ふらふら   作:九条空

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ディアマンテ

 あっちへふらふら、こっちへふらふら。

 私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。

 

 場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。

 それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。

 

 背後に迫る刃を、後ろ向きのままに捌く。

 

 ついさっきまでいた戦場で、適当に拾った剣だ。

 そのために、迫り来る刃を弾いたその一度でへし折れてしまった。

 折れた剣を投げ捨て、前方にいる戦士にタックルする。

 

 これは攻撃のためではなく、防御のためだ。

 

 背後の強敵から距離を取り、戦士と共に追撃を躱す。

 ちょっとくらい落ち着かせてくれ、まずここはどこだ。

 

「なんだァーッ!? ここで突然の乱入者! いったいどこから現れたんだァーッ!?」

 

 ギャッツに実況されて状況を理解した。

 ただの戦場なら実況の音声はつかないからな。

 私が立つ円形のステージは水に囲まれ、さらにその周囲に観客席がある。

 

 ここはコリーダコロシアム――しかしこの雰囲気は、まだドフラミンゴ支配下のもの。

 まいったな。タックルした際に引き倒してしまった、ボロボロの戦士を助け起こす。

 

「た、助かったが、アンタ何者だ……?」

「悪い、ちょっとマント貸して」

 

 トドメを刺されかけていた戦士は私に礼を言った。

 困惑している様子からして、私の知り合いではないらしい。私も覚えていない。

 マントを借り、目だけを出して顔にぐるぐると巻き付ける。

 血と汗の臭いがするが、仕方がない。

 

 たぶん、この国で私の顔を晒すとリスクがあるんだよな。

 あの日のドレスローザでは暴れ回った記憶しかないが、その前段階として潜伏し、何かをやる必要があるのだとすれば、迂闊に目立つことはできない。

 

 これからかなりの規模で戦うことが決定している国だ。

 私は普段から変装せず、暴れ回ったあの日もこの顔をそのまま晒していた。

 となると、それ以外の日に対策しなければならないわけだ。

 

 私はあんまりドフラミンゴのことを知らないが――あるいは覚えていないが――彼を見るとなんとなく不愉快だ。だから彼とは仲良くできないし、おそらく彼も私を嫌っている。

 それは海軍基地で開催された七武海の会議で出会ったときからも明白だ。

 

 どこぞに突如現れる、というだけで私だと特定される可能性は十分あるが、少しでも対策を取るに越したことはないだろう。

 

「謎の覆面戦士の登場だァーッ!」

 

 実況の元、対峙するのは5mはあろうという大男だ。彼を知っている。

 ドフラミンゴファミリー幹部、ディアマンテ――昔の手配書を見た。

 今は七武海の幹部であることから、賞金首ではなくなっているはずだ。

 

「おれすら知らねェサプライズとはな」

「正直に言うと、ただの迷子だ」

「コロシアムの舞台に迷い込むたぁ、随分運がなかったらしい」

 

 本当に。

 

「本来ならおれはブロックを勝ち上がってきた戦士としか戦わねえ。コロシアムの英雄って名を汚さねェためにもな」

「うん、だから私とは戦わなくていいよ」

「しかし乱入までしてくるほどおれと戦いてえとは」

「いや、だから私とは戦わなくていいって」

「そこまで言うなら戦おう!!」

「言ってないんだって」

 

 手配書でしか知らなかったが、こんなに愉快な性格だったとは。

 ディアマンテは私の顔をまじまじと見ようとした。

 借りたマントをぐっと引き上げ目を逸らす。あれ、もしかして知り合いか?

 

「にしても、どっかで会ったか? 見覚えがあるような気ィするが……」

「世界は広く、しかし意外に狭い。きみが色んなところを旅したことがあるのなら、私ともどこかですれ違ったことがあるかもしれないね」

 

 どこかで会ったかと言われた時は、大抵どこかで会っている。

 よく言う言葉で茶を濁そうとしたが、ディアマンテはなにかを思い出したようだ。

 

「もしかして、ベビー5と知り合いか?」

「そうだけど、きみも?」

 

 予想外の名前が飛び出してきた。

 しかし、ベビー5の男の趣味は最悪である。

 そりゃあ賞金首、元賞金首、海賊、あらゆる犯罪者に引っかかってもおかしくはない。

 

「……あ!? もしかして、ベビー5の言ってる若様って!?」

「ドフィがどうした?」

 

 ドフィ……ほな違うか――とはならねえなあ!? ドフラミンゴの愛称だろそれ!!

 あ、あいつ! 武器の商人に飽き足らず女衒までやってんのか!

 

 ベビー5が敬愛する――たまに殺してやるわ! とも言っている――若様の正体がついにわかった。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴ。ジョーカー、ドレスローザ国王、七武海。

 称号はどれだって構わないが、なんというか。

 

 本当にベビー5の男の趣味は最悪すぎる。

 恋愛感情なのか? それとは別なのか? 雇い主というだけか?

 なんにせよ、このまま逃げ出すという選択肢はなくなった。

 

「気が変わった。きみと戦おう。その代わり私がきみに勝ったら、ベビー5をくれ」

「うちの使用人をご所望たぁ……何者だ?」

「彼女は解放されるべきだ。自分の人生を生きて、当たり前に愛される生活を送らなきゃいけない」

 

 さっきタックルして助けた戦士から、剣も借りる。

 

 愛剣を呼び出すのはリスクだ。

 突如現れた女、だけならまだしも、突如変な武器取り出した女、になったら私を特定されやすい。

 出てくるのが変な武器かどうかすらもわからないが、とにかく一旦この剣で行こう。

 

 元々私はスカベンジャー、戦場で拾った適当な武器を使ってきた。

 愛剣を手に入れるまではそうだったし、手に入れてからも割とそうだ。

 

 愛剣の役割は私の殺気を抑え込むためだが、そもそも抑え込まなければいけないほどの殺気をまとうことがなければいい。

 拾った武器はその場しのぎという感じがして、私からほどよくやる気、殺る気を抜いてくれる。

 

「おいおいおい! やっぱりてめェか! ベビー5がお熱になってやがる、正体不明の王子様ってのは!」

「……違うんじゃないか?」

 

 前半も後半も否定したい内容だった。

 ディアマンテがどこからベビー5の王子様と私を結びつけたのかはわからないし、そもそも王子様ってなんだ。

 

 ディアマンテは悪魔の実の能力者だ。

 ヒラヒラの実の(フラッグ)人間。

 彼は刃をヒラヒラと布のように変形させ、腕に巻きつけた。

 それは闘牛のような形になり、固まる。

 

闘牛(コリーダ)グレイブ!」

「あぶねっ!」

 

 殴りつけるように刺突してきたため、慌てて剣に覇気を纏わせて弾いた。

 折れたら換えがないんだよ今は。

 

 ディアマンテは色んな手札を見せてくれた。

 実は鋼鉄にすぎなかったマントで身を守ったり、地面をヒラヒラにして足場を悪くしたり、ヒラヒラと蛇行する剣筋を捉えにくくしたり様々だ。

 

 だが最終的に、私が観客席を意識していることが見抜かれた。

 これはディアマンテのように魅せる戦いをしてやろう、という意味での意識ではない。

 あちらへ決して攻撃が向かないように、という意識だ。

 

 ディアマンテは観客席の上空に向け拳銃を撃った。

 拳銃から放たれたのは弾丸ではなく、あれは――トゲつきの鉄球だ。

 

 このまま落下すれば人が死ぬ。

 私は円形ステージの周囲にある水辺を飛び越えて、観客席に降り立った。

 鉄球を弾き、観客席とステージの間にある水辺に向かって叩き落とす。

 やべ、意識してなかったけど水の中になにかいるな。当たっちゃったか?

 

 観客は無事だ。しかし私は無事ではない。

 怪我こそないが、ステージの上には勝ち誇るディアマンテがいる。

 

「場外! てめェの負けだ、覆面戦士!」

 

 ――正直ちょっと悔しい。

 最初から最後まで、彼の思い通りに動かされっぱなしだった。

 

「もっとやり合ってもいいが、殺すのはなしだ。てめェとの戦いを一度で終わらせるのはもったいねェ! コロシアムの戦士にならねェか。優遇するぜ?」

 

 ふらふらしている私にとって、場外判定のある戦いは不向きだ。

 コリーダコロシアムの英雄と呼ばれるだけあって、ディアマンテはコロシアムでの戦闘に慣れている。

 勝つ方法も魅せる方法もだ。分が悪かったな。

 

 大盛り上がりの歓声を聞き、微妙な気持ちになる。

 随分興行を盛り上げてしまったようだ。協力しちゃったみたいで嫌である。

 

 鉄球に驚いて転んだ観客席の人々を助け起こす。

 勝負は決まったのでこれ以上の追撃はないと思いたいが、このまま続行されれば観客たちが危うい。

 

「ベビー5の件はまた今度なんとかしよう。機会はいくらでもある、そう思いたいね。ではまたどこかで、ディアマンテ」

 

 一方的に言い切って、私は飛んだ。

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