ふらふら   作:九条空

110 / 144
ドラゴン/くま/イワンコフ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 目の前にあるものを斬り伏せてから、自分がどこか別の場所に飛ばされたことに気がついた。

 そして足場もない。体勢を崩す。

 

「オワーッ!?」

 

 自分が発生させた衝撃波で飛ばされ、どこかの船に背中から着地してしまった。

 尚も勢いは殺せず、バウンドしながら転がる。

 船べりに頭をぶつけてようやく止まり、ぐわんぐわん揺れる視界の中、私は動揺して叫んだ。

 

「私今なに斬った!?」

「奴隷船だ」

「ドッ……!!」

 

 親切に答えてくれたのはドラゴンである。

 エキセントリックな乗船をキメてしまったので、ここが友達の船でよかった! でも斬ったものはよくない!

 冷や汗が吹き出したが、頭部からの出血により汗は上書きされた。

 したたかに頭を打ったため、どこか切れたらしい。そんなことはどうでもいい。

 

「やっちまったァ! 奴隷乗ってた!?」

「いや。やつらは先程の島に卸(・)し(・)た(・)ばかりだ。売られた奴隷たちは既にこちらが確保している」

「セーフッ! あっぶねえ! ありがとうドラゴン、きみの手際の良さを愛してるぜ!」

 

 ドラゴンに向かって親指を立てたところでようやく、ここにいるのがドラゴンだけでないことに気がつく。

 

「すごい……」

「ハチャメチャだっチャブル……」

 

 くまの言葉は素直な感心だったが、イワンコフの呟きはドン引きといった感情が滲んでいた。

 すごいというのは、私が一撃で船を沈めたことに対してでいいのだよな?

 ハチャメチャもそれにかかる感想で良いのだろうか。それとも突如空中に出現したことに関してか。

 

 おずおずと立ち上がる。

 私は血まみれかつボロボロの服を引っ張ってちょっとでもシワを伸ばそうとし、髪を手櫛で整えた。

 手を体の前で揃え、ぺこりとお辞儀をする。

 

「お邪魔してます……」

「ヒーハー! 今更礼儀正しくは無ッ茶ブル!」

 

 そう言われるのは仕方がない。無断乗船だったし。甲板を転がったし。

 くまはお辞儀を返してくれた。好感が持てる。

 頼むから彼らにとって、これが私との初対面ではありませんように。

 

 ……いけない、珍しく人見知りを発動している場合ではなかった。

 革命軍のメンバーにはめったに会えないため、彼らに会うときは少々緊張してしまうのだ。

 ドラゴンは除く。彼には比較的会える。会話している時間は、いつもなかなかないのだが。

 

「ホントごめん、ちょっとバスターコール全部斬ってる途中だったんだよ、いつもはもう少し見境がある」

 

 私は言い訳をした。

 砲弾ではなく、それを撃ってくる戦艦を直接斬るべきだったが、冷静さを欠いた私にその発想はなかった。

 

「バスターコールだと?」

 

 ドラゴンが目を丸くしたのを見て、私も口をぽかんと開けてしまった。

 くまとイワンコフが若いのなら、ドラゴンも若いに決まっているというのを忘れていた。

 この時代の彼は私の体質について、未だ知らないのだ。

 よく見たら左頬の刺青もない、若いじゃんッ! 老け顔だからわからなかった!!

 私は額を流れる血を冷や汗で上書きし直しながら、両手で大きくバッテンをつくった。

 

「今のナシ!」

「無ッ茶ブル!」

 

 こういうミスの蓄積で、彼には私の能力を理解されてしまったんだよな。

 もう仕方がない。彼は聡い男だ。そして私は大雑把だ。

 くまは眉を困らせながら私に手を差し伸べた。

 

「それより傷の手当を……」

「いいんだ。私の痛みは私だけのものだからな。そうだドラゴン、きみに頼みたいことがある。革命軍にサボという少年が来たら――」

 

 未来のことを頼もうとしたとき、慣れ親しんだ爆音を聞く。

 この船に向かって、砲弾が飛んでくる音だ。

 

「大事な話の邪魔をするな……!」

 

 私はイラついて斬撃を飛ばした。

 すべての砲弾を斬り裂いてから、私は鉤爪のような武器でそれをやったのだと認識した。

 今の相棒の姿は、確かバグナウという名前だったはずだ。

 それを握り直して、残っていた奴隷船を睨みつける。

 一隻じゃなかったのか。全然見ていなかった。

 そもそも斬った時でさえ手ごたえだけで、船を視認してもいない。

 

「くそ、全部沈めてくるから3分待っててくれ!」

「元々おれたちが戦う予定の船だが……」

「ケチなこと言うな!」

 

 バグナウ片手に船を飛び出すと、ドラゴンが複雑な顔でこちらを見ていた。

 ケチと言ったのを怒ってるのかな。

 言っておいてなんだが、革命軍やるならケチなほうが良いと思う。

 

 ちょうどよい言葉が浮かばなかったのだ。

 ドラゴンはとっさに罵倒が出てこないくらい立派な男ではある。

 育児は放棄しているが、理由も理由だ。

 仲間の前でそれを責めるのはちょっとかわいそうなので……。

 

 残りの奴隷船は2隻だった。私はどちらも一閃で沈め、3分もかからなかった。

 ドラゴンはその間待っていてくれたが、私は彼の元に戻る前に別の場所へ飛ばされてしまった。

 

 うっすらわかってたけど、いやになっちゃうぜ。

 結局私は人を待たせることもできないのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。