あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
空気が甘い。
「まあ、私ったらなんて運が良いの♡」
「ん?」
お菓子で塗装された道を踏みしめた瞬間、ぷかぷかと宙に浮く女の子が、私を見て歓喜の声を上げた。
ええと……知っている。リンリンの娘だ。
何番目のきょうだいだかは相変わらずわからないが、彼女はフランペちゃんだ。
まあ随分と大きくなって。人の成長ははやいものだ。
「数多くのおにー様やおねー様たちが会いたいと口にする憧れの存在、けれどいつどこで出会えるかまったくわからない神出鬼没! そんなあなたと会えるなんて、私って天に愛されてる!」
私、そんなに会いたいと思ってもらえているのか?
友人の子供たちとして彼らをかわいがっていた自覚はある。
相応に彼らからも好いてもらえているのなら嬉しいが、複雑だ。
これから四皇ビッグ・マムとは少々敵対関係になる未来を知ってしまったからである。
ルフィが海賊王を目指しているという時点で、遅かれ早かれこうなるだろうとは思っていた。
しかし私は問題を後送りにするタイプだ。困ってから困る。だから今も深くは考えない。
「それとも私に会いに来てくれたの? ベスト
「おめでとう。でもまあ、いつもの気まぐれだ。悪いね」
笑って謝ると、フランペはぷっくり頬を膨らませた。
彼女は近くにいた数名の男たちに向かって、指示を飛ばした。
「それでもいいのよ! お茶とお菓子を持ちなさい!」
「はっ、ただいま!」
フランペに命じられた親衛隊が、素早く茶会の用意をする。
あれよあれよという間に私は椅子に座らされ、紅茶とスコーンを前にしていた。
万国に来ると食事に困らない。小腹が空いたなと思ったら大抵ここに飛んでしまうな。
ゼフも恋しいが、私はバラティエで食事できるだけの金銭を持っていない時の方が多い。
労働で返そうと思っても、働ききる前に私はすぐどこかに飛んでしまう。
馴染みのあるダージリンに口をつけ、フランペとお話しする。
「フランペのことを聞かせておくれよ。何が得意なの? きみは戦えたっけ?」
リンリンのところは家族で海賊団をやっているから、みんな戦えたように思うが、フランペちゃんは戦闘タイプには見えない。
彼女がぷかぷか浮いているのは悪魔の実ではなく、おそらく技術的なものだ。
フランペは嬉しそうに両頬を染めると、私の質問に答えてくれた。
「キャ♡ 興味を持ってくれてる。私は吹き矢が得意よ!」
「それはいいね」
得意と思えることがあるのは良い。
この世界じゃ不可能などないのだ。どんな武器でも最強を目指せる。
いいね、吹き矢。静音性に優れるから暗殺向きだ。
空に浮かべるのなら対象の上を取りやすく、死角も狙いやすいだろう。
ビッグ・マム海賊団は人数がいるから混戦も多い。
派手に活躍する印象はないが、新しくそういう路線を目指すのもキャラの被りがなさそうでいい。
こう、剣を使うと、世界に何人いるんだよ、となって目立つのが大変なんだ。
私は目立ちたくないから剣を使っているところもあるわけだが、それにしては努力が足りない。
要らんものを斬らず、名を残さない努力が、圧倒的に足りない。
たぶんかなり政府に痕跡をかき消してもらっているのだろうな。わはは、ざまみろ、苦労しやがれ。
フランペはテーブルの上で頬杖をついて、可愛らしく私を上目遣いで見た。
「誰か狙ってほしいひとでもいるの?」
「いないよ。やるなら自分でやるし」
「遠慮しなくていいわ! 私、不意打ちって大得意なんだから」
吹き矢の王道路線なんだな、フランペちゃんは。
それもまた良いだろう。私は頷いた。
「夢はあるの? ベスト妹ーティストの受賞とはちみつ大臣ってのは聞いてたけど、どちらももう叶えたんだろう」
「覚えててくれたのね! 嬉しい。私の次の夢は、あなたよ♡」
おん、私?
フランペは可愛らしい顔のまま、野心に目を光らせた。
「ママですらあなたの寵愛を受けられていない! けれど私はあなたに好かれてみせる!」
「寵愛て」
リンリンのことは友人として好き、というだけでは駄目なのか?
フランペちゃんも、ベスト妹ーティストを受賞するくらいだ。
兄や姉には十分愛されているのだろう。そこに私は必要か?
「キャッ、つい言っちゃったわ!」
ああ、フランペ的にも、正面切って本人に言うような内容ではないという自覚があったのか。
私は眉を困らせたが、正直なところを言った。
「正直は美徳だ。目標とやる気があるのも好ましい」
「私がんばる♡」
その頑張りが私に向けられているというのが唯一問題なのだが、私は紅茶を飲んで返事をごまかした。
寵愛って具体的に何を指しているんだ?
私はきみにメロメロだよ、とか言ってやれば満足するのだろうか。
……そんなことしていいのか? よくない気がするな。
私はスコーンを口に放り込んで、会話を先延ばしにした。