あっちへふらふら、こっちへふらふら。
私は不思議なきのみを食べてから、根無し草になった。
場所も時間も関係なく、あちこちに飛ばされる。
それでも平気なのは、帰る場所があるからだ。
気がつけば見覚えがあるようなないような微妙な街並みにいた。
近くに所在なさげに子供が立っている。
「どうしたの。迷子?」
「……いいえ」
「そう。私は実は迷子だ」
「……え?」
子供は驚いて私を見上げた。
顔の近くに巻いていた布が邪魔でよく見えなかった顔が見える。
やっぱり覚えのある顔だったので、私は声をかけて正解だったと思った。
「よければ大通りに案内してほしいんだけど、どうかな。ちゃんと道案内代を払うよ」
大人でも迷子にはなる。
ルフィもゾロもなる。私もなる。
だから私は自信を持って迷子になっている。
「……わかった」
考えた末に、少女は了承してくれた。
ついて行くと、たどたどしい足取りだった。
彼女自身も、おそらくこのあたりに詳しくないのだろう。
いくらか道を引き返したりしながらも、きっと一番大きいであろう通りにやってくることができた。
先ほどまでの、いつ悪漢に襲われてもおかしくはなさそうな雰囲気はない。
数々の店が呼び込みを行う声で賑わっている。こういう方が好きだ。
嫌な島に来てしまったのかと思ったがそういうわけではなさそうだ。単にいた場所が悪い。
「ついでに観光しようかな。このあたりでおいしいもの知ってるなら教えてくれない?」
「おいしいもの……」
そう言いながら、少女の視線は近くにあった屋台の、肉の刺さった串に向かっていた。
私はその屋台に近づいて、指を2本立てた。
「おじさん、2本ちょうだい」
「あいよ」
買ったうちの一本を渡すと、少女は戸惑いながら受け取った。
「お金……」
「案内してくれた代金はあとで渡すよ。とりあえず先にごはんね。おなかすいたー」
「なんで私にも……?」
「ごはんってのは誰かと一緒に食べるほうがおいしいからな」
これまでに会った多くの友人たちが、それを教えてくれた。
だから私も、それを誰かに伝えたいと思うのだ。
一度で伝わらないかもしれないが、何度でも、誰にでも、教えたいと思う。
警戒したのはほんの数秒で、すぐに少女は肉を食べるのに夢中になった。
別に会話が無くったって、ひとりでないということが大事なときもある。
私も無言で、ぼーっと街並みを眺めながら、香辛料の味を楽しんだ。
ここは夏島かな。暑いと食欲を失いやすいから、香辛料が多く使われがちなのだ。
まあ当然、冬島も体をあっためるために香辛料を多く使ったりするので、詳しいことは知らん。
というか今寒くないから、冬島ではないんだろうな。
私はいろんなところを放浪しているが、あまり地理だの航海術だのには詳しくないのだ。
詳しくなくとも、いろんなところに行けてしまうので。――行ってしまうので、が正しい。
少女のほうが早くに食べ終わっていたようで、食べ終わった時に彼女は私の顔をまじまじと見上げていた。
私の視線に気づいて、ハッとしたように目線を逸らしたのがなんだか可愛らしかった。
少女から串を受け取って、私は屋台のおやじさんに廃棄を頼んだ。
そしてポケットからコインを取り出して、少女に渡す。
「ありがと。これお駄賃」
「こんなにはもらえないよ……」
「じゃ、またどっかで会ったら、案内してよ。よく迷子になるからね、私は。先払い」
「……いいよ」
あまり納得していない様子の少女が、それでもコインを受け取った。
大事なことだ。遠慮で死んでは元も子もない。
さて、私もここには来たばかりだが、浮足立つ感じがする。
長くはいられないだろうという感覚がするのだ。
私は能力をコントロールできないが、時折感じるこの予感を外したことはない。
「おせっかいというか、私のせいだから忠告なんだが……ちょっと目立っちゃったから、この島からはできるだけ早く移動したほうが良いよ」
「……!」
最後に、少女にそっと耳打ちすると、ぎょっとした顔で私を見た。
手配書と同じ顔だと、バレていると思わなかったのだろう。
まだまだ隙のある彼女だ。貴重だね。大事にしてあげたい。
だが、やはり私は根無し草なのだ。誰かの傍に居たいと思うことは、ほとんど私を苦しめる。
「またね」
手を振って、ニコ・ロビンと別れた。
何度見ても思う。なんと母親に似ているのだろうと。
また会いたい――会えるかな。最期だけは、もう知ってしまったオルビアに。