ふらふら   作:九条空

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ヘルメッポ/ガープ/コビー

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

「ギャーッ!」

「ドエーッ!?」

 

 私が現在地を認識して悲鳴をあげると、私の声に驚いたヘルメッポもつられて悲鳴をあげた。

 驚かせたことを謝る余裕もなく、頭を抱えて嘆いた。

 

「ガープの船じゃん!」

「相変わらず堂々と乗って来おって。良い度胸じゃのう」

「堂々とは乗ってないだろ、しれっと乗ってんだよ」

 

 ガープは意外にも上機嫌で、自らの手に拳を叩きつけた。

 

「ちょうどよかったわい!」

 

 嫌な予感しかしない。

 退路を探すために左右を見渡すが、海ばかりだ。

 海上で戦うことになったら不利なのは私である。叩き落された時点で敗北が確定する。

 本当に意味が分からないのだが、ガープは悪魔の実の能力者ではないからだ。

 ガープは甲板で掃除をしていたコビーとヘルメッポに言った。

 

「思いっきり殴ってもいいのが来たから、お前ら戦いを見学しとけ!」

「私をサンドバッグにして勉強会を開こうとするな」

「わしが何回こいつを殴ったか数えておくように!」

「え? しかも算数の方か?」

 

 コビーに久しぶりと挨拶する暇もなく、腕と足に武装色を流してガープのゲンコツを受ける。

 前に腕だけで受けようとしたら、踏ん張りが足りなくて、彼方に吹っ飛ばされたことがあるのだ。

 ガープの拳を受けた私の足から、甲板にひびが入る。この器物破損はガープのせいということでいいよな?

 奥に控えるボガードがやれやれという顔でこちらを見ているが、その顔で見るのはガープだけにしてほしい。

 

「まずはいーち!」

「きみが数えたら意味ないんじゃないのか?」

「あ! そうじゃった! 今のナシ!」

「じゃあゼロから数え直しだな」

 

 私はガープの足元を狙って飛び蹴りをした。

 振り下ろされる拳をでんぐり返しで避けて、ついでにガープの足の間を抜けて背後に回り、逆立ちのような体勢で背中に蹴りを入れる。

 蹴りは入ったが、足を掴まれブン投げられた。

 受け身をとって転がると、続いて距離を詰めてきたガープからの拳のラッシュ。

 彼は本気にはほど遠く、私はそれをすべて手の甲で弾いた。

 これで手加減が無かったら、風圧だけで私にダメージが入っている。

 最後に私がガープの拳を掴んで止めると、ガープがコビーとヘルメッポに問うた。

 

「今のは何回じゃ!?」

 

 問われたコビーは、冷や汗をかきながら敬礼して答えた。

 

「……み、見えませんでした!」

「しっかりせい!」

 

 ガープのゲンコツはコビーへと向かった。

 とてつもなく手加減されているが、それでも頭蓋骨が割れそうなほどの威力である。

 

「いだァ! 今のは1です!」

「あはは」

 

 殴られた一回を律儀に数えたコビーに笑ってしまう。

 痛そうなたんこぶができたのが見えたので、あまり笑っては悪いだろう。

 

「では私からも問題だ。私は何度斬りかかったでしょう」

 

 問題を提起した瞬間、私は抜刀した。

 手にしたのはサーベルだ。そこそこ本気で斬りかかる。

 ガープも慣れたもので、刀の峰を殴り斬撃を逸らし、隙を縫っては私を殴ろうとした。

 私はガープのこぶしを刃で受け流し、カウンターとして斬り返した。

 そんなやり取りを、目にもとまらぬ速さで何度か繰り返す。

 距離をとって一息ついたところで、ガープに尋ねた。

 

「答えをどうぞ、ガープ」

「数えとらん!」

 

 私はそれを聞いて頷いた。予想通りだ。

 コビーとヘルメッポに言う。

 

「というわけだ。あまり真面目にガープの話を聞くな」

「なるほどな!」

「納得するな!」

「いってェ!」

 

 素直に納得したヘルメッポには、ガープのゲンコツが飛んでいった。

 なんてスパルタなんだろう。私だったらすぐに泣いて逃げ出している。

 もっとゆるく楽しくお勉強会を開けそうなものなのにな。

 痛みで覚えさせるというのは効率的なのかもしれないが、見ているこっちも痛い。

 

 今回のガープの意図として、攻撃を見切れるようになれ、ということなのだろうが――。

 

「何度殴ろうが何度斬ろうが、相手を倒せれば勝ちだ」

「おう、それもそうじゃな!」

「な、納得したーッ!?」

 

 ヘルメッポは愕然とした。

 たまに見せるガープの聞き分けの良さには驚くよな。

 私は言う。

 

「何度殴られようが何度斬られようが、死ななきゃ負けない」

「いや斬られたら死ぬだろ」

「鍛えたら死なない」

「えーっ!?」

 

 自信を持って言い切ると、新米海兵の2人は驚愕して口を開けた。

 私が真剣な顔を維持しているのを見て、ヘルメッポが悔しそうに地団太を踏んだ。

 

「クソーッ! まともな感性のヤツがムゴいしごきから救ってくれるのかと思ったら、結局拳で解決するタイプじゃねェか!」

「非常に遺憾だが、正直私も大体のことが暴力で何とかなると思ってる!」

「大きな声ですごいことを!?」

 

 コビーは冷や汗をかいている。

 海兵に叫ぶにしては野蛮な信条だったかもしれない。

 いや、海兵の中にもこのくらいの過激派は多いか。結局武闘派集団だしな。

 

「そんなヤツを思い知らせるには暴力が手っ取り早い。強い者が好き放題できると考えているのなら、そいつより強ければいいだけだ」

「ですが、そんなの……!」

 

 コビーは拳を握りしめ、私をまっすぐ見ながら叫んだ。

 

「強さだけがすべてじゃないはずだ!」

「私もそう思うよ、コビー」

 

 未だ持ったままだったサーベルを手の中で回す。

 戦闘の意思を失うと、剣は魔法のように姿がかき消え、私は無手に戻った。

 

「きみが世界を変えることを望んでいる」

 

 私にはそれをやる権利がない。

 ガープは腕を組んで、いきなり世間話のテンションになった。

 

「で、ルフィの調子はどうじゃ。海兵になりそうか」

「あっはははは! なるわけないだろ孫バカ! 今日も元気に海賊やってるわ!」

 

 油断した私に、かなり本気の拳が飛んできた。

 

「あ」

 

 腕で受けたが踏ん張りが足りず、私はガープの拳で船から吹っ飛ばされた。

 海の彼方に吹っ飛ばされる寸前、叫ぶガープの声が耳に入る。

 

「次来るときは手土産くらい持ってこいッ!」

 

 難しい注文だ。土産話で許してほしい。

 海軍の船に海賊が乗っているのは問題だったが、この方法での退出はよろしくない。

 この方向、島ある!? まだどこかに移動する気配がないのだが、私また遭難するのか!?

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