ふらふら   作:九条空

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ベガパンク

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 私はズラリと並ぶ()()を目にして、口をあんぐり開けた。

 手で口を覆い、次に頭を抱えて、目を瞑って天を仰ぎ、最終的には走り出した。

 あの光景を作り出した人物に、一度文句を言っておかなければ気が済まない。

 

 扉を蹴破り、目的の人物のいる研究室に侵入して叫んだ。

 

「きみなあ! やっていいことと悪いことがあるだろ! できるからってやるな!」

「しかしアイディアがあふれて止まらんのだ! こうしている間にもーっ!」

 

 私がここに来たことへの驚きはなかった。

 よくわからないが、ここは彼の研究所だ。

 センサーとかいろいろあるのだろう。彼は私が来るのがわかっていたらしい。

 

 ベガパンクは右手で数式なのか暗号なのかわからないものを紙に書き留めながら、左手で計算機のようなよくわからない機械を叩いていた。

 もはや凡人には何をやっているのか理解不能だが、とにかくロクなことではない。

 私はベガパンクを羽交い絞めにした。

 

「手を止めろーっ! 今度はなにするつもりだ! 大体ロクなことにならねんだコラァ!」

「科学自体に罪はない! すべては使いようじゃ!」

「きみが最悪の使い方しそうな機関に所属してるから言ってんだろうが!」

「しかしここには金がある!」

 

 それはそう! 資金に関して世界政府に勝るものはなく、それには異論がない。

 どうやってその金を集めたかという話になってくると、いくらでも罵倒できるが、今はそれも置いておく。

 

 ベガパンクは天才で、同時にいくつもの研究を思いつく。

 前代未聞の科学は、実行するのに莫大な金のかかるものばかり。

 クローン人間の量産など、一体いくつの国を作れるほどに、莫大な金のかかることなのか?

 その金はもっと人を救うことには使えなかったのか? この研究は人を救うのか?

 

「充分手加減していただいているようだが、本体(ステラ)は老体だ。もう幾許かの手心を願いたい」

 

 ベガパンクの他に部屋にいた、名前を知らない男が私を諭した。

 ついベガパンクに集中してしまったが、挨拶もしなかったのは失礼だっただろう。

 というかベガパンクにも挨拶をしていない。すっかり忘れていた。

 

「ベガパンク、久しぶりだね」

「今か!?」

 

 私も変なタイミングで言ったなという自覚があるので、頷いた。今じゃなかったと思う。

 人を羽交い絞めにしながら言うセリフではなかった。それも羽交い絞めにしている当人に対して。

 しかし今を逃せばもう言う機会がなさそうだったのだ。

 羽交い絞めるのを止め、ベガパンクをそっと降ろす。

 

「気にはなっていたが、それどころじゃなくて聞けていなかった。彼は新しい助手か?」

 

 01と書かれたヘルメットのようなものを被った長身の男だ。

 3mはいっていないかな。少なくともベガパンクや私と比べればかなり背が高い。

 

「うむ、こやつは(シャカ)。新しいベガパンクじゃ」

「なんて?」

 

 まったく似ても似つかないが、そう言われてみると、確かに()()()()()()()()

 目の前にベガパンクがいなければ、私は彼をベガパンクと呼び、背が伸びたねとか言っていたかもしれない。

 というか、目の前にベガパンクがいたら、目の前以外にベガパンクがいるはずはないのだが……そう、同じ人物が同時に2人いるのはおかしいのでは? 私は変なこと言っているか?

 天才を相手にするとなにが常識かわからなくなってくる。

 それも、私だって能力を使用すれば同時に2名存在することが可能である、とか考え始めると余計に。

 

 思い当たる技術はひとつ、クローンだが、そうとは思えないほど似ていないし、それなのに似ている。

 見た目は明確に異なるが、人を人と判断する方法が人とは異なる私にとっては、ほとんど……いや、同一人物に感じる。

 私は混乱した。2人を見比べていると、大変なことに気がついた。

 

「……ベガパンク、きみ頭が随分と小さくなったな!?」

「伸びてきたから切った」

 

 ベガパンクは悪魔の実の能力者で、すべてを記憶しておける代わりに脳みそがどんどん肥大していく体質だった。

 私が彼を最後に見た時は、随分巨大な頭をしていたはずだ。

 今彼の頭にはリンゴのヘタのようなものが刺さり、頭の方は確かに切断されたかのように真っ平らになっていた。

 

「なんだ、斬ってほしかったなら私に頼んでくれればよかったのに」

 

 平行に一直線、スパッと斬るのならそれなりに自信があったのでそう言うと、ベガパンクはぷんすこ怒った。

 

「そんな軽いノリで人の頭を切断しようとするな!」

「そんな軽いノリできみは自分の頭を斬ったのにか?」

「天才だからええんじゃ」

「そうか、私は天才ではないからしょうがないか」

 

 医療行為なら医者しかやっちゃいけないもんな。

 ベガパンクは天才だから、当然医療分野にも詳しい。

 

「で、きみはベガパンクなのか? クローン? それにしてはスタイルが良過ぎないか。オリジナルに全然似ていないぞ。ベガパンク、きみはこういう体形が理想だったのか? 今のままでもまん丸お目目とキュートな舌が素敵だと思うけど?」

 

 ベガパンクとシャカは、同時に腕を組んで、同じような角度で首を傾げた。

 おお、こうして見ると、外見はまるで違えどそっくりだ。

 

「知識にはあったが、なるほど……先ほどまで研究内容に憤っていたにも関わらず、ベガパンクを褒めることにはなんのためらいもない」

「そりゃあベガパンクは私の友人だからさ。きみもベガパンクというのなら、私の友達でいいのか?」

「あなたがそう思ってくれるのなら」

「じゃあ友達だ。やった~」

 

 ベガパンクが増えたことで私の友達も増えた。

 いや、増えたとはいえベガパンクだというのなら、私の友人の数としては増えていないのか?

 

 ほんとにこれ、どういう扱いをするのが正しいのだ。

 友達が急に個人名義から複数人になった場合の対処とは?

 多種多様な友人をつくってはきたが、さすがにアメーバの親友はいなかったからわからないな……。

 

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