あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
湯煙の先に軽く目を凝らすと、そこには2人の女体があった。
「ワーッ! ごめん覗いちゃったァーッ!」
私はとっさに自分の目を覆い隠し謝罪した。
「別にいいわよ、女同士だし」
「ええ。服を着たままというのは問題だけれど」
いいんだ。
風呂場に飛ばされたのは運が悪かったが、知り合いしかいなかったというのは運が良かった。
ナミとビビがいて、すっかりくつろいでいるということは、ここは戦乱の収まったアラバスタか。
一瞬しか見えなかったが、とてつもなく広い豪華なお風呂場だったような気がする。
流石に王宮の風呂場に侵入するのはこれが初めてだ。
「寛大な心に感謝するよ」
「謝るくらいならアンタも入りなさいよ」
バシャッと水をすくう音がしたかと思うと、私はお湯を被った。ナミがお湯をかけてきたのだ。
目をふさいだまま油断していたので避けることができず、私は再び「オワーッ!」と叫ぶ羽目になった。
目を覆う手を外し、恨めしい目でナミを見るが、彼女は楽しそうに笑った。
「しょうがないな。ちょっとだけだよ」
濡れてしまったし、仕方ない。ちょうど今日はそれなりに元気だ。
骨はいくつか折れているが、縫い傷からは出血していないはずだ。おそらく。
濡れてしまった服をその場で脱ごうとすると、ナミが「あら、セクシーね」と言った。
「きみのせいでストリップやってんだが?」
「あはは。反省してまーす」
笑うナミがふと顔を上げ「あいつら……」と呟いた。
私は服をめくりあげ、へそを露出させた状態のままそちらを見ると、壁の向こうから麦わらの一味とコブラが顔を出している。おい。
「幸せパンチ♡」
ナミがタオルをはだけさせると、男どもは鼻血を吹きだして男湯の方に沈んでいった。
「ナミさんッ!!」
「なにやってんだ」
叱るビビと呆れる私をものともせず、ナミは「1回10万ベリーよ」と付け加えた。たくましい。
私はもう覗かれていないのを確認してから服を脱いだ。
脱いだ服の内側に血の染みを見つけてしまったが、自分の体を確認しても一応血はついていなかったので、風呂に入ってもよしとする。
畳んで服を、湯舟の傍に置いた。
私が落ち着いてお風呂に入れないのは、いつどこへ飛んでしまうかわからないからだ。
飛んだ先で全裸だったら、とてつもなく困る。
しかしたまにはいいだろう。今は飛んできたばかりで、ちょっとお湯につかっている間くらいは、流石に次の場所に飛ぶことはないはずだ。
念のため服を近くに置いて、飛びそうになったら掴むことにする。
飛んだあと全裸だろうが、びしょびしょだろうが、着る服があればまだ助かるかもしれない。
「うわー。生き返るゥ……」
体を洗って湯船につかると、自然と声が出た。
心配事は絶えないが、それでも湯舟は気持ちが良い。
とけだしそうになりながら、ナミが今夜出発することをビビに告げるのを聞いた。
あまり湯船につからないので忘れていたが、そういえば悪魔の実の能力者は風呂もだめなんだった。
出るときはナミかビビに手伝ってもらおう。
ぐにゃぐにゃになってしまい、単独ではおそらく風呂からあがれない。
でも完全な脱力というのはある種リラックスでもあるので……なんか癖になりそうだな……。
「爆弾騒ぎの時広場にいなかったけど、どこでなにしてたの?」
「んー?」
私が湯船に揺られながら、風呂の天井を見上げていると、ナミに聞かれた。
アラバスタの広場に設置された爆弾を解除するために、皆必死で頑張ったのだっけな。
ウソップから聞かされた限りは、そんな感じだったはず。
私はその場にいなかったので、サボった、あるいは逃げ出したと責められてもおかしくなかったが、ナミの口調からはそういった負の感情は一切感じられなかった。
私は過去の記憶を掘り起こし、当時の私が何をしていたか、なんとか思い出した。
「ダンスパウダーをアラバスタに運んできていた、バロックワークスの船に乗ってた」
「いつの間にそんなことを……」
「ごめんね、あまり意味なかったかも。そこでスモーカーくんと会ったから」
私がいなくとも、彼一人でなんとかしただろう。
ビビとアラバスタのために奔走した麦わらの一味に比べれば、私のやったことなど無意味に等しい。
バロックワークスの船にも自らの意思で行ったわけではなく、己の能力でたまたま飛んだだけだ。
言い訳をさせてもらえるのなら、自らの意思で己のいる場所を選べれば、私は必ず彼らと共にいて戦ったことだろう。
「大丈夫だったの?」
「なにが?」
「ルフィでも苦戦するような海軍大佐相手でしょ?」
「ああ」
そういえばスモーカーは海軍で、我々は海賊なのだった。
それもスモーカーくんはロギアで、今のルフィでは太刀打ちできないだろう。
アラバスタの飯屋で出会ったとき、ルフィが私を担いで瞬時に逃げ出したのは彼に苦手意識があったからか。今更気づく。
「戦ってないよ。仲良く一緒にバイクに乗って帰ってきた」
「はあ!?」
ナミとビビの驚き様に笑ってから、私は話した。
「古い友人だ。彼は私が海賊であることをたぶん知らない。内緒にしといて」
「内緒にしといてって……手配書が出れば、自ずと知られてしまうんじゃ……」
ビビの言うことはもっともだ。手配書に載るつもりはないが、私は頷く。
「ああ。遠くないうちにバレるだろうけど、その時はその時で構わないさ。今だけの関係だね。初めて会ったときは、私だって彼を海軍とは知らなかったんだ。普通に街のチンピラかと……」
「どんな出会いよそれ」
始めて会ったのは、おそらく海軍になる前のスモーカーくんだった。
あれは私にしては珍しく、お互いに初対面のタイミングが一緒だったんじゃないかな。
「今も海軍と書かれた服を着ていなかったら、彼を街のギャングだと思うだろうけど……」
「それはそうね」
私の発言を誰も否定しなかった。やっぱりスモーカーくんはガラ悪いよな?