あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
「カンパーイ!」
「ウオオーッ!」
ジョッキをジョッキにぶつけた瞬間、別の場所に飛んできた。
私が乾杯しようとした相手、この人たちじゃなかったんだけどなあ。
先ほどまでいたのとは別の宴に、しれっと紛れ込む形になってしまった。
しかもこの宴、百獣海賊団のらしいな――まあ酒はあるし、楽しい場だし、別に良いだろう。
戦いたい気分でもない。幹部もいないし。
「……あ! お前あのときの!?」
「うん? 知り合いだったか?」
乾杯する人数が一人増えていることに、ようやく気づいた一人の男が、私を指さして叫んだ。
「カイドウさんにメロメロだった女!」
私は口に含んだ酒を吹き出した。
「誰がメロメロだ!」
「カイドウさんにかわいいとか言ってただろ?」
「言ってな……言ったかもしれない……」
いや、言ったな……。
私は自分の発言をあまり覚えていない。ほかに覚えていたいことが多すぎるからだ。
覚えていられないから、できるだけいつの自分でも同じことを言うだろう、という正直な言葉だけを発するように心掛けている。
カイドウへの
「すげェ、あのカイドウさんをかわいい……!?」
「ギャハハハ! こわいの間違いじゃなくてか!?」
「こいつァとんでもねェ猛者が現れたな」
この会場では、体の一部が動物になっている者、笑い続けている者、とくにそれらの特徴がない者が入り混じっている。
百獣海賊団のメンバーは多い。多少知らない顔がいたとしても不思議ではない。
だから彼らも私を新顔と思って、平然と受け入れていた。
私も特にそれを否定せず、この場に馴染む。
「違う、かわいいと思いたくないんだよ……!」
「そんな苦しんで抗わなきゃいけねェのか……?」
「もう自分に素直になれよ……」
戦うことがわかっている相手に情がわくと、苦しむのは私なのだ。
困るのが私だけなら構わないけれど、麦わらの一味として対峙することになると話は別だ。
私は皆を守りたい。一瞬の迷いが命取りだ。それをあの甘え上戸が阻んでくるのである。
「きみたちもカイドウのことかわいいと思う?」
皆が一斉にいやいや、と首を横に振った。
「思ったことねェよ」
「恐れ多すぎるだろ」
「ギャハハ! 笑うことしかできなくなったが、そこまで感性狂ってねェ!」
「ボロクソに言われてんじゃん。カイドウって人望ない?」
「んなわけあるか! 人望あるからかわいいって思わねェんだよ!」
「え、そういうもん?」
「「「そういうもん!」」」
そういうもんなんだ……。
私がかわいさや軍隊に思いを馳せていると、「配給だぞー」と鍋が運ばれてきた。
「おしるこぉ? 珍しいなァ」
「クイーンさんの好物らしいぜ」
「え、そうなんだ?」
鍋から掬ってジョッキにおしるこを注いで飲む。甘くておいしい。
他に器がなかったのでそうしたが、「おしるこイッキ対決しようぜ!」と皆もジョッキにおしるこをそそぎはじめた。餅で喉詰めるからやめたほうがいい。
「ちょっとだけクイーンのこと見直した。おいしいもんな、おしるこ」
「だははは! おしるこ好きで見直すってなんだよ! 普段からもっと尊敬しとけよ!」
「そんなに尊敬できるところあったか?」
「命知らずかオメー!」
別に百獣海賊団に馴染もうという気もなく、ただ飲み会に馴染んで楽しむつもりしかないので、お世辞は言わない。
いつも通りに思ったままを言うと、プレジャーズでなくとも皆笑うばかりで、怒り出すことはなかった。
彼らはカイドウやクイーンに心酔しているわけではない。
カイドウの部下ならそれも当然か。強さ第一主義ということだろう。
みんなでおしるこをぐびぐびやっていると、廊下に馴染みの顔が見えた。
正確には全身覆われているので顔は見えないが、まあそんな特徴的な男なら彼とわかる。
「こんなところで何を?」
「あ、キング」
「でェえええーッ!? 大看板がこんなところへ何をしにーッ!?」
それでも幹部が直接現れれば、酔っぱらっていても恐縮するくらいの関係性ではあるらしい。
久しぶりと挨拶する前に、キングとともにやってきたジャックが突っ込んできた。
「どこから潜り込んだ……!」
近くにあった酒瓶を握って武装色を流し込み、ジャックの剣を受ける。
受ける向きを間違えた。逆さになった酒瓶から、中身が床にこぼれていく。もったいない。
楽しい飲み会の邪魔をしたくはないが、武器も抜かずになんとかなるような相手ではない。
私が抜刀するために構えると、キングがそれを手で制した。
同時にキングは、ジャックの剣を払いのける。
「やめろ」
「こいつは敵だ、兄御」
「いや。彼女はカイドウさんの女だ」
「えーッ!?!?!?」
ビックリして大声を上げたのはジャックではなく、私が先程まで酒を酌み交わしていたカイドウの部下たちである。
「カイドウさんに女が……!?」
「いや、考えてみたら当たり前だよな、ヤマト坊ちゃんがいるんだからよ」
「ギャハハ! おれァてっきりブラックマリア様とデキてんのかと!」
「そうかァ、だからカイドウさんをかわいいとか抜かしてたのかよ」
「やっぱり奥方には違う顔を見せるのか」
「酒龍八卦の隠された型が……!?」
「それは寝室でだけ出るってこと……!?」
「「「ヒューッ!!!」」」
やいのやいの言う酔っぱらい共を怒鳴りつける。
「おい! 不名誉なこと言うなコラァッ! きみもだキング!」
「本人は否定しているみてェだが」
ジャックに言われ、キングはキレた私を見て首を傾げた。
「そうだったのか?」
煽りではなく本気で言ってたんかい。
え、なに? 私ヤマトを産んだと思われている?
「違うわッ! きみも見てたはずだ、私とカイドウは散々切った張ったやってきてただろ!」
「痴話喧嘩かと」
「だったらカイドウやりすぎだろ!」
嫁、および愛人だったとしたらありえぬほど今までに傷つけられてきた。
この体に、カイドウのつけた傷がいくつ残っていると思っているんだ。
しかし、キングはそれでも考えを改めなかった。
「あなたもそれなりにやり返していた」
「もー、そんなに言うなら本人に否定してもらおう。カイドウのとこ行くぞコラッ、来いキング!」
「わかった」
「……おい、敵だったら連れて行くわけにいかねェだろ……!?」
キングを連れてずんずん歩きながら、私はジャックに吠えた。
「じゃあ止めてみろ!」
「確認できるまで、おれはお前を止めるぞ、ジャック」
「兄御……!」
ちょっとかわいそう! でも私ではなくキングが悪いだろ!