ふらふら   作:九条空

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ブルック/麦わら海賊団

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 幽霊船から動くガイコツが出てきて、それが昔の知り合いだったことが判明したその後、ブルックを招待した食事はとても楽しいものだった。

 相変わらず彼は食べるのが汚いし、突き抜けて陽気だ。

 ヨミヨミの実で蘇った経緯、影を奪われた話を皆で聞いた。

 

 仲間も己も死に、日に当たる喜びも奪われ、それでも人に会えたことに「今日はなんて素敵な日でしょう」と喜ぶブルック。

 ルフィは彼を船に誘ったが、影を奪われ日に当たれない体であることを理由に断られた。

 水臭い、誰が奪ったのかと、我々が尋ねても答えない。

 そんなことより歌いましょう、とバイオリンを取り出したブルックは、演奏を始める前に見つけてしまったゴーストの姿に怯えた。

 

 かわいい見た目の幽霊だったけど、おばけが怖くて苦手というのは本当だったらしい。

 いつのまにやら、サニー号は変な島に捕らわれてしまったようだ。

 ブルックはどうにか脱出してほしいと我々に告げると、島の方へと海の上を走って行ってしまった。

 骨だから軽いらしい。

 同じ悪魔の実の能力者からしてみると、水面に触れているだけでドキドキしてしまうので、あの度胸は素晴らしい。

 

「ちょっと追っかけてくるー」

「おー」

「それでいいんかい!」

 

 せっかくサニー号に乗れたのだから離れるのは惜しいが、旧友との別れも惜しいものだ。

 一言声をかけると、船長からゆるい返事が返ってきた。

 海面走れるような人が出てくるようになってくるともういいよな、と私は空中を蹴って跳びながらブルックを追いかけた。

 

「やっぱあいつ幽霊なんじゃねえか? 飛んでるし」

「そのうちみんなも飛べるようになるよー」

「いや、嘘だ」

 

 去り際に呟かれたウソップの言葉に答えると、信じてもらえなかった。

 将来的には一部のメンバーは飛べるようになるはずだ。頑張れば誰でもできる技術だし。

 

「おーいブルック」

「え!? ついてきてしまったんですか!?」

「うん。だってまだこっそり、してないでしょ」

 

 内緒話をするという約束だったのだ。

 今の機会を逃しては、私はいつ自分の能力でどこかに飛ばされてしまうかわからない。

 そうなってもこの船には必ず戻ってくるけれど、そうなったときに私の中で一体何年が経っているかわからない。

 そうなったとき、つまり……私は己の発言をおそらく覚えてはいられないだろうということである。

 忘れっぽいのだ、自分の発言に関しては。

 

「しかしここは既に敵陣、いつ襲われるかもわかりません」

「わかった、襲われたら守ってあげるから」

「ヨホホホ! なんと頼もしい!」

「どうせゲッコー・モリアだろ、影取るなんて最近それしか聞かないもん……」

 

 長く生きていると、悪魔の実の使用者が変わることなど多々ある。

 食べた人物が死ねば新しい悪魔の実がどこかで発生し、またそれを誰かが食べるからだ。

 しかし能力が強く、かつ使いこなすだけの力があるのなら、何十年も同じ名前を聞くものだ。

 影を切り取って集めているのなんて、ここずっと彼の名前しか聞かない。

 

「ご存じでしたか……」

「そんなに知り合いじゃないよ。昔はもう少し話が通じたと思ったけれど」

 

 人生にはいろいろとあるから、大きな契機があれば人格も変わるだろう。

 例えば仲間がみんな死んでしまうとか。

 ――それでいて変わらないブルックの性分を、私は嬉しく思っている。

 だからあまり嘘はつかないことにする。あまり真実を言うこともできないが。

 

「まあ一旦私は何歳なんだという話は置いておこう。ルンバー海賊団のことは覚えているよ。無断乗船しても怒らなかった海賊団を忘れることはない。優しくて好きだから」

「無断乗船……そうだ……いつの日のことだったでしょう。誰も気づかない間に、一人の女性がいつのまにか船に乗っていて……」

 

 そこだけ聞くと普通に怪談じゃん。その女性は私だ。

 

「おばけかと思って失神しかけたんでした! ヨホホホ!」

「結局きみたちの音楽があんまりいいから、一緒に歌って鳴らして踊ったね」

 

 あのときは面白かった。

 きちんと、ギャー! おばけー! という反応をされたのも久しぶりだった。

 なにか弁明する前に、彼らの間で「成仏できるように音楽で楽しませてやろう」という談合が組まれ、私はなんで? と聞く隙すらなかったのだ。

 彼らの奏で、歌う音楽がとてもよかったので、私はやっぱり人だと主張する機会を失った。

 結局私はいつものように突然に現れては、突然にいなくなったので、彼らの間では未だに私の認識は幽霊のままだったのかもしれない。

 

「我々の誰も知らない音楽やリズムを知っていて愉快な方でした! あなたでしたか!」

「ども。私です。久しぶりだねー」

「お久しぶりです! あなたはまったく変わりませんね!」

「きみはすんごい変わったね」

「ヨ~ッホホホホ! ええ、骨だけになってしまいました!」

「でもいい骨格してるよ」

「嬉しいですねえ! ……パンツ、見せてもらってもいいですか?」

「いややっぱきみも変わんないね」

 

 ほんの少し前に出会った人物が、次に会ったときに随分姿が変わっている……というのはたびたび経験することだ。

 なにしろ私の時系列はめちゃくちゃで、1秒後には50年前や、100年後にいるかもしれないのだし。

 しかし、変わり具合でいったら、流石にブルックが第一位だ。

 かつての友人が、動く白骨死体になっているのは初めての経験である。

 

 ……動かない白骨死体になっていることはザラだけれど。

 動いて喋れる白骨でよかった。彼の音楽がまた聴ける。

 

 いや、それどころか船長がブルックを気に入ったのだ。

 彼の影を取り戻したら、一緒の船に乗れるかも。わくわくするね。

 

「きみといると楽しいよ。ああ、まだここにいたいな」

 

 そういう気持ちは、私の能力の発動にあまり関係ないのだった。

 

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