あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
ここがどこなのか、時代も場所も認識する前に、私は一閃、刀を振り抜いた。
「ギャアーッ! 斬られたァーッ!」
一度の太刀筋で、私の愛刀はひとを斬らない。
しかしたった一度の斬撃でも、ひと以外なら斬る。
斬られた人々の着物がはらり、とすべて床に落ちた。
「うわぁーっ!? 服が!?」
「は、はずかしーっ!」
「カマイタチだーッ!?」
「化け物だ、逃げろーッ!」
着物、だ。彼らがそれを着ているというのなら、ここはワノ国なのだろう。
バラバラになった布切れを必死に手でかき集め、それでも尻を丸出しにしながら、彼らは走り去っていった。
ワノ国に来るたびに、幽霊だの妖怪だの、とにかく人扱いされないな。
鎖国しているせいか、この国の人たちは
私がなぜ彼らの服を斬って素っ裸にしたのか。
それは、彼らが私の友人たちをいじめていたからだ。
「一旦ここを離れようか? これがきみたちのせいになると申し訳ないから。おいで」
「ゆガラは恩人じゃ! 言う通りにするき!」
私は小さいネコマムシ、イヌアラシ、河松に声をかけた。
元気のよい返事はネコマムシだ。他の2人も異論はないらしい。
たぶん、彼らにとってはこれが初対面なのだろう。
これから印象を変えるのは難しいな。
人を裸にするのが趣味の変態と思われていなければいいが。
「怪我は平気?」
「ああ。軽く石を投げられた程度だ」
「捕まえようとしてきたが、なんとか逃げていたところ」
イヌアラシと河松が答えた。彼らは傷ついているが、歩けないほどではなかった。
ともかく、人目につかない場所に移動するのが先決だろう。
私もこれ以上人を全裸にしたくはない。
「さっき持っとった刃物はどこいったんじゃ!?」
ネコマムシが私の周りを回るからなにかと思えば、さっきいじめっ子を斬った得物を探していたらしい。
当然、斬るもの斬ったらいなくなるのが私の愛刀だ。
私の手の中にはすでに何もない。
「もういらないからどこかにやってしまった」
「どこかってどこじゃ?」
「さあ……」
「知らんのか!?」
知らんのだった。私は笑ってごまかした。
歩きながら、顔から出血しているイヌアラシに、ハンカチを渡してやる。
彼はハンカチを受け取るとすんすん、と嗅ぎ始め、一向に止血を始めなかった。
これもミンクの習性なのかもしれない。
私は一旦立ち止まって、イヌアラシの額にハンカチを巻いてやった。
「小さなミンク族2人と、小さな魚人族1人で、なにしてるの」
「わしとイヌアラシは一緒に来たけんど、こいつはたまたま一緒にいじめられてただけぜよ」
「我々はゾウから外の世界を見に来た。こっちはネコマムシ」
ネコマムシとイヌアラシの話を聞き、私は次に河松の顔を見た。
「おれは母さんが死んでひとりだ。いじめられるから魚人じゃなくてカッパと言えと。だからおれはカッパの河松だ」
「そうか。そうか……」
河松が己を河童だというのは、何度か聞いてきた。
しかしその理由は、たった今初めて知った。
私は小さな河松を抱き抱えた。
「素敵な河童に会えて嬉しいよ」
ぽんぽん、と背中を叩くと、ネコマムシが叫んだ。
「あー! なんかずるいぜよ! わしもわしも!」
「いいよ。イヌアラシくんもおいで」
両腕にイヌアラシと河松を抱え、首元にネコマムシをまとわりつかせ、私は再び一歩を踏み出した。
ともかく、人がいなさそうな場所へ、だ。それ以上のことは、私には未だわからない。
浮足立つ感じはまだしない。私はもう少しここにいられるだろう。
そうでなければ彼らを抱えていない。
「さて。これからどうするか。私は旅人なので、ここには長く居られないんだ。きみらが身を隠せそうな場所を探すだけの時間があるといいけれど」
「なんだ、すぐに行ってしまうのか」
腕の中のイヌアラシが眦を下げてそう言ったので、私も同じように悲しい顔になってしまった。
「ごめんね。だがまた会いに来るさ。きみたちが会いたいと思ってくれるのなら」
「来たら遊んでやるきに!」
「うん、ありがとうね」
そのまま
ワノ国は自然が豊かだ。少なくともこの時代は未だ。
最終的に肩車で落ち着いたネコマムシから、ぐうと腹の虫が鳴いたのが聞こえる。
「食べられる木の実教えてあげようか。あそこに生ってる紫色の果実は食べられる」
「不味かったぞ」
返事をしたのはイヌアラシだ。既に食べたあとのようである。
「そのまま嚙り付くとまずいんだよ。皮が分厚く渋いので、そこは食べるのに向かない。割ると粘性のある果肉が出てくるから」
「本当だ」
私が話す途中から皆は私の腕の中から飛び降り、木によじ登って木の実を取っていた。
イヌアラシが木の実を割り、匂いを嗅いでから口をつける。
その間、河松は丸ごと木の実に嚙り付いていた。
「おれは全部うまい」
「お主なんでも食えるんじゃのう! わしも見習うか! まずーっ!!」
河松を真似し、ネコマムシも木の実に丸ごと嚙り付いたが、すぐに噴出した。
「まあ、お腹が空いて死にそうになったら、おいしいかどうかで飯を選んではいられないからね。私だって皿まで食うよ。でもこの実、皮には毒があったような気がするんだよな」
私は読書家でないが、図鑑なら読む。
必要な知識が書かれているからだ。食べられる動物とか、食べられる木の実とか。
この動物は冬島にしかいないとか、あとはめっちゃ飛ぶ渡り鳥かどうかとか……とにかく図鑑ではいろんなことがわかる。
こういう習慣が昔からあったら私、あんな変な木の実を食べず、こんな変な人生を送っていなかったのだろうなあ……という反省の意味もある。
おぼろげな図鑑の記憶を思い返すが、食べられる部分のことは思い出せても、食べられない部分に含まれる毒の種類までは思い出せなかった。どうせ食べないから必要ない知識だろうと思って忘れてしまった。大丈夫なのだろうか。
木の実をむしゃむしゃ食べながら、河松が言った。
「食うとちょっと腹が痛くなる」
「緊急時以外はやめときな?」