あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
めちゃくちゃ強い海軍の男2名を視界に収め、私はすぐさま踵を返そうとした。
「まだ帰ってなかったのかセンゴク。じゃあ私が帰ろう、じゃあね!」
「まあ待て。そばでも食うか」
「食うが」
場所はドレスローザだ。時間的に、ロシナンテが生きていると彼に伝わってから、さほど経過していない。
しかしもうセンゴクは怒っていなかったので、私はセンゴクから渡されたそばの器を受け取った。
海軍大将藤虎の隣に座って、そばをすする。
えーっと、なぜか流れでこんなことになってしまったが、彼とは結構最近、斬り合った仲だよな。
襲われたらそばが無駄になるので困るなぁ。
今のところ殺気はないので、私はわりばしを口にはさんで割り、そばに手を付けた。
食えるときに食う、これが生きるということである。
「いいんですかい、センゴクさん」
「なにがだ?」
そばは出汁がきいており、うまい。
当然サンジには及ばないが……サンジの料理を食べるようになってから、他の料理食べてうまいと思う度、サンジの顔を思い出す。
ま、サンジには及ばないけどなッ! となぜか私が対抗意識を燃やしているのだ。
しかし空腹は何にも優るスパイスなので、このそばはとてもおいしい。
「賞金首にもなっとらん、知名度のない海賊のことは、いちいち知らんなァ」
「なるほど、そうですかい」
「お前はいいのか」
「あっしは目が見えませんで……」
「はっはっは。そうだったなぁ」
私がずずず、とそばをすすっている目の前で、なにやら趣深いやり取りが行われていた。
ちょっとの間目を瞑っていてくれるというのなら、それに甘えよう。
「聞きてェことがござんす」
そばを飲み込んでから、藤虎に「どうぞ」と答えた。
能力の詳細について尋ねられたら答えられないが、それ以外なら構わない。
「なぜあれほど斬ったんですかい。あなたほどのお人なら、むやみに建物を斬らずに済んだはずだ」
「随分な買い被りだ。私はいつも要らないものを斬る……」
三度振らなければひとを斬らない刀のために、大して狙いをつけないまま振り下ろす癖がついた。
愛刀ではなく、拾った剣で戦うときなんかは特に、周りのものも一緒に両断している。
愛刀を使っていたとしても、私が死にかけていると狙いが定まらず、風景ごと斬る羽目になる。
しかし、確かに私はあのドレスローザで、意図的に街を切り刻んだ。
「この国ではつらいことが多すぎた。幸福すらまやかしで、彼らはここでの暮らしを思い出すだけで苦しむだろう。そんな街ならないほうがいい――ここを更地にする悪名くらい背負ってやろうと思ったが、結局ドフラミンゴにとられてしまったな」
街の破壊は、真っ当な海軍にはできないことだ。
だから海賊である私がやってやろうと思ったまでのこと。
しかし縮小する鳥カゴに切り刻まれ、ドレスローザは瓦礫の山になった。
イトイトの実ちょっと強すぎない? できること多すぎない? ずるくない?
そばの器と箸をおいて、手を合わせた。ごちそうさま。
藤虎は、次の質問をした。
「なぜ麦わらの船に乗ってるんで?」
「友達になろうと言ってくれた
私をずっと待っていてくれると約束してくれた。
ルフィは私に会いたいと、いつも思ってくれる。
ひとを殺さなくていいと言ってくれた。
私、彼の傍なら生きていけると思った。
「あっしには……なかなか言えねェ言葉でごぜェやす」
「じゃあ私が言おうか。友達になろうよ、藤虎。私きみの名前も知らないけど、太刀筋なら知っている」
その過程で、私は彼が好きになった。
気持ちの良い太刀筋で、もっと見たいと思える斬撃だった。
私は剣と呼ばれる得物以外も扱うが故に剣士を名乗らないが、それでも剣士と呼ばれるような人間と斬りあえば、ある程度ひととなりが理解できる。
だからつまり、私は藤虎のことを気に入った。
「返事はなくていいよ。勝手に友達だと思うだけだからな。私はこの手法で、海兵の友達をたくさん作っている……」
「当たり屋か?」
センゴクの言い方が面白くて笑ってしまった。
当たり屋の被害者が言うと尚説得力がある。
この場を立ち去るために腰を上げながら、私は思い出したように言った。
「あ、名前だけは聞いていいか?」
「イッショウだ」
「センゴクさん!」
藤虎の名前を答えたのは、本人ではなくセンゴクだった。
教えるつもりがなかったのか、当のイッショウは慌てている。仲が良さそうでいいことだ。
イッショウ、いい名前だ。忘れることはないだろう。
「おそば、ごちそうさま。次会うときは、斬り合いにならないといいね」
今までは本心からそれを望んでいた。
本気で斬りかかられては、私はうっかり本気で応えてしまうから。
だが、今の私はもうそんな過ちは犯さない。
殺したくないと思った人を殺すことはない。
それでいいと言ってくれる男がいるからだ。
だからまあ、ちょっとくらいなら斬りあってもいいかな。
そう思える心の余裕が生まれた。人生って楽しいなあ。いいことばかりだ。