あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
なんだか臭いなあここ。
そう思ったら海岸近くの坂道にいて、そしてそこには這いつくばるゾロがいた。
「……なにやってんの、ゾロ?」
「いつからいたんだテメェ……」
「いやほんと、ついさっき」
なぜゾロが這いつくばっているのかと思えば、彼はドロッドロの液体にまみれていた。
油だ。そんで坂全体が油まみれだ。これはすごい。
「坂がぬるぬるだねェ……」
「しみじみ言ってんじゃねェ……」
もはやまともに立てないほど油まみれのゾロを見て、私は悩む。
ここに至るまでの理由は覚えている。百計のクロが云々というやつだ。
ウソップがうっかり海賊がやってくる海岸を間違えて、いろんな不幸が重なった末、仕掛けた罠にゾロが引っかかって……という話だったよな?
いつかこの時の話をウソップからされたのを思い返している。
彼の話はほぼ嘘だから、その中に含まれる真実だけを見ようと思ったらこんな感じのはずだ。
「きみを抱えて向こう側まで跳んでもいいんだけど、私、今のゾロ触りたくないな……」
「余計なお世話だ! 自分で切り抜けたらァ!」
ゾロは刀を2本抜くと、「こんな油の坂くらい……!」と気合を入れた。
刀を地面に突き刺して、それを支点に坂を猛烈な勢いで駆け抜けていった。
本当に「切り」抜けていったなあ……。
私はそのお手並みをぱちぱちと拍手して賞賛した。
そして、そのまま走り出そうとするゾロに声をかける。
「ゾロー。海岸に行くなら反対方向だよー」
「……おう」
「うん、そっちでもない方だよー」
しかし、ゾロは教えた方向には走り出さなかった。
「お前も来るんだろ」
私を待っていてくれるようだ。
自信満々に突き進むタイプの方向音痴としては賢明な判断である。
迷わないためにやっているわけではなさそうだけれど。
どうしようかな。
こっからあそこまでの大跳躍をするよりは、空中を三回くらい蹴る三段ジャンプで向こうに行ったほうが体への負担は少なそうだ。
しかし空中ジャンプって、イーストブルーで見せるにしてはおかしい技術……うーん。
いいや、大きいジャンプにしよう。
私は数歩下がって助走をつけた。ぬるぬるしていない地面で踏み切って、油の坂を越え――
「跳び過ぎたァ! 方向はあってるからゾロこのままついてきてー!」
「はあ!?」
うっかり気合を入れ過ぎた。
めちゃくちゃ上に跳んだ私を、ゾロが見上げて唖然としている。
坂どころか、ちょっとした森の途中くらいまでぶっ跳んでしまった。
流石に一回で向こうの海岸に着くほどの跳躍はしなかったが、やっべえほんとに跳び過ぎた。
自分でもびっくりした。
着地した私がドキドキしていると、後ろから追いかけてきたゾロが息を切らしている。
「なにやってんだお前!」
「いや自分でも……力加減できないやばい、ちょっと今回戦えないかも! 人間殴ったら粉々に粉砕しそう!」
「いいじゃねえか」
「いいわけあるかァ!」
ゾロがやったれという顔で頷いたので、私はツッコミを入れる羽目になった。
そんなスプラッタ見たくないわ!
こんな化け物じみた大跳躍するんだったら三段ジャンプでも一緒だったわ!
「長時間頑張りすぎて筋肉疲労が出てんのかも。今日は武器とかを中心に触らないと危ないね……」
力加減を間違えて、すべてを破壊しそうである。
目的地である反対側の海岸に向かって走りながら、私は手をぐっぱぐっぱと握っては開いた。
足は疲労で少々震えているし、すでに力加減をミスって足で地面を何度か深くえぐりながら走っている。今私の足跡を追いかけるなら簡単だろうな。
「敵が全員ステゴロだったらゾロに任せていい?」
「剣士でもおれに任せな」
「頼もしいぜー」
この後出会った敵、シャムとブチの判断は非常に難しかった。
指の先に刃物がついているのか爪なのかが微妙で……爪だった場合ステゴロのようなそうじゃないような気もするし、刃物だったとしてもこのスタイルは剣士でもないような。
悩んでいたらゾロが相手をしてくれたので、私は小休憩ができたのだった。
ワンピースで好きなシーン第二位。
一位はドラムロックで指をすりおろすルフィ。