ふらふら   作:九条空

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ベガパンク/シャカ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 2名のベガバンクを目の前にしながら、私は質問を続けた。

 

「どういう原理で増えたんだ?」

「それはの……」

 

 ベガパンクはつらつらと研究を説明し始めたが、二言目あたりでもう理解ができなくなった。

 しばらく呆然と聞いていたが、理解ができないのにこのまま聞いていても意味がない。

 話を遮って、これだけ聞いた。

 

「ベガパンクは2人組になったということなのか?」

「いいや、他に(リリス)(エジソン)(ピタゴラス)(アトラス)……」

「きみはいつもやりすぎなんだよ! 何人いるんだ」

「短気じゃのう。あと一人、(ヨーク)で終わりじゃ」

「じゃあ改めて言うよ。多いだろ!」

 

 遥かに時を越える体質のせいで、見違えるほど変わった友人の姿は多く見てきた。

 その中でもトップクラスの変化だ。()()()()というのは。

 単純だがありえなくて劇的だ。

 

「お前さん難しい話は苦手じゃもんな」

「そら、きみの言う難しい話を理解できる人間は数少ないだろうよ。しかしもう少し頑張るから、もう一度説明してくれ、できる限り易しく」

 

 どうやったか、という方法について理解するのは早々にあきらめた。

 なぜなのか、何なのか、についてはできるだけ食いつく。

 再び説明を聞き終わって、私は険しい顔のまま「つまり」と言った。

 

「体は別で……知識と欲求は共有してて……人格は違う……けど全員ベガパンク……?」

「間違ったことは言っていない」

「わかった、完全にはわからないということがわかった。おおよその理解だけで許してくれ」

 

 お墨付きをもらい、ずっと寄ったままだった眉間のシワを指でほぐす。

 シャカが言うに、私は間違ったことは言っていないが、それだけだ、という意味だ。

 この概念を正しく理解できたとは思えない。

 

 科学の最先端を走る男は、常に新しい概念を切り開き続けている。

 ついて行くのは本当に大変だ。しかし己が凡人だからと、努力を怠りたくはない。

 私はベガパンクが、前だけを見ていないことが嬉しいのだ。

 

「きみが相互理解を諦めないでいてくれることを嬉しく思う。わかりあえると信じていてくれるきみを、がっかりさせたくない」

 

 ベガパンクは天才だ。

 彼の頭脳は真実、今この世界で一番優秀なのかもしれない。

 彼にとって、自分以外の人間が全員愚かに思えてもおかしくない。

 難しい話が苦手だと知りながら、私に説明することを放棄しないベガパンクが好きだ。

 

 不運なことに、ベガパンクにはナルシストの傾向がない。

 運が良いことに悲観的でもないため、彼にとって当たり前の発想や計算に対し、こんなこともできないと、他の人々を軽蔑することはない。

 こんなことができる自分がすごいとはそれほど思わず、彼は優秀な頭脳を用い、客観的に己の優秀さを認めているだけだ。

 

 こうしてベガパンクを増やしたように、全人類をベガパンクにすることが可能なのだとしたら。

 彼らほどの頭脳を持った人間以外は要らない、とは思ってほしくはない。

 

 他のベガバンクにも会っておきたいが、それより先に言っておかなければならないことがある。

 

「きみ、くまとは友達だと言っていなかったか? ひとりでは満足できなかったから()()()()のか? 友達なら私もいるだろ?」

「孤独な研究者みたいな言い方をするない!」

 

 少なくともそういう自認ではないということがわかってひとつ安心した。

 だがこれを見過ごすかどうかというのは、また話が変わってくる。

 

「パシフィスタの開発は、今最も政府が注目しておると言っても良い分野じゃ。さすがのお前さんもこれを止めることはできまい……!」

「できるかどうかじゃない。やるかどうかだ」

 

 だからやるかどうかを決めるためには、この質問が必要なのだ。

 できればイエスと答えないでくれと願い、ベガパンクに尋ねる。

 

「同意は……!」

「ある……!」

 

 ベガパンクの回答も苦し気であったことから、嫌な想像ができてしまう。

 一縷の望みは砕かれた。これがくまの望まぬことであれば、私は存分に暴れまわることができた。

 しかし違う。私は革命軍とはできる限り関わらないようにしている。

 彼らの考える深謀遠慮に、私では太刀打ちできないからだ。邪魔をしたくはない。

 私がくまを助けたいと思うのは、私の勝手な欲望だ。

 

 一度深く息を吸って、吐く。

 それでも冷静は取り戻しきれないが、せっかくこの場にこれたのだ。

 私にはきっと他になにかすべきことがあるはずだ。ベガパンクに尋ねる。

 

「私にできることはあるか」

「じゃあちょっと細胞をもらっても……」

「嫌だよ阿呆が!」

「誰に向かって言っとるんじゃ!」

「バカになるまで殴るぞ!」

「そんなことしたらこの世の損失じゃぞーっ!」

「うるさいな! きみひとりいなくなって停滞する進歩なら止まっちまえ!」

 

 一通り口喧嘩をし、ちょっとつかみ合いになったが、お互い愛刀と発明品を取り出す前には止め、私とベガパンクは息を切らした。

 いつものことだ。我々にはお互いに譲れぬものがある。

 しかし今までの争いのどれも、お互い傷つけあうには至ったことがない。

 

「お主の話をくまから聞いたことはない。しかし()()を見て取り乱したということは、お主はくまを知っておるのじゃろう」

「ああ、恩人だよ」

「……! そうか……」

 

 くまにはちょっと会ったことがあるけど、わざわざなにか話せるほどの思い出はないだろう。

 伝聞や、()()()でおおよそを知っていようが、今の私には思い出せるだけのことがほとんどない。

 まだこれからの未来に彼と何かがあるのかもしれないし、もうなにかあった過去を、私は忘れてしまったのかもしれない。

 今はわからないし、これからもわからないのかもしれない。

 

「ベガパンク、私も彼をそれほど知っているわけではない。これから知るのも恐ろしい。すべてはきっと手遅れだ。もう一度聞くよ。私にできることはあるか。くまは私に、何をしてほしいと思う」

「ボニーを……あの幼い子を、守ってやってクエーサー」

「わかった」

 

 こうして頼まれれば、私は必ず、そのボニーという子のところに行けるだろう。

 その子のピンチには必ず駆けつけられると、信じることにする。

 

 

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