ふらふら   作:九条空

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モンドール

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 甘い空気、トットランドだ。

 室内、豪華な調度品、リンリンや子供たちのいるお城であろう。

 廊下の向こうに馴染みの顔を見つけ、私は手を振った。

 

「やっほー。元気そうだね」

 

 私が声をかけると、モンドールは顔を真っ青にした。

 足早に近づいてきては私の両肩を掴み、廊下の壁に押し付けた。

 モンドールが周囲を確認していることから考えると、私はモンドールの体の陰に隠されているようである。

 

「ママに見つかったか!?」

「いや、まだだと思うけど」

 

 それも、リンリンから隠されているようであった。

 この間のカタクリとは真逆の対応である。

 カタクリは私とリンリンを会わせようとしたが、モンドールは私とリンリンを会わせたくないらしい。

 

 それは瞬きの間に、私が本の中に移動していたことからわかる。

 これからモンドールが、ここに閉じ込めた私のもとへリンリンを連れて来る、という可能性もなくはない。

 

 本の中は森になっていた。

 手ごろな木の根元に座って、風によって葉がこすれ合う音を聞く。

 こういう場所は落ち着く。しばらく目を瞑って森林浴していると、モンドールが本の中へやってきた。

 リンリンは一緒ではない。

 

「えー……っと、怒ってる? 前、勝手に本の中から抜け出しちゃったから?」

「それはどうでもいいんだ。そりゃあんときは確かに、ママに殺されるかと思ったが……」

「ごめんね……」

 

 モンドールが生きていてよかった。

 リンリンも彼の保持するコレクションが惜しいのだろう。

 ここで素直に、息子がかわいいのだろう、とは言いにくいのがリンリンである。

 

「どうやって本から抜け出したのかも聞かねェよ。アンタなら何やってもおかしくねェからな」

 

 モンドールから私へ、どうにも変な信頼があるらしい。

 私が彼の前で、とんでもないこと何度かしていなければこんなことは言われないだろう。

 したかなぁ……心当たりは特にないが、私のことだからまあ、いつかどこかでやっていそうな気がする。

 これからやるような気もする。

 

 ページがめくれるように、風景が切り替わる。

 森の中から、城の中にある食堂のような場所へ。

 私はいつの間にかテーブルにつき、モンドールを向かいにして座っていた。

 目の前にはポットとティーカップ、アフタヌーンティーの茶菓子が積まれていた。

 

 出されたからにはカップを手に取るしかない。相変わらず私の好みの茶葉だった。

 本当にトットランドの皆は私に食わせるのが好きだな。

 チーズの乗ったクラッカーをかじる私に、モンドールが言った。

 

「どうせ今日も長く居られねェんだろう」

「どうせとか言うなよ、寂しいじゃん」

「寂しいのはこっちだろうが」

「かわいいじゃん……」

 

 モンドールはきょうだいのなかで、比較的真ん中あたりの子だ。

 だから、兄らしいしっかり者の部分と、弟らしい庇護欲をそそる部分を両方兼ね備えており、最高にキュートなのであった。

 

「今は結婚式を直前に控えた大事な時期だ。アンタが関わってママの機嫌がめちゃくちゃになると、いろんなモンが台無しになる」

 

 モンドールが血相変えて私を本の中に隠したのは、そういう理由らしい。納得だ。

 

「あ~、そうだね。結婚式が始まるまではいられないだろう。リンリンは私がいなくなると、機嫌が悪くなることの方が多い?」

「ママは来るものを拒まないが、去る者は大嫌いだ」

 

 そうなったの私のせいかもな、と一瞬頭をよぎったが、イヤイヤ、と頭を振る。

 

「私がいなくなっても機嫌良いときがあるって、カタクリが言ってたんだけどな」

「少なくともおれは見たことねェよ」

「え~? モンドールが生まれる前までの話だったのかな?」

 

 私からリンリンへの対応はいつの時代も変わっていないはずだが、リンリンから私への対応ならば、いくらか変わっているだろう。私はあまり自覚していないが。

 リンリンの機嫌を確実に悪くしてしまうというのなら、私はもう彼女には会わない方が良いのかもしれない。しかしなあ……古い友人であることは変わらないのだ。

 

 私のことを思いっきり殺そうとするリンリンの目の前から消えてしまったときは、いつもトットランドのみんなごめん! と思っている。

 しかし、にこにこ笑顔で私を迎えてくれるリンリンならば、あの後も機嫌は良いのではないかなあ、と思うのだが……ああ、それから。

 

「たまにリンリンのこと寝かしつけてるから、その次の日は私がいなくなった後でも、さすがに機嫌良いんじゃない?」

 

 リンリンが眠るまでそばにいる、という約束だけは違えたことがない。

 寝物語を聞かせてやったり、子守唄を歌ってやったり、抱き枕になってやったり、いろいろやってきている。

 

「寝室のことまでは知らねェよ……アンタそんなことまでしてんのか」

「だめか? そんなにおかしいかな。モンドールにもやってあげようか?」

「嫉妬で殺されそうだから遠慮する」

「リンリンも寝室のことまでは知らないと思うよ」

 

 私がそう言うと、モンドールは「まあ、気が向いたら頼む」とそっぽを向きながら言った。

 かわいいんだからもう。

 

「確かに、朝から妙にママの機嫌がいい日がある。それアンタのせいだったのか……」

「せいって言うな。おかげだろう」

「機嫌良すぎて逆に怖ェんだよ」

「えー。それはリンリンに文句言いな?」

「言えるか」

 

 シャーロット家では親子喧嘩とかしないのかな。

 リンリンは誰が相手でも容赦ないだろうから、やっても損だと皆が悟っているのか。

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