あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
飛んできた場所に足をつけて驚愕した。
いろんな場所に飛ばされる私の能力だが、
ないわけではないというのが、この海の広さを物語っている。
「えーっ!? あ、アンタ!?」
声につられて顔をあげれば、そこにいたのはサンジと、サングラスをかけた舌の長い男。
声を発したのはサンジではない。
舌の長い男に指をさされる。侵入者としての警戒か、と思えば違っていた。
「ソラのもとに時折現れてはピンチを救い、意味深な助言をして去って行くキーパーソン、海の賢者にそっくりレローっ!?」
私はそれを聞いて口をぱかっと開け、しばらくして、そのまま閉じた。
叫んだ男には見覚えがある。最悪の世代、カポネ・ベッジの仲間。怪銃ヴィトだ。
ルフィの同期を把握しておこうと思う気持ちくらい、私にもある。
「その話詳しく」
「海の戦士ソラがいつも恋しく思い、海の賢者もソラを気にかけている……しかしなにやら複雑な事情があるようで、ずっと一緒にいることはできないもどかしさ……! ジェルマ派のおれでもちょっと憧れるくらいの憎い役どこロレロ!」
いや、その
ヴィトは私を再び指さした。
「誰にも気づかれず突然現れるところも一致してるレロ! 本人レロか!?」
「イヤゼンゼン」
「棒読み!」
「私はただの麦わらの一味だよ」
私の発言を意に介さず、ヴィトは続けた。
「海の賢者はソラの味方っぽく振る舞えど、ジェルマに肩入れするシーンもあるレロ。ここに来たのもそのためレロか……!?」
「イヤイヤ」
「やはり棒読み! そうか! いやあ、おれとしちゃあ海の賢者はジェルマ所属って解釈を推してるから、嬉しいレロね~!」
「イヤイヤイヤ」
「てめェちょっと黙ってろ! おれと天使ちゃんの再会を邪魔すんじゃねェ!」
サンジがヴィトを足蹴にするでもなく、怒鳴った
ここは敵陣だ。圧倒的に、敵に有利な場所だ。
仲間をかばいながら戦うには難しい場所だ、と私もサンジも考えている。
「私、カポネ・ベッジとはまだそんなに仲良くないから、ボッコボコにするのはさほど良心が痛まない。今やって、サンジを逃がそうか」
「レローッ!? 大胆な宣戦布告!?」
「だからうるせェ!」
サンジがヴィトを怒鳴ると、その場からにゅるりとカポネ・ベッジが生えてきた。
面白い。自分の体の中ならば、子機のようなものを制作することが可能なのか。
ベッジは私を見据え、葉巻の煙を吐き出した。
「上等な啖呵を切りやがる。ここがどこだかわかって言ってんのか?」
「きみこそ、私がいつきみのお城にお邪魔したのか、わかったのか?」
いつ、どうやって、もわからなかったのだろう。
ベッジは私の問いかけには答えず、
「シャボンディで暴れるアンタを確かに見た。天竜人を害した麦わらの、一味と名乗りやがる。しかしアンタには手配書もねェ」
私は自分の頬に手を添え、無害そうに微笑んであげた。
何も言ってはあげられない、という意思表示である。
「そしてビッグ・マムからの結婚式への招待を蹴っても、まだ生きてる唯一の女……」
「ああ。リンリンが持ってる、私の写真を見た? 恥ずかしいな。普段撮られないから、変にはにかんじゃってさ」
ベッジが結婚したのはシフォンちゃんだ。
当然トットランドで挙式をあげたのだろうし、そこには私の遺影みたいな写真もあったことだろう。
やっぱりペロスペローくんにもっと強く言っておくんだった。
あそこ身内以外も結構出席するのに、リンリンったら目立つ場所に置くんだもんよ。
「お前さん、一体何なんだ」
ベッジは質問ばかりだ。
「きみが死ぬときも、なにもわからないかもね」
彼は、いつ私が武器を握ったかさえもわからなかっただろう。
私は愛刀の刃先を床にコツンと当てた。今回は薙刀の姿だ。
ここが彼の城の中で、ベッジのテリトリーだというのなら、どこを攻撃しても彼に当たるという話だ。
飛んで火にいる夏の虫ではなく、獅子身中の虫になってやろう。
さあ、ピンチなのはどっちだ。
「天使ちゃん!」
本気になりかけたところ、サンジの声で引き戻される。
「いいんだ。おれはあいつらと、ケリをつけにいかなきゃならねェ……」
あいつら、というのはシャーロットの面々ではなく、ジェルマの方を言っているのだろう。
「これ以上、家族間の問題に口を出すのは野暮か」
私がジェルマについて知っているのは――サンジもわかっているだろう。
なにしろ彼との初対面はジェルマ66だ。
私は手の中から愛刀を消して、サンジの手を握った。
「いじめられたら言うんだよ。呼んでくれたらすぐに行くからね」
「はぁ~い♡」
「素直な返事でよろしい」
聞いているかはともかくとして。
「サンジ、きみは優しい人だから、自分が我慢すれば済むと思ってしまうだろう。でも、サンジの幸せを願う人は確かにいるよ。私もそうだ。きみが苦しいと私も苦しい。どうか、きみが私を大事にするように、きみ自身も大切にしてくれ」
その言葉には、素直な返事が返ってこなかった。まったく強情だ。
どうしようかな、と少し考えたが、なんのアイディアもない。
私はいつも直観に従って行動してきた。今回もそうしよう。
握っていた手を放して、私はサンジに抱きついた。
「おれは……! 今……! 死んでもいい……!」
「死なないでくれ」
サンジの顔は見えないが、鼻血を出しているか、目をハートにしているのだろう。
あるいはその両方かもしれない。
「まったくもう。きみには難しいか。じゃあお願いは、今言った一つだけにするよ」
私は彼を大事に思っている。失いたくないと思っている。
全身を使ってそれをサンジに伝えている。
潰してしまわない程度の力でサンジを抱きしめて、私はお願い事を一つ、彼に言った。
「死なないでくれ、サンジ」
「……わかった。約束する」
このままどこかへ連れ去ってしまいたいが、それはできない。
浮足立つ感覚がやってくるまで、しばらく私はそうしていた。