ふらふら   作:九条空

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イチジ・ニジ・ヨンジ・レイジュ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 傷つき意識を失った男に対し、とどめを刺すべく蹴りが繰り出されたのが見えた。

 その軌道を見極め、一瞬の踏み込みと共に自身の足を打ちつける。

 鈍い衝撃音が響き、蹴りの軌道は逸れた。

 ニジは大して姿勢を崩さずに、私に向かって戦闘態勢をとった。

 

「またお前か!」

 

 死にかけの男から彼らの気を逸らす、という目的は充分に果たせたようだ。

 ここがどこの国かは知らないが、すでに街並みはボロボロ、戦闘員の半分以上は戦意を失っている。

 この戦争はジェルマ――ひいてはジェルマに金を支払い雇った国の勝利だろう。

 ニジの声を聞いて、すぐさまイチジもやってきた。

 

「一体何度目だ、おれたちの邪魔をするのは」

「それはこちらのセリフだ。また罪のない国を襲って……」

「罪のない国などあるのか?」

 

 イチジの蹴りを屈んで躱す。そういう哲学は苦手だ。

 しかし哲学をすることで暴力を回避できるのならそれもまた良いだろうと思う。

 でも今は哲学しながら暴力も食らっているのでなにもいいことがない。

 猛攻を捌くために、ため息をつく余裕もない。

 

「罪のない国はきっとあるよ。きみらは自分の国しか知らないからそう思うのだろう」

 

 ジェルマ66は、倫理もクソもない国だ。

 人体実験、改造人間、クローン、もうしっちゃかめっちゃかである。

 サンジがいる時間ならまだいいけど、そうじゃないときに飛ぶと最悪なんだよな。

 毎回つい暴れてしまうのでジャッジからは蛇蝎のごとく嫌われているが、私も彼が嫌いだ。

 罪の無い国などたくさんある。全部がフレバンスみたいなわけじゃないし、フレバンスだって国民には罪がない――。

 

「えーとたとえばあそことか……うん、実名を出すと狙われそうだから控えるが……」

 

 今どこかの国名を言うと、罪の粗探しをされて滅ぼされそうだ。

 彼らに会うときは、彼らの戦争を邪魔するか、彼らの国に不法侵入しているのがバレたときしかないので、確定で険悪な雰囲気になってしまうのだ。

 

「私はきみらの手を煩わせているかもしれないが、いつだって、きみらが諦めて帰るより、私が戦場からいなくなってしまうほうが早い。それはつまり、きみたちの勝利と言えるんじゃないのかな」

 

 ジェルマの面々は全員、まったく納得していない顔だった。

 いつのまにか近くに来ていたレイジュとヨンジも含めてである。

 ダメなのか、それでは。

 やはり、私に逃げられるというのが気に食わないのだろうか。

 私に最も向かない職業第二位が捕虜だからな。一位は農家。

 

「そんなに嫌わなくても……いいじゃん?」

「クッ……!」

 

 私が眉を下げ、きゅるんという顔をすると、ヨンジがひるんだ。

 彼らに対しての有効打は、唯一色仕掛けかもしれない。

 不得手だ、どこで特訓できるのだろう。

 

 一応長年の付き合いによって、彼らの好みが気の強そうな女であることは把握しているのだが。

 さっきの私は別に気の強そうな感じではないし、よくわからないのだった。

 

 しかしこのヨンジの反応に既視感がある。

 主に甘え上戸のカイドウに対する私自身なのだが……。

 もしかして私、カイドウに色仕掛けされてたのか?

 つまり、私自身も色仕掛けが弱点だったのか……?

 いけない、これ以上はあまり考えてはいけないような気がする。

 

「きみらとのお話は難しいな。もっと好きな食べ物の話とかしようよ。普段何食べてるの? ガソリン?」

「話をする気があるのか?」

「冗談だよ」

 

 全然笑ってもらえなかったので冗談としては成立しなかった。

 会話の間も、鞘に納めたままの愛刀でイチジの攻撃を捌き続けている。

 前はニジだったし、その前はヨンジだったし、私との戦闘交替制になっている?

 誰なら私を倒せるか賭けでもやっているのかな。期待に応えて誰にも倒されないようにしなければ。

 

「しかし人間扱いしてほしいなら、もっと人間らしく振舞った方が良いんじゃないのか」

「弱者の真似事をしろと? 必要がない」

 

 彼らにとっては、雑談も必要のないことなのかな。

 のんきに天気の話でもできる日は一生やってこないのだろうか。

 そもそもジェルマの面々と出会うのは大抵が戦場なので、天候の話をしている場合ではない。

 

「ま、私にきみたちは斬れないし、だとすればこの戦争を止める手段もない」

 

 そもそも、ほとんど決着のついている戦いだ。

 私にできることは、彼らが必要以上に人々を痛めつけないようにすることくらいである。

 あとどれだけ時間稼ぎができるか……それほど長い間は難しいだろう。

 膠着状態というのは、私の苦手とするところである。

 

「なぜ斬らないの?」

 

 私が刀を抜かないのは、今回ばかりではない。

 それを疑問に思ったらしいレイジュが私に問う。

 大きく後退し、イチジとの距離をとる。その隙に、レイジュに提案した。

 

「耳を貸してくれるなら、こっそり教えてあげるよ」

 

 レイジュは少々悩んだそぶりを見せたが、私の方に近づいてきた。

 

「おい、罠かもしれないだろう」

「あら。そういうのは私の方が得意よ」

 

 ニジはその言葉に黙らされた。

 私はこれまで彼らを傷つけたことがないので、そこに関しては信頼を得られているのだと思いたい。

 毒は私の弱点なので、優位に思われているというのでも構わないのだけどね……。

 素直に耳を貸してくれそうなレイジュに、こそこそ話す。

 

「私、麦わらの一味なんだよね」

 

 耳元で囁けば、レイジュが目を丸くする。

 このリアクションからすれば、サンジが海賊をやっていることは既に知っているわけだ。

 しかしその船に私が乗っていることまでは知らなかった、と。

 

「仲間の家族は傷つけられない」

 

 自分のきょうだいによって私が傷つけられたと知れば、サンジが悲しむ。

 きょうだいたちに複雑な思いがあるようだが、()()()であっても、優しいサンジは悲しむだろう。

 だから私は、彼らを傷つけることもできないし、彼らから攻撃をもらうこともできない。

 彼らから拳や蹴りを受けるのはまだマシだが、火花とか電撃とかを使用されると大変に困る。

 誤魔化しが難しいので……私は嘘が下手だし。

 

「なんて言ったんだ?」

 

 ヨンジの疑問に、私はウインクつきで応えた。

 

「ナイショ♡ 女の子同士の秘密だよ」

 

 色仕掛けってこれであってんのかな。

 とりあえず誰からも攻撃が飛んでこないという時点で成功と思っていいのだろうか。

 

「ふふ、そうね」

 

 レイジュは微笑んだ後、私の耳元でこっそり囁いた。

 

「本当はこの隙に攻撃してしまおうかと思ったけれど、弟がお世話になっているからやめておくわ」

「わーいありがとう」

 

 私は呑気に手を挙げて喜んだ。

 しかし他の場所に飛ぶにはまだ早く、レイジュ以外の皆の戦意はまだまだありそう。

 困ったなァ……。

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