ふらふら   作:九条空

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お玉/天狗山飛徹

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

「おぅわ!? いつのまにか人がいるでやんす!?」

 

 やんす?

 ワノ国……かと思ったのだが、少女が口にしたのが、ワノ国でそれほど聞いたことのない口調だったので自信がなくなってきた。

 

 しかし私が踏んでいるのは畳だ。これはいけない。

 私は慌てて靴を脱いだ――土足厳禁の場所に土足で飛んでしまうのは、いつも申し訳ない。

 

 脱いだ靴を手に持ったところで、大きな音を立てて襖が開かれた。

 飛び込んできた男には覚えがある。

 今自分のいる時代を計算して、先祖や子孫ではなさそうということを確認して、嬉しい気持ちになった。

 再会の挨拶をする前に、向こうから叫ばれる。

 

「妖怪ぬらりひょんか!?」

「ワノ国で人扱いされないのはよくあることだが、私をその妖怪の名前で呼ぶのは、今のところひとりしか知らない」

 

 すっかり本人とわかったが、彼は()()()と聞いていたので、これは迂闊に口にしてはならぬことなのかもしれない。

 本当にワノ国って大変だ、秘密が多すぎる。

 いっそのことここに来たらなにも喋らない方が良いのかもしれないな。

 珍しく事前に配慮できた私は、ひとまず彼の名前を呼ぶことを避けた。

 

「死を手段にしがちなこの国で、ここまで生き延びてくれたことを嬉しく思う」

 

 私はこの国の出身ではないので、ワノ国の文化を完全に理解しているわけではない。

 だが、それをやるくらいならば死んだほうがマシだ、ということがここには多いらしい。

 そうして、本当に死んでしまえるのが、この国の人々だ。私はそれを悲しく思う。

 なにがあっても生きていてほしいと思うのは、私のわがままなのだろうけれど。

 死ぬよりつらいことの多いこの世界では、彼らの方が正しいのかもしれない。

 

 ともかく私は、後回しになっていた再会の挨拶を述べた。

 

「久しぶりだね……鼻が伸びた?」

「これは! お面だッ!!」

 

 見た目の変化に鈍感な私でもわかるくらいの変貌だったので指摘すれば、顔ではなくお面だったらしい。

 

「おお、そうか。まるで本物の顔かのように馴染んでるよ」

「褒めているつもりか!?」

 

 つもりだったが、そうは受け取られなかったらしいので、私はあいまいに微笑むだけにした。

 天狗のお面と私の顔を交互に見ていた少女が、ひとつ尋ねる。

 

「お師匠の知り合いでやんすか?」

「やんす?」

 

 聞き間違いではなかったようだ。

 やっぱり面白い話し方をする女の子である。かわいい。

 何の子弟なのかも気になるが、まずは彼女の疑問に答えてやるべきだろう。

 

「彼――すまない、今の名を聞いてもいいか?」

「天狗山飛徹と名乗っておる」

「うん、飛徹がまだきみくらいの歳からの友人でね」

「そのくらいの歳の頃にはお主を妖怪だと思っておったが、今またそう思い始めているぞ」

「私、きみらの言う妖怪というものをよくわかっていないんだよな。どういう定義だ? 実は本当に私妖怪だったりするのか?」

 

 妖怪というのは、なんとなく罵倒なのかな、化け物的な意味なのかな、という認識だ。

 悪魔の実の能力者をここではそう呼ぶというのなら、まあなんというか――肯定はできないので、やっぱりしっかり否定しておかなければならない。

 

「人とは異なり、面妖な技を使い、異形の姿をしている種族、といったところか」

「……うーん、妖怪じゃないと思うけど、まあ好きなように思ってくれていいよ」

 

 たぶん悪魔の実の能力者という意味ではなさそうだったので、それほど強く否定しなくてもよさそうだった。

 面妖な技を使うというくらいしか一致しないのに、なぜこうも妖怪妖怪言われるのだろう。

 歳を取らないというのがそんなにおかしいだろうか。ワノ国には若作りという言葉がない?

 

「歳を取らんのも、突然現れるのも、この際良い。ともかく、この子を見たら気にかけてやってくれ。今はわしが面倒を見ておる、お玉だ」

「へえ〜。隠し子?」

「違うわッ!」

 

 似てはいないなと思ったので、念のため確認しただけだ。

 

「べっぴんさんは妖怪で……お師匠が父上……!?」

 

 見れば、お玉が目をぐるぐるさせていた。幼子には難しい話だったのかもしれない。

 

「すまない、今までのは全部冗談だよ。いやあ、今まで一応身分差を気にしてこういうジョークを言ってこなかったから、ここぞと思ってつい……」

「これからも言うでないわ!」

「はい、ごめんなさい」

 

 彼に会えたことが嬉しく、私は浮かれすぎていたらしい。

 

 あらゆる時代を行き来する中で、私はどの時代でも友人たちに生きていてほしいと願っている。

 その死をこの目で確認するまでは、彼らは皆生きていると思っているのだ。

 だが、死んだと聞かされれば、相応の覚悟はしてしまう。

 

 ほとんどの場合、私は友人の死に目には会えない。

 死にそうになっているところに居合わせたのならば彼らを皆救ってきた、と言えば聞こえがいいが、大抵の場合、私はいつも間に合わないのだ。

 誰だって、大切な人が死ぬところを見たくはないだろう。

 私も望むことができない。だからその場所には、永劫たどり着けない。

 

 今回は、うまくやってくれた飛徹に感謝するしかない。

 結構政治もうまい方だったし、化かし合いに勝ったのだろう。

 死を演じるのは、彼らにとってつらいことに違いない。

 

「きみの苦労はそう遠くないうちに報われる。もうほんの少しだけ耐えてくれ、飛徹。ここにきみの孫を連れて帰るよ」

 

 飛徹は息を飲み、お玉は再び目をぐるぐると回した。

 

「孫……べっぴんさんはお婆ちゃん……?」

「おお、お嬢さんだの姉ちゃんだのは呼ばれ慣れているが、お婆ちゃんというのは新鮮だな。そう呼んでくれても構わないよ」

「余計に混乱させるでないわ」

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