ふらふら   作:九条空

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ウタ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

「う……うそ!」

 

 赤と白のツートンカラーの髪をぴょんとはねさせて、彼女は驚いた。

 

「ウタのママ!?」

「……ママじゃないよ!?」

 

 面影が強すぎるので、10年分ほど一気に歳を取っていても、彼女がウタであるとすぐわかる。

 しかし私はウタのママではない。そこだけははっきりと否定したが、ウタは続けた。

 

「船に乗ってた頃、あまりにも突然現れて突然いなくなるから、ママが恋しくて見せた幻だと思ってた」

「いや本当にごめんなさい」

 

 申し訳なさすぎる。

 私がふらふらといろんなところに現れるせいで、幼少期を歪められた被害者なのでは。

 何より恐ろしいのは、そういう被害者はウタだけではないかもしれないという点である。

 

「でも本当にいたんだ、ウタのママ!」

 

 ウタはぎゅっと私に抱き着いた。

 こんなに大きくなって……私は感動と共に、ウタの背に手を回す。

 ぎゅっと抱きしめ返しながらも、やはり否定した。

 

「私は実在している人間だが、ウタを産んではないぞ」

「そんなのわかってるよ! 血のつながらないママでしょ!」

「……えーと、じゃあ、うん。いいのか?」

 

 なんだか、流されるままに娘ができてしまったな。

 これでシャンクスがウタの父親を自称してくる場合、私との関係が複雑にならないか?

 私にとってシャンクスが血のつながらない夫に……夫は普通血がつながっていないか。

 

「シャンクスはいないのか?」

 

 どこかで噂がねじ曲がり、私がシャンクスの妻ということにでもなったら()だ。

 彼はうっかりしているから、どっかで口を滑らせて私が割を食う羽目になるかもしれない。

 釘を刺しておかなければと周囲を探したが、見聞色には何も引っかからなかった。

 

「……いないよ。私、ここエレジアに置いていかれたから」

「はあ!? なんだあの野郎、親権放棄か!?」

 

 ウタが暗い表情を見せて言ったことが信じられず、私は素っ頓狂な声を上げた。

 あれだけ、次に会うウタが笑っていなかったら覚悟しろと言ったにもかかわらず、これか?

 私はウタを抱きしめるのを止め、自分の左の手のひらに右のこぶしを叩きつけた。

 

「わかった、次会ったらぶった斬ってきてあげるからな!」

「え」

 

 ぶった斬ると言いながらぶん殴るのジェスチャーをしてしまった。

 言うこととやることが倒錯するくらいの怒りを覚えている。

 

「いや、ウタのためというより私のためか。腹が立つから叩き斬ってやる」

 

 今にもこの場を発って、彼を探しに行きたいくらいだ。

 自分の能力の発動を待つのが耐えがたいと思うのは珍しい。

 居ても立っても居られない、あのバカを三枚におろさなければ。

 

「相手は海賊だよ!? 危ないよ、ママ!」

「任せてくれ。ママは意外とタフだよ」

 

 そしてママも海賊だよ、とは言わなかった。

 ウタの言い方から察するに、海賊を良く思っていなさそうだったからだ。

 海賊であるシャンクスに捨てられたという過去があるのならば、当然のことだろう。

 あいつ許せねえな、やはり父親には向いていない男だったか。

 

「でもその前にウタの里親を探そう。ひとりでは寂しいだろう」

「エレジアにはゴードンさんがいてくれるよ」

「誰だそれは。信用できる人なのか」

 

 海賊だったら試すためにとりあえず一閃斬っていいか?

 ウタの話を聞くと、ゴードンさんはエレジアの元国王で、シャンクスがいなくなって以降、ウタの保護者にあたるという。

 元国王とは、と聞けばエレジアという音楽の国は亡びたのだと言われ――私は頭を抱えてため息をついた。知っている国が滅んだと聞かされるのはもう勘弁してほしいと、聞くたびに思う。

 私はゴードンのことを知らないので、私の知るエレジアはもっと昔のものだろう。滅ぶ前から、友人は皆いなくなっていたかもしれない。だとしても、気持ちが暗くなるのは当然だろう。彼らの故郷や子供たちは、もうなにもないのだ。

 

 しかし、ウタの夢が音楽家であるのならば、ゴードンに任せて良いのかもしれない。

 ウタの話を聞く限り、彼は音楽指導の腕があるようだ。

 私にそれ以上の里親を紹介できるか疑問である。

 

「ママがいてくれたらそれでいいのに」

「すまないが、私は同じ場所にずっといられない」

「じゃあ私がついて行く!」

 

 その言葉を嬉しく思ったが、私は首を横に振った。

 

「危ないからだめだ。自分の身もあんまり守れない私では、ウタを守ってあげられないよ」

「私がママごと守るから!」

 

 頼もしい。

 こんなに大きく立派になって……感動を抑えながら、私は言った。

 

「けれどだめだよ。わかってくれ」

「……わかんないよ!」

 

 ウタは泣きそうな声色で叫んで、走り去って行ってしまった。

 悲しいが、これで良かったのかもしれない。

 ずっとそばにいてやることもできない者を、母親と慕う方がつらいだろう。

 

 じゃあ私はゴードンを探そう。

 ウタのことを任せていい、信用に足る人間か確認しなければなるまい。

 そうでないのなら、ついさっき嫌われたかもしれないウタを攫って、誰かまともな里親を探しに行かなければならないからな。

 ママからいきなり誘拐犯に格下げされるかもしれないのでできるだけやりたくない。

 頼むからまともな人間であってくれ、まだ見知らぬゴードンよ。

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