ふらふら   作:九条空

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ロー

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 飛び起きて叫ぶ。

 

「うわあ寝てた!」

「寝てねェよ。意識不明の重体だ」

 

 似たようなことを、チョッパーに言われたのを思い出す。

 そうだった、私の思う睡眠って、もしかしたら気絶のことかもしれないのだった。

 これは簡単な見分け方がある。起きた時、寝ていたことにびっくりしたらそれは気絶だ。

 

「安静にしてろ。父様を呼んでくる」

 

 読んでいた本を閉じ、席を立ったのは、見覚えのある少年だった。

 私は頭を抱えた――彼はトラファルガー・ローだ。

 つまりここは滅びる前のフレバンスで、そしてきっと病院で、ローの父は医者なのだ。

 私は一縷の望みをかけて、か細い声で少年ローに尋ねた。

 

「ヤブ医者ですか……?」

「いきなり失礼だなテメェ!」

 

 ローの上等な服装、周囲の医療設備、清潔な病室、すべてを見るにそんなわけがないことなどわかりきっていた。わかりきっていたが縋ってしまったのだ。

 

「いやすまない、そういうつもりで言ったわけではなくて……じゃあどういうつもりなんだと言われると困るが……ああどうしよう、正規の医者にかかるだけのお金を持ってないから、踏み倒しても良心が痛まないヤブ医者だったらよかったのにとかそんなことは全然思っていなくて……」

「なるほど、そういうことか」

「いや思ってない! 思ってないんだって! いやごめん思ってんだけど! 金目の物一切持ってない私を治療してくれた優しい医者を裏切ることはできないから困ってるんだよ! 私は急ぐ旅をしてるんだ!」

 

 私がベッドの上で頭を抱えていると、優しそうな顔をした医者が入室して来た。

 彼がローの父親だろう。彼は扉越しに私の声を聞いていたらしく、こう言った。

 

「旅を急いでいる? ですが、もう少し安静にしていないと傷に響きますよ」

 

 私はすぐさまベッドから抜け出して、男の足元に滑り込み、両手を組んで尋ねた。

 

「困ってることありませんか! そしてそれを都合よく私なら解決できたりして医療費の代わりになったりしませんか……!」

 

 いつも通り、私はほとんどお金を持っていない。

 直近の記憶はあいまいだが、私は相当重症だったらしい。それは体を動かせばわかる。

 縫い傷まみれだ。この処置に、どれほどの時間と手間がかかったことか。

 

「ローの家庭教師とラミの子守ができる人を探していたんですよ。ローとは気が合うようだし、ラミもあなたに興味津々らしい。もう少し傷が治ったらお願いできないでしょうか」

「はァ? こいつに教わることなんか何もない」

 

 今のローとはあんまり気が合いそうな感じはしていないが、未来のローを考えると、この見立ては間違っていない。さすが親だ、見る目がある。

 私は頷いて、ローの言葉を肯定した。

 

「ああ、私は医学について門外漢だ。剣とかサバイバル技術ならちょっとは教えられるけど。あとは観光情報かな」

「素晴らしい、私たちには教えられないことだ。ぜひお願いしたい。ローが興味あるなら、だけど」

「父様!」

 

 教育の機会を用意する立派な父親らしい。知識や技術は武器になる。

 知っていて損なことってあんまりない。ポーネグリフとかは結構そうだけど。

 

「命を救ってもらったお礼だ。私はなんでもしよう。ただし急ぐ旅なので、ふといなくなってしまうかもしれないことはご了承願いたい。しかし恩を返しきるまで、何度でもここを訪れよう」

 

 深々と頭を下げると、顔を上げてくださいと言われる。

 

「恩だなんて重く考えないでください。あなたを助けたのは、私の患者の方々のためですよ」

 

 ピンと来ず、首を傾げる。

 

「皆、口をそろえてあなたは良い人だと言うのです。だから怪しくても助けてやってくれと」

 

 この国には、過去何度も訪れている。

 何十年来という友もいる。何十年も付き合いがあれば自ずとわかることだ。

 私が()()()などということは。

 いつもふらっとやって来ては、いつ来ても見た目の変わらぬ女など、そうとしか形容できない。

 彼らは怪しいと思いながらも、それでも私を助けようとしてくれたのだ。

 

「そんな人を、お金がないかもしれないなんて理由で死なせるわけにはいきません」

 

 そして彼も、そんな理由などなくとも助けてくれたのではないか、と思うくらいの善良さだった。

 ああ、これだから。

 

「私、この街が好きなんだ。来る口実ができてうれしいよ」

 

 私を必要としてくれる人が、私に会いたいと思ってくれる人がいれば、私はここに来ることができる。

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