ふらふら   作:九条空

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いつもカボネ・ペッジと間違ってしまう


ヴィト/サンジ/ベッジ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 飛んできた場所に足をつけて驚愕した。

 いろんな場所に飛ばされる私の能力だが、()()()というのはさすがに珍しい。

 ないわけではないというのが、この海の広さを物語っている。

 

「えーっ!? あ、アンタ!?」

 

 声につられて顔をあげれば、そこにいたのはサンジと、サングラスをかけた舌の長い男。

 声を発したのはサンジではない。

 舌の長い男に指をさされる。侵入者としての警戒か、と思えば違っていた。

 

「ソラのもとに時折現れてはピンチを救い、意味深な助言をして去って行くキーパーソン、海の賢者にそっくりレローっ!?」

 

 私はそれを聞いて口をぱかっと開け、しばらくして、そのまま閉じた。

 叫んだ男には見覚えがある。最悪の世代、カポネ・ベッジの仲間。怪銃ヴィトだ。

 ルフィの同期を把握しておこうと思う気持ちくらい、私にもある。

 

「その話詳しく」

「海の戦士ソラがいつも恋しく思い、海の賢者もソラを気にかけている……しかしなにやら複雑な事情があるようで、ずっと一緒にいることはできないもどかしさ……! ジェルマ派のおれでもちょっと憧れるくらいの憎い役どこロレロ!」

 

 いや、その()()()()がいったいどこから来ているのかを尋ねたつもりだったのだが、私の望んだ回答は返ってこなかった。

 ヴィトは私を再び指さした。

 

「誰にも気づかれず突然現れるところも一致してるレロ! 本人レロか!?」

「イヤゼンゼン」

「棒読み!」

「私はただの麦わらの一味だよ」

 

 私の発言を意に介さず、ヴィトは続けた。

 

「海の賢者はソラの味方っぽく振る舞えど、ジェルマに肩入れするシーンもあるレロ。ここに来たのもそのためレロか……!?」

「イヤイヤ」

「やはり棒読み! そうか! いやあ、おれとしちゃあ海の賢者はジェルマ所属って解釈を推してるから、嬉しいレロね~!」

「イヤイヤイヤ」

「てめェちょっと黙ってろ! おれと天使ちゃんの再会を邪魔すんじゃねェ!」

 

 サンジがヴィトを足蹴にするでもなく、怒鳴った()()なのを見て、私はちょっと覚悟を決めた。

 ここは敵陣だ。圧倒的に、敵に有利な場所だ。

 仲間をかばいながら戦うには難しい場所だ、と私もサンジも考えている。

 

「私、カポネ・ベッジとはまだそんなに仲良くないから、ボッコボコにするのはさほど良心が痛まない。今やって、サンジを逃がそうか」

「レローッ!? 大胆な宣戦布告!?」

「だからうるせェ!」

 

 サンジがヴィトを怒鳴ると、その場からにゅるりとカポネ・ベッジが生えてきた。

 面白い。自分の体の中ならば、子機のようなものを制作することが可能なのか。

 ベッジは私を見据え、葉巻の煙を吐き出した。

 

「上等な啖呵を切りやがる。ここがどこだかわかって言ってんのか?」

「きみこそ、私がいつきみのお城にお邪魔したのか、わかったのか?」

 

 いつ、どうやって、もわからなかったのだろう。

 ベッジは私の問いかけには答えず、

 

「シャボンディで暴れるアンタを確かに見た。天竜人を害した麦わらの、一味と名乗りやがる。しかしアンタには手配書もねェ」

 

 私は自分の頬に手を添え、無害そうに微笑んであげた。

 何も言ってはあげられない、という意思表示である。

 

「そしてビッグ・マムからの結婚式への招待を蹴っても、まだ生きてる唯一の女……」

「ああ。リンリンが持ってる、私の写真を見た? 恥ずかしいな。普段撮られないから、変にはにかんじゃってさ」

 

 ベッジが結婚したのはシフォンちゃんだ。

 当然トットランドで挙式をあげたのだろうし、そこには私の遺影みたいな写真もあったことだろう。

 やっぱりペロスペローくんにもっと強く言っておくんだった。

 あそこ身内以外も結構出席するのに、リンリンったら目立つ場所に置くんだもんよ。

 

「お前さん、一体何なんだ」

 

 ベッジは質問ばかりだ。

 

「きみが死ぬときも、なにもわからないかもね」

 

 彼は、いつ私が武器を握ったかさえもわからなかっただろう。

 私は愛刀の刃先を床にコツンと当てた。今回は薙刀の姿だ。

 ここが彼の城の中で、ベッジのテリトリーだというのなら、どこを攻撃しても彼に当たるという話だ。

 飛んで火にいる夏の虫ではなく、獅子身中の虫になってやろう。

 さあ、ピンチなのはどっちだ。

 

「天使ちゃん!」

 

 本気になりかけたところ、サンジの声で引き戻される。

 

「いいんだ。おれはあいつらと、ケリをつけにいかなきゃならねェ……」

 

 あいつら、というのはシャーロットの面々ではなく、ジェルマの方を言っているのだろう。

 

「これ以上、家族間の問題に口を出すのは野暮か」

 

 私がジェルマについて知っているのは――サンジもわかっているだろう。

 なにしろ彼との初対面はジェルマ66だ。

 私は手の中から愛刀を消して、サンジの手を握った。

 

「いじめられたら言うんだよ。呼んでくれたらすぐに行くからね」

「はぁ~い♡」

「素直な返事でよろしい」

 

 聞いているかはともかくとして。

 

「サンジ、きみは優しい人だから、自分が我慢すれば済むと思ってしまうだろう。でも、サンジの幸せを願う人は確かにいるよ。私もそうだ。きみが苦しいと私も苦しい。どうか、きみが私を大事にするように、きみ自身も大切にしてくれ」

 

 その言葉には、素直な返事が返ってこなかった。まったく強情だ。

 どうしようかな、と少し考えたが、なんのアイディアもない。

 私はいつも直観に従って行動してきた。今回もそうしよう。

 

 握っていた手を放して、私はサンジに抱きついた。

 

「おれは……! 今……! 死んでもいい……!」

「死なないでくれ」

 

 サンジの顔は見えないが、鼻血を出しているか、目をハートにしているのだろう。

 あるいはその両方かもしれない。

 

「まったくもう。きみには難しいか。じゃあお願いは、今言った一つだけにするよ」

 

 私は彼を大事に思っている。失いたくないと思っている。

 全身を使ってそれをサンジに伝えている。

 潰してしまわない程度の力でサンジを抱きしめて、私はお願い事を一つ、彼に言った。

 

「死なないでくれ、サンジ」

「……わかった。約束する」

 

 このままどこかへ連れ去ってしまいたいが、それはできない。

 浮足立つ感覚がやってくるまで、しばらく私はそうしていた。

 

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