あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「お、ホントにすぐ戻ってきた」
そう言ったルフィに笑いかけた。
踏みしめる大地は動いている。ここはゾウだ。
麦わらの一味はサンジを除き、雷ぞうに会いに行くところである。
私としても馴染みなので、このタイミングで合流できて何よりだ。
忍者! ニンニン! と目を輝かせる男子諸君に、雷ぞうがたまらずサービスで忍法を披露するところを見て、私も拍手しておく。
それで私に気がついた雷ぞうが、怪訝な顔をした。
「そなた、20年の時を経ているというのに、あのときとまったく変わらぬ姿! これは一体どんな妖術だ?」
雷ぞうに言われ、私は冷や汗を流した。
どういう状況だ? 私の方こそ同じ問いをしたい。
20年の時を経ているというのに、雷ぞうは錦えもんと同じく、あの頃と変わらない……いや雷ぞうって元々老け顔だから20年経ってもあまり変わっていないだけか……?
この違和感を、私はつい最近覚えたばかりだ。雷ぞう、錦えもん……彼らには共通点がある。
すなわち、一人の男に仕えているということだ。
「お前……大事なこと黙ってたな!?」
雷ぞうへの答えに窮していると、ルフィが私を怒った。
「忍者の友達いるなら言えよ!」
「そういう問題じゃないでしょ!」
ナミがつっこむ。
なるほど。この場を切り抜ける方法を思いついた。
私は右腕の袖をまくって、手を握りこみ顔の前へ、そして右の人差し指と中指だけをまっすぐ立てた。
「――忍法・若作りの術……!」
「すげェー! くの一だーッ!」
「そなた、忍だったのかーっ!?」
はしゃぐチョッパーたちの脇で、雷ぞうがめちゃくちゃ驚いているので、これでごまかせたらしい。
しばらく忍の方向性で行こうかな。仲間からも評判がいいし。ニンニン。
私が今まで消えたり出たりしてきたのも忍法ということで誤魔化せないだろうか。
「きみこそ変わらないが、忍術か? 忍法若作り?」
「拙者の流派にそのような術はない」
雷ぞうに正式に否定される。
他の流派にならあるかもしれないのか、忍法若作りは?
ウソップが雷ぞうの顔をしげしげと見て言った。
「若作りっつーほど若く見えねェもんな、おっさん」
「失礼だぞ! 拙者まだ35!」
「老けてんなァ~」
……私は失礼なことを言ったルフィの足元に、クナイを投げた。
「年齢で人をからかうのはよくないぞ!」
「くノ一だ! くノ一のクナイだーっ!」
当然当てる気はないとはいえ、仲間に刃物を投げたのだが、場は盛り上がるばかりだった。
ちなみに突然取り出したこのクナイは私の愛刀だ。こいつも忍に対してノリノリである。
「お前がいちばん年齢の話されたくねェもんな」
そう言ったゾロの頭を即座にシバいた。
――スパーンッ!
「そ、それは……!」
私が振り抜いた獲物を見て、雷ぞうが驚愕の声をあげる。
「ワノ国において、人の目を覚まさせ、正気に戻すといわれる、
私は手の中のハリセン、というらしいものを見た。
名前は初めて知った。
これで人の頭を叩くと、痛くない割に、爆裂にデカい音が鳴るだけの不思議な武器だと思っていたが、そういう由来があったのか。
ワノ国出身なのは私ではなく、たぶん私の愛刀なのだが、まあいいか。
ルフィたちの足元に刺さっていたクナイはすでにない。今はハリセンとして私の手の中にある。
こいつは私と同じようにふらふらしているからだ。
「で、雷ぞう。きみ年齢がおかしいな」
「あんまハッキリ言ってやるなよ、可哀想だぞ」
「そういう話ではないわッ!」
雷ぞうはウソップにツッコミをいれたが、今のは私の言い方が悪かった。
彼は50を過ぎていないとおかしいはずだ。
明らかに時を超えている。この違和感を、私は錦えもんに対しても覚えた。
「この術は拙者によるものではない……」
雷ぞうの言葉で察する。誰かの能力か。
ワノ国では悪魔の実という概念が浸透していないため、不思議なことは、まとめて妖術ということになる。
ただの技術なのか、種族的な特徴なのか、はたまた悪魔の実なのか、話を聞いただけで特定するのは困難だ。
だがおそらく、私と似た系統の能力だった。
まあ、おおよその概要は掴めた。
「他に誰がいる?」
「錦えもん、カン十郎、菊の丞、そしてモモの助様にござる……!」
それだけわかれば、今は充分。
私は随分長いことこの能力と付き合ってきたことで、土地勘と時代勘を身につけている。
来たことのある場所ならば、地面を踏み、空気を吸えばおおよそどこか把握できる。
どの時代なのかは、土地より正確ではないが、それでも誤差数年程度で感じ取れる。
当然この感覚は私が死にかけていると誤作動するし、私はかなりの頻度で死にかけている。
錦えもんやモモの助、それに雷ぞうを見ていると、感覚が狂うのだ。
私にとってそれが結構、致命的なのである。
一瞬の判断ミスで取り返しのつかないことになりかねない。
ふとした瞬間戦場に立っていることなど日常茶飯事で、私はあらゆる状況をすぐに見極めなければならないのだ。
「ま、とにかくまた会えて嬉しいよ、雷ぞう」
彼が生きていてよかった。
だって20年も姿が見えなかったから、最悪の場合も考えていたのだ。
錦えもんを見た時も同じく安堵した。
私は彼らの死を見ていない。これからも見たくはない。
麦わらの一味と共に来てくれるのであれば、私にできることも多くあろう。