばかりだったから適当を言ったのだろうけれど、一応真面目に考え直す。私は人魚の方が好みなのか?
魚人も人魚も友人はそれなりにいる。彼らのことを思い浮かべながら言った。
「人魚については、手の届かない感じが素敵だなと思っている。魚人は比較的陸にいるけど、人魚は歩けない者も多いし」
「あー、お前悪魔の実の能力者だから海の中にはいけねえもんな」
「あ、あ、あ、悪魔の実の能力者ちゃうわ」
「いやさすがにお前……」
……さすがになのか!?
ウソップにはたびたび私の適当なごまかしを呆れられているが、今回のはその中でもかなりの呆れ具合だ。これはもうあきらめたほうが良いのだろう。
私は船の上だというにも関わらず、思わすきょろきょろと周囲を見渡してしまった。
誰にも聞かれていないよな? 大丈夫だな?
もはや能力者であることの否定は意味がなさそうだが、それでも肯定することはできない。
この悪魔の実についての詳細は秘匿されなければならないからだ。
「死にたくないなら誰にも言わないでくれ」
「口封じに殺す気かお前!?」
「私ではなく」
「誰よ!?」
ナミに聞かれ、私は逆に尋ねた。
「知ったら死ぬけど聞くか?」
「誰が聞くかァーッ!!」
ナミとウソップから涙目でつっこまれた。美しいハーモニーで声が重なっていた。
こういう風になるから、私の悪魔の実に関してはできるだけ隠していたはずなんだけどなあ。
私はどこかの過去で、彼らの目の前で海に沈んだりしたのかな。気をつけているはずなのだが。
「死んでも言うんじゃないわよッ!?」
「死んだら言えないよ。大丈夫。危険度としてはおそらく、ロビンと同じくらいだ」
「何が大丈夫だっていうの!?」
「人間ポーネグリフ!」
ウソップのは面白い言い方だったので、私は「おお~」と拍手をした。
言われるべきはロビンな気がするが。歩く辞書的な意味で。
私は再び2人から「感心すな!」とハモったつっこみをもらうことになるのだった。